知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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逃げられた最後の希望

不良を追跡してたどり着いた町、山茶花町。

 

逃走の痕跡を追う中、僕達は奴等と敵対している

ロッドマイスター達の集団とある喫茶店で出会い、

彼らと話し合う事になった。

 

その際、空腹で鳴った僕のお腹を満たすために、

なにかを注文する事にしたのだけれど、

選んだのは、メニューは面白半分でアリサが強引に選んだスペシャルパフェ。

 

こんなものを選ぶだけあって、アリサも味に興味はあったようで

甘いものにつられて飛び出てきたケルベロスともども

一口とばかりに、出てきたパフェをスプーンですくい取り

嬉しそうに口に運んだのだが……

 

一部の材料と味に問題があったらしく

二人とも、マズさを表現したような顔をした直後

文句を言いながら、目の前のパフェを睨みだした。

 

 

……もともと、僕が食べる注文だったため

アリサはさっさと食えとばかりに、目を背けながら

僕の前にパフェの器を押し出してくる。

 

正直、かなり不安だけれどご馳走してもらう以上

手を付けないわけにもいかないし……

……どうしてもダメなら、残すしかないか

 

そう思い、僕がスプーンをもった手を伸ばすと……

 

 

「……で、どこまではなしたっけ?」

 

目の前の男の子が、どこまで話したのか忘れてしまったらしく

そんなことを言いだした。

 

パフェの事とか、ケルベロスを見たりで

気がそっちの方に向いたのだろう。

 

 

「黒いフードの方に、この近辺の小学生が

 マギロッドを貰った所までですわ」

 

知世さんは、話をしっかり覚えていたので

あのマギロッドというデバイスもどきを配っていた

黒いフードの女の話題を口にする。

 

あの不良達や、彼らのようなこっちの世界の子供たちに

マギロッドを無差別でばらまいた謎の女……

 

いったい、何者なのだろうか?

 

普通に考えたら、どう考えてもこの行為に利点はないはずだ。

管理外世界の子供達にばらまくには、

一番安いデバイスだって、おもちゃにしては高価すぎる。

 

ただ、それを彼らに問いても明確な答えは返ってこないだろう。

僕は、目の前のパフェを相手にしつつ、話の続きを聞く事にした。

 

「そうそう……それでマギロッドを貰った後は、

 貰った奴等が集まって、いろいろな事を始めたんだ。」

 

「たとえば、イタズラだったり、魔法を使ってのいろんな勝負やったり……

 もう、漫画の主人公になった気分で大はしゃぎだったぜ。」

 

彼等は、その体験を楽しそうに語り始めたけれど、

この辺の感覚は、僕にはよくわからない感じかも……。

 

素質によるとはいえ、魔法を普通に使える世界の出身だからか、

ここまで生き生きとした表情を見せる感覚は、ちょっと理解しにくい半面

少しだけうらやましくもある。

 

「あと、君らが通ってきたあの森……

 誰が言い始めたのか、クラスターって呼ばれてるんだけどさ。

 あれも、マギロッド貰って見える様になったから、

 日帰り気分でいろんな所にいく時に使ってたんだ。」

 

こちら側からは見えない不思議な空間。

あれを辿って、僕達はこの町にたどり着いたのだけど、

知世さんのGPSで確認した所、本来の距離はかなりのもので、

あの中で、僕らが進んできた距離ではたどり着けないはずだ。

 

「クラスター……集団や、房という意味ですわね

 あれは、いったいなんなのでしょうか?」

 

知世さんが疑問を口にしたけど、正直僕にも見当がつかない。

転移ではない、徒歩で行ける不思議な空間……

こんなの、文献上でも今まで聞いた事が無い。

 

「詳しい事はあんまり……

 みんな、便利だなーとしか思ってないんじゃないかな。」

 

 

「……でもさ、そのうちやってる事が、

 どんどんエスカレートしていってさ……」

 

先ほどの嬉々とした表情から一転して、

彼らの顔に徐々に曇りが見え始める。

 

「楽しみとしての勝負じゃなくて

 縄張り争いや、上下関係を決めるケンカとかが

 起こるようになっちゃったんだ……」

 

と、マギロッドは便利な道具としてだけではなく、

使い込まれて行くうちに、危険性も発揮し始めたようだ。

 

