知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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ドキドキ・メイド少女

 

 

まずいことになっちゃったかも……

 

 

亀山小学校に潜入したユーノ君を心配してる途中、

アリサちゃんが、ロッドマイスターの子達にジュエルシードについて知らないかと尋ねた所

コクエン君達が、少し前から集めているという答えが返ってきた。

 

詳しく話を聞いてみたところ、あの子達は宝石の事を

間違いなくジュエルシートと呼んでいたという……

 

 

ジュエルシードの名前を知っているのは、ユーノ君から教えてもらった私達の他は

私達とジュエルシードを奪い合っているフェイトちゃんしかいないはずだ。

 

 

「これは……もう確定ですわね」

 

 

どう考えても、あの子とコクエン君達との間に繋がりがあるとしか思えない……

つまり、場合によっては私達の情報を知っているかもしれないという事。

 

もしも、ユーノ君の正体がばれたらどんな目にあわされるのか……

 

 

……なんとかして、この情報を伝えないと!

 

 

だけど、携帯電話は繋がらないし

念話も、相手の本拠地で使用すると、傍受される可能性があるそうなので

緊急時以外の使用は固く禁じられている。

 

 

知世さんの持っている幻想鏡も、向こう側の力が乱れているせいで

スキマをつなげる事は出来ないそう。

 

 

潜入したユーノ君達の他にも、亀山小学校を見張っているという子達から

それっぽい騒ぎの連絡がないという事は

まだ何も起こってないと言う事だけど……

 

 

何もできないことが不安で、非常にもどかしくなる……

 

 

―――おーい、なのは、聞こえるかぁ~?

 

 

その時、頭の中に少し変わった関西弁が響いてきた。

 

 

「! ケロちゃん! どこから……!?」

 

 

―――小学校を出た西の辺りの林や

   ここ抜け道があってな、ここを使うたら

   門番に見つからず、中に入ることができそうやで

 

念話で、ケロちゃんの自慢げそうなセリフが頭の中に響いてくる、

どうやら、大変な事が起こったわけではなさそうだ。

 

「ふぅ……よかった。

 それより、ケロちゃん、大変だよ!

 ジュエルシードについてだけど……」

 

 

ほっと一息をついてから、先ほどの話について

すぐさまケロちゃんに伝えようとしたのだけれど……

 

 

―――よろこべ、連れてかれた女の子達の居場所が分かったで!

   なのはの言ってた友達のすずかや、さくらの友達の奈緒子も無事や

   あとで、二人に伝えといてんか?

 

 

私の伝えたいことを遮るように、ケロちゃんは潜入の戦果を伝えてきた。

 

 

すずかちゃんが無事だったことはうれしいけど、

こっちの声もちゃんと聞いてほしいの……

 

 

―――とりあえず、ユーノから見取り図やその他のメモを預かっとる、

   これを使うたら、捕まってる女の子達は助け出せるはずや。

 

 

どうやら、潜入は成功したみたいだ。

これなら、すぐにさらわれた子を助け出せそう……

 

……ん? ちょっと待って?

ユーノ君から預かってるって……

 

 

「ちょっと待って、ケロちゃん!

 ユーノ君、今そこにいないの!?」

 

 

―――女の子達を集めとる部屋の監視は厳重やから、

   一人でフェレットに変身出来んのでは、あの部屋から抜け出せんねや。

   助けが来るまでは、あそこで待っててもらうしかないやろな。

 

 

……という事は、ユーノ君は今、敵陣のど真ん中で一人っきり!?

 

 

どうしよう……友枝町を襲ってきた子達の中には

空を飛んでいた子はいなかったから、

飛べば何とか逃げ切れるかもしれないけど……

 

もし、屋内で捕まっちゃったら……

 

「なのは、どうしたのよ?

