知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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幻想に近い場所

 

 

友枝町にやって来て、妙な恰好をした魔法を男子達に襲撃されるという、

現実とは思えない奇妙な事件に出くわした後の事……

 

 

友枝町内では、あちこちで女の子が消えたという話でもちきりになっているそうで、

ウチの運転手も、運転中に私とすずかが消えたのを目撃したと言う事で、

現在、警察に事情聴取をされている最中だと言う。

 

 

なのはは、魔法で飛んで帰る事にしたそうだが、私はそうもいかなかったし、

なにより、すずかがさらわれてしまったまま、のこのこと返る訳にもいかない。

 

 

なのでとりあえず、表向きには事件の影響で帰れないから、

知り合いの知世さんの家にすずかと一緒に泊っていくという話になった。

 

あの不良達と戦っていた姿を見る限りでは、なのはも……

そして、さくらさんも、さらわれた女の子を助けに行くんだろうし。

 

 

そうして、追跡の為に残ったケルベロスに後を任せつつ、

知世さんの家で、何故か衣装を作り始めた知世さんを眺めて待ちながら、

かかってきた電話を知世さんが取り、ついに来たかと立ち上がった所で……

 

 

 

部屋中に、妙な声が響いたかと思うと、

壁の所に、赤いリボンで両端を結んだような糸の様なものがあらわれた。

 

なんだと思って眺めていると、その糸はだんだん太くなっていき、

その中には、見るも不気味な目玉だらけの光景が広がっていて……

 

それが人ひとり通れそうな大きさになったかと思うと、

中から、いきなり私達より少し年上と思われる女の上半身が垂れ下がって来たのだ。

 

 

「おつかれさまです、紫さん。

 わざわざ来てくださってどうもありがとうございます。」

 

内心驚いていた私をよそに、親し気に垂れ下がり女と喋る知世さん。

 

そうしてしばらく話した後、知世さんは小さいほうの服を彼女に預けると、

垂れ下がり女は頷いてから、再び不気味な空間の中へと引っ込み、

そのまま、不気味な空間が線のように細くなり、両端のリボンともども吸って消えていったのだ。

 

 

「誰なんですか……今の人?」

 

 

分けが分からかったので、率直に知世さんに尋ねた所……

 

 

「この間知り合った、妖怪の八雲紫さんですわ、

 今回の事件の協力者……と言ったところでしょうか。」

 

 

とまぁ、またしても信じがたい回答が返ってきてしまった。

 

 

妖怪……これまた魔法少女に続いて、信じがたい呼び名だけど、

あんなホラー映画みたいな登場されては信じるしかない……

 

それにしても、妖怪にあの服を渡すことに、どんな意味があるのか……?

 

 

少し考えてみたけれど、どうにも答えが出そうになかったので、

この件はいったん保留にしておく事にした。

 

 

「じゃあ知世さん、これですずかを……」

 

 

「ええ、ちょっと待っててくださいね。」

 

 

知世さんはそう言うと、持っていたコンパクトを開き、鏡を壁の方へとむけた。

 

すると鏡から光が放出され、その光が当たった所に、

先ほどの彼女が開いた空間によく見た裂け目が現れ……

その裂け目が開いた先には、机の上に座っているさくらさんの姿があった。

 

 

「あっ、知世ちゃん……! こっちは準備できてるよ!」

 

 

……なんでも、この鏡を使えば誰にでもあの空間『スキマ』を生み出し、

色んな場所と空間をつなげる事が出来るのだとか。

 

それを、今回はさくらさんの部屋につながげたそうで……

 

こんな事言うのは、尊大に聞こえるかもしれないけど、

これでも小学生としては文系理系ともに優秀な方だ。

 

だけど、この目の前で起こっている現象については、

いくら考えてもハッキリとはわかりそうにない……

 

 

理不尽な目の前の事実を相手に、施行を巡らせている私をよそに、

知世さんは、残ったもう一着の衣装を手にさくらさんへと手渡している。

 

 

「最近は、急ぎの事件が多かったので、

 さくらちゃんに衣装を着ていただけませんでしたから……

 今回は、特別に気合を入れて作らせていただきましたわ。」

 