……この辺りの事情は、どこに行っても変わらない。

 

向こうでも、表向きは魔法を迂闊に、

使っちゃいけないよう教えられてるけど……

 

そんな事は知らないとばかりに、

魔法犯罪の発生率は、目をそむけたくなるほどに高かった……

それも、年齢を問わず……

 

「あー……なんとなくわかる気がする。

 なのはやさくらさんならともかく、普通の小学生なら、

 そういう力をいきなり持ったら、そうなるわよねぇ……」

 

アリサは、彼らの話を聞いて、さもありなんとばかりに頷いた。

 

そういう意味では、僕は本当に運がよかったと思う

悪い子じゃないのは分かっているけれど

これがアリサだったらどうなっていたことやら……

 

「……で、そんな抗争が続いていった結果

 この辺では、ある男の率いるグループが頂点を勝ち取ったんだ。」

 

「そいつが、君達の町を襲った奴等、コクエン隊のボス・宵闇コクエン……

 間違いなくこの町じゃ一番のロッドマイスターだよ。」

 

コクエン……これまでの会話で、何度か耳にした名前だ。

 

「……たしか、お店に入った時にその名前を出してましたわね」

 

友枝町に襲ってきた彼らは、まだ未熟なところはあれど、

魔導師として、決して弱い部類ではない。

 

むしろ、3ヶ月であれだけの使い手になったのならば、

かなりの素質を持っていると言える。

 

そんな彼らと同じ……最長で三か月と言う短い期間で、

彼らの主としてふるまう強さを誇るコクエンとは、

いったい、どんな相手なのだろう……

 

「元々は、ケンカもそこそこ程度なチャラ男だったんだけど、

 ロッドマイスターになってからは、とんでもなく強くなってさ……」

 

「今では、近隣の学校を全部制圧した上、

 手下を引き連れながら、王様気取りで街を歩いてるわ。」

 

この辺を聞く限りでは、成り上がりで支配欲の強いイメージだ。

それで居て、従えるだけの強い実力を持っているのも間違いない。

 

「ただ、中心メンバー以外は

 力ずくで従わせてるだけだから、人望はあんまりかなぁ……

 特に、下っ端連中は、不満でいっぱいだとか。」

 

……だけど、人望はあんまり無いようだ。

 

まぁ、遠く離れた町まであんな事をしてくる奴だし、

危険そうなやつだって事は間違いけれど……

 

「でも、あそこまで迷惑かけまくってる奴なら、

 町の大人だって、放っておかないんじゃないの?」

 

確かに、そこまで横暴を繰り返しているのならば

止める大人が出てきてもいいと思うけれど……

 

「生憎、そんな大人はいないんだよね。

 ……それに、町一番のイタズラ小僧が、魔法使って悪さしていますなんて、

 信用してくれる大人、どれだけいると思う?」

 

「そ、それを言われると……」

 

むこうならば、すぐに誰かがすっ飛んでくる内容だけど、

魔法が表ざたになってないこっちでは、

子供のウソと思われるのが関の山のようだ。

 

「あれ? でも店長さんは……」

 

「確かに、事情を知って僕たちをかくまってくれるくらいには、

 頼りになる人なんだけどね……

 ユキエさんだけじゃどうしようもないし、

 あの人に説得されて、信じてくれる人もいると思う?」

 

……まぁ、それも確かに、

悪い人では無いと思うけれど、普通の人からは、

ちょっと近づきがたい感じの雰囲気だったし……

 

「……実は、ユキエさん以外にも事情を知ってる人はいるんだけど、

 コクエン達は手下とマギロッドを使って、町中の大人の弱みを握ってるから、誰も奴等を注意出来ない……

 事情を知ってる大人はユキエさんを除いて、みんな、ほとんど奴等の言いなり状態なんだ」

 

「弱みって?」

 

「内容までは知らないけど……

 なんでも、バレたらショックを受けるような写真とかを盗撮してるとか……」

 

 

「許せませんわ!!」

 

 

彼らが弱みの内容・盗撮と言う言葉を口にすると、

すぐさま、知世さんが大きな声を挙げた。

 

それに驚き、さくらさんを含め、僕たちみんなが知世さんの方を向くと、

知世さんは、眉間にしわを寄せながら、眉の端を釣り上げて、

僕達がこれまでに見た事のない、怒りの表情を露わにしていた。

 