 あのぬいぐるみ、なんだって?」

 

 

念話が聞こえていないアリサちゃんの声をよそに、

私の心の中が、不安でいっぱいになっていく……

 

その時、部屋の入り口のドアが開けて入ってきた子達の話し声が

何故かハッキリと私の耳に聞こえてきて……

 

 

 

「あの金髪少女……前々からコクエンの所に

 出入りしてる子だよなぁ……」

 

 

「ああ、やたらとでかい犬を連れてな

 あいつの配下ってわけじゃなさそうだけど……」

 

その、あまりにも覚えがある特徴を聞いた瞬間

私の心の中で、何かが大きく動いたのを感じたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……どうしよう、まさしく絶体絶命のピンチだ

 

 

 

 

ケルベロスを送り出した直後、コクエンが顔を出して、

これから来る客のために、給仕役をやって欲しいと頼んできた。

 

 

怪しまれないようにするのと、ゲンのような協力者が他にもいるのかを確認する為に、

その頼みを了承して、お茶とお茶菓子の用意をして応接室、

コクエンが言っていた部屋へ向かうと……

 

 

……そこで僕は、とんでもないものを目にしてしまった。

 

 

「やぁ、アリサちゃんありがとう!

 フェイトちゃん、彼女が今日から働いてくれてる

 メイドのアリサちゃん」

 

「どうも……」

 

 

なんとコクエンの客は、いつも僕達とジュエルシードを奪い合っている

魔導師・フェイトと、彼女の使い魔だったのだ。

 

 

まさかの来客に、表情も体も一瞬硬直してしまう。

 

はたから見れば、この対応は悪手だったかもしれないけれど、

トレイを落とさなかっただけでも、大したものだったと思う。

 

 

「……アリサちゃん、どうかした?」

 

 

一瞬動きの止まった僕に対して、コクエンは心配そうに声をかけてきてくれた。

 

 

あまりの状況に、頭の中が真っ白になりそうだったけど、

すんでの所で踏みとどまって、自然なメイド少女のあり方を装う。

 

 

「い、いえ……ずいぶんここにいる他の方とは違ったタイプの子だなぁって……

 彼女は、貴賓室にいる子とは違うんですか?」

 

 

「いてくれたらいいなぁとは思ってるんだけど……

 そこらへん、色々な事情があるわけよ。

 実際、あのデカブツの代わりにいてくれたらどんだけうれしいか……」

 

ゲンに対する不満をあらわにするコクエン。

どうも、コクエンはゲンの事があまり好きじゃないみたいだ。

あの時も、やたら敵視してるよな口ぶりだったし……

 

 

今の所フェイトは、こちらの事を気にしてないみたいだけれど……

 

 

何度も顔を合わせてるだけあって、このままこの場にいたら、さすがに正体がバレてしまうだろう。

さっさとお茶を出して、おいとまを……

 

 

「あ、悪いんだけど彼女がいる間、お茶を入れる役をやってもらえるかな?

 こういう場にメイドがいるって、とても華やかになるし」

 

 

……することは出来なかった。

ばれてない分、コクエンの頼みは余計に性質が悪く感じる……

 

 

とにかく少しでもばれないように、少し離れた位置で、

バレないように、二人のやり取りを見守る事にした。

 

 

正直、不安で心臓がバクバクなっている……

僕はこの重圧に耐えられるのだろうか……

 

 

 

「……さて、フェイトちゃんに頼まれた宝石、

 これの事でよかったんだよな?」

 

僕の内心など知らずに、コクエンはそう言って、

机の下から金属製の大きなカバンを取り出した。

 

小学生には似つかわしくない代物だが、

いったいどうやって手に入れたのか……?

 

 

コクエンが、そのままもったいぶるように箱を開けると

その中に入っていたのは……

 

 

(……!?)

 

 

青い本体の中に、赤い文字の入った宝石……

間違いなく、それは僕がこの世界に来るになった原因・ジュエルシードだった。

それも、3つも……まさか、コクエンも集めていたなんて……

 

 

「うん、確かに……

 回収するときになにかあった?」

 

 

「なんか、化け物みたいなやつが持ってたとも聞いたけど、

 おおむね、問題なく回収できたと思うぜ。

 なにせ、結構な数の兵隊をそろえてるからな!」

 

 

どうやら、コクエンは配下の数にものを言わせて、ジュエルシードを集めたらしい、

無法者じみた勢力拡大は、想像以上に厄介な手段だったようだ。

 

 

なんとかして取り返したいけど、この状況では動くことはできない。

僕は、奥歯をかみしめながら、彼女の手にジュエルシードが渡るのを

黙ってみていることしかできなかった……

 

 

ただ、あまりにその光景を見つめすぎたのか、

彼女もコクエンも、こちらに視線を向けてきたので

僕は慌てて、下の方を向く……

 

しまった、あんまり見つめすぎたか……

不審に思われたかと心配する僕に、コクエンは……

 

「アリサちゃん……もしかして、この宝石欲しかったりする?

