やはり俺の青春ラブコメは間違っていたのだろう   作:未果南

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遅くなってすいませんと言うのも何回目だろうと思う反省のない未果南です。
ちょっとずつですが進んでいきますのでよろしくお願いします


そこで比企谷八幡は一歩踏み出すことにした

「え?先輩今なんて…」

 

目の前の後輩が異界の言語を聞いたようなポカンとした顔で尋ねてくる。

 

「…なんだ、そんなに変か」

 

「い、いや変ってわけじゃないですけど…。大丈夫なんですか?」

 

不安そうに俺を見上げる瞳には珍しく面白がるような色は見えず、さりとてあの時のような涙や芯の強さはなく純粋に困惑と、ただ俺のことを気遣う感情だけが込められていた。

 

その視線に少しくすぐったさを覚える。

 

「そんな大事な話じゃないしな。久々に里帰りするってだけなんだから。」

 

「それは、そうでしょうけど…。けしかけた私が言うのもなんですけど、ゆっくりで良いんですよ?」

 

「なんだよ、あんまり甘やかすと折角決めたのに揺らいじゃうだろ」

 

なんて軽口を叩いた俺の声は震えていた気がする。

一色相手にこの声の震えを誤魔化せるとは思えない、だけどたまには格好付けたくなることだってあるのだ。

 

「…くすっ、なんですかソレ。」

 

そして、情けない男のそんな精一杯の格好付けを黙って見逃してくれる笑顔の可愛い女が俺の後輩である。

 

それは昨日のこと

 

⭐⭐⭐

 

「先輩は夏休みとかどうするんです?」

 

「あー?夏休みなぁ。特に予定もないし家でダラダラ過ごすだけだろうな」

 

季節はお盆手前。

学生ならばそろそろやり残した課題の量をまだ大丈夫だと自分に言い聞かせ始める時期。

 

社会人からすれば、やっと休みに入る時期である。

うちの会社はかなりホワイトな会社なので盆正月はしっかりと休みをとれる。

 

まぁ、先程一色に返事した通り休みがあったところですることなどないのだが。

 

「そういうお前はどうするんだ?」

 

「私ですか?普通に実家に帰りますよ。お墓参りとかありますし」

 

意外や意外。一色はしっかりとお盆のお参りをするタイプだったようだ。

うちは親戚付き合いというものが薄いというかないも同然なのでお盆に墓参りをする習慣は特にない。

じーちゃんばあちゃんもまだまだ元気だしな。

本人達曰く小町の花嫁衣装を見るまでは死なんとかなんとか。

そこでナチュラルに俺が入ってない辺り流石である。

 

「先輩は、帰ったりは…」

 

おずおずと一色が聞いてくる。

まぁ、そりゃそうだ。流石にコイツでも先輩里帰りしましょう!とかいう無神経さは持ち合わせていない。

 

「まぁ…、ないよな。」

 

結局毎年帰らないとはいえ、俺すらも里帰りを考える時期である。どこで誰と会うかもわからない、そんな地雷原に自分から突っ込めるほど俺はまだ回復してない。

 

「ですよね…。お土産とかいります?」

 

「MAXコーヒーが飲みたいな」

 

「それお土産の範疇に入るんですかね…?」

 

残念ながら現在の自宅付近にはMAXコーヒーを購入可能な自販機は愚か、取り扱っている店舗すらないのだ。

 

「それに先輩通販で買ってるじゃないですか」

 

「ばっかお前通販で届くのよりも本場千葉のMAXコーヒーのが美味いに決まってんだろ」

 

「いや多分味は変わらないと思うんですけど…、ていうか変わってたら問題ありません?」

 

ふむ、流石マイソウルドリンク。どこにいても変わらぬ美味しさを俺に届けてくれるらしい。

 

「まぁ、なんだ地元のお土産とか特に欲しいもんでもないしな。素直に里帰りして、親孝行でもしてこい」

 

「先輩はしなくていいんですか?」

 

「帰ったところで俺の親働いてて家にほとんどいないしな。小町孝行は考えないでもないが。」

 

「先輩は小町ちゃんには本当に孝行した方がいい気がしますけどね」

 

それには完全に同意見を示したい。

両親が毛ほども心配及び連絡をしない現在の俺にとって小町のがよっぽど親らしい存在な気がする。

 

なにそれ小町ママとか最高にバブみ感じておぎゃれる。

でもお兄ちゃん小町がママになるとか許しませんよ。

 

「まぁ、気が向いたら言ってください。不安ならついて行ってあげますから」

 

「…そんなことにはならないから安心しろ」

 

それは里帰りがだろうか、それとも一色についてきてもらうことがだろうか。

 

ふとそんな考えが頭をよぎったが昼休みを終えて仕事に戻る内にいつのまにか頭から消え去っていた。

 

⭐⭐⭐

「「ごちそうさまでした」」

 

一色と外で飯を食べるのも恒例となりつつある。

最早そのことに違和感を感じることもなくなる程度には一色は俺の日常生活に溶け込んでいた。

 

「そういえば先輩。昼間に小町ちゃんの話してて思い出したんですけど、先輩の誕生日の時小町ちゃん、先輩に電話してたんじゃないですか。なんであんな変なこと言ったんです?」

