S泊地の日常風景   作:夕月 日暮

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お久しぶりです。
どうにか年内にイベントを終えて一息つくことができました。ええ、艦これは勿論続けておりますよ!
現在は別の連載をしているのでこちらは不定期になってしまいますが、また適宜投稿していく所存ですので、来年もよろしくお願いいたします!


戦艦たちの忘年会(扶桑・日向・山城・伊勢・長門・陸奥)

 二〇一九年、暮れ。

 深海棲艦との広域的かつ大規模な戦いも一段落つき、S泊地の面々はホニアラ市で思い思いにくつろいでいた。

 

 深海棲艦による襲撃で荒廃した市街の復旧。

 それが、ここ最近の彼女たちの日課だった。

 

 だが、それも年末年始は一休み。

 提督から「一月三日までは全員休め」の命令を受けた艦娘たちは、それぞれ年越しのときを楽しんでいた。

 

「――というわけで、今回もお疲れ様」

 

 市内にあるバーの一角に、六人の艦娘が集まっていた。

 長門・陸奥・扶桑・山城・伊勢・日向の六名である。

 

 陸奥の音頭に合わせて、全員は「乾杯」と杯を打ち合う。

 

「今更だけど、意外と珍しい組み合わせよね、この六人って」

「まず長門があまりこういう場に顔を出さないものね」

 

 揃った顔触れに対する山城のコメントに、陸奥が長門の脇をつつきながら応じた。

 

「良いんじゃない? 日本戦艦チームで集まるっていうのも」

「私はアンタたちと飲んでるのが少し複雑な気分よ、伊勢」

「そうつれないこと言わないでよ、ね・え・さ・ま」

「ぞくっときた。今、ぞくっと来たわ……!」

 

 艦艇だった頃の扱いの差からか、山城はどこか伊勢・日向に対するコンプレックスが拭いきれずにいるようだった。

 もっとも、以前に比べればかなり改善されている。今のような軽口の応酬も、前はとてもできなかっただろう。

 

「……そういえば、日本戦艦チームといえば、金剛たちや大和たちはどうしたの?」

「大和たちは夕雲型に、金剛たちは海外艦チームに持っていかれてしまった。海外艦チームは、今度入ってきたメンバーを交えた多国籍交流会なるものをやるそうだ」

 

 山城は安堵するような吐息をこぼす。

 

「呼ばれなくて良かったわ。私、何を話せばいいか分からないもの……」

「あら。海外艦の間では貴方と扶桑、凄い人気なのに」

「どうせ艦橋が珍しいからって言うんでしょ」

 

 陸奥の言葉に唇を尖らせる山城だったが、長門はそれを笑って否定した。

 

「いや、お前たちの奮戦ぶりを知っている口振りだったぞ」

「西村艦隊の誰かから聞いたのかもしれないわね」

「……そ、それはそれで恥ずかしくなるから、嫌なんだけど」

「お、山城照れてる」

「うっさい黙りなさい伊勢」

 

 和気あいあいと酒を飲みながら語り合う四人。

 一方、片隅に座っている扶桑と日向は、互いに黙ったまま静かに飲んでいた。

 

「……」

 

 ちらりと二人の様子を見て、山城が目線で伊勢に「話を振れ」と訴える。

 やれやれ、と頭をかきながら、伊勢は二人に改めて杯を向けた。

 

「二人とも、今回はお疲れ様。ダバオ沖では長門たちと揃って、獅子奮迅の働きしたそうじゃない」

「ええ、まあ……」

「そうだな、うん……」

 

 どことなく気まずそうに頷く二人。

 

 先日、深海棲艦との間で開かれたダバオ沖海戦において、扶桑と日向は航空戦力の要として長門たちを支援した。

 そんな二人の存在を厄介だと思ったのか、深海棲艦の攻撃は両者に集中。日向が直撃を喰らいそうになったところで扶桑が庇い、重傷を負うことになったのである。

 

