知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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マグスギア・フェレット

 

「ユーノ君、大丈夫かな……」

 

 

メイドに扮装したユーノを送り出してから、

なのはがずっとこんな感じで落ち着かないみたい。

 

こんななのは、初めて見たかも……

 

 

すずか達を助けるためとはいえ、

余所の学区にまで、あんな乱暴なことをして来る様な

奴等の本拠地に、ユーノを一人だけで送り込んでしまったのだから

心配するのも当然と言えば当然か……

 

……それに、すっかり忘れてたけど、なのはとは

最近険悪な感じになっていたから、

ここしばらくろくに口きいてなかったんだっけ

 

……となれば、一番身近だったのは誰なのか

ハッキリ言って、考えるまでもない。

 

 

一つ屋根の下にどころか、フェレットの姿だったとは言え、

同じ部屋で暮らしてたわけだし……

 

思う所がないわけじゃないけれど

ここしばらくなのはの支えになっていたのはアイツのはずだ

 

 

それを、悪ノリして変装させて送り出しちゃったけど

冷静に考えたら、とんでもないことをしたんじゃないだろうか……?

 

 

万が一にも、変装がバレたのなら

いったい、どんなひどい目にあわされるか……

 

 

「その辺りは、大丈夫だと思いますわ。

 ユーノ君はしっかりしていますし、

 今はケロちゃんも一緒なのですから。」

 

すると、なのはだけでなく、私の考えも見透かしたように

知世さんは落ち着かせるかのようにそう言ってくれた。

 

「まぁ、確かにあんなライオンが一緒なら

 あいつらもうかつに手は出せないと思いますけど……

 でも、今はぬいぐるみの姿なのよね……」

 

大きな姿の時は、ものすごく強そうだったけれど……

 

小さい時はぬいぐるみみたいな見た目な上に

パフェを食べて渋い顔をしたり、ここの女子にもみくちゃにされたりしてたりで

そこを見てると、今一つ信用できない感じなのよね……

 

 

「ケロちゃんだけではありませんわ

 ユーノ君は自分の事を低く評価している節が見えますけど……

 ユーノ君の実力は、なのはちゃんがよくご存じなのでは?」

 

「え……?」

 

 

知世さんに話をふられたなのはが、驚いた顔をした。

 

アイツ、確かジュエルシードってやつを回収してる最中に

怪我をしてフェレットの姿になって、なのはに拾われて

それ以降、なのはに力を貸してもらってるんだったっけ……

 

 

「魔法の事については、あんまり詳しく知らないけど

 ユーノは、あの不良達相手に、なんというか……

 なのはやさくらさんと比べると、戦い方がかなり地味だった気がするんだけど……」

 

なのはは派手に砲撃や光の弾をあてていたし、

さくらさんは……もう、反則としか言いようがないような

相手にもなってない状態で簡単に制圧してしまった。

 

それに対して、ユーノの攻撃は確実ではあったけれど

見た目の派手さもなく、ひたすら地味な感じで

成果も、三人の中で一番低かったはず……

 

 

「ユーノ君、攻撃魔法が得意でないとおっしゃっていましたが

 その代わり、いつもなのはちゃんが危なくないように

 何かがあっても守れる位置をとっていましたわ。

 なのはちゃん、見ていると大きな魔法を使った直後は

 結構、無防備になるタイミングがありますから……」

 

 

「え!? ほんとですか……?

 気が付かなかった……」

 

 

そういわれれば、あの時も相手の攻撃をユーノが守り通した直後に

なのはが一撃をお見舞いする感じだった覚えがある。

 

あの魔法、『魔法』と言うより、『魔砲』って感じの見た目だし、

使った方も、当たったと思ったら油断してしまうのかもしれない。

 

ゲームとかでも、よく覚えのある感覚だし……

止めきれなければ、すぐさま後ろを取られてしまうイメージもある。

 

「それに、もしユーノ君が弱虫で意気地がなければ、

 危険を冒してまで、ジュエルシードを回収しに

 この世界までやってくるはずがありませんでしょう?」

 

「あ……」

 

そう言われると……確かに、普通なら尻込みするわよね

たった一人、知り合いもいない中ジュエルシードを回収しに来るなんて

 

 

今は色々あって、なのはに拾われて今に至るわけだけど

もし出会わなかったら……ジュエルシード回収のために

今も一人で戦い続けていたのだろうか……?

 

アイツ、なんでそこまでして……

 

「……ジュエルシードと言えば……

 この事件、あの子もかかわってるんでしょうか?」

 

 

「あの子って……なのはのライバル魔法少女のこと?」

 

私は、その子にはあった事はないけれど、話によれば魔法の腕はなのはよりも上で、さくらさんが居なかったら、危ない時もあったとはなのはの談だ。

 

ユーノも、使う魔法とデバイスをみて、同じ世界から来たという推測を立てていたけれど……

 

そのデバイスとよく似たマギロッドとかいう魔法の杖、もしかしてこっちの方にも関わっていたりするのだろうか?

