知世の野望 ~The Magic of Happiness~ 作:(略して)将軍
ウサオちゃん喫茶で準備を整えてから、
僕はコクエンの所に、スパイとして潜り込んでいた子に連れられ、
裏山にある廃校となった亀山小学校へと向かっていた。
普通に歩いて行く分には、中々険しい山道だけど、
その理由は、元々亀山小学校は肉体と精神を鍛える為に
小学校と併設して、格闘技の道場も建てられていたからだそうだ。
確かに、普通の子供には少し厳しい坂道かもしれないけど
僕の本業である発掘業は、これ以上に過酷な所で
仕事を行う事もあったので、僕自身はそれほど厳しくは感じなかった。
むしろ、道より今の恰好の方が、色んな意味でずっと厳しいのだけれど……
そう思いつつ、坂道を登り切った先には、
廃校のものとは思えない立派な木造の門があり
そこを、守る様に見張っている子供の姿があった。
あの恰好を見ると、彼らもコクエンの配下なのだろう。
「開門だ! コクエン様に合わせたい子がいるから
はやく門を開けろ!!」
門の前まで行くと、僕を案内してくれた子が、
そんな口上を述べて開門を要求した。
漂う雰囲気から察すると、話に聞いていた通り、
この周辺も、幻想郷やクラスターと同じ、通常空間とは異なる空間みたいだ。
「なんだ、こんな時間に……むっ」
時間が時間なので、門番の子は彼に対して眠たげに
不満そうな顔をしていたけど……
視線を僕の方に向けると、次の瞬間には一瞬で目が『カッ……』と開いていた。
彼の瞳に写っているのは……当然ながら、僕。
それも、フェレットの姿でもなければいつもの服装でもない。
黒のワンピースの上に、ひらひらのエプロンドレスを身に着けて、
頭には、これまたひらひらのヘッドブリムをつけた
まごうことなきメイド少女の格好……。
おまけに、前髪もいつもより下に下げられているので、少しばかり前が見づらい。
コレが、今の僕の恰好だ。
ウサオちゃん喫茶から出発する少し前の事、
知世さんの出したアイデアで盛り上がったみんなに
更衣室まで連行されていくと……
そこには、どういうつもりで用意してあるのか
赤いワンピースに着物などの、店長さんにはどう見ても似合わない
いろんな女物の衣装が集められていた……
「全部、従業員用の衣装なんだけど
どういう訳か、バイトの子が来なくってねぇ……
大丈夫、ちゃんとあなたに似合うサイズもあるから
……さ、始めましょうか」
店長さんはそう言って僕を安心させようとしてきたが……
いや、ちっとも大丈夫じゃないから!!
僕は、そんな抗議の声を上げようとしたけれど
言葉を発する前に周囲の流れに押し流されてしまったため、
その声は誰の耳にも届く事はなかった……。
そしてすぐさま、アリサと店長があれだ、そうじゃない、これなら、どうだろうと
張り合うように、色々な衣装と小道具を選んできて……
「それでしたら……こんな組み合わせはどうでしょうか?」
「あら!」
「いいわね!!」
知世さんは、二人の選んできた衣装に対し、ワンポイントの付け足しを行ってくれていた。
これまでのさくらさんの衣装は、知世さんの手作りとの事だったので
二人の評価を見るに、かなり的確なアドバイスではあったようだけど……
僕にとって、このアドバイスは忌むべきものにも思えた。
なのはは、次々と衣装を持ってくる二人の雰囲気に押され
なにも言えない感じになってしまったようだけど、いざ着替えの段階になると
「ま、待った!!」
そう言って僕の前に割って入ってくれた。
そんななのはを見て、僕はこの暴挙を止めてくれるのかと、淡い期待を抱いたのだけれど……
「それは私がやるの!!」
……と、どこか琴線に触れるものがあったのか、
とてもやる気な表情で、着替えの手伝いをしてくれることになった。
何処を着替えたのかは……この場では秘密とさせてもらうけど
こんな所、なのはの家族に見られたらとんでもない事になるのは間違いない……
もしかして、フェレットの姿でいた時の事
根に持たれてたんだろうか……?