 今はこうして回復しているが、戦闘行為はまだ禁じられている。

 常人に比べると傷の治りが早い艦娘だが、それでもしばらくは絶対安静にしなければならないほどの怪我だったのだ。

 

 そんな傷を負った扶桑に対し、日向は「私など庇うからこうなるんだ」と非難の言葉を向けたらしい。

 そのせいか、二人の間には終始微妙な空気が漂っている。

 

(忘年会という名目で集めたのは、失敗だっただろうか)

 

 長門がそんな不安を抱いたとき、山城が「はあぁ~」と大きく息を吐きだした。

 心なしか顔が赤くなっている。どうやら、早くも既に酔いが回っているようだった。

 

「姉様」

「な、なあに?」

「日向に言いたいことがあるなら、言ってやればいいんです。庇った姉様に文句つけるなんて、何様よ何様!」

「む」

 

 山城の剣幕に、日向は若干たじろいだ。

 そんな妹の横腹をつつきながら、伊勢も口を挟む。

 

「いやいや。日向はきっと扶桑に無茶をして欲しくなかったんだろう。別に扶桑の想いまでは非難してないと思うよ? ね、どうなのさ日向」

「いや、それは……」

「なによ、言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」

 

 からかうような伊勢と酔った山城に囲まれて、日向は珍しく助けを求めるような視線を長門たちに向けてきた。

 

「観念して素直に思いの丈言った方が良いと思うぞ、うん」

「そうそう。今更遠慮するような相手はいないでしょ、この場には」

「くっ、味方がいない……!」

 

 やがて観念したのか、日向は両手で降参のポーズを取った。

 この場に白い旗があれば振っていたことだろう。

 

「分かった。悪かった、扶桑。あのときは気が動転していたんだ。言い過ぎた」

「いえ、いいのよ。私こそ、無茶してごめんなさい」

「……まあ、今後もあまり無茶はして欲しくないところだが」

「身体がね」

 

 勝手に動いてしまったのだと、扶桑は語った。

 

 天を覆いつくすような敵の艦載機。

 味方を守るべく、日向は一歩前に出た。

 後は頼むと、扶桑に託すような視線を投げかけて。

 

「そんな日向の姿を見たら、なんだか山城のことを思い出してしまって」

「私……ですか?」

「ええ。まあ、実際にそういうことになってしまったのは、あのときも私の方なのだけど」

 

 あのときというのが何を指すのか、この場に集まった者は全員が分かっていた。

 艦艇だった頃の、レイテのことだ。

 

「不思議なものね。自分が沈むのは、意外と怖くないの。でも、山城が沈む姿は絶対に見たくない。……不思議ね、あのときはそれと同じ想いを日向にも持ったのよ」

「……少し運命の歯車が違っていれば、お前たちは姉妹だった。そういう思いが生じるのは当然なのかもしれないな」

 

 伊勢・日向は元々扶桑型として誕生するはずだった艦だ。

 そういう来歴が、艦娘となったあともどこかで残っているのかもしれなかった。

 

「……まあ、そういうのはどうでもいいが」

 

 日向は酒杯を片手に、扶桑へと差し出した。

 

「頼むから無茶はしないでくれ。私だって、……扶桑が沈む姿は見たくない」

「そうね。互いに、気をつけましょう」

 

 仲直りの乾杯。

 それを見届けた伊勢が、にまにまと笑いながら長門にこっそりと耳打ちする。

 

「今、日向、ね……って言いかけてたねえ」

「そこは弄ってやるな。多分泣くぞ」

「それはそれで見てみたいような」

「怖い姉だな、お前は」

 

 呆れ顔の長門に、ふふふと笑う伊勢。

 酔って日向に絡む山城と、それを止める扶桑。

 そんな五人を見守りながら、陸奥は一人静かに微笑む。

 

「いろいろあったけど――今年も良い終わりを迎えられそうね」


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