知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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第4章:力こそ正義
炸裂、ウサオちゃんスペシャル


友枝町を襲った犯人を追いかけ、不思議な空間を抜けた先にあったのは

私達の住む町から遠くにある山茶花町という町でした。

 

 

知世さんが借りているスキマの力を使って家を抜け出してきたので、

もうすっかり遅い時間だったけれど

町について早々に、私達と同じくらいの子達が

変わった名前の喫茶店に入っていくのを目撃しました。

 

 

人のことは言えた立場じゃないけれど、

こんな時間にあんな子供がこんな所を出歩いているのは……やっぱりおかしい。

 

 

もしかして、さっきの子達の仲間なのでは……という疑問、

そして、おなかを鳴らしたユーノ君のため、

話し合いの結果、とりあえず中に入って、

何事もなければそのままなにか注文しようという話になりました。

 

 

もし普通のお店だったとしても、さっきの子達が入っていったんだから、

起こられたりはしないだろうし……。

 

 

「……あとで、ワイにも分けてや。」

 

 

……いつの間にか仮の姿に戻っていたケロちゃんは、

そういうと、知世さんのバッグの中に隠れてしまいました。

 

 

……よし、行ってみよう。

 

 

覚悟を決めて、店のドアを開けて中に入ると

店のドアにかけられたチャイムが鳴り……

 

「いらっしゃーい……あらっ!」

 

私達の入店に気付いた、かわいいエプロンをつけた店員さんが挨拶をしてくれたので……

 

 

「………………」

 

私達は、思わず無言のまま固まってしまいました。

 

何故こうなったのかと言うと、店員さんの見た目と言うのが……

 

 

スッキリとした坊主頭。

 

 

筋肉が沢山ついているマッチョボディ。

 

 

目には長いつけまつげと、ケバケバしいほどのアイシャドー。

 

 

赤い口紅を塗った分厚い唇、その周りには濃いイブニングシャドー(ヒゲそりあと)

 

 

どうみてもオカマッチョ……としか言いようがない、

見た目にインパクトのありすぎるおじさんだったからです。

 

 

「あら、あなた達始めてみる顔ね……

 あの子達の新しいお仲間?」

 

 

そして、見た目と声の太さに似合わぬ女性口調……

 

 

この時、私は最初にジュエルシードを回収した時以上に

驚いた顔をしていたと思います……

 

 

たぶん、隣で口をぽかんと開けてるアリサちゃんと同じように……

 

 

「ほえ~……」

 

 

その横では、さくらさんが少し困惑していましたが、

このインパクトある光景を目撃しても、

知世さんはいつもと変わらぬ微笑みを浮かべていて……

 

 

逆の隣では、ユーノ君は何かに怯えるように震えてました。

……ユーノ君、こういう人苦手なのかな?

 

 

「ユキエさん、どうしたの……って、誰だお前たち!?」

 

 

そうして固まっていると、こちらの様子を確認しに来たのだろうか……

店の奥から私達より少し年上くらいの小学生の子が出てくると、

私達の姿を見て警戒したのか、いきなり大きな声を上げました。

 

 

その声を聞きつけて、更に奥から全部で十数人ほどの

私達と同年代か、それ以上の学年が違うの子達が出てきて……

 

 

警戒心丸出しでこちらを見ているみんなの手には、

ミヅチ君が説明してくれたマギロッドと思われる杖が構えられています。

 

 

「それは、マギロッド……!

 まさか、君達もあの不良の……」

 

 

「何言ってるんだ!

 お前達こそコクエンの手下なんじゃないのか!?」

 

 

緑色でコーディネートされたあの子達と違って、ごく普通の小学生と思われる服装……

いや、あの世紀末ファッションと比べるとマシだけど、道義姿は普通じゃないかな?

 

 

とにかく、あの子達とは違った雰囲気の子ばかりでしたが、

あの杖を持っている以上、彼らの仲間とも限りません。

 

 

向こうも、コクエンという聞きなれない名前を出して来たところを見ると、

私たちが、その人の仲間じゃないかと疑っているのでしょう。

 

その敵意に反応して、私とユーノ君は前に出て構え返したので、

お互い、にらみ合う事になりましたが……

 

 

―――グゥー……

 

 

突然、店の中に響き渡った音で、緊迫した空気が緩み、

音の主のユーノ君が再び赤面してしまいました。

 

 

今夜は晩御飯多めに持ってったはずなんだけど……

やっぱり、フェレットじゃあんまり食べられないのだろうか?

