エイジのその後   作:シリカ

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気が向いたらまた書きます。

「そんな……ユナと僕を、ずっと一緒に居させてくれるって、言ったじゃないですか……」

 

新国立競技場の駐車場に、鼓膜が破れる程の重い咆哮を上げながら、突如現れたドラゴン型大型ボスモンスター<第91層ボス ドルゼルザ・カオス・ドレイク>を前に、悲壮めいた表情を浮かべて悲鳴をあげるのはこの僕、オーディナル・スケールRank2位のエイジだ。本名は後沢瑛二。

 

僕は先ほどこの場所で、SAOを救った英雄<黒の剣士>との決闘に破れた。重村教授から授けられた、身体能力を強化するパワードスーツを持ってしても、僕はあの英雄には勝ってなかったのだ。このパワードスーツというものは僕の先生<重村教授>が開発した試作品で、スーツから身体に電気信号を送って強制的に強化するという、優れた代物だ。

 

僕はこの身体強化スーツと、攻撃を予測する特殊なオーグマーを使って、オーディナル・スケールというARゲームにおいて、常軌を逸脱した動きで次々と旧SAOのボスモンスターを蹂躙していき、ついにRank2位まで上り詰めることが出来たのだ。しかし、もう身体強化スーツは黒の剣士に壊され、僕はもう”ズル”を使えなくなってしまった。

 

最強でなくなった僕に、今のコイツを倒せる確率はほぼ0に近いに等しい。攻撃予測機能こそ残っているが、恐らく勝てやしない。そして死ぬんだ。かつてあの空に浮かぶ鋼鉄の城<アインクラッド>で、殺されてしまったユナのように……。

 

この世界で死んだら、本当に死ぬ。ボスに殺される事でSAOでの記憶を鮮明に思い出させ、その記憶をスキャニングして奪い取り、ユナを……悠奈を完全な状態で蘇らせることが、このオーディナル・スケールの真の目的なのだ。いや、正確にはオーディナル・スケールを開発した<重村教授>の目的と言ったほうがいいか。奪った記憶が100パーセントになると、この新国立競技場全体に記憶の一斉スキャニングが起こり、最悪その負荷によって、人は死ぬ。運よく生き延びたとしても、脳に一生引きずるような重傷を負うことだろう。

 

それを知ってなお、僕は<重村教授>に手を貸した。ユナと一緒に居させてくれるという約束の為、オーグマーを使う<SAO生還者>に暴行をしてより鮮明に恐怖を与え、記憶を奪った。中には、腕を折らせて入院させたこともあった。そのうち警察が嗅ぎつけて、捕まってしまうだろう。犯罪を犯しているというのは十分承知の上だ。でも、そうするしかユナと一緒にいる方法がないのなら、なんだってやってやる。そしてあの時助けられなかった事を、一生をかけて償うのだ。

 

でも、それすらも、もう叶わない願いとなってしまった。身体強化スーツを使いこなせなせず敗北した僕を、<重村教授>は要らないと判断し、僕の記憶を奪う為この怪物を寄越したのだ。怪物は、顎を大きく開けて凶悪な牙をちらつかせ、今にも僕を食い千切らんとしている。爪は僕の脚にグサリと刺さり込み、逃げれそうにもない。

 

だが‪──‬‪──‬そう簡単にやられてたまるものか。死んでしまったユナは、もう僕の記憶の中にしか居ない。僕の中にいるユナだけは、絶対に守ってみせる‪──‬。

 

そして僕は、オーグマーを外した。

なに簡単なことさ、ここはSAOとは違って現実世界だ。オーグマーを外せば、目の前にいるモンスターとはおさらばできる。

「……はは………。……残念でしたね、先生……。僕がこの単純な仕組みに、気がつかないとでも思ったんですか?」

乾いた笑いを浮かべつつ、一矢報いたつもりでそう言ってやったが、どうやら先生との通信は切れていたようだった。一度は裏切られてしまったものの、また目的の遂行に手を貸して、自分は使えると証明できれば、先生もまた約束を果たしてくれるかもしれない。そして今度こそユナを……。

ユナとの記憶を奪われてないことに、胸に手を撫で下して安堵しつつ、僕はユナのライブステージへと向かった。

 