そして、衣装を一通り試したあとでどの衣装を着ていくのかが決まったので
一通りの衣装を身に着けて形を整えた後……
確認の為に鏡を見ると、そこに映った僕の姿は、
まぎれもないメイド少女になってしまっていた……
あんまりと言えばあんまりな自分の姿を見て
僕は思わず、がっくりとひざを折ってしまったけれど……
悲劇は、ここで終わりじゃなかった。
今の僕の姿を見て、なにか思う所があるのか、
アリサ、店長さん、知世さんはみんな頭やあごにに指をあてながら、眉間にしわを寄せて
なにかを考えるようなそぶりを見せた後……
示し合わせたかのように、同じタイミングで一斉に手を打つと
それぞれ店の奥や、カバンの中から何かを探しはじめた。
一体何をやってるのだろうと思ったけれど、
その後、再び僕の所に来た時には……
「どうせやるからには、徹底的にやらなきゃ……」
アリサの手には香水ビンと口紅……
「元がいいから、とっても似合うと思うわ」
店長さんの手にはパウダーとマスカラとビューラー……
「やりすぎはいけませんわ、あくまで自然な感じが一番です」
そして、知世さんの手には櫛とドライヤーがガッチリと握られており
みんな、顔に影がかっためいっぱいの笑顔で、再び僕に近づいて来たのだった。
「や、やめて! そこまでやる必要ないってば!!」
何をされるのか容易に想像できたため、何とか逃れようとしたものの
またもや抵抗むなしく、僕はガッチリと捕らえられてしまい
各々が手にしたアイテムで顔をメークされた結果……
「これが……僕……?」
鏡には、誰この美少女!? と言いたくなるような僕の姿が写っていた。
一瞬、鏡を見ながら頬をつねって、本当に僕なのかを確かめたくらいだ。
「きゃーーーっ! かっわいいーーーーっ!!」
女子のみんなは口々にそんな事を言いながら盛り上がっており
アリサと店長さんは、僕を見てハイタッチを決めていて、
知世さんからは両手を合わせて素敵ですわと目を輝かせていた。
そして、この光景を見守っていたなのはは、呆然とした顔で僕の方に近づいてくると……
「え……!? 本当にユーノ君!?
だって、とってもきれいで……男の子なんだよね?」
困惑しながら、そんな感想を述べてくれた。
……なのは、そこまで言うか。
そりゃ、こっちに来る前から、散々女顔とは言われたけども!!
そもそも、男として認識してくれるんだったら、
普段の無頓着さはいったいどういう事なんだろうか?
そして、こんな姿を見せたくないと
渋る僕の意見など無視するかのように背中を無理矢理押され、
外で待っていたみんなにお披露目すると……
女子の中で唯一、着替えに参加してなかったさくらさんからの言葉は
「ほえ~! かわいい~!」
純粋そうな瞳で、そう言ってくれた。
……うん、更衣室の中でも何度も言われましたけど、
何故かさくらさんのこの声が一番効く気がする……悪い意味で
さらに、いつの間にか戻って得来ていた薄情な男子達は
僕の姿を確認すると全員が頬を赤らめつつ、目をそむけてしまった。
やめれ、そう言う反応……
なんだろう、同性にこういう反応をされると、胸の奥にすっごくもやもやしたものが残る。
「びゅーてほー! まさにぱーへくつ!!」
そして、衣装を提供してくれた店長さんは
なんというか……形容しがたいテンションをしており
その迫力から、目から光線を放っているようにも見えた。
場が三者三様の評価で盛り上がっている中……
「それにしても、これだけかわいく仕上がったんなら……
コクエンの所への潜入は問題なく行きそうだな」
男子の誰かが放った、この一言で……
「あ……」
「そういえば……」
「そーいう目的があったんだっけ
すっかり忘れてたわ……」
店長さんと女子とアリサは、
ようやく本来の目的を思い出してくれたのだった。
……いくらなんでもヒドすぎるよ
思わず、目から涙が流れそうになったけれど……
「申し訳ありませんが、涙は後回しですわ
お化粧が崩れてしまいますから」
知世さんのこの一言に制止され、泣く事も許されなかった。
……そこまで気合いを入れた変装だったけれど、
やはり、僕が女の子に変装するのは無理があったのだろうか?
