S泊地の日常風景   作:夕月 日暮

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今回はちょっとお祭りという舞台を使っていろいろなメンバーを描いていきたいと思います。


四葉祭(1)―お祭り告知編―(第二十二駆逐隊・ウォースパイト・伊26・アクィラ・叢雲)

「ねえむらっち、この四葉祭って何?」

 

 聞き慣れない単語を目にして、水無月は眼前の叢雲に尋ねた。

 ここは泊地にいくつかある多目的ルームの一つだ。今はここに先の作戦で着任した四人と、つい昨日着任したばかりの浦波が集められていた。

 叢雲から配られた紙には、四葉祭開催要項という題が記載されている。

 

「クローバーフェスティバル、なかなか素敵なネーミングね」

「ありがとう、ウォースパイト。名付け親も喜ぶと思うわ。……この四葉祭は春と秋に行われるこの泊地のちょっとしたお祭りよ。当日は泊地の大部分を一般開放して催し物をしたりするの。島の人たちだけじゃなくて島の外の人たちも訪れるわ」

「へえ、それなら結構規模は大きそうだね」

 

 ここに着任してから一カ月と少し経った水無月だったが、普段泊地に外の人が出入りするのを見たことはほぼなかった。島の人たちはたまに艦娘やスタッフを尋ねてくることもあったが、わざわざ島の外から人が来たりするのを見たことはない。

 

「で、四葉祭は大きく分けて四つの部門で構成されてるの。艦娘は原則どれかに属して参加することになるから、明後日までに決めてもらいたいのよ」

 

 改めて紙に書かれている内容を見る。

 細かいことを省いて要点だけ抜き出すと、四つの部門というのは選挙・武勇・知謀・団体で、艦娘はそれぞれ参加部門のトップを目指して競い合うことになる。

 選挙部門はもっとも指揮艦として相応しい者は誰かを、武勇部門はもっとも強い艦娘は誰かを、知謀部門はもっとも知略に長けた艦娘は誰かを、団体部門はもっとも良いチームワークを発揮する隊はどこかを決めるのだという。

 

「ちなみに最初はとりあえず自信のある分野に挑んでみるのが良いと思うわ。大抵その自信へし折られるかもしれないけど」

「怖いこと言わないでよ」

「……ちなみに武勇部門、前回はどなたが参加されていたのかしら?」

 

 ウォースパイトは武勇部門に興味があるのだろう。戦艦として個の強さを競ってみたいと思うのはそう不思議なことではない。

 

「武勇部門はだいたい重巡、戦艦、空母組の参加が多いわね。春のときは大和・大鳳・大井がトップ3を飾って隼鷹辺りがビッグスリーだとか騒いでいたわ」

 

 性能面ではトップクラスの大和型に攻防揃った装甲空母、圧倒的な雷撃力を有する重雷装巡洋艦。確かに武勇部門のトップを飾るのに相応しいメンバーだ。

 

「さすがヤマトね……基本スペックもそうだけど、練度も非常に高い。私も正直まだ勝てる自信はないわ」

「私も、あの装甲は貫けそうにないなあ」

 

 ウォースパイトと伊26が大和の実力について評した。水無月も演習で何度か見かけたが、二人と同じような感想を持っていた。この泊地で彼女に勝てる艦娘はそう多くはないだろう。

 

「あ、でも四葉祭は二回連続で同じ部門に参加することはできないから今言った三人は今回参加しないわよ。今回参加しそうなので優勝候補といえば長門、武蔵、赤城辺りかしら」

「ムサシもヤマトと同等の実力者よね……」

「長門さんもそれに引けを取らない強さだよね……」

「アカーギも参加するの?」

 

 赤城の名にアクィラが反応した。彼女はどこか赤城やグラーフを意識している節がある。もしかするとライバル視しているのかもしれない。

 

「多分ね。赤城は前回知謀部門に参加してたから、今回出るなら選挙か武勇だと思う。団体部門は空母組あんまり参加しないのよね」

 

 説明書きを見ると、団体部門は何人かで集まってお店を出したりイベントを開いたりするらしい。どちらかというと企画力や計画性を問われる分野らしかった。

 

「純粋な戦闘力じゃ大型艦にはなかなか勝てないし、駆逐艦や潜水艦は知謀か団体に参加することが多いわね」

「ねえねえねえ、叢雲ちゃんは何に出るの?」

 

 伊26が手をあげて質問した。叢雲は「私?」と聞かれてしばらく頭を捻った。

 

「前回は団体部門で参加したからそれ以外ね。まだ決めてないけど、多分武勇部門になるかも」

「もしかして叢雲姉さんって戦艦並に強いとか……?」

「そんなわけないでしょ浦波。ただなんでか長門から武勇部門に出ろ出ろってしつこく言われてるのよ。散々模擬戦でやりあってて八割方負けてるんだけどね」

「そうなんだ。……駆逐艦で戦艦に二割勝ってるって十分凄い気もするけれど」

 