やはり俺の青春ラブコメは間違っていたのだろう   作:未果南

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やはり俺の青春ラブコメはまちがっていたのだろう。ならば

何の変哲もない、昨日と同じ駅。

 

道行く人々は俺の事なんて、きっと気にもとめてないだろう。

結局、一色からの返信はなくこの場にも来ないかもしれない。

 

道行く人々の中から、見知った顔を見つけようとするがどこにも見当たらない。

その事にどこかホッとしている自分がいることに気づいて鼻で笑った。

 

どこまで行っても俺というものは変わらず、小心者で姑息な小物のままであるらしい。

 

ここに来るまでに何度も繰り返し考えた。

というか、着いてからも考え続けた。

 

自分の気持ちにこそ気づいたとはいえ、それに対する俺の答えはどうなのか、アイツの答えはどうなのか考えても結局どうにもならない。

 

頭の中で考えが纏まらず、悶々とした気持ちだけが募っていく。

 

30分ほど待ち、後悔と自責の念がチラホラと頭に浮かび始めた頃だった。

駅の入口から見慣れた栗色の髪が見えた。

 

「お待たせ、しました。」

 

顔を下に俯けたまま、暗い声でボソボソと話しかけくる。

普段の俺ってこんな感じなんだろうななどとどうでもいいことが頭に浮かぶ。

人間極度の緊張中だとたわいないことばかり考えてしまうものだ。

 

「気にすんな、今来たとこだ」

 

茶化すようにキザったらしく言ってやると一色は一瞬驚いて顔を上げた。

 

「今日もばっちり採点してくれ」

 

「…なんですか、それ」

 

フフッと微笑んだ、その表情を見て体が熱くなる。

 

ああ、俺って本当に馬鹿なんだろうな。

 

「話とはなんでしょうか。」

 

「待て待て待て。流石に場所を変えていいか?ここは人が多すぎる」

 

「なんですか人目のないところで何する気ですかそういうのはお付き合いしてなおかつ時間置いてからでもいいですかごめんなさい。」

 

「いやいやいや」

 

相変わらず早口で噛まずによく言えるものだ。

というかそんなことはどうでもいいんだ。

 

「わかってますよ、公園とかでいいですかね」

 

「まぁいいんじゃないか。」

 

「じゃ、とりあえず行きましょうか」

 

「おう」

 

言葉少なにこちらを振り向くことなく移動を始める一色。

 

なんだか避けられている気がする…。

そしてこの感じには覚えがある。

 

そうこれは中学の時に何度も経験したアレ…。

 

少し仲良くなったと勘違いして話しかけたら次の日から避けられ始めるしやつ…!

 

中学生の頃の俺はすーぐ勘違いしちゃう純粋ボーイだったため、すぐ告白し振られを繰り返した。

結果、俺にその気がなくても告白するんじゃないかなんて勘ぐられて女子から避けられるようになったのだ。

 

やっべ、なんか泣きたくなってきた…。

 

しかし、この雰囲気を感じるということは…。

 

「はぁー…。」

 

「あれ?どうしたんです、ものすごく大きなため息ついて。」

 

「いや、なんでもない…。俺はまた勘違い野郎なのかなって思ってな」

 

「は、はぁ…」

 

うわー、そうかぁ。

俺は結局欠片も進歩してなかったんだなぁ…。

 

そりゃそうだよなぁ、奉仕部の件もあるのに俺は何を考えていたんだろうなぁ…。

 

1人項垂れながら進んでいるといつの間にか公園に着いていた。

 

「ここならいいですかね?それで話ってなんですか?」

 

「おう、まぁ、あれだ。あのー、俺はこういうの慣れてないから端的に言うことにする。いや、色々と頭絞って考えたんだがうまいこと思いつかなかったわ。」

 

深呼吸する。

 

なーに、告白して振られるのなんて慣れてるさ。

 

「一色いろはさん。あなたが好きです付き合ってください。」

 

一息に言いきり頭を下げる。

 

そして、聞こえてきたのは。

 

「ごめんなさい。」

 

あの頃何度も聞いた、いつもの返し。

 

しかし、あの頃と違うのは俺の年齢と相手との距離。

 

「ははっ…。だよな…。あ、安心してくれ教育係は気にせず続けるしつもりだし、嫌なら誰か、Dさん辺りに変わってもらうから。いや、ホント同じ会社内だからって全然気にしなくていいから、いやホント。」

 

「ちょっと待ってください。話は最後まで聞いてください。」

 

「なんだよ、これ以上トドメ誘うってのか…。」

 

「違いますから。ちゃんと聞いてください。」

 

