知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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平和な街の落とし穴

 

 

「なのは……ゴメン、こんな事になるなんて……」

 

 

「ううん、ユーノ君は悪くないよ

 私が上手く説明できなかったから……」

 

 

 

先日の月村邸でのジュエルシード回収で起こった事件

 

 

あの時は、突如乱入してきた黒い魔導師の少女に

僕もなのはも、危ういところまで追いつめられてしまったのだけれど……

 

 

あわやというタイミングで、謎の魔法少女、さくらさんが

彼女の攻撃から守ってくれたおかげで、

黒い魔導師の少女は逃走し、僕達は無事にジュエルシードを回収する事が出来た。

 

 

僕と同じ世界の出身だと思う黒い魔導師の少女以上に謎なさくらさんについては、

名前以外の事は、なにもわからなかったけれど、

どう考えても悪い人じゃなさそうだし、なのはも彼女には非常に感謝している。

 

 

ただ、あの事件で起こった事がすべていい方向に向かったわけじゃなくて……

 

 

事件の後、なのはは乱入して来た黒い少女と、さくらさんについて思案を巡らせることが多くなり

なのはの親友、アリサとすずかがそんな様子を心配して

何があったのかと、声をかけてくれたそうだんだけど……

 

 

でも、二人に事実を説明する訳にもいかず、なんでも無いと誤魔化し続けてしまった結果

その態度がアリサの気に障ってしまったようで、

3人の関係が険悪なものになってしまったんだ。

 

 

僕が、なのはを巻き込まなければ

こんな事にはならなかったのに……

 

 

「ねぇ、ユーノ君……

 あの子達、いったい何者なのかな?」

 

 

なのはは、暗い顔をしながらも

先日起こった事件に関して、僕の考えを求めてきた

 

 

「……最初に襲って来た黒い衣装の子は、僕と同じ世界から来た魔導師だと思う

 あのデバイスと魔法の光……僕が知っている魔法と、同じものだったから」

 

 

何故、彼女がジュエルシードを集めているのかは分からないけど、それだけは間違いない。

 

 

だけど、あのデバイスは明らかに普通に出回っている……

一般的な魔導師が使うものより、遥かに高性能なインテリジェンスデバイスだった。

 

 

そして、それを自在に操る力量……

 

 

魔導師の素質に関しては、性質こそ違うけど

なのはと同様に驚くべき素質を持っていて、

さらにどこで身につけたのか、対魔導師の技量も、十分以上のものを身につけていた。

下手をすれば、その道のプロとも渡り合えるほどに。

 

 

……けど、あの人はそんな彼女を、終始圧倒していた。

攻撃を完全に防いだ盾、捕らえる為の人をかたどった風

そして、あれだけのインテリジェントデバイスを抵抗なく切り裂いた剣……

 

 

どれも、僕の知る魔法とは性質が違いすぎる強力な魔法だ。

 

 

あのケルベロスと名乗ったライオンが言った事が本当ならば、

さくらさんは、彼女を傷つけないような魔法を選んでいた事になる。

 

 

……恐らく、僕が見た他にも、まだまだたくさんの強力な魔法を扱う事が出来るのだろう。

 

 

「あの人が使った魔法は……僕の知っているものとは全然違ってた

 あの子の持っていたカード、1枚1枚がものすごい力を持っていたし

 あの杖も、レイジングハートや、あの子が使っていた杖の様な

 インテリジェントデバイスでは無いけれど……」

 

 

「クロウカード……ケロちゃんって呼ばれてたライオンがそう言ってたよね?

 それにあの子の名前……この世界の人間なのかな?」

 

 

「うん……近くを通りかかったのは偶然だったみたいだし

 けど正直、こっちの世界に魔法は無いって聞いてたから

 ちょっと信じられない所もあるんだけど……」

 

 

ケルベロスの言っていた魔導師では無く魔術師、使い魔では無く守護獣と言う名称

時間が無いから、詳しく調べている時間は無かったけれど

この世界には、僕の知らない何かがあるのだろうか……?

 

 

「……言葉だけじゃ、とてもいい表せないけど

 すごくあかるくて、優しそうな雰囲気を持ってたよね?