 

 

「ちょっとちょっと、お店の中でもめ事はダメよ♪」

 

 

そうやって空気が緩んだ瞬間に、先ほどの店員さんが

まだすこし緊迫していた雰囲気を破って間に入り、

向こう側の子達をなだめ始めてくれました。

 

 

「……落ち着きなさいな、この子達がコクエン君の手下なわけないじゃない。

 こんなかわいい子達、あの子なら絶対そばに置いてるわよ。」

 

 

うーん、やっぱりあの声であの口調はちょっとなれないかも……

 

 

とにかく、店員さんが訳のわからない理由で説得すると、

驚いたことにほぼ全員が、非常に納得した顔で杖の先を下ろしてくれて……

 

 

「……まぁ、それを言われればそうだけど……

 でも、少女漫画の主人公並みの可愛さの子が

 こんな時間にここに来るなんて普通じゃないですよ?

 

 ……君たち、いったいどこの子?」

 

 

まぁ、そういわれるのはもっともな話なの。

 

とにかく、警戒を解いてくれたようなので、

これまで何が起こって、どうしてここにいるかの説明は、

さくらさんが、してくれる事になりました。

 

 

「私達、友枝町から来たんですけど、

 今日、緑色の格好をした子達が、いきなり町に襲ってきて……

 

 その子たちは、なんとか追い払えたんですけど

 友達が連れていかれたから、ここまで追いかけてきたんです……」

 

 

「え!? コクエン隊を……キミ達が!?」

 

 

「あらヤダ! じゃああなた友枝小学校の子!?」

 

他の子達がみんな驚いている中、

店員さんは、さくらさんの答えに対して嬉しそうに手を鳴らすと、

目をキラキラとさせた笑顔をしていました。

 

 

見た目は、ちょっと不気味だけど……

 

 

「あそこって男女問わずかわいい子が多いのよねぇ……

 確かに、あそこならコクエン君は真っ先に狙いそう。

 

 ……大丈夫よ、嘘つくような子には見えないもの、

 あなたたち、相談に乗ってあげなさいな。」

 

 

納得した店員さんが、再びあちら側の子達に声をかけると、

その理由に納得したのか、それとも迫力に押されたのか。

向こうの一番前の子が、ため息をつくと……

 

 

「わかったよ、奥の部屋まで来てくれ、

 秘密のアジトになってるんだ。」

 

 

そう言って、店の奥を指さしてついてくるように言いました。

 

どうやら、私達の事を信用してくれたみたいです。

 

 

「大丈夫よ、お友達の事、この子達なら相談に乗ってくれるわ。」

 

 

「ありがとうございます、店員さん」

 

さくらさんが、物おじをせずお礼を言うと、

店員さんはニコニコしながらも、少しはっとした顔をして……

 

 

 

「あらヤダ、まだ自己紹介して無かったわね、

 私はこのウサオちゃん喫茶の店長よ、ユキエって呼んでちょうだい♪」

 

 

どう考えても、本名じゃないよね……

まあいいか、そういう人もいると思えば……

 

 

そうして、私達はユキエ……店長さんに奥の部屋に案内され、

先ほどの事、奥に居た子達と、お互い軽い自己紹介をしてから、

この町で何が起こってるかを聞くことになりました。

 

 

……と、その前にユーノ君の食べるものを注文しなきゃ、

またおなかが鳴ったら大変だもの。

 

 

「ねぇねぇなのは、これなんかどう?

 店長のおすすめの一品!」

 

 

そういって、アリサちゃんがメニューを見ながら注文したのは、

見た目が豪快なスペシャルパフェ。

 

 

……写真を見る限り結構な量だけど、食べきれるのだろうか?

まぁ、大食いチャレンジじゃないからいざとなったら分けてもらえばいいかな。

 

 

そして、注文が終わって店長さんが調理場に行った直後……

 

 

「それで、ハッキリ聞くけどこの町では何が起こってるの?

 それに、さっき話に出てきたコクエンって言うのは?