一色も一度深呼吸をすると俺の目を見つめてきた。

 

いや、しっかしホント美人になったもんだよ。

昔から可愛いかったんだけどさ、美しいにシフトしたというか。

 

「先輩の好意はホンモノですか?」

 

うじうじと考えていたら一色からまさかの問いがきた。

 

「それはアレか。俺が雪ノ下や由比ヶ浜の時みたくってことか」

 

「いいえ、そうじゃありません。自分で言うのもなんですが私は先輩に尽くしたいい後輩だったと思います。」

 

「お、おう」

 

予想外の方向に進みつつある話にどう反応していいかわからなくなる。

 

「それで聞きたいんです。先輩は私に恋愛的な好意をちゃんと抱いていますか?私は自分のことを卑怯だと思ってます。」

 

「は?卑怯?お前ほど正々堂々生意気なやつを俺は知らんが。」

 

「言いたいことはありますが今は我慢しましょう。傷心の先輩を支えるなんていう程で近づいて一緒にいました。ですが本心は先輩のためでも奉仕部のためでもなくて先輩のことが好きだったからなんです。」

 

「はい?」

 

「さっきも、あんな去り方したら追いかけてくるとわかってあんな風に帰ったんですよ」

 

…これは、あれだ昔の俺の考え方だ。

なるほど端から見るとこんなにわかりやすいのか。

 

雪ノ下と由比ヶ浜はさぞイラついたことだろう。

2人にはいつか改めて謝罪をしなければいけない…。

 

「何を馬鹿言ってるんだお前は。1つ1つ否定していこう。」

 

「え」

 

「まず、さっきの帰り方について。そんな打算ありで帰ったやつはもっと余裕あるだろ。お前普通に着替えとか入ったカバン忘れて帰ってんぞ。」

 

「あっ。…いや、先輩が確実に追いかけてくるようにするためですよ」

 

「ほう。なら次、今回帰省するにあたって買った切符。お前は間違えて買ったとかなんとか誤魔化していたが、自分であれ前日から買ってただろ。」

 

「ハンカチ返すために駅入った時に買ってるの見たぞ。顔から火が出るかと思った。」

 

「ゔっ…。いや、それも計算づくで。」

 

もう判りきっているのにまだムキになって抵抗をつづける一色。

 

「お前がここ数ヶ月でしてきたことを計算づくで済ますにはお前はおっちょこちょいすぎるんだ。」

 

「おっちょこちょい…。」

 

「それに1つ教えてやる。」

 

こいつは昔の俺みたいならば

 

「そんなの関係ないんだ。」

 

成長した俺がその攻略法を知らないわけがないだろう。

 

「仮に卑怯でも、なんでもいい。俺はお前が好きなのはホントだ。仕組まれたものだろうが関係ない。好きなものは好きなんだよ、文句あるか。お前が嫌じゃねぇなら俺と付き合ってくれ。嫌か嫌じゃないかで答えろ」

 

最後の方は照れが出て声が変に上擦ってしまった。

 

そう、こんな屁理屈を捏ねてくるなら感情論をぶつけてやればいい。

小賢しい屁理屈などねじ伏せてこちらの気持ちをぶつけてやればいい。

 

そうすれば。

 

「い、」

 

「い?聞こえねぇぞ」

 

「嫌じゃない…でふ。」

 

「でふってお前…。まあいいや、じゃ、今から交際スタートでいいな?」

 

「いやでも、奉仕部のこととか色々…。」

 

「うるせぇそんなもん関係ない」

 

「せ、先輩なんかキャラ違いませんか。」

 

「知らん。もうなんか悩むの飽きた。」

 

「飽きたって…。」

 

反論に対して簡潔に答えていく。

こんなことで屁理屈こねるようなやつは。

 

「ふ、ふふふっ。先輩ホント変わりましたよね。」

 

「かもな」

 

「ま、しょーがないですね。先輩がどうしても可愛い可愛い私と付き合いたいって言うんですから付き合ってあげますよ。社内恋愛ってやつですね」

 

「ああ、俺が可愛い可愛い一色と付き合いたいんだよ。」

 

「っ…。」

 

自分で言って自分で照れてやんの。

 

キャラ崩壊?知らん。

 

たまには俺だって後先考えず物事に挑んでみたいのだ。

正直その場のノリとテンションで告白の内容を決めたようなもんだが、この際これでいい。

 

きっと俺の青春ラブコメはまちがっていたのだろう。

 

なら、あの時見たく変に考えたりしなければいい。

リア充見習ってノリとテンションでやってみるのも中々いいかもしれない。

 

…まぁ、多分二度とやんねぇけど。

 

 

 

 


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