 ……いったい、どこの子なんだろう……」

 

 

なのははそう言って、椅子に寄りかかって天井を仰いだ。

 

 

……色々と気になる人だし、僕もできればもう一度会って詳しく話を聞いておきたい。

 

 

もし、ジュエルシードの回収を手伝ってくれるならば、

なのはを危険な目に合わせずに済むかもしれないし……

 

 

でも、これ以上この世界の人を巻き込むわけにも……

 

 

「きのもと……さくら……」

 

 

……あの時の事を思い出していたのか、

なのはの口からは、何気ない感じで

あの時に聞いた彼女の名前が漏れていた……

 

 

 

 

 

 

 

「なのは、元気ないわね……アリサちゃんと喧嘩でもしたの?」

 

 

「!?」

 

 

すると突然、いきなり背後から声をかけられてしまい

僕もなのはも、思わず背筋が伸びてしまった。

 

 

「わっ!? お母さん……」

 

 

 

声の主は……なのはのお母さんの桃子さん。

話に夢中になってたせいか、近づいてきたのが全然わからなかった……

僕が喋ってたのを、聞かれてないといいけど……

 

 

「い……いつの間に……」

 

 

「ついさっきよ、なんども呼んだんだけど、返事が返ってこないから……

 ……ところで、今、木之本って言ってたけど……

 なのは、撫子の事覚えてるの?」

 

 

「なでしこ……さん?」

 

 

桃子さんが口にした人の名前……

なのはの様子を見る限り、まるで心当たりはないみたいだけど……

 

 

「木之本撫子……ケーキが大好物だった、私の古い友人でね、

 翠屋を開いてからは、ウチのケーキをよく子供達と食べに来ていたわ

 でも、最後に来たのは、なのはが赤ちゃんの時だから

 流石にそんなわけないかしら……?」

 

 

なのはが赤ちゃんの頃……いったいどんな感じだったんだろう……

 

 

って、そんな事を考えてる場合じゃない!

 

 

あの人の苗字と同じ、桃子さんの友人

ただの偶然なのだろうか?

 

 

「その、撫子さんの子供たちって、どんな子だったの?」

 

 

「その時は確か……

 お兄さんの桃矢君が10歳で、妹のさくらちゃんが3歳だったわね」

 

「さくら……!」

 

 

桃子さんが口にしたあの人の名前……

なのはが赤ちゃんの頃に3歳なら、あの人の年齢とも一致する……

 

 

間違いは無さそうだけど、こんな偶然あるものなのだろうか?

 

 

「さくらちゃん、なのはの事をすごくかわいがってくれてね

 ……どこかに、写真が残ってたはずなんだけど」

 

 

そういって、桃子さんはあごに指を乗せた。

どうやら、写真の場所を思い出そうとしているようだ。

 

 

……僕も写真を見てみたいけれど、今はそれどころじゃない

 

 

なのはと目を合わせて、お互いうなずいた後、

なのはは、桃子さんに向かって、撫子さんの事を訪ねた。

 

 

「その撫子さん、今は?」

 

 

「……それから、間も無く病気で亡くなってしまったわ

 その後、撫子の家族はみんな引っ越してしまって……」

 

 

そう言うと、桃子さんの表情は少し暗くなってしまった。

よほど、大切な友達だったんだろうな……

 

 

「……でも、4年くらい前から、お兄さんの桃矢くんが

 偶に来てくれるようになったの

 

 あの時、星條高校の生徒だったはずだから

 今は友枝町に住んでいるんじゃないかしら?」

 

 

「友枝町……」

 

 

なのはの顔からは、いつの間にか暗い表情は消え、

なにかに強い興味を示している、そんな感情が露わになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構、近くにあるんだね……友枝町」

 

 

「駅3つくらい先だから、飛んで来ればすぐだよ」

 

 

あの後、思い立ったなのはに連れられて、すぐに友枝町へと向かう事になった、

今は、人に見られないように結界を張りながら、文字通りに飛んでいる最中だ。

 

 

思えば、こちらに来てからジュエルシード回収以外で、空を飛んだのはこれが初めてかもしれない。

 

 

「……でも、すぐに見つかるのかな?

 魔法が使えるって事以外で知ってるのは、名前だけだし……」

 

 

「うん……でも、なにもしなければわからないままだし

 とりあえず、出来る限りの事はやっておきたいなって」

 

 

さくらさんも、ケルベロスさんも、どちらも強い魔力の持ち主だった。

だから、何かのきっかけで力を発動していれば、

それを追って、見つける事が出来るけど……

 

 

でも、こうしてみると平和なところだし

そんな事件なんて起こりそうにも……

 

 

―――キィン……

 

 

……ん? なんだ、この感覚……

耳鳴りの様な、少し寒気がする様な何かの気配……

 

 

「なのは、これ……」

 

 

「うん、私も感じた……けど、今のはいったいなんなんだろう……?