……とはいえ、本来の性格が性格だからか、

怒ってるとはいっても、それほどの迫力はない。

 

「と、知世ちゃん……!?」

 

「撮影のための道具を、人を貶めるために使おうなど、

 到底許される事ではありませんわ!」

 

……知世さん、怒るポイント少しずれてます

 

「……まぁ、こういうのを言うのもなんだけど、

 コクエン含めて、マギロッド貰った奴等は、

 なんというか、親でもこう言った事に介入してこないような家庭でさ……」

 

 

「そういうわけで、町で協力してくれる大人はユキエさんただ一人なのよ……

 アイツらも、ここに踏み込んでくるのは勇気がいるでしょうしね。」

 

 

まぁ、確かにあの人に視線を向けられるとちょっと怖い……

 

ドアを開けた先にあの人が待ち構えているのでは、

迂闊な真似をする小学生はいないだろう……

 

 

―――カチャン

 

 

そんな話の中、手にもつなにかで硬いものをついたような感覚と同時に

ガラスに金属をぶつける音がした。

 

なんだろうと思って、そそっちに目を向けると、

目の前の器……先ほど頼んだパフェ空になっており、

手に持っていたスプーンが器の底をついていた。

 

どうやら、気が付かないうちにパフェを平らげてしまったみたいだ。

 

話に夢中になって、味はよくわからなかったけど、

空腹感は解消されているので、もうお腹はならないだろう。

 

 

「……と、ごちそうさま。」

 

お腹が落ち着いたので、そう言ってスプーンを置くと……

 

「「「ええっ!?」」」

 

 

次の瞬間、みんなが驚愕した表情で、一斉にこっちに視線を向けてきた。

 

いや、何もそこまで驚かなくても……

 

「このパフェを、ほとんど一人で完食するなんて……」

 

「味音痴なのか、それともよほど腹が減ってたのか……」

 

見せに居た子達は、僕とパフェの器を見て、

信じられないと言わんばかりの表情を見せた。

 

けど正直、食べられない味ではなかったと思うけど……

 

「なのは、いくらなんでもこれはひどいんじゃない?

 あのマズイパフェを完食するほど飢えさせてるって……」

 

アリサも、さきほどこのパフェを口にしたばかりだからか、

彼等と同様の顔をして、なのはにあらぬ疑いをかけ始めていた。

 

「なっ!? アリサちゃん! それは流石に誤解なの!!

 大体、あのパフェを選んだのはアリサちゃんでしょ!!」

 

それに反論する形で、なのはは珍しく怒った表情になり、

原因はそっちだと言わんばかりに、アリサがパフェを頼んだ事を責め返す。

 

な、なんだか周囲の雰囲気が大変な事になってるような……

二人とも、こんなことでケンカしないで……

 

「……まぁ、そう言う訳でこの町を掌握したコクエンのやつは、

 今度は、別の学区を制圧しようとして、各地に手下を送り込んだんだ。

 さらわれた子達も……たぶん、その一環だと思う。」

 

そんな雰囲気にかかわりたくないとばかりに、

話の進行役をしてくれていた子が、改めて事情の説明を続けてくれた。

 

なんでそんな事を始めたのかは理解できなかったけど、

おおむね何が起こっているかは分かったと思う。

 

「事情は大体理解できましたわ。

 ところで、さらわれていった子達の居場所に心当たりはありますか?」

 

あの襲撃で、さくらさんの友達の奈緒子さんと、

アリサと一緒に来ていた、なのはの友達のすずかが連れていかれてしまい、

今も行方は分かっていない。

 

話では、他にもさらわれた子はいるみたいだから、

なんとしてでも助け出さなければ……

 

「居場所はおそらく、奴らの本拠地、亀山小学校のどこかのはずだよ、

 今は廃校になってて大人は誰も立ち入らないんだ。」

 

「ただ、あの周辺はマギロッドの力で、不思議なことになっていて、

 結構広いし、手下も結構な数がいるから、

 直接乗り込むのは、お勧めできないかな……」

 

「みんながどこにいるのか分かればいいんだけど……」

 

土地勘がない僕達では、乗り込んでも、

すぐにまよって罠にはまってしまうかもしれない。

 

せめて、中の様子が分かれば……

 

「そういう事なら、手がなくも……

 ……いや、この手はちょっと……」

 

「なにか、方法でもあるの?」

 

 

すると向こうの子が、何かを提案しかけたけど、

やっぱりダメだといた雰囲気で、それをひっこめてしまった。

 

一体、何をしようとしたのだろうか?

