知世の野望 ~The Magic of Happiness~ 作:(略して)将軍
「……全く、ワイが一緒におったらこないな目に会わんかったのに、ワイだけのけものにするから、こういう目に会うんや。」
そう言って、ワイは軽くため息をついた。
「……ひょっとして、室内プールの一件を根に持たれていたのでは?
あの時、さくらちゃん結構クリームソーダ楽しみにしてましたから。」
「クリームソーダ……?」
知世の言っとるのは、友枝町の室内プールに行った時の事やな。
あの時も、さくらはワイの事を置いて行こうとしたけど、さくらに見つからんよう荷物の中にこっそりと紛れ込んだワイは、そのまま外に出てさくらのクリームソーダをいただいた事があったんや。
……さくら、あんな昔の事を根にもつなんて器が小さいで。
「それにしても暗いわね……これじゃ、よく探せないわよ。」
「ちょい待ちぃ、今明かりを用意するさかい。」
アリサの不満に応えるため、ワイは全身から軽く火の魔力を放出すると、あちこちに火の粉の様な光の粒子が広がって暗闇を照らしていく……
「すごーい、ケロちゃんこんな事も出来るんだ……!」
その光景を見て、なのはは感心してそう言った。
「なーに、こんなん初歩中の初歩やで、こんなんワイにとってはほんの朝飯前……」
「ちょっと待って! こ、これは……」
そうしてワイが得意げになっている所で、ユーノがなにかを見つけたらしく声を上げたせいで、せっかくワイが決めた台詞がかき消されてしもうた。
せっかくワイがかっこよく決めてる所なのに……と不満に思いながらも、ユーノの指さした方向に目を向けると……
「な……なんやこれは……?」
そこに広がっていたのは、ワイらの想像もせんかった光景やった。
―――
時間を少し戻して……
ワイらがプールの前にあった更衣室にたどり着いた時、ワイは他のちびっこ共を驚かせんようにさくらのバッグの中に納まっとったんやけど……
「……ケロちゃんはここで待ってて。」
「え? さくらちょい待ち……」
さくらはそう言うと、さくらはワイをバッグの中に置き去りにしたまま、みんなと一緒にプールの方へと行ってもうた。
なんとかして抜けだそうとしたけど、今回はチャックになんぞ細工でもしよったみたいで、ワイがいくらいじくってもチャックを開ける事が出来へんかったんや。
まぁ、バッグを壊すわけにもいかんし、幸いレモネードのビンを一緒に入れといてくれたから、ワイはそれをちびちび飲みながら、さくら達の事を待っとったんやけど……
「……ん?」
しばらくすると、すぐ近くから強い力の気配を感じたので、ワイは思わずマジな顔になった。
この気配は、魔力やない……せやけど、コレと同じものは、前に感じた事がある……。
―――聖霊力
魔力とは似て非なる超常の力の一種。
クロウが生きとった頃には、その力を使う聖女と言われるネーちゃん達と、何度もあった事があるけど、さくらが封印を解いて以降は当時と環境が変わったためか、使い手はとんと見つからんになってしもうた。
それっぽい力の持ち主は何回か見かけた事はあったけど……まぁ、それはおいといて。
その聖霊力の持ち主が、なんやら人の集まってる所に現れていきなり大きな力を放った直後、さらに大きな力の持ち主が、そいつに近づいていくのを感じた。
……この気配は、外が見えなくてもわかる、さくらの奴が聖霊力の持ち主を止めに行ったんや。
向こうで何が起こっとるのはわからんけど、コイツをこのまま放っておくわけにはいかん。
ワイはさくらのサポートをする為に、何とかバッグから出ようとしたけれど、やっぱりチャックがどうやっても開かへん……
「えーい! ド根性やぁーッ!!」
ワイの気合を込めてそう言うと、周囲の子達がそれを聞いてビビりよったらしく、なんぞ周辺がざわざわし始めたけど、今は関係あらへん。
そのまま、力の気配のする方向に向かって、バッグごとぴょんぴょんと何とか飛び跳ね続けると……
「……このバッグ、確かさくらさんの……」
「! ケロちゃん!!」
聞き覚えのある声がしたかと思うと、すぐさまバッグが拾い上げられてチャックを開けられると……
すぐ目の前に、切羽詰まった顔の知世がおった。
「ケロちゃん! さくらちゃんが……!」
そう言って別の方向を向いた知世の視線の先には、プールであっただろう場所と、そこにぽっかりと開いた巨大な穴があって……
その穴の底から、さくらの魔力と先ほどの聖霊力が、ものすごいスピードで遠ざかっていくのを感じることが出来た。
このスピード……さくら達は、どこかに流されとるんか!?