 

「…!」

 

小町と一色が最近仲良く電話していたのは知っていたがそんなことを話していたとは…。

あのことについては思い返すだけで恥ずかしくなる。

 

そう俺はしっかり小町から電話でお祝いの言葉を貰っていた。なのに、あの時あんなことを言ったのは…。

 

一色に誕生日を祝ってほしいなんて思ってしまったからだ。

あそこで小町がーと言っておけばさりげなく俺の誕生日を伝えられるなんて姑息というかしょうもないことを思いついた俺はあろうことかすぐに実行に移してしまったのである。

我ながら色々とこじらせた中学生かよと言いたくなる。

あの時はちょっとどうにかしてたんだ。

 

「さーな…、覚えてねーよ」

 

「えー、なんですかそれー」

 

いや、流石にあれを正直に答えるようなバカはしない。

あんなん思惑を知られたら自殺ものである。

 

いやまぁ、そんなことしなぬても一色は俺の誕生日を覚えていた訳だが。

 

「あ、先輩ちょっとここで待っててください。」

 

「ん?」

 

そう言ってカバンを漁り始めた一色が何かを取りこぼす。地面に落ちたそれは薄い水色のハンカチであった。

自分で言ってて何だが、本来青を薄くした水色を更に薄くした色ってなんか違和感あるな。どーでもいいけど

 

一色は何やらポーチの中をゴソゴソと漁ると財布を取り出して自販機に向かっていった。

 

帰ってきた一色の手には2本のアイスが。

 

「夏休み突入記念ってことで」

 

「おお、ありがとな。しかし言えば払ったのに」

 

「いつも奢って貰ってばかりですからね。安いものですけどたまには私の奢りです。」

 

そう言ってアイスを渡してくる一色の笑顔を不覚にも可愛いなどと思ってしまった。

 

「お、おう。ゴチになります」

 

「あはは、なんですか先輩改まって。」

 

それから2人で美味しい美味しいといいながら道端でアイスを舐めていた。

一色が買ってきたアイスはどこにでもあるソーダのシャーベットで。

その安っぽい味が妙に舌に残った。

 

「先輩、今から言うのは酔っ払った後輩の妄言です。聞き流してください」

 

急に何をとは言わなかった。

黙って了承とも否定とも取れない程度に首を動かした。

 

「今なら里帰りしても大丈夫じゃないですか?私から見て先輩は結構回復してきていると思います。何も誰かに会えってわけじゃないです。ただ実家に帰るだけ、それだけです。小町ちゃんに会うためでもいい。先輩にとって地元がなんてことないんだって、ここは帰る場所だって…。」

 

それから少しづつ、一色の言葉は小さくなっていった。

一色が言いたいことは分かっている。

そうだとも苦手な人間がいるだけだろう。でも、1歩踏み出すのが怖い。

そんな俺を見透かして一色は励ましてくれているのだろう。

 

「帰りましょうか先輩」

 

それは地元に、ではない。ただ単純に今日お開きにしようというだけだ。

 

「ああ。」

 

俺は結局返事を返すことも出来ず、お開きに賛成したのだった。

 

⭐⭐⭐

駅まで送ると一色は礼を言って駅の中に消えていった。

俺も帰るかとポケットに手を突っ込むと何やら布の感触がした。

取り出して見るとそれは一色の薄い水色のハンカチだった。

 

「…盆の間会わない訳だしさっさと返しておくか。」

 

幸いにも一色は里帰りの電車の切符を用意すると言っていた。走れば間に合うだろう。

 

少し走って駅内に入ると丁度一色が切符売り場から出てくるのが遠くに見えた。

そちらに走って行くと一色はやけに神妙な顔をして売り場に戻っていった。

何をと訝しげに見ているとどうやら切符を購入しているようだ。そして購入した切符を既に同じものが収められている財布に入れると、自嘲するかのように笑った。

 

あれが誰のものかはわからない。

-本当に?

 

知り合いに頼まれていたのかもしれない。

-コチラでのあいつが何かを頼まれるの知り合いと言えば俺くらいだ。

 

予備や帰りの分かもしれない

-往復切符を買えばいい。

 

あれは…誰のだ?

 

⭐⭐⭐

結局一色に声をかけることが出来ずに俺はハンカチを持ち帰ってしまっていた。

 

マッ缶を一口に飲み干し、その空き缶を机に置く。

 

頭の中に思い浮かぶのは駅で見た一色の顔。

それと安っぽいソーダーの味。

薄い水色のハンカチ。

 

それらがグルグルと意味もなく脳裏に上がっては消えていく。

手元の空になったマッ缶を指で軽く小突いた。

カランカランと小気味よい音をたてて机の上を転がっていくマッ缶。

 

「ふむ…。たまには本場のマッ缶も飲みてぇな」

 

誰に聞かせるでもなく、意味の無い誤魔化事を吐いて携帯を手に取った。

 

『明日駅で待っててくれ』

 

簡素なメールを最近小町よりも高頻度でメールするようになった相手に送る。

 

後ろの布団にひっくり返るとボフンと間抜けな音が出た。

 

 

そのまま意識がなくなるまで仰向けで天井を見つめ続けた。

 

 

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