S泊地の日常風景   作:夕月 日暮

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先日ようやく軽巡カッコカリコンプリートしました。
あとは駆逐・海防艦・特殊艦のみ……!
しかし、99まで育てる頃になると、皆愛着わいてきますねえ。


リングの意味(荒潮・満潮・天龍・龍田・名取・五十鈴)

 ある日のこと。

 荒潮と満潮が間宮でスイーツを食べていると、機嫌の良さそうな天龍・龍田・五十鈴・名取が入ってきた。

 

「なにか良いことでもあったのかしら~?」

「さあ」

 

 四人の様子に興味を持った荒潮とは対照的に、満潮は素っ気ない反応を示した。

 今は目の前のスイーツに集中したいのだ。彼女にとっては、久々の贅沢なのである。

 

「もう。食い気ばかりねえ」

「放っておいてちょうだい」

 

 二人がそんなやり取りをしていると、天龍たちがすぐ近くに席を下ろした。

 五十鈴が「あら」と二人の食べているスイーツを目にして目を輝かせる。

 

「そのメニュー復活したんだ?」

「ええ。一日限定みたいですけど」

「ならそれ頼みましょうか」

 

 異議はないようで、四人のところにもスイーツが運ばれてくる。

 なんとなく話しかけやすい雰囲気ができたからか、荒潮は龍田の隣に寄っていった。

 

「なにかあったんですか?」

「あら、分かる?」

 

 龍田は「フフ」と微笑むと、ポケットの中から小さな指輪を取り出した。

 それに合わせて、天龍はさっと、名取は遠慮がちに同じ指輪を出してみせる。

 

「あら、カッコカリの」

「ええ。ようやく出来たのよ~」

「ここまで長かったなー」

「形式的なものとは言え、やっぱり緊張したよ……」

 

 嬉しそうな龍田、感慨深そうな天龍、安堵の息を吐く名取。

 反応は違っていたが、皆喜んでいることに変わりはないようだった。

 

 ケッコンカッコカリ。

 提督と艦娘は『契約』によって繋がっており、提督から得られる霊力によって艦娘は戦う力を得る。

 ケッコンカッコカリとは、その霊力のパスを強化し、単純な契約で得られるよりも強力な強さを得る儀式の俗称だった。

 

「それで、愛の告白みたいなのはあったんですか?」

「な、なかったよ。というか三人同時に渡されるのにそんなことになったら修羅場だし……」

「ま、世の中には全員に愛をうたうタイプの提督もいるみたいだけど」

「本当にいるのかよ。都市伝説の類なんじゃ……」

 

 五十鈴の話に天龍が疑わしそうな表情を浮かべる。

 ケッコンカッコカリは指輪を提督から艦娘に贈るプロセスを必要とする。

 そのため、愛の告白のような意味合いを持つ拠点もあるらしい。

 

 もっとも、S泊地では初代提督の頃からそういう色気のある話とは無縁だった。

 契約強化に足る練度を持つとみなされた艦娘たちには、片っ端から指輪が贈られる。

 今では、泊地にいる半数以上が指輪を持つようになっていた。

 

「で、三人は指輪どこに飾るの?」

 

 五十鈴が興味深そうに尋ねた。

 

「指にはめるんじゃないんですか?」

「そういう人もいるけど、お洒落な飾り方してる人もいっぱいいるのよ」

 

 そう言って五十鈴は髪の毛を少しかき上げてみせた。

 普段は隠れているが、右の耳にイヤリングがついている。

 

「あ、それ指輪ですか?」

「少し細工してイヤリング風にしてみたのよ」

 

 五十鈴がカッコカリしたのは相当前のことだ。

 今回は三人の付き添い役としてついていったのである。

 

「他にはどういうパターンがあったっけ?」

「んー、叢雲は首飾りにつけてたわね。古鷹は右手の小指にはめてた。皐月とかは刀にストラップとしてつけてたっけ」

「お、皐月案良いな。俺もそれにするか」

 

 天龍はいつも愛刀を肌身離さず持ち歩いている。

 それにつけておけば失くす心配もなさそうだった。

 

「アンタたちのところも朝潮・大潮・霞はカッコカリしてたでしょ。三人はどうしてたの?」

「あら、そういえばどうしてたかしら~?」

 

 身近過ぎて意識していなかったのか、荒潮がいくら頭をひねっても、三人が普段指輪をどのように扱っていたかが出てこない。

 そのとき、話に参加していなかったおかげでスイーツを早々と完食した満潮が、ハンカチで口元を拭きながら、

 

「朝潮姉さんは親指に、大潮姉さんは髪留めにつけて使ってる。霞は叢雲と同じで首飾りだった」

 

 スラスラと答える満潮に、周囲から「おお」と声が上がる。

 

「姉妹のこと、よく見てるんだね」

「それにしたってそれだけスラスラ出てくるのは凄いわね~」

 

 名取や龍田が感心する一方、五十鈴は「ほーう?」と悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「そういえば、荒潮もそうだけど、満潮も結構練度良い感じのところに来てるみたいね?」

「……そ、それが?」

「実は姉妹艦がカッコカリする度に、内心自分のときはどんなだろう、指輪どうしよう、って考えてたんじゃないかなーとか」

「そ、そんなわけないでしょ!?」

 

 五十鈴の推測を満潮は即座に否定した。

 ただ、否定の仕方がまずかった。

 顔を真っ赤にして早口で否定しても、説得力というものに欠けてしまう。

 

「……満潮姉さん。もしかしてさっきの素っ気ない反応は、興味あることを隠そうと――」

「うっさい! それ以上言うの禁止!」

 

 荒潮の口に人差し指を押し当てて黙らせる。

 

「そっかー。早く満潮ちゃんも指輪貰えると良いね」

「もしかすると満潮ちゃんのときは愛の告白つきかもしれないわね~」

「ぐぬぬ……あー、もう馬鹿ばっかり! 私帰る!」

 

 スイーツの皿を手に、満潮は席を離れて足早に去ってしまった。

 あらあら、と荒潮は四人にお辞儀をしてそれを追いかけていく。

 なんだかんだ、いつの間にか彼女もスイーツは完食していた。

 

「からかい過ぎじゃねえか?」

 

 二人を見送りながら、天龍が苦言を呈する。

 

「そうかしら? 私たちだって、それくらいのことは考えたわよ。ね、名取?」

「え、あ……うん。ちょっと、ドキドキはしたかな」

 

 龍田に促されて、名取はやや気恥ずかしそうに頷いた。

 

「ま、皆そんなもんでしょ。形式的とは言えケッコンなんて名前ついてるんだし、指輪もらうわけだし」

「なんだ。五十鈴もドキドキしたってのか?」

「いやいやいや。私お富士さんのときだったし――」

 

 そこから始まる、ケッコンカッコカリの四方山話。

 

 そこにどんな意味を持たせるかは提督と艦娘次第。

 だが、そこに至るまでの過程で育まれた絆が代え難いものであることに、変わりはなかった。


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