 

黄昏の魔法使いは、大人の女性との事だったので、イコールライバル魔法少女ではなさそうだけど……

 

「そう言えば、アンタたちはジュエルシードのこと知ってる?

 これくらいの宝石みたいな見た目をしてるそうなんだけど……」

 

ふと、魔法の話題で関連があるんじゃないかと思いつき

何の気なしに、周囲に居る子達にジュエルシードの事を尋ねると……

 

「それって……中に数字が入った青い宝石?」

 

「知ってるの!?」

 

思い当たる節があったらしく、そのものズバリな答えを返してくると

なのはが食いつくように身を乗り出した。

 

「知ってるも何も……少し前から、コクエン達が血眼になって集めてたぜ。

 ジュエルシード狩りとか言って、見つけた奴から無理矢理巻き上げたとか言う話も聞いたし……」

 

 

それを聞いて、私となのははお互い息を呑みつつ顔を見合わせた。

こんな所にも影響があったのにも驚いたが、もっと驚いたのはジュエルシード狩りと言う名前……

 

正式な名前知っていなければ名付けられない名前だからだ。

 

それを、誰があの不良達に教えたのか……

その答えは、もはや推測するまでもなかった……。

 

 

―――

 

 

潜入早々、門番や見張りの子達にうれしくない歓迎を受けて、

割と本拠地の旧校舎に入り込んだ僕は、案内役の子と

後者内部を手分けして探す事になったので、別行動をとった。

 

お互い、立場が違うからこの方が効率よく調べられると思うけど……

……でも、何故か彼が別れ際に、

ため息をつきながら名残惜しそうにしていたのは……何故だろう?

 

正直、さっきからずっと首筋のぞわぞわがとまらない……

 

「……ユーノ、風邪ひいたんか?

 震えがこっちまで届いとるで」

 

その悪寒がケルベロスまで伝わったらしく、

ポケットの中から、僕の身体の事を心配する言葉をかけてくれた。。

 

風邪を引いたわけではないと思うけど……

ここまで来て、調査をやめるわけにもいかないので

なんとかその悪寒を抑え込んでから、僕は内部の調査を開始する。

 

まずは校舎の1階から……

ここはどの教室も、コクエンの部下と思われる

不良達のたまり場として使われていた。

 

お菓子やパンの袋と思われるゴミが散らかってはいるものの

それなりに掃除はしているのか、

建物自体は、それほど汚れた印象はない。

 

そんな所に、こんな格好で探索していたら、

当然の事ながら、あちらこちらで目立ってしまう。

 

……事実、教室の前を通りかかっただけで、中が騒がしくなっていた

 

 

ここで不審に思われたくはないので

情報収集を円滑に行うためにと、出発前に知世さんがくれた

手提げ袋の中身を利用することにした。

 

中に入っているのは、店長さんから借りたトレイと

ぎっしりと詰まっているお菓子……

 

 

エプロンのポケットの中にいるケルベロスが、

ぬいぐるみのふりをしつつも、物ほしそうな目で

トレイの上に乗せたお菓子を見ているけど……今はダメだ。

 

知世さん曰く、これを「差し入れに来ました」といって渡せば

調査もスムーズにいくと言っていたけれど……

 

「これ……俺に!?」

 

「メイド少女からの差し入れ……うれしいぜ……」

 

「ありがとう!! 大切にするぜ」

 

 

……ハッキリ言って、想像以上に効果ありすぎた。

みんな、我先にお盆の上のお菓子に手を伸ばして来た上に

中には、涙を流して感激する子まで……

 

 

そんな彼らの行動に内心あきれながらも

感情を表に出さず笑顔で色々と質問してみると、

秘密なんてどこへやら、次々と投げかけた質問に答えてくれた。

 

 

「コクエン様の居場所? 2階奥の校長室をつかってるぜ」

 

 

「さらってきた女の子達も、さらに奥の部屋にいるはずだな」

 

 

「実はさ、東側の壁に抜け穴があって

 普段は草で隠してあるけど、外に出るときとか使ってるんだ

 あそこから侵入されたら大変だぜ。」

 

 

中には、聞いてもいない有用な情報まで……

うまくいきすぎて、さすがに罪悪感がわいてくる。

 

 

……これで正体ばれたら

一体どんなヒドイ目にあわされる事やら……

 

 

そうやって、1階の子からは一通り情報を集め終えたので

さらわれた子達の居るという、校長室周辺を調べる為に教室を出ると、

誰も見ていなくなったタイミングを見計らって、ケルベロスが僕に話しかけてきた。

 

 

「気づかれへんもんやなぁ……

 そういや今更やけど、なのはに男の子ちゅうんが

 バレたんは大丈夫やったんか?」

 

「それが、まったく……

 これまでとあんまり変わりがないんだよね……」

 

 

寛大なのか、同情なのか、そういうものだと思われてるのか、

僕の本当の姿を知られた後も、なのはの態度に変化はそれほど見られなかった。

 

まぁ、これに関しては僕の方も人の事は言えないけれど……

本当に、なのはは僕の事をどうおもっているのだろう?