門番は、何も言わずに
こちらをじーっと見つめてきている……
(もしかして、ばれてる……?)
……よくよく考えたら、こんな露骨すぎる格好をした
メイド服小学生なんている訳がないじゃないか!
「あのー、私に何か……」
もうこうなったらどうにでもなれとやけくそ気味に演技をしながら、
視線を向けてくる門番に話しかけると……
「……可憐だ」
「へっ?」
思わぬ返答に、つい間の抜けた声が出てしまった。
よく見てみると、彼の顔には照れたような赤みが浮かんでる……
こ、こいつまさか……!
「……っと! 失礼……
キミ、名前は……?」
門番が名前を訪ねて来た。
本当は男だから、本名を名乗るわけにもいかないので……
「あ……アリサでぇす」
とっさに偽名を名乗ってごまかす事にした。
アリサの名前を使ったのは、知り合いの中で、
今の見た目と名前に一番無理がなかったからだ。
……決して、あの時逃がしてくれなかった事や
香水と口紅を持ってきたことに対する
ささやかな仕返しとかじゃあない……断じて
「それじゃあ、俺は……アリサちゃんを案内していきますので、これで……」
「……わかった、通ってよし」
そうしてとっさに出した偽名に戸惑う事なく
案内役の子は話を合わせてくれたので、
僕達はすんなりと門を通ることができた。
門の先には、廃校と言うには割としっかりした木造の校舎があったけれど……
ところどころ、つたない修理がしてある所を見ると彼らが修復をしたのかもしれない。
……後者を眺めていると、背中の方から視線を感じたので
確認の為に振り向いてみると、
門番の子が名残惜しそうに見つめている……気がした。
……いや、そんな訳ないよね、
きっと気のせいだろう……そうに決まってる。
「こら見事に化けたもんやなぁ……
小僧ん時のお姫様とは大違いや」
そう思い込んでいると、エプロンのポケットの中から、妙な訛りのついた声が聞こえてきた。
恐らく、今のやり取りをこっそり覗き見ていたのだろう。
「言わないでよ、ケルベロス……
本気でへこむから」
そこに居るのは、ぬいぐるみのような姿のケルベロスだった。
今回潜入するに至って、一人だけでは危険だと心配したさくらさんが、
頼んでくれたおかげで、僕のサポートをしてくれることになったのだ。
ケルベロスにしても、あのお店が苦手そうにしていたのと
何気に、いつの間にか他の子達に面白がって
もみくちゃにされていたので、あの提案は渡りに船だったのかもしれない。
エプロンドレスのポケットからちょこんと顔を出している姿は、まごう事なきぬいぐるみだ。
「……それにしても、ワイは知らんで
あの金髪小娘の名前使うてしもうて……
バレたら、あとで怒られるんとちゃうか?」
「いや、女装してるのに自分の名前を名乗るわけにも
いかないでしょ……」
正体がバレて囲まれる危険と、アリサに今のことがバレて怒られる危険
……どっちも大変だけど、多分アリサの方がマシのはずだ……よね?