 あと、マギロッドについても教えてくれる? 手に入れた方法とか」

 

 

アリサちゃんは、彼らに対してこれまでの疑問の数々……

そして、この街で起こっていることを尋ねました。

 

 

「え……? でも君達あいつらを追っ払ったって事は、

 ロッドマイスターなんじゃ……?」

 

 

「それはさっきやったからもういい。

 

 私達は、それについて詳しく知りたいの。

 ……もしかして、話せなかったりとかするの?」

 

 

どうも、目の前の人たちは私達より年上みたいだけど、

アリサちゃんは躊躇せずに、ややキツめに正確な答えを言うよう要求しました。

 

そう言われると、向こうは一度相談するかのように目を合わせていましたが、

すぐに全員が納得した顔になり、質問した内容について話してくれました

 

 

「別に、話せないって事はないんだけどね、

 今から、3ヶ月くらい前だったかな……

 

 山茶花町の中で、魔法使いみたいな黒いローブを着た女が、

 小学生に魔法の杖を配ってるって噂が流行ったことがあるんだ。」

 

 

「三か月前……ミヅチ君の教えてくれた情報と一致しますわね。」

 

 

町にたどり着いたと思ったら、いつのまにか姿を消してしまっていたけど、

どうやら、あの話は本当だったみたい。

 

 

「私達も、最初は子供じみた噂だって思ってたんだけど……

 ある日、俺達も学校の下校中に、いつのまにか見覚えのない道を歩いていたら

 そこに、噂通りの黒いローブの女がいて……」

 

 

「噂通り……にしては、ちょっと機械っぽい感じが強いけど、

 この通り、魔法の杖をもらったってわけ。」

 

 

そういって、目の前のみんな集中したと思った瞬間。

 

 

何もなかった彼らの手には、友枝町に襲ってきた不良が持っていた物によく似た、

棒をメインに、やグローブ、あるいは大きな銃みたいな様々な道具が現れました。

 

 

それを見て、ユーノ君は身を乗り出し、まじまじとそれぞれの道具を見回しています。

 

 

「それが、君達のマギロッド?」

 

 

「ああ、何でもできるってわけじゃないけど、

 この杖を使って、色んな事が出来るようになってさ、

 手にした奴、みんな大喜びだったよ。」

 

 

確かに、こういうところは、レイジングハートや

さくらさんの星の杖とおんなじみたい

 

 

「……ちなみに、マギロッドって呼び方は、くれた人が言ったわけじゃないんだ。

 誰かが、魔法の杖と絡めて、これの事をそう呼びだして、

 それがいつの間にかあっちこっちで流行ってね……

 アニメみたいにかっこよく、使い手の事、ロッドマイスターとか言ったりさ。」

 

 

みんなが口々にいろんな情報をくれるけれど、

私は、みんなにマギロッドを渡したという、黒いローブの女の事が気にかかってた。

 

 

黒と言えば、あの子も黒っぽい衣装だけど……

 

 

「あの、すいません、その黒いローブの女ですけど、

 もしかして……私と同じくらいの子だったりしません?」

 

 

時期的に合わないのはわかっているけれど、

何故か、関係してるんじゃないかという疑問が続いていて……

 

 

「え……? いや、どう見ても20代くらいの人だったよ。

 

 ……大きな声じゃ言えないけど、ユキエさんと違って、

 まっとうな女性なのはまちがいない。」

 

 

ちょっと失礼な返答に、発言をした子以外の子は、

慌てた顔で厨房を見たけれど、店長さんには聞こえてなかったみたいで、

向こうでは、鼻歌を歌いながらパフェにクリームをかけているところでした。

 

 

 

「……顔は良く見えなかったけど……

 すべすべしたきれいな大人の手だったし……」

 

 

「なんか、色気のある声でさ……

 顔を見なかったの、ちょっと後悔したかなぁ……」

 

 

……どうやら、杞憂だったみたい。

 

どこかに引っかかるものを感じたけれど、

あの子とは関係してないようなので胸をなでおろすと……

 

 

「はい、おまちどー♪

 当店のスペシャルメニュー、ウサオちゃんスペシャルよ♪」

 

 

ちょうど、店長が注文したパフェを持ってました。

 

 

大きなパフェの器に、甘そうな具が山盛りで、まさに圧巻……

一人で食べきるのには、ちょっと大変そうなの。

 

 

 

