知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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ユーノ嬢変化?

 

 

 

「ちょっと待ったぁッ!!」

 

 

脱出まであと僅かという所で、僕達の後ろから、僕達を引き留めるかのような大きな叫び声が響いた。

 

 

声の主は、つい先ほどまで僕と行動を共にしていた、今回の事件の首魁・宵闇コクエン。

その隣には、バリアジャケットを展開したフェイトと使い魔のアルフ、

そして逆の隣には、キバのついたようなナックルを装着した彼らの用心棒、近藤ゲンが臨戦態勢を取っている……。

 

 

「ふーん……さらってきた奴等を助け出すために

 アイツらは、騒ぎを起こしたって事か……

 まぁ、どうでもいいけどな……」

 

 

ゲンが、少し感心しながらもやや冷めた表情でそうつぶやく。

作戦によれば、喫茶店に居たレジスタンスの子達と、以前なのはと戦った氷の妖精チルノが

正面入り口付近で騒ぎを起こし、彼らを引き付けるはずだったが……

 

……けど、こうして彼らがここに居る以上、陽動は、既に制圧された後なのだろう……

せめて、もう少しだけ時間があれば……

 

 

「黒い衣装の金髪魔法少女……

 さっき見た時、背中側だったから顔が見えなかったけど……

 なのは、アイツがあんたのライバル魔法少女なのね……?」

 

 

「うん……ユーノ君と同じ世界の出身みたいだけど

 名前以外の事は全然わからなくって……」

 

 

そんな彼らを見て、思う事があるらしく、

アリサはフェイトについてなのはに尋ねていた。

 

考えてみれば、フェイトはなのはと一番因縁がある相手で、アリサとは、今回が初対面だ……

なのはの親友のアリサが、気にするのは当然だ。

 

「まぁ、見た目的に対照的って気はするわね。

 色とか、露出度とか……まぁ、あっちはいいとして……」

 

 

そう言って、アリサは別の方向に視線を移すと……

ビシッ!! という音が鳴りそうな勢いで、指を突き出し……

 

 

「あんた達……子供のケンカに高校生混ぜてくるってどういう神経してんのよ!?

 悪党のプライドってもんは無いの!? プライドは!?」

 

大声で、納得いかないようにそうまくしたて始めた。

アリサの指さした先に居たのは……

 

 

「……?」

 

言うまでもなく、超巨体のゲンだ……。

 

本人は状況が呑み込めていないらしく、鳩が豆鉄砲で撃たれたような顔で

無言で『オレの事か?』と言わんばかりに、自分の顔を指をさす。

 

そんなゲンに、アリサは一切躊躇せず……

 

 

「アンタ以外に誰が居るってのよ!?

 周りの連中と一回りどころか、二回りも、三回りもスケールが違ってんじゃない!!」

 

マシンガンの様に、次々と文句を口に出し続けた。

 

 

……確かに、見た目だけならばゲンは、並の大人以上の大きさだ。

桃矢さんと比べても、身長は同じくらいだろうけれど、

どう見ても腕回り、足回り、胴回りが僕達とは比較にならないくらい太い。

 

もう少しラフな格好だったなら、

アリサはもっとひどい言葉を投げかけていたかも……

 

「あの……ちょっといいかな……?」

 

そんなアリサのペースに耐え切れなくなったのか、

フェイトがアリサの言葉をさえぎった。

 

……彼女がこんな態度を取ったのは、ちょっと意外かも。

 

「……なによ?」

 

「ゲンは……確かに、私達の中では一番年上だけど……

 私とは、2つしか違わないから……」

 

 

アリサの発言に反論した、やや抑揚のないフェイトのセリフ……

 

すぐに理解が出来なかったのか、今度はアリサが鳩に豆鉄砲を喰らったような顔になってしまった

 

……うん、確かに信じられないけど、さっき聞いた話によれば……

 

 

「アリサ、多分それ本当だと思う。

 声変わりしているような声色じゃないし、さっき話を聞いた時も

 小学五年生だって、ハッキリ言ってたから……」

 

 

続けて僕がそう言うと、アリサをはじめ、こちら側に居るみんなの目が点になってしまった。

……いや、見た目だけじゃ確かにわかりにくいけど……

 

「ちょ、ちょい待ちぃ! じゃあなにか!?