地下駐車場B2からエレベーターで3Fへと上り、キンコーンという御馴染みの効果音と共に、扉が開く。ここからでも会場にいる人の悲鳴が聞こえる程、どうやら会場は予想以上に混乱しているようだった。無理もない、なにせ旧SAOのボスモンスターが際限なくポップしているのだ。どんなに観客席に人が集まっていようと、あの混乱の中で冷静に対処して、ボスを倒していくことは不可能だろう。

 

この調子でいけば僕が手を貸さなくても、目的は果たせるかもしれない。だが、完全に不安要素がないという訳ではない。そう、それは、僕を倒して、先に観客席に向かった黒の剣士の事だ。SAOから囚われていた人々を救ったアイツを放っておいたら……もしかしたら何かしらの方法で、この惨劇を解決してしまうかもしれない。何としても、それだけは避けなくてはいけない。そんなことを考えながら、観客席へと繋がる廊下を走ってゆくと、広い空間の場所へと出る。周りには自販機や長椅子が沢山おいてあり、どうやらここは休憩スペースのようだった。そして、ざっと見20人くらいだろうか、そこに人々が椅子に座って、休憩をしているのが視界に入る。何をしているのかは、わざわば聞かずとも分かる。コイツらは会場に沸いたボスから逃げてきた連中だろう。

 

悪いが逃げてもらっては困る。コイツらはここで始末して、記憶を奪い取っておかなくちゃならない。オーグマーを装着して、この中に<SAO生還者>が居ないかと識別すると、4人程該当する人物が居た。その4人は(Yolko) (Caynz) (Schmitt) (Grimlock)といった女ひとり男三人のメンツだった。シュミットという人物には僕にも見覚えがある。確か、攻略組ギルド<聖竜連合>のディフェンダー隊リーダーだった筈だ。

「 オーディナル・スケール起動」

何度目になるか分からない呪文を唱えると、あたりの景色が仮想のものへと変わり、僕の身体はまるで変身するように黒紫色の戦闘服へと包まれてゆく。身体強化スーツのコアは壊れているので、服に刻まれた紫色に光るラインは、もうその光を失って灰色となっている。

 

記憶を奪う方法は簡単だ、SAO時代のことを強く連想させて、オーディナル・スケール内でHPが0にさせれば、強制的に記憶スキャニングが行われ、ドローンがそれを回収する。今の僕の役割は、ボスの変わりにコイツらを痛めつけて倒すだけ。片手剣を構えて、コツコツと足音をたてながら彼に歩み寄っていくと、ヨルコというプレイヤーがこちらに気づき驚いた表情を浮かべる。こちらの敵意に気づいたのか知らんが、察しが良いのは助かる。フッと鼻で嘲笑し、標的を定めた瞬間彼女が叫んだ。

「あなた、後ろ……!!!」

後ろが何だ……と訝しげに後ろを振り向くと、そこにはさっき逃れたはずだったドラゴン型の怪物<ドルゼルザ・カオス・ドレイク>が僕を見下ろしていた。

「ッッッ!!!」

僕は驚きながらも反射的に、回避行動へと移った。どうやらそれが幸いし、奴の薙ぎ払いを寸前で避けることに成功する。奴の攻撃力はそこらの低層ボスとは異なり、生半可のものではない。オーディナル・スケールでRank8位まで上り詰めた、元<血盟騎士団>副団長、閃光のアスナさんでさえ一撃で倒されたのだから、ガードなしで攻撃を喰らったらひとたまりもなかっただろう。

 

僕がオーグマーを外して逃げても、この怪物はずっと追いかけて来たのだ。僕を殺すその瞬間を狙って。不気味な殺意に当てられて、背中が凍りつく。そしてがくんと、まるで石化デバフでも喰らったかの如く、両足が……いや全身が動かなくなった。これに、僕はあのデスゲームで嫌というほど苦しめられ、立ち向かえず、そのせいで大切なものを失ってしまった。またか、またこれか……。僕を助けてくれる者は、ここには居ない。次の一撃で、僕は殺され、ユナと共に過ごした一年の記憶を奪われてしまうのだろう。全てを悟って、諦めた瞬間‪、怪物の爪が無残にも僕の身体へと振りそそいだ。

はずだった。

「ッッッ……!!何、やってるの!?!?ここは私たちが押さえますから、貴方は早く、逃げて下さい……!!」

そういって、怪物の一撃を剣で受け止めるのは先ほどのヨルコという女性剣士だった。

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