 悪いね、こっちはフェイトちゃんに、前々から頼まれてたものだから

 おねだりされても、そうホイホイ渡すわけにはいかなくってさぁ……

 何か欲しいのがあったら、また今度用意するから……ゴメンね」

 

 

宝石に目がくらんだと勘違いしたらしく、僕に対してそんな事を言ってきた。

 

……欲しいのは確かだけれど、こいつにおねだりする気は一切ない。

それよりも問題なのはフェイトの視線だ……

 

 

何度も顔を合わせてるだけあって、

流石にこれだけ目を合わせたのでは、流石にばれたか……?

 

 

「……ごめんね、これだけはどうしても渡せないの。」

 

 

だけど彼女も、僕の不安など気づきもせず、そう言って謝られてしまった。

あれ!? ひょっとして僕のこと全然気づいてない!?

 

 

ちょっとは疑われるの覚悟したけれど、こうも気づかれないなんて……

 

 

これは、変装があまりに効きすぎているのか、

それとも、いつもの勝負で僕の印象がないのか……

 

 

……考えてみたら、確かにいつものメンバーの中で僕の印象は一番薄いのかも……

いや、むしろ知世さんを含むみんながインパクトがありすぎる気が……

 

 

そんな自虐気味な事を考えながら、フェイトの横にいる使い魔の方へと視線を向けた。

 

 

2回目の遭遇以降、フェイトを守る様に一緒に居るアイツは、

あの姿からして、あの使い魔は犬かオオカミのはずだ。

 

 

もし、姿で二人が気付かなかったとしても、

匂いで気づかれてしまいそうだけれども、

アイツも、こちらに対してリアクションをかけてくる様子はない。

 

 

……と言うか、さっきからずっと僕とは反対方向を向いて

鼻の辺りを抑えているような……?

 

どうも今は、フェイトと念話で話しているみたいで、

今度こそバレたのかと覚悟していたけど、

念話が終わったタイミングで、フェイトは申し訳なさそうにこちらを向くと……

 

「……ごめん、アルフがあなたのつけている香水が苦手みたい。

 悪いけど、そろそろ席を外してもらえないかな……」

 

 

そう言って、僕に退室するよう頼んできた。

 

 

あ、香水のせいで匂いがわからなかったのか……

女装の際の悪乗りが過熱したおかげで、ここまでされたけれど

まさか、そのおかげで助かるとは思わなかった。

 

 

「えー、そうかなぁ……

 俺はいい匂いだと思うけど……

 ……悪いな、アリサちゃん、そう言う訳だから

 貴賓室の方に戻っててくれないか?」

 

 

コクエンはそう言って僕に退室を促してきた。

 

だいぶ、名残惜しそうにしていたけれど、

無理を言って引き留める気は無さそうなので、

僕は、そのコクエンのややワガママな要望に

二つ返事で了承して、無事バレることなく応接室から抜け出す事が出来たのだ。

 

 

どっと疲れが襲ってくるような感じがしたのは、

想定外の危機的状況から、無事に抜け出せたことに対する安堵からか……?

 

敵とはいえ、さんざん顔を合わせているにもかかわらず

女装のせいで気づかれなかったことに対する

もやもやとした納得のいかなさからか……?

 

目の前にあったのに回収できなかった

ジュエルシードについてか……?

 

……それとも、こっちの気も知らないで

事あるごとににやけた視線を送ってくるコクエンのせいか……?

 

 

……悩むのは後にしよう、そろそろケルベロスも皆に合流しただろうし

そろそろ、みんなを出迎える準備をしなければ。

 

 

……そして、気持ちを切り替える為に、周囲に人がいないのを確認してから

大きく深呼吸をして、大きく息を吐きだした直後……

 

 

「むぐっ……!?」

 

 

周囲に人の気配はなかったはずなのに

僕はどこから出てきた手に、口を押さえられてしまい……

 

 

そのまま、手の伸びてきた方向にある部屋へと

引きずり込まれてしまったのだった……

 

 

 

 


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