 あの林の中からかな……?」

 

 

そういってなのはが目を向けた先は、高台にある林の中……

あそこから強い魔力を感じる。

 

 

……でも、なんだろう……普通に魔力の気配を察知してるだけなのに

なんだか、変な感覚がするような……

 

 

「この気配、さくらさんのじゃないみたいだけど……

 このまま、放っておくわけにもいかないよね?」

 

 

「うん……もしかしたら、ジュエルシードかもしれないし

 なんだか、少し違う気もするけど……これまでみたいに、誰かが取り込んでるのかも」

 

 

この魔力の気配からは、何故かいつも以上に危険なものを感じる、

このまま放っておいたら、大変な事になるかもしれない。

 

 

「……行ってみよう、どっちにしても放って置けないから」

 

 

「うん……」

 

 

そう言って、僕たちは地上に降り立ってから

結界を解いて周囲を見回た。

 

 

周囲の景色は、木々が生い茂る少し広い森と言った感じ。

 

 

……思った通り、ここからは強い魔力の気配を感じるけれど

これは、ジュエルシードの物とは違う感じだ……

 

 

でも、そしたらここに漂う魔力はなんなのだろう?

なにか、特別な物がここにあるのか……?

 

 

そう思って、魔力の源を探していると、不意に身体が揺れているのに気付いた。

地震が起こってる訳でも、僕が震えているわけじゃない……

 

 

まさか、なのはが震えてる?

 

 

「なのは、大丈夫……!?」

 

 

 

そういってなのはの方を見た瞬間、様子がおかしい事に気づいた。

なのはの息が荒くなり、凍えているように体が震え、目の焦点がぶれている……!

 

 

 

「なのは……? なのは!? いったいどうしたの……!?」

 

 

あからさまに様子がおかしいなのはに、声をかけようとしたけれど、

直後、僕も心臓をわしづかみにされるような感覚に襲われ、声が出なくなってしまった……!

まさか、何者かから攻撃されているのか!?

 

 

『――――ァ――――――ァ―――』

 

 

意識が薄れそうになる苦しさの中、

突然、奇妙な声が耳鳴りの様に聞こえてくる……。

 

 

内容は理解できず、どこから聞こえてくるのかすらわからないけれど、

全身の鳥肌が立ち、頭の中が揺さぶられるこの感覚……!

 

 

『―ウ―――ァ―――ァ――』

 

 

人の声にしては、あまりにも不気味な声で

時間がたつにつれて、それは徐々に大きくなっていった

 

 

ノイズの様にも、ハウリングの様にも聞こえ……

それが耳に届くたびに、全身の感覚がおかしくなる……

そして、僕たちは気が遠くなっていき……

 

 

 

「お―!! 大―夫―――――っか―――――!!」

 

 

これまでとは違う、男の人の声が聴こえたような気がした次の瞬間、

僕は、意識を失ってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

 

 

重苦しい感覚から解放されて目を覚ますと

僕は、いつの間にか大きな樹の根の上に覆いかぶさっていた。

 

 

周囲の景色は、先ほどの森ではなく

石畳と、天の字に似た門が見える、特徴のある光景が広がっている。

あの門、確かこの世界の鳥居……だったっけ?

 

 

「! なのはっ!?」

 

 

そこで、先ほど苦しそうな表情をしていたなのはを思い出して周囲を見回すと、

なのはは僕の隣で、同じ樹に寄りかかって眠っていた。

先ほどの表情が、嘘のような穏やかな寝顔だ。

 

 

「あれ……ユーノ君?」

 

 

僕の声に気付いたのか、なのははすぐに目を覚まし、

先ほどの僕とおなじように、周囲を見回しはじめた。

 

 

 

「ここは……神社? どうしてこんな処に……」

 

 

 

「……判らない、僕が目を覚ました時にはここに居て

 誰かが、僕達をここまで運んで来てくれたのかな?」

 

 

もしかしたら近くにいるのではないかと、なのはと一緒に再び周囲を見回して探すと

樹の後ろにある社の方から、誰かが歩いてくる音が聞こえる。

 

 

僕達が、樹越しにそちらの方を見てみると……

 

 

「お、目を覚ましたのか」

 

 

そこに居たのは、鋭い目つきをした少し怖そうな雰囲気のお兄さんと、

穏やかな目つきをした、さわやかな雰囲気の眼鏡をかけたお兄さん

どちらもなのはのお兄さんの恭也さんと同じくらいの年齢にみえる。

 

 

「よかった……大丈夫? はいこれ、お水 そっちの子もどうぞ」

 

 

メガネのお兄さんは、そう言うとなのはに紙コップに入った水を手渡し、

僕の目の前にもう一つのコップを置いてくれた。

 

……そう言えばいつの間にか喉がカラカラだ

 

 

「あ……ありがとうございます」

 