 あの図体でウチよりも年下なんか!?」

 

 

「ほえ、年下……?」

 

 

「見た目よりは、声が高いとは思ってたけど……」

 

 

「ずいぶんと、発育のよろしい方なのですわね」

 

キャシーさん、さくらさん、奈緒子さん、知世さん、驚き方はそれぞれだけど、

最年長の皆は、相手が年下だという事実に特に驚いている。

 

 

だけど、問題のゲンはと言えば、僕達の事など知らぬとばかり、

どこから取り出したのか、ゴキゲンそうな顔で棒付きのキャンティーを舐めはじめていた。

 

 

あの図体で、ああやって無邪気に飴を舐めるところを見ていると、

ミスマッチさが、逆に怖く見えてくる……。

 

 

……そう言えば、先ほどの『ちょっと待った』からコクエンの……

いや、コクエンに加えて、アイツの部下のモヒカン達が声も聞こえてこない。

 

 

こっちの混乱に乗じて何かを企んでいると思い、彼らの様子を改めて確認すると……

 

そこには、ぼうっとした顔で、バカ……いや、間抜け面をした奴らが、

口を半開きにして、さくらさんへと視線を集中させていて……

 

 

「……ほえ?」

 

 

 

「「「「「はうっ!?」」」」」

 

 

その視線に気づいたさくらさんが、首をかしげると、

全員が変な声を出しながら、胸を押さえて変なポーズをとりはじめたのだ。

 

 

こいつら、まさか……

 

 

 

「……コクエン?」

 

 

「はっ!? いや、これは違うんだ!!」

 

 

様子の可笑しさに気付いたフェイトに声をかけられると、

コクエンは慌てながら、何とか取り繕うとしたけれど……

いったい、何が違うというのか。

 

 

「ふぅん……さくらさんに見とれてたんだ。」

 

「あ……アリサちゃん!? そ、そのこれは深いわけが……」

 

更にボクの発言に反応したコクエンは、両手を上下に上げ下げしながら、さらに言い訳をし始めた。

 

 

……この状況で、どんな深いわけがあるのか。

 

どう考えてもその場しのぎの言い訳でしかないけれど、今の僕にとって、そんな事はどうでもいい。

 

 

今のコクエンの声を聞いて、こちらを睨みつけ始めたアリサの方がよっぽど問題だ。

 

 

「ユーノ! アンタのせいでアイツ! アタシの名前をアンタのだって勘違いしたままじゃないの!!

 逃げる前に、ちゃんと誤解解いておきなさいよ!!」

 

 

……先ほどからはない気を荒くしていたアリサだが、ついに限界が来たのか、

そのままの勢いで、ついに僕の正体を奴等の面前でばらされてしまった。

 

 

それも、メイド服を着たままの格好で……

 

「ユーノって……えっ!?」

 

 

フェイトは、これまでの争奪戦で流石に名前を憶えていたらしく

アリサから僕の名前を聞いた後、数秒ほどこちらを凝視すると、

僕の正体に完全に気付いたようで、彼女にしては珍しく口を手で押さえながら、目を見開いての驚いた表情をして……

 

 

アルフに至っては、目を丸くしながら、顎が地面につくくらいに口を大きく広げてしまっている。

 

 

まぁ、役割はしっかりと果せたわけだからもう正体がバレた所でどうという事は無いけど、

今後、フェイト達と顔を合わせるたびに少しだけ気恥ずかしくなるのは少し悩ましい……。

 

 

そして、興味ないとばかりに、そっぽ向きながら飴をなめ続けているゲンは問題ないとして……

 

 

コクエンやコクエンの部下は、一体どんな反応をする事か……。

まぁ、それももうどうでもいい、むしろ今後付きまとわれないで済む分スッキリする。

 

そう思って、コクエン達の方に目を向けると……

 

 

「えーっと、そこの勝気なお嬢様のキミの名前がアリサちゃんで、

 あっちのけなげなメイド服の本当の名前が……ユーノ?」

 

 

「そうよ、あんましいい気はしないから、二度と間違えないで!!」

 

 

よほど自分の名前が使われるのが嫌だったのか、

アリサはコクエンに念を押して、名前を訂正していた。

 

……ちょっとやりすぎな気もするけれど、流石にあそこまでやられたら間違えないはず……

 

 

「……わかった! ユーノ()()()

 

「ユーノ()()()、友達を助ける為に、わざわざ偽名を使って潜り込んでくるなんて……」

 

「なんてけなげな子なんだ……! ユーノ()()()

 

 

……これっぽっちもわかってなかった。

 

 

名前の勘違いは是正されたけれど、一番肝心な情報を勘違いされたまま……

 

配下共々、そろいもそろって僕の名前に()()()づけして読んでいる……

 

ああもう! そういうのは、ケルベロスだけで十分だから!!