 

「教えなさいよ、この際できることは何でもやらなきゃ。」

 

アリサが、出し惜しみするなと言いたげに問い詰めると……

 

「……実は、コクエンの下っ端の中に、仲間がスパイとして入り込んでるんだ。

 そいつに頼めば、ある程度中の様子はわかると思うけど……」

 

「……なにか、問題でも?」

 

向こう側に、彼らが送った内通者がいるのは予想外だったけど、

それを利用すれば、中の様子を探る事は可能だろう。

 

だけど、引っ込めたからには、この案にはどこかに問題があるようで

知世さんの問いにも、すぐに答えを返してくれなかったが、

少し考える様子を見せると、その先を語ってくれた。

 

「……あそこには、立ち入り禁止区域があるそうで

 下っ端はそこに入れないって話なんだ。

 出入りできるのは側近か女の子じゃないと行けなくて……

 だから、その……」

 

 

話を先に進めていくにつれ、だんだん声が小さくなっていく……

……つまり、さらわれていった子は、その区画のどこかにいて、

それをもっと詳しく調べるためには……

 

 

「まさか、私達の誰かにわざとつかまれって言うの?」

 

「だから、ちょっとこの案は無理かなって思ったんだよ。

 ……きみらの可愛さだと、逆の意味で安心できないし……」

 

確かに、その手段を使うのはあまり賛成はできない。

 

立ち入り前に、ボディチェックをされる可能性もあるから、

デバイスを持っていれば、感づかれるだろうし……

 

「それに、友枝町に来た子達には顔を見られてますので、

 また出会ってしまったら、すぐにばれてしまいますわ。」

 

友枝町を襲ってきた奴等は、捕まえた子達も含めて、

全員逃げられてしまった上に、あれだけ派手に相手をしたのだから、

こっちの顔は覚えられているだろう。

 

やっぱり、この手を使うのは難しそうだ。

 

「……では、この手を使うには、ばれないように変装して、

 なおかつ、道具を使わないで魔法を使えるようにすれば……」

 

知世さんが、あごに手を当てて潜入する方法を考えているけど、

今の僕たちに、実行できるとは思えない。

 

「うーん……」

 

みんな、どうしたものかと頭を抱えてしまった。

 

……こうなったら、当てにするようで申し訳ないけど、

さくらさんのカードの力を、期待させてもらうしか……

 

「……………………」

 

そんな結論に行きつきそうだったタイミングで、

ふと、知世さんの視線がこちらを向いている事に気が付いた

 

……その表情は何故か、少し楽しそうな顔をしていたが、

何故か僕は逆に、その視線に不安を感じ始めたので……

 

 

「……あの、なんですか?

 その意味ありげな視線は……」

 

恐る恐る、その視線の意図を尋ねると……

 

「……マギロッドを使わなくても魔法が使えますから

 あとは見た目さえ何とかすれば、いけますわね。」

 

知世さんは、僕の問いかけに応える事なく、

あごにあてていた指の形を変えて、

名案が浮かんだとばかりの顔をし、掌を叩いたのだった。

 

僕も、そして話を聞いていたみんなも、

すぐには知世さんの意図が分からずに困惑していたのだけれど……

 

すぐさま、さくらさんが「あっ」と言って、何かに気付いた風な顔をして……

その後に、アリサが「なるほど」と言って、にやりとした顔を見せ……

 

他の女の子達が「あー」「いけるかもー」とか言いながら、楽しそうな表情をし……

男の子達の方は「げ……」「まさか」と言いながら、恐れを見せる様な表情を浮かべ……

 

 

……そこで、僕は知世さんの意図する恐ろしいアイデアの内容に気づいたのだった……

なのはだけ、まだわかってないようだけれど……

 

「い、いやちょっと! 無理です!!