 

「ほえ~……」

 

 

……なんだろう、さくらさんが困っている感じなのに対し、

知世さん、これまでに見たことのないような表情で、めちゃくちゃ輝いている風に見える……

 

 

いつもは大人っぽい雰囲気の深窓の令嬢的な雰囲気なのに……

初めて見たかも、こんな知世さん。

 

 

知世さんから手渡された衣装を着て、さくらさんの準備が終わると、

知世さんは再び新しいスキマを開いた。

 

 

見えたのは、部屋で待っていたなのは……と、フェレット姿のユーノ。

 

 

 

 

……ある程度事情が分かっているといっても、

なのはとは、まだすんなり和解できているとは言えない状態だ。

 

 

だから、なのはがこちらに向けてきた視線に対して、

思わず目をそらしてしまった……

 

 

しゅんとしたなのはに申し訳なく思いながらも、

横目で、再びなのはの方を確認してみると、

さくらさんがなのはに何か言っているのが見えた。

 

何を言ったのかはわからないけれど、

それを聞いて、なのはの表情がちょっと緩んだような気がする。

 

 

……ちょっと悔しいかな。

 

 

そして、次の行先ははいよいよあの世紀末少年達を追いかけていったライオンのところ……

 

 

「それでは、いきますわ」

 

 

そう言って、知世さんがまた新たに開いたスキマを抜けると……

 

 

そこは、人気のない郊外の道路脇の林の中。

 

 

そこには首にスマホをぶら下げた、翼の生えた

子ネコほどの大きさのぬいぐるみが、間抜け面でふわふわと浮いていた。

 

 

……あれ? なにこのぬいぐるみ?

あのライオンが居るはずじゃなかったの?

 

 

「……よぅ、ちょっと時間がかかったんとちゃうか?」

 

 

「お待たせしましたケロちゃん。

 ちょっと、届け物をする用事がありましたもので……」

 

 

気軽に声をかけてきたぬいぐるみに、

知世さんは友達に接するように返事をかえしたが……

 

 

ケロちゃんって……確か、さくらさんと知世さんが、あのライオンを呼ぶ時に使ってた愛称……

それに、声質は違うけど、似たようなニュアンスの関西弁……

 

 

ぶっちゃけ、アイツの雰囲気には似合ってなかったし、

あの呼び方だとカエルっぽいとか思ってたけど、まさか……

 

 

「……アリサちゃん、ケロちゃんはあっちのライオンが本当の姿なんだけど、

 普段はこっちの小さい姿でいるんだって……」

 

 

私の考えてることを見透かしたのか、横からなのはが説明をしてくれた。

……なるほど、確かにこの姿ならケロちゃんね。

 

 

しかし、二つの姿にあまりにもギャップありすぎじゃないだろうか?

 

 

「それでケロちゃん、どういった状況ですの?」

 

 

「見ての通り……ちゅうても知世にはわかりづらいか。

 

 この先が、ちょっと不思議な空間になっててな……

 まぁ、自分の目で見た方が早いやろ、

 ちょいと二・三歩ばっかし前に歩いてみい。」

 

 

状況を尋ねた知世さんに対して、ぬいぐるみは林の中を指……

いや、前足で指していた、見たところ何もないようだけど……

 

 

ぬいぐるみに言われるまま、私はその方向に歩いていくと、

三歩ほど歩いたところで、周囲に波紋が立った様に見え……

 

波紋が収まってハッキリ見えるようになったところで、

目の前には、林から森林と言っていいくらいの森が広がっていたのだった。

 

 

「な……なにこれ!?」

 

 

私の後に続いてきた、なのは達も驚きの声を上げている。

 

友枝町からそれほど離れてない場所に、

山一つ分を囲むような森はなかったはずなのだから当然だ……

 

 

「……ケロちゃん、これってどういうこと?」

 

 

いつの間にか、さっきのスキマみたいなものをくぐったのかと考えていると、

ぬいぐるみは、この空間に関して説明をしてくれた。

 

 

「どうも、こないだの幻想郷と近い感じの世界みたいやな。

 あれと違うて完全な自然のものらしいけど、結界で隔離された世界に近い雰囲気の場所や、

 去年、香港で会うた水使いのねーちゃんは覚えとるやろ?」

 

 

「水使い……?」

 

 

初めて聞く言葉に、なのははハテナマークを浮かべる。

香港と言ってたけど、あっちで何かあったのだろうか?