 

アリサが、それ見た事かと言わんばかりのどや顔をしているのが妙に腹立たしい……

 

彼らの勘違いに思わず脱力して、地面に両手と両ひざをつく。

するとその時、奈緒子さんが駆け寄って来て……

 

 

「……あ、わかった!

 この紐を先に解かないと脱げないんだよ!」

 

僕がポーズを変えた事で、これまで脱げなかったメイド服の脱げない原因を見つけてくれた。

……こうなれば、もうこっちのものだ

 

「! 奈緒子さん! すいません!!

 今すぐそれを解いてください!!」

 

「うん、これをこうすれば……」

 

 

「「え……ちょっと、なにを!?」」

 

僕の頼みに応えて、奈緒子さんが紐を引いて結び目をほどいてくれた。

 

 

「よし! これで……!」

 

 

そのまま、僕は一切の躊躇なくメイド服を脱ぎ去ると同時に、僕は即刻バリアジャケットを展開しいつもの恰好へと戻った。

 

コクエン達はと言えば、何を勘違いしているのか両手で顔を押さえていたのだが……

指のスキマからばっちり見ているのは、こちら側からもハッキリと確認できた。

 

 

「え……!? 早着替え……いや、変身!?」

 

「ユーノちゃん……!?」

 

着替え終わった後、少しがっくりしたような顔で、奴等は僕を見ていたけれど

彼らが何を思おうが、僕にはもう知った事じゃない、これでようやく、いつも通りに……

 

 

「ボーイッシュな恰好もいいね!!」

 

「生足短パン萌え!!」

 

 

……出来なかった、こいつらまだ僕の正体に気付いていないのか!?

思わず頭痛がしてしまい、僕は頭に手をあてた。

 

 

流石のフェイトも、コクエン達に対し、あきれた顔をしており、

ゲンは気づいているのか気づいていないのか、引き続き知らないとばかりに

新しい飴をポケットから取り出し、フィルムをはがして舐め始めている。

 

 

「あの……すいません。

 お化粧がまだ残っていますから、そのままだと、まだ女の子に見えても仕方がないかと」

 

声のした方を見ると、知世さんが申し訳なさそうな顔で、

メイク落としのクレンジングシートの袋を差し出してくれていた。

 

 

……そう言えば、アリサに知世さんに、ユキエさんの悪乗りで色々と化粧をさせられたんだっけ……

 

 

そのおかげで助かったとはいえ、いつまでも化粧をつけておく意味は無い。

 

 

「ちょっと待ってて!」

 

「お、おう!」

 

 

僕の要求に、意外とすんなりコクエンが合意してくれたため、すぐさま化粧落としを始める。

 

 

香水はすぐにどうにかできるものじゃないけれど、

つけまつげを外した後、ファンデーション、マスカラ、ルージュのついた顔を、クレンジングシートで荒っぽくふき取るが……

 

 

「あらあら、ちょっと強すぎですわ。

 それだと、取り切れない部分が出てきてしまいますから……これはこうするのですわ」

 

やった事のない化粧落としは、わかる人からすればダメだったらしく

ある程度やった後は、知世さんが細かなところまで念入りに化粧を落としてくれ……

 

「はい、これでおしまいですわ。」

 

 

そして、知世さんが仕上げをし、顔がスッキリしたのと確認すると、

僕は改めて、コクエン達の方へと顔を向けた。

 

 

「ゆ、ユーノちゃん……!?」

 

 

「そ、その顔は……!!」

 

 

もう、衣装の付け外しも、化粧の落とし忘れもない、正真正銘、いつも通りの僕だ。

 

 

……最近、フェレットの姿でいる時の方が多いけど、その事については考えないことにして……

 

 

完全な素顔をさらした僕に、コクエン達は驚きを隠せないまま……

 

 

「すっぴんも素敵だ!!」

 

 

「っていうか、こっちのほうがかわいい!!」

 

 

―――ヒュー……ドスン

 

 

こいつら……どんだけ鈍いんだ……

 

 

ここまでやっても、勘違いし続けている彼らに、僕は思わず全身の力が抜けて脱力した結果、

僕は前のめりに地面と正面衝突してしまった……。

 

鼻が痛くなってしまったけど、こんなのは些細な事だ……。

 

 

「あの……ユーノ君、大丈夫?」

 

「……全然、大丈夫じゃない」

 

なのはが、心配して声をかけてくれたが、間違っても大丈夫とは言えなかった……。

 

「もうこれはあれかな? フェレットに変身する魔法じゃなくて、

 女の子に変身する魔法を使えって事なのかな……?」

 

 

このまま言っても、男のままじゃろくでもない目に合いそうな気もするし、

いっそのこと、その路線も悪くない気が……

 