「……ええんとちゃうかなぁ
本名でその格好しても、割と違和感なさそうやけど……」
ケルベロスは、そんな事を言うが、絶対そんな事は無いはずだ。
……そもそも、見た目と名前の違和感を
ケルベロスと話すのが、そもそも無理な話なのかもしれない
本当の姿ならばともかく、今の格好だと
どう見たって愛称の『ケロちゃん』の方がお似合いだし……
そんな事を話していると、案内役の子が足を止め目の前の建物を指さした。
「……さて、あそこに見えるのが旧校舎だ。
あそこは幹部格か、コクエン直属の奴しか入れないから
連れ去られた女の子達がいるのはここしかないはずだ。」
目の前に見えた旧校舎は、周辺は堀と高い壁に囲まれており
その中にある建物は、旧校舎どころか……
「旧校舎っていう割に、ずいぶんと立派な……
っていうか、これのどこが校舎なのさ!?」
「……本物に比べると、さすがに小さいけど
どうみてもこれは城やんけ」
そう、そこにあったのは、こちらに来てから見た
こっちの世界の昔を舞台にしたテレビ番組でよく見る
お城……を、小型にしたような建物だった。
「もしかして……これもマギロッドで?」
「そりゃまぁ、魔法の杖だから
これくらいできても、別におかしくないだろ?」
建築に使える魔法は……確かに無い事もないし、
……さくらさんの『
ありえないことはないと思うんだけど……
「俺も、まさかここまでやってるとは思わなかったからなぁ……
中にいる連中も、結構な数がそろってるし、
それに、厄介なのはコクエンだけでもなさそうなんだ。」
「どういう事?」
この人数だけでも結構大変そうなのに、まだ厄介ごとがあるのだろうか……?
「なんでも最近、かなり強い用心棒が来たって話でさ、
俺は見たこと無いから、コクエンと比べてはどうかわからないけど
なんでも、幹部連中が束になってもかなわなかったって話で……」
……早く言ってよ、そういう事は
そう言えば、結局コクエンの使う魔法もわかっていない。
果たして、その用心棒共々、どれだけの強さなのだろうか……?
そうして、僕達が校舎の入り口までたどり着くと、
案内役の子は、入り口の見張り達と話をして、
通行の許可を貰えるように頼み始めた。
彼らもまた、先ほどの門番の子の様に僕に目を向けると……
「コクエン様の趣味にぴったりのメイド少女だ……」
「金髪の外人少女なのもポイント高いぞ……」
「俺も……このみだ……」
―――ゴンッ!
各々が勝手な事を言い始めた挙句
最後の一人に対して、二人が頭をどついていた。
みんな同じ反応をするんだなぁとあきれていると、
今度は、どうやら揉め始めたみたいで……
「だから、俺が案内するんだって!!
見つけてきたのは俺だぞ!!」
「下っ端ごと気が生意気だぞ!!
ここは、俺がエスコートを……」
「いやいや、ここは俺が一緒にデートに……」
―――バキッ!!
「それは違うだろ!!」
……なんか、とんでもない内容が聞こえてきている
って言うか、あれはわざとやってるんじゃないか?
そう思って呆れていると、そんなやり取りを続けている彼らに
案内役の子が、根気よく話を続けてくれた結果……
「な……なんとか、一緒に入る許可を貰ったぞ
さぁ、先に行こうか……」
どうにか、通行許可が出たので、
彼と一緒に校舎の入り口をくぐる事になった。
「あくまで、彼女を連れてくだけだからな! 勘違いするなよ!!」
「ようこそメイド少女! 君を歓迎するぜ!!」
後ろからは、また名残惜しそうな視線と、歓迎の声が聞こえてくる。
さらわれた子達を助けるためには都合がいいんだろうけど……
……正直、あんまり歓迎してほしくない。
こうして、出会う連中に僕が女の子だと思わせたまま
僕達は、さらわれた子達がいるであろう旧校舎……
いや、元旧校舎へと、足を踏み入れたのだった。
さらわれた子達はもちろんだけど、コクエンの情報や、
さっきの話に出てきた助っ人の事も調べなければ……
それにしても、行く先々で受ける視線は
なんとかならないものだろうか……?
投稿がスムーズになってきた
動かしやすいところまで持ってこれたのか、元ネタがあるおかげなのか……
SRPG用シナリオのテスト版の一面も持ってるので
SSとしては、ちと書き方が拙かったりもしますが