 

これまでは、行為に甘えてずるずると居ついてしまったけれど……

 

「あ、いたいた

 おーい、そこのメイドちゃん!」

 

そんなちょっとした悩みについて考えていると

廊下の先から声がしたので、そちらに振りむく。

 

すると、コクエンの配下と思われる不良がこちらに駆けて来たので

ケルベロスは、またもやぬいぐるみのふりをしてしまった。

 

なんだか、こっちを探しているようだけれど

もしかして、正体がバレたのか……?

 

 

「はぁ……はぁ……突然呼び止めてごめん

 そのお菓子の中に、飴とかってないかな?

 できれば、棒付きのでかいヤツ」

 

どうやら、そう言う訳ではなさそうだった。

 

それにしても……飴? 

そんなものを求めて、わざわざ僕の事を探していたのだろうか……?

ちょっと様子がおかしいので、詳しい話を聞いてみると……

 

「ウチの用心棒については知ってる?

 ソイツ、飴が大好きで、舐めてる時は基本機嫌がいいんだけど

 今、ちょっと切らしちゃって、イライラしてるんだ……」

 

用心棒の話は、案内役の子に聞いたばかりだが、

彼の不安そうな感じを見るに、かなりの実力者なのは間違いなさそうだ。

 

このまま放っておくと厄介な事になりそうだったので、

手提げ袋の中を確認してみると、中には棒付きの物はなかったけれど

球状の大きな飴玉がいくつか残っていた。

 

 

「こんなのでよければ、ありますけど……」

 

 

そのうちのいくつかを手に持って差し出すと

彼は、ちょっと悩んだような表情をして……

 

 

「あー、飴玉だけか……

 でも、探してくる間なだめるくらいならなんとかなるかな……

 キミ、悪いんだけど2階の西側にいるヤツに

 その飴を持って行ってくれないかな?」

 

その用心棒に飴を持っていくように頼んできた。

 

用心棒がどんな奴なのか、正直気になってはいたし、

直接会って、どんな奴かを確認しておいた方がいいかもしれない。

 

そう考えて、彼の頼みを了承すると、胸をなでおろしてほっとしてから

こうしちゃいられないとばかりに、彼は再び駆け出して行った。

 

その用心棒、よほど怖いヤツなのだろうか……

 

ふとポケットの方に目をやると、

目の前でお菓子を人にあげてばっかりなのが気に入らないのか、

ケルベロスは、すっかり恨めしげな顔をしていた。

 

周囲に誰もいないのを確認してから、

こちらを向いて、なにかを言いたげな視線で見つめているが……

 

今は情報収集の方が先なので、ケルベロスにはもう少し我慢して貰おう。

 

そう思って、僕が2階西にあった教室に入ると……

 

そこでは、明らかに他の不良と異なる雰囲気をしている男が

何やら細かい作業をしているところだった。

 

「ん? 誰だお前

 見かけない奴だな……」

 

来ている服は上下ともに白い学ランと呼ばれるタイプ。

どこかの学校の制服なのだろうか? 高級そうな生地の整った服装をしている。

髪型は、黒髪のいわゆる坊ちゃんカットをしており、声も声変わり前の少年のものだ。

 

ここまでの情報ならば、なぜか不良達の中に囲まれた

どこかの高級そうな学校に通ってそうな見た目なんだけど……

 

問題なのは、彼の体格……

身長は桃矢さんと同じくらいに高く、

横幅も少し太っている感はあるけれど、印象としてはガッチリとした感じ。

 

おまけに、剃っているのか薄いのか、眉毛が生えている用には見えない。

 

声を聞いて居なかったら、高校生どころか、

大人だと間違えんばかりの巨躯の持ち主だ。

 

 

「あの……この部屋に飴を持って行ってくれと頼まれて持ってきました」

 

 

「おお、そうか!

 ……ん~、棒付きのはないのかよ……」

 

 

彼はそう言うとやや不満げな顔で、がっちりとした指で飴玉をつまむ

確かに、この体格だとこのくらいの飴じゃ満足できないのかもしれない。

 

 

「大きいのは、今買いに行っているそうなので

 もう少ししたら、届くと思います。」

 

 

「ん~……ならいいか

 ありがとよ」

 

 

そういって、口の中に飴を一つ放り込むと、残りを脇に置いてから、

落ち着いた感じで椅子に座り、なにやら細かい作業を再開した。

 

 

(……これでホンマに小学生かいな)

 

 

ケルベロスのあきれ顔からは、そんな言葉が読み取れたが、

僕はそれよりも、彼の手先周辺にあるものに目が行っていた。

 

 

あのいじってるのって、マギロッド……?

 

中身をいじっているってことは、ある程度構造を知っているのだろう。

 

もしかしたら、出所やバラまいていたフードの女の事についても、

何かを知っているのかもしれない。

 

 

さらわれた子達の事も大事だけれど、

彼からも、何とかして情報を手に入れなければ……

 

 

「あの……ちょっと話を聞かせていただきたいんですけど……」

 

 

僕は、彼の勘気を被らないように気を付けながら、

それとなく情報を聞き出してみることにしたのだった。

 

 


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