 

 

「うん、去年香港に旅行に行ったときに逢った人でね。

 その人と会う為に、バードストリートにあった古井戸から、

 不思議な空間をたどっていったんだけど……」

 

「ぶっちゃけて言えば、あの時の空間と一緒や。

 あれほど偏屈な代物やないけど、

 これも、あそこと同じように色んな場所に通じているみたいやな。

 

 あの悪ガキどもも、ここを使ってどっかから友枝町に来たんやろ。」

 

 

非日常的な会話を普通にされて、どうにも理解が追いつきにくいけど、

とにかく、大まかなイメージと、普通じゃないことだけは理解できた。

 

 

いずれにせよ、すずかを含めさらわれた子達を助けなきゃいけないし、

ここで相談しているだけでは、無駄に時間を消費するだけだ。

 

 

「……で、あの不良達はどっちに行ったわけ?

 まさか、見失ったわけじゃないでしょうね。」

 

私は単刀直入に、奴等の行先を尋ねた。

ここまで来て、見失ったと言わせる気は無かったが……。

 

 

 

「ワイを甘くみんな、姿が見えなくなっても、魔力の気配と匂いで後を追える。

 連中が逃げて行ったんはこの先や。」

 

ぬいぐるみはきちんと仕事をしたと言わんばかりに、その言葉を終えるタイミングで

ビシッという効果音が聞こえそうなほど力強く森の奥を指した。

 

 

私には、どっちに行ったらいいのか全然わからなかったけど……

 

 

「とにかく、今はあの子たちの後を追いましょう。

 さらわれた子達も、きっと不安がってるでしょうし……」

 

 

「せやな……もしかしたら森の中に見張りが居るかもしれん、

 出来るだけ、目立たんよう低く飛びながら先にすすもか。」

 

 

ぬいぐるみはそう言うと、突如巨大化した翼で自分を包み、それが強く光ったかと思うと、

再び翼が開き、そこから元の姿のライオンがあらわれた。

 

……しかし、こうしてみても、やっぱり同一人物とは思えないわね、

口調は一緒だけど、声の質にだいぶ違いがあるし……

 

 

「さぁ、アリサちゃんもこちらへ」

 

 

「あ、はい……」

 

 

知世さんに手を引かれ、私は一緒にケルベロスの背中にまたがる。

不良達から逃げる際にも乗せてもらったけど……悪くない乗り心地ね。

 

 

「……知世、今更やけどコイツ連れてくる必要あったんか?

 なんや小娘の事思い出す感じで、うるさそうなんやけど……」

 

 

「ちょっと! 聞こえてるわよ!!」

 

 

なんて失礼な奴、なにもそこまで言うことないでしょう。

これに加えて重いなんて言ってたら、しっぽを強く引っ張ってたところだ。

 

それに、小娘っていうのはいったい誰の事なのだろうか?

 

 

「アリサちゃんも、友達が心配でしょうし……

 事情を知った以上、仲間外れはかわいそうですわ。」

 

 

……そういう理由で連れて行ってもらうのもどうかとは思うけど、

でも、置いてくなんて言われたら、絶対怒り出してたろうしなぁ……

 

 

「……まぁええ、ほな落ちんようしっかりつかまっとき。」

 

 

「あ! いきなりすぎるわよ!! きゃっ!!」

 

 

そういうや否や、ケルベロスはいきなり飛ぼうとしたので

慌てて体にしがみつくと、ふわりと体が浮き……

 

 

安定した所で周囲を見ると、なのは、ユーノ、さくらさんも空に浮かんでいた。

 

 

コイツの背中に乗って飛ぶのもなかなかの感じだけど、

なんだかうらやましいなぁ、自分で飛べるのって……

 

 