「なるほど、確かにこれはスペシャルね……

 ちょっと味見させてもらうわ。」

 

 

「ワイもワイもー、独り占めは許さへんで!」

 

 

そして私達が見入っている間に、

アリサちゃんと、いつの間にカバンから出ていたのかケロちゃんが

スプーン立てにあったスプーンを手に取り、

パフェにスプーンを突っ込んで、掬い取ってました。

 

 

「ちょっとケロちゃん! 勝手に出てきちゃダメでしょ!!」

 

 

さくらさんが、ケロちゃんに対して注意をしたけれど……

 

 

当のケロちゃんは、怒ってるさくらさんと、

突然出てきたケロちゃんに驚いているほかの子達の事など知らないとばかりに、

ケロちゃんはスプーンの先を口元に寄せながら……

 

 

「かまへんって、ここにいる連中みぃーんな魔法の事しっとるんやから……

 友枝町から離れた場所やし、旅の恥は搔き捨てっちゅうやつや。」

 

 

そんな無責任なことを言ったので、さくらさんが呆れた顔をしてました。

……本当に、いいのかなぁ?

 

 

「あら~……これはマスコット?

 いいわねぇ、やっぱり女の子の魔法使いにはこういったのがないと……

 それじゃあ、ごゆっくり~♪」

 

 

そして、ケロちゃんを目にしてなぜか満足そうな顔をしたユキエさんが

キッチンの方に向かっていくのを見送った直後……

 

 

―――バリ バリ

 

 

突然、変な音が2つ聞こえてきたので、

なんだろうと思って、そちらの方を向くと……

 

 

「うぇ……な、なんなのよこのパフェ!?」

 

 

アリサちゃんは、青い顔をして口元を手で押さえていて……

 

 

「ぶぇぇぇ~……」

 

 

ケロちゃんは、舌を出しながら苦虫でも噛み潰したような顔をしていました。

心なしか……いや、確実に舌が赤く染まってる?

 

 

このパフェ、そんなにまずいのかな……?

 

 

「……やっぱり、こうなったか。」

 

 

「普通のにしておけばよかったのに……。」

 

 

目の前の子達が案の定といいたそうな顔で、

そういっているのを聞きながら、パフェをよく見てみると……

 

パフェの材料には、クリームの他に、アンコ、プリン、チョコレート、キャラメル、バナナと

少しまとまってなさげな甘いものが詰め込まれていましたが……

 

 

……その中に一つ、赤い部分に変な違和感を感じました。

 

この赤さは、よく見てみるとイチゴ……ではなく、

唐辛子で漬け込んだであろう白菜……

間違っても、パフェの材料に使ってはいけなさそうな材料だ。

 

 

「辛……ッ!?なんでパフェにこんなもんが入ってんのよ!!」

 

 

水を飲んで一息ついたアリサちゃんは涙目で怒っています。

 

 

パフェの材料と思ってこんなもの口にしたら、私だって怒るかも……

実家が喫茶店だからなおの事……

 

 

「……なんでも、このパフェは甘辛い初恋の味を表現してるんだとか……」

 

……と、周囲の子達が教えてくれましたが……

 

 

初恋の表現って、甘酸っぱいじゃなかったっけ?

確かにこれも漬物だから、酸っぱいところもあったはずだけど、

辛いまで行ったら、失恋の味になっちゃうんじゃないのだろうか?

 

 

いやむしろ、それをこんな表現にしなくても……

 

 

「……いっぺん、翠屋のパフェ味合わせてやりたいわ……

 そしたら、ちょっとはマシになるかもしれないし……」

 

 

アリサちゃんは、恨みがましそうな顔でそうポツリと漏らしてました。

 

 

……言いたいことはわかるんだけど、食べただけでそこまでの効果は

期待しない方がいいんじゃないかなぁ……

 

 

なにしろ、お姉ちゃんがアレだから……

 

 

「大丈夫……?」

 

 

「ぶぇぇ……ワイ辛い物苦手なんや……

 まったく、なんちゅうもの作るんや、あのオカマッチョ」

 

 

そして、本来食べる役のユーノ君は、まだ舌を出しているケロちゃんを心配しつつも

目の前のパフェに恐れを抱いた様子で引いていました……

 

 

……あの、無理しなくてもいいんだからね?

 

 


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