「分かった! すぐ追いかけるから背中に乗り!!」
そう言いながら、ワイは真の姿へと戻った。
周囲の子供達が、ワイの姿を見てさらに驚いたけど、今は構っとる場合やない。
そのまま背中に知世とアリサを乗せて、なのはとユーノと共に穴の中へと入り……
真っ暗な穴の中に明かりを灯したワイ達は、その地下に広がる光景……
水の流れる水路をはじめとする、明らかに人の手のくわえられた建築物……遺跡を見て驚いていた……
「なにこれ……まさか、上の連中、地下にこんなものまで作ってたの!?」
「……いや、違うと思う。
上の建築物とは、明らかに方向性が違いすぎる……」
ユーノの意見に、ワイも賛成や……
おまけに、この遺跡は昨日今日出来たもんやない。
あの町の下に、こんな遺跡があるっちゅうんは何か意味がありそうな気もするけど……
……今はそれどころやない!
さくらの行方を追う為、ワイは意識を集中する……そして。
「……あれや! さくら達はあの先や!!」
さくらの気配がする水路を特定し、その中へ進んでいった。
その後、しばらくは人の手のくわえられた様な水路が続いていたが、もう少し進むと水路とは言えない、ごつごつとした岩壁に変化していき……
……そして、ワイの放った光は徐々に弱まっていってしもうた。
「ちょっと! なんで暗くするのよ!?」
「ケロちゃん……?」
「クッ……ちょっと厄介な事になってしもうた……
うまく、力の調整が効かへん……」
この辺、あちこちからなんや奇妙な気配がするし、なんぞ厄介なもんでも埋まってしもうてるらしく、そのせいで周囲を照らす程度の力を、うまく調整する事が出来なくなってしもうた……
この気配、さっきの遺跡と関係あるんか……?
「ん……?」
「……? ユーノ君、どうかした?」
「あ、いや……なんでもない……」
なんか、ユーノの様子が微妙におかしいけど、アイツもこの辺の気配を感じ取るんか?
「……ケロちゃん、考え中のところ申し訳ありませんが、今は早くさくらちゃんを……」
「判っとる。
待っとれ、光を強くするさかいな。」
気配も気になるけど、今はさくらの方が大事や。
調整がうまくいかんとはいえ、もっと力を込めれば何とかなるはず……
そして、ワイが力を込めて周囲を思いっきり照らすと……
「ふぉっふぉっふぉっ……こりゃあありがたい。」
「うわぁっ!?」「きゃあああああっ!?」
いきなり、目の前に不気味なジイさんの顔が照らし出されたので、ワイとアリサはびっくりして思わず悲鳴を上げてしもうた。
爺さんは、ワイらの姿を見て特に動揺する事もなく、二・三度頭をかくと……
「すまんすまん、驚かせてしもうたかの?
ちょうど、こっちも懐中電灯の電池が切れてしまってのぅ……
いやぁ、本当に助かったわい。」
そういって、ワイらに礼を言ってきた。
改めて、爺さんをよく見てみると……
全身、結構な痩せ体形で、口の上からもっさりと蓄えられた白いヒゲがぶら下がっており、目には修理の後があるボロい丸サングラスをかけて、頭には深緑色のニット帽……身体は薄汚れていて、袖の破れている作務衣を着ており、足はさらにボロいサンダル履き……
……貧乏神を絵にかいたらこんな感じなんやないか?