そうして、私達はそのままあまり目立たない高さとスピードで先に進んでいくと、

ある程度進んだ所で、なのは達が何かに気づいたようで、

その場に泊ってから、一緒に同じ方向を見つめていた。

 

 

みんなと同じ方向に視線を向けると、、そこにはあの不良達の姿が……

なにやら、暇つぶしのおしゃべりをしているみたいで、こちらには気づいてないけれど、

どうやら、アイツらは見張りのようだ。

 

 

「……このままじゃ、流石に見つかるわよね……

 さてどうしたら……って、さくらさん?」

 

 

このまま先に進むと見つかりそうなので、どうしようかと考えてると、

さくらさんは、いつの間にかカードを取り出し、

すぐさま、それを手に持っていた杖で突いた。

 

 

『|『幻』≪イリュージョン≫!!』

 

 

すると、目の前に不思議な模様の何かが現れ、

不良達が何かに驚いたような顔をした次の瞬間、

アイツらは鼻の下を伸ばした表情で座り込んでしまった。

 

 

後で話を聞いたところによれば、

この時さくらさんが使ったのは(イリュージョン)のカード。

 

こんなところで(スリープ)を使うと風邪をひくし、

(ミスト)はちょっと危険なので、このカードを使ったうだ。

 

 

なんでも、効果は相手の望む幻を見せる効果だとか……

 

あいつらが一体どんな幻を見たのか……考えない方がいいだろう。

 

 

 

そして、幻を見せられたままの奴等を尻目に、さらに先に進んでいくと……

 

―――バゴォン!!

 

 

先の方角から、強い光や大きな音が聞こえてきた。

見つかったのかと思ったが、どうもそういう雰囲気ではないみたいだ。

 

 

「くそっ! 侵入者だ!!」

 

 

「強い……! おまえ、何者だ!?」

 

 

慎重に見つからない位置まで進んで眺めると、

そこにはあの不良達を相手に、たった一人で立ち向かう

ツンツン金髪の男の子の姿があった。

 

 

「クロス……ファイア!!」

 

 

年は私たちよりも少し上といったところだろうか?

手に持っているのは、十文字槍の刃の部分が光線になっている感じのもので、

その先から空中に光の弾を置き、合図すると、

その光の弾がはじけて、周囲に攻撃をばらかれる……。

 

 

武器そのものは見たところ、不良の使っている物にどことなく似ている気がした。

 

 

「あれは……デバイス……!?

 でも、ストレージでもインテリジェントでもないし、

 さっきの奴らが使っていたのとも微妙に違う……」

 

 

そんな彼の得物をみて、ユーノが驚きの表情を見せる。

知っているものに似ているのだろうか……?

 

そういえば、なのはの使っているレイジングハートに

似ているようで、やっぱりどこか違う印象を受けたけど……

 

 

そんな事を考えて戦いを見物していると、

不良達は次々に敗走していき、後にはツンツン頭だけが残っていた。

 

 

ツンツン頭は、なんだか不満そうに周囲を見回していたが、

ふと、何かに気づいたようにこちら側を向くと……

 

 

「お前たち、そこに隠れてるのはわかってる。

 オレに、何か用でもあるのか?」

 

 

あ……バレた……どうやら、私達に気付いたみたいだ。

気づかれる距離じゃないと思ってたのに……

 

 

とりあえず、向こうも魔法を使うみたいだし、

あの不良と戦っていたという事は、少なくとも奴らの仲間じゃないはず。

 

「……とりあえず、お話を伺ってみましょうか。

 このまま隠れているわけにもいきませんし、

 情報は出来るだけ集めておきたいですから。」

 

 

不安はあったけれど、知世さんの提案への反対者は誰も居なかったので、

とりあえずツンツン頭の言葉に従って、そのまま姿を現した。

 

 

ツンツン頭は、一瞬すこし驚いた様子を見せたが、

すぐに平静を取り戻し……こう言ってきたのだった。

 

 

「……随分と、変わった連中だな」

 

 

動じないヤツね、ケルベロス見てその態度って……

 

 




今回出てきた男の子はオリキャラではありません
都合設定が原作とそれなりに変っていますが、タグに出さない
魔導師化参戦作品からの出演です

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