 

なのはは、お礼を言って紙コップを受け取り、一気に中身を干した。

僕は、この状況ではお礼を言えないので、心のなかで言ってから、

コップに首を突っ込むような形で、水を飲む。

 

 

 

 

「お兄さん達が、私をここまで連れて来てくれたんですか?」

 

 

「うん、驚いたよ

 近くを通りかかったら、キミ達が倒れてたんだもの

 どうして、あんな所に……?」

 

 

メガネのお兄さんの問いに、なのはは答えに詰まってしまった。

正直に話しても、信じてもらえそうにはないだろうけど……

 

 

……そう言えば、あの時はバリアジャケット姿だったはずなのに

いつの間にか、なのはの服はその前に来ていた服に戻っていた。

 

 

そう簡単に戻る事は無いはずだけど……どういう事なんだろう?

この人の様子を見る限り、運んでもらった時には元に戻っていたようだけど……

 

 

「この辺りじゃ見かけない顔だが……

 ……もしかして、あそこから妙な感覚がしたから、それを調べに行ったのか?」

 

 

ぶっ……ど……どうしてそれを!?

 

少し怖いお兄さんの台詞に対して驚き

危く噴き出して、そう言ってしまいそうになったけど

すんでの所でこらえきれた……

 

 

まさか、この人も魔力を持っているのか!?

 

 

「ど、どうしてそれを……」

 

 

「あの林は、前からよくないものが集まりやすい場所で

 たまに、感覚が鋭いヤツが足を踏み込んで、大変な目に会う事があるんだ

 ……なにか、よくなさそうなものが見えたり聞こえたりしたか?」

 

 

よくないもの……あの魔力を放っていた、なにかの事なのだろうか?

声が聞こえただけで倒れてしまったのだから、よくない事だけは確かだけれど……

 

 

「あ……変な声は聞こえました

 ただ、なにかが見えたりはしませんでしたけど……」

 

 

「……気を付けろよ、お前等みたいなのが目を付けられると特に危険なんだ

 

 この神木、あそこで受けたようなよくないもんを祓ってくれる力があるから

 まだ気分がよくないんだったら、もう少しそうしてるといいぜ」

 

 

……言われてみれば、なんだかこの樹に触れてると、なんだか楽になる感じだ。

何故そうなるのかはわからないけど、この樹からもなにか力を感じるような……

 

 

まだ、少し体が重い感じがするし、お言葉に甘えて、もう少し休ませてもらおう。

そう思って、僕は再び木の根っこへと覆いかぶさる。

 

はたから見たら、ちょっとだらしない恰好かもしれないけど……

なんだか、すっきりするような感じがするし、今は許してもらおう……。

 

 

「あの……お兄さんは、見えるんですか?」

 

 

……そう言えば、そんな事を知ってるって事は、

この人にも、何かが聞こえたり見えたりするはずだ。

 

 

なのはも不思議がって、目の前のお兄さんに、その事を聞いたんだけど……

 

 

「……昔はな、今はもう見えなくなっちまったんだ。

 ま、別にいいんだけどよ」

 

 

そうって、お兄さんはもう一人のメガネの人の方へと顔を向けた。

……見えなくなった事と、何か関係があるのだろうか?

 

 

「……桃矢も、以前あそこで大変な目にあったよね。」

 

 

「うるせぇ、あれは別件だ、別件。

 大体、ユキだって人の事言えねぇじゃねえか。」

 

 

そう言うと、少し不機嫌そうな顔で

ユキと呼ばれたお兄さんに抗議の声を上げた

 

 

どうやら、2人ともあそこで大変な目にあったみたいだけど……

 

 

……と、そこまで行って僕はユキさんの呼んだ名前に反応した。

 

 

 

今、桃矢って言ったよね? じゃあ、まさかこの人が……

 

 

なのはも、同じ事に気付いたみたいで、恐る恐る訪ねてみると……

 

 

「もしかして……木之本桃矢さん?」

 

 

「ん? どうして俺の名字知ってんだ?」

 

 

名乗っていない自分のフルネームを呼ばれ、

桃矢さんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたのだった。

 

 

 

 




という訳で、アリサとの不仲がずっと早く訪れてしまいました
展開上の都合と言うのもありますが、あの時に勝ってしまった影響で
倒れていた事の心配がなくなったり、考える事の漁が多くなったりでこんな感じになってしまいました

……実は温泉回やろうとはおもっていたんですけどね
アルフの絡みを、バイトしてた桃矢が追っ払うとか
逃げるユーノが男湯に逃げ込んで、雪兎がいたりするとか


次はいつ投稿出来る事やら

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