迷いなくそう思えるような風体やった。
「それにしても、変わったものに乗っておるのぅ、見ない顔じゃが……さっき、あっちの方に飛んでった子達の知り合いかの?」
「さくらちゃん、やはりこの先に……
飛んでいったという事は、ご無事なのですね。」
この爺さんは、どうやらさくら達の事を見ていたらしく、無事を確認できた知世はほっとして胸をなでおろしていた。
流石はさくらやな、適当なタイミングで『
……せやけど、そしたらなんで戻ってこんかったんやろ?
それに、飛んでった子達っちゅうんはどういう事や……?
「あの、もう少し詳しく説明してもらってもいいですか?
ええと……」
「おお、そういえばまだ名乗っておらんかったのぅ。
しがない陶芸家の岡田鉄心じゃ、よろしく。」
なんや、変わった名前のじいさんやな……
陶芸家ちゅうことは、鉄心ちゅうんは雅号かいな。
……ワイを見て驚かんところを見ると、ただものではなさそうやけど、見た目に反してジーさんはただの人間みたいで、特に力を持っているわけでもなさそうや。
……いったい、なんでこないな所におるんや?
「岡田さん……ですか」
知世は、なにやら爺さんの名前になにか思う所があるみたいやけど……
まぁええ、今はさくらの事を聞き出さんと。
「ついさっきの事じゃがな、ワシがそこで土を取っておると、いきなりそこの流れが強くなってのぅ……
何事かと、しばらく見ておったら、なにやら特大のゼリーみたいなものが、どんぶらこっこ、すっこっこと……」
「……いや、桃太郎かっての。」
爺さんのオーバーなリアクションとどこかで聞いたフレーズに、アリサがすかさずツッコミを入れた。
土取りやのうて、柴刈りやったらまんまやったんやけどな。
「そうしたら、今度は光る羽がそれを追いかけて行っての、この暗さじゃから姿は良く見えなかったが、声は二人分聞こえてきて……」
~~~
「おい! 遅いぞ!! このままでは、スライムを見失ってしまうではないか!!」
「ほえ~……そんな事言われても……」
「急げ! アレは私の最高傑作だ! 誰の手にも渡してはいかん!!」
~~~
「……てな言葉が聞こえてきたんじゃ。」
ジーさんの声を聞いて、先ほどまで張りつめていた緊張感は一気に抜けてしまい、ワイ等は思わず脱力してから……
「さくらのアホ! いったい何しとんねん!!
お人よしすぎるにもほどがあるわ!!」
すぐに立ち直って、ここに居ないさくらに対して力強くツッコミを入れた。
何があったかは知らんけど、どうもさくらは脱出した後、
戦っていた相手を助けた上に、相手が使ってたスライムの回収を手伝わされてるみたいや……
「……まぁ、そこがさくらちゃんの良い所ですから。」
「いい人すぎて、かえって心配なんですけど……」
そこは……確かに、ワイもそう思う。
……まぁええ、なんやかんや言うても知世の言う通り、そこがさくらのええ所なんやしな。
「あのスピードなら、そろそろ出口にたどり着いておる頃じゃな、このまま追うより出口の方に迎えに行った方がいいじゃろ。」
ジーさんはそう言うと、よっこいせと土の詰まったバケツを持ち上げ、ワイらに背を向けた。
「確かに、このまま暗くて狭い所を行くよりは、そっちの方がいいかも……
それに、やっぱりここは妙な雰囲気がするし……」
「私は分からないけど……その方がよさそうだね。」
ユーノは、相変わらずこの周辺の気配に警戒しているみたいで、爺さんの提案に乗るよう皆に促し、ワイを含め、みんなもその提案に反対はせんかった。
「……おっとそうじゃ、ほれっ。」
「わっ……!?」
すると、いきなり爺さんが振り返って何かを投げつけて来たのでそのさきに居たユーノがそれをうまくキャッチすると……
「なんですかこれ……石……じゃない、風化したメダル……?」
そこには、六角形のメダルが砕けたような形をした石が3個握られていた。
「お土産じゃよ、この辺じゃ少し土を掘ればいくらでも出てくるんでな……
暇なときにでも調べてみてはどうかの?」
そう言うと、爺さんはまたこちらに背を向けて、機嫌よさそうに鼻歌を歌いながら今度こそ出口に向かっていった。
―――
―――バシャーン!!