 すぐばれちゃいますってば!!」

 

冗談じゃないと、僕は必死にそのアイデアを否定した……が……

 

「心配ありませんわ、ため息が出るほどに

 かわいく仕上げて差し上げますから」

 

知世さんが、一見悪意の全くない笑顔を見せて来た為か

なぜか、それ以降一切反論することが出来ず、

周囲の雰囲気も、そのアイデアへと傾きはじめていた。

 

心配ないと言われたけど、こんなのむしろ心配しかできない!

このまま、ここにとどまるのは危険だと思い、すぐさま席を立って逃げようとしたのだけれど……

 

「……どこに行くつもりなのかなぁ……?」

 

「ひっ!?」

 

いつの間にか、アリサに肩をガっとつかまれてしまったため、逃げ出す事は出来なかった。

 

彼女は目の周囲を暗くした感じで、嗜虐的な笑みを浮かべ……

 

「うふふ、逃がさないわよー……」

 

背筋に震えが走るような口調で、そう僕に言い放つ。

 

ちょっと! それどこかで使わなかったはずのセリフ!?

 

なんとかしてもらおうと、僕は懇願するような目でなのはの方を見たけれど、

なのはは、未だ知世さんのアイデアの内容に気づいていないため、

アリサの行為に少し驚いていたが、僕が何をされるのか分かって居ない様子。

 

このままでは、なのはに助けてもらえそうにはない……

 

こうなったら誰でもいいと、向こう側に座る男子達に

救いを求める様な視線を向けると……

 

 

「お……俺は潜入の為に、連絡を取ってくる! じゃ!!」

 

慌てた表情でそう言って、一人が席を立ち……

 

「待てよ、一人じゃ心配だから俺もついてくぜ!」

 

あからさまに不自然な笑顔をしながら、先に席を立った一人に続いてまた一人席を立ち……

 

「あ、見張りの時間だ!」 「ちょっとトイレに……」 「一緒に行こう!」

 

残るみんなも、巻き込まれることを警戒したのか、

全員半分慌てた顔をしながら、各々勝手な理由をつけだして、

駆け足で振り返らずに部屋の外に出ていってしまい……

 

……そして、部屋の中の男子は僕以外、全員いなくなってしまった。

 

「逃げられた……最後の希望が……」

 

彼らの薄情さに、思わず涙が出てきそうになってしまう……

 

確かに、これまでなのはをはじめ、いい人に巡り合ってきたのは、

奇跡のレベルだとは思うけれど……

 

それにしたって、あの態度はないんじゃないか!?

 

「ふふふ……話は聞かせてもらったわよ」

 

 

そう思っていると、突如後ろから図太い声が聞こえてきた。

 

その声に、先ほど以上に不吉な予感を感じたけれど、無視するわけにはいかないので、

ギギギ……と音がするような動きになりながら、恐る恐る顔をそちらに向けてみると……

 

そこには、マッスルポーズで筋肉を強調しながら、

目を怪しく輝かせている店長さんがいた……。

 

そのあからさまに怪しさしかない雰囲気で、

嫌な予感が、加速度的に酷くなっていく……

 

「お店に入ってきたときから、この子はイケるって思ってたのよ。

 お店の更衣室に、アナタにも似合いそうな服があるから、

 好きに使ってもいいわよ、私も手伝ってあげるから♪」

 

「あ……もしかして……?」

 

店長さんのこの言葉を聞いて、なのはもようやく僕が何をされるのか気づいたみたいだけど

こうなってしまっては、どうやっても逃げられなさそうだ……

 

せめて、自由に変身できれば逃げきれたかもしれないけど、

さくらさんに協力してもらわないとできない現状では、もう打つ手はない……

 

……いや、前は出来ていたんだから、きっとできるはず!!

そう思って、変身する為に魔力を集中させたけれど……

 

「さぁ、こっちにいらっしゃい♪

 衣装はいっぱいあるから、最高のものを選ばなきゃね」

 

 

願いむなしく、変身をする事が出来なかった僕は

みんなに担ぎ上げられるようにして更衣室へと運び込まれ、

潜入の為の準備として、色々とされる羽目になり……

 

 

そして担がれている最中、僕は逃げていった男子達に対し、

自分でも不思議なくらい恨みがましく、こう思ったのだった……

 

「せめて、だれか一人くらい反対してくれてもいいじゃないか……!」

 

 


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