「い、いや……ヤケ起こしちゃだめだよユーノ君。」

 

「そ、そうだよ、フェレットさんでも、男の子でも、

 ユーノ君はユーノ君なんだし。」

 

 

なのはとさくらさんが、なんだか訳のわからない理由でなぐさめてくれたが、

今の心境は、いっそのことモグラにでもなって埋まりたい気分だ。

 

 

「根性見せぃ、ユーノ! お前が女の子になってもうたら、

 必然的にワイがいじられキャラになってまうやろが!!」

 

同時に、ケルベロスのやや自分勝手な声も聞こえてきた気がするけど……

ずいぶんと勝手な事を言っていたので、無視する事にした。

 

 

「あ……でも、向こうはようやくわかってくれたみたいだよ、ほら……」

 

そして、奈緒子さんが向こうを指さしながらそう言ってきたので、

力を入れて顔を起こし、その先を見てみると……。

 

 

そこでは、コクエン達が地面に突っ伏した格好で、

見てもわかるくらい、ネガディブな雰囲気をあたりにまき散らしていた……

 

 

「ユーノ……()……ってことは……」

 

 

「メイド少女じゃなくて……メイド()()……?」

 

 

そんな彼らを心配したのか、フェイトもゲンも、彼らの身体をゆすっているけど

それに反応する事なく、突っ伏したままだ。

 

 

まさか、呼び方でようやくわかってくれたなんて……

内心複雑だけど、これはチャンスだ。

 

二人だけじゃ追撃してこれないだろうし、この隙にみんなを連れて逃げ……

 

 

「せっかくのドンピシャのメイド少女だったのに……」

 

 

「お人形さんみたいで可愛くて……」

 

 

「差し入れも用意してくれて……」

 

 

……ようと思っていたら、これまでとは違う恐怖すら覚える様な韻の奴等の言葉が耳に入ってきた。

 

突っ伏した格好は先程と変わらないのに、その身から発せられる気迫は別物に代わっており、

ゲンもフェイトも、その迫力に思わず一歩引いている……

 

 

「な……なんかヤバい事になってない!?

 あいつら、あからさまにおかしいわよ……!」

 

 

その異様な雰囲気はこちらにも届き、

アリサは嫌悪の表情で、思わず後ずさりはじめていると……

 

 

コクエン配下の一人が、突っ伏した格好のまま

顔を上げてこちらを向き……

 

 

「まさに理想のメイド少女だったのに、それが……

 勝気なお嬢様!!」

 

「なっ!?」

 

 

アリサのものだと思われる特徴を口にした。

心なしか、その目は怪しく光っているよう見える……

 

 

そして、そこから続けて……

 

 

「優雅で優しいお嬢様なお姉さん!!」

 

「あら……」

 

別の一人が同じ挙動をしながら、知世さんの特徴を口にし……

 

 

「明るさのどこかに影が差すツインテール少女!!」

 

「えっ!?」

 

「天然ふんわりな、ほえほえお姉さん!!」

 

「ほえっ!?」

 

更に続けて、なのは、さくらさんの特徴を口にして顔を上げる。

……なのはに関しては、なんか酷い事を言っている気もするけど、

何故か間違っている気はしない……でも、今はそんなことどうでもいい。

 

そして、ひときわ大きな赤黒い何かを放っている様なコクエンが、他の奴等と同じ様に顔を上げると……

 

 

「そんな超絶美少女に囲まれた、女と見間違わんばかりの美少年キャラだとぉ……ッ!?」

 

そこには、先ほどのお調子者と同一人物なのかと疑うほどに、憎悪と嫉妬を全面に浮かび上がっていて……

 

 

「「「「「おのれっ! 許せんッ!!」」」」」

 

 

示し合わせたかのように、全員が口をそろえてそう言った途端、

幻覚か、魔力の影響なのか、彼らを中心に爆炎があがった……様な気がして……

 

 

「可愛さ余って憎さ百倍!! 今こそこの幸せナンパ野郎に天誅を下すッ!!」

 

その炎の中で、いつの間にか立ち上がった彼らが、

一斉に拳を天に突き出し、先ほどと変わらぬ表情で勝手な宣誓をしていた。

 

 

この行動には、みんなもドン引きだったのか、こちら側の皆は、いつの間にか大きく後ずさっており、

フェイトとゲンも、雰囲気に押されたのか、炎から離れた場所で、彼らの様子を眺め……

 

 

そして僕は、彼らの勝手な台詞に対し、これまでの記憶にないほど腹の底から声を絞り出し

思いのたけをコクエン達にぶつけたのだった……

 

 

「知るか―――――――ッ!!」

 

 

 

 


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