「あそこだ! ここはもう流れが緩やかで、スライムを流すほどの水勢はない!
今度こそ追いつくぞ! 急げ! さくら!!」
「もぅ……そんなに大事なモノなら、あんな使い方しなければいいのに……」
洞窟を抜けてると、さっきまでいた砂漠とは違う景色が広がっていた
流されたきらちゃんのスライムが、そのままの勢いで出口から遠いところまで飛びだしていき、そのまま落下していくと、すぐに勢いよく水柱が上がった。
きらちゃんが、あのスライムだけはどうしても無くせないと大騒ぎをしたので、私は仕方なくそれに付き合う事にしたんだけど……。
「……しかし、お前の使うそのカード、なかなかのものだな。
怪力化に跳躍、おまけに飛行まで出来るとは……
どうだ? 私に調べさせてくれないか?」
ここに来る途中で起源を直したらしいきらちゃんは、カードにも興味を持ったらしく、私に対してそんな事を言ってきた。
「……ダメだよ、カードさん達そういうのは嫌いみたいだし」
「ふん、つれないヤツめ……
……まぁいい、わざわざ施設で調べるよりは、実戦に持ち込んだほうが色々とはかどりそうだしな。」
断られたけど、それだけじゃ終わらないよ言った感じで、
きらちゃんは私に抱えられたまま、怪しそうにニヤリと笑った。
うーん、なんだか不穏な事を言ってる気が……
「とにかく、あのスライムさんを回収したら、もう暴れたりしないでね。」
「分かってる、きら様に二言はない。
……よし! 見つけたぞ!!」
私の話を聞いているのかいないのか、きらちゃんの目は、地面の上に転がっているスライムさんにくぎ付けになっており、そのまま地面の上に降りると、すぐさまわき目も降らずに駆け寄っていく。
結構流されてきちゃったけれど、こっからどう返ればいいんだろう?
あの洞窟をたどって帰るのは大変そうだし、他の帰り道があればいいんだけど……
「うわぁっ!?」
すると、いきなりきらちゃんの悲鳴が聞こえて来た。
慌ててそっちを見ると、そこにはスライムさんを目の前にして後ずさっているきらちゃんと……
「怪しい子達ね! いったい何者!?」
彼女を囲みながら、赤いバンダナを付けた、迷彩柄のタンクトップとズボンを付けた子達が、マギロッドらしいものを構えている所だった。
そして、さらに奥の方では真っ赤な服を着た女の子が水を滴らせながら、ワナワナと震えていて……
「どうやら、あのスライムはあなた達の物のようですわね……
私の安らぎのひと時を邪魔するとは、許しませんわ……」
どうやら、さっきの水柱のせいで、水を思いっきり被ってしまい、ものすごく怒って様子でした……
「あの……ごめんなさい」
「あやまってすむなら、警察はいりませ……え?」
迷惑をかけてしまったのは確かなので、彼女に対して頭を下げて謝ると、彼女は突然怒るのをやめ、私の顔をまじまじと見つめ始めました。
「ほ、ほえ……?」
私の顔に、何かついているのかな?
慌てて顔に手を当てたけれど、別にそんな事は無いみたい。
彼女の様子を見て、周りの子達も不思議に思ったらしく、一人が心配そうに彼女の名前を呼びかけました。
「あの……シュリ様、どうか致しましたか?」
シュリ……?
「おい! さくら! なにをしてる!!
早く、こいつらを何とかしろ!!」
きらちゃんは、囲まれたままどうしようもないみたいで、私の方に助けを求めて来たけど……
私は、きらちゃんの声に反応することなく、シュリちゃんの顔を見ながら、その場にじっとたたずんでいました。
そこで謎の陶芸家と出会った一行と、別の勢力の『ド』真ん中に飛び込んでしまったさくら。
果たしてこの先どうなる事やら……
半分考えていて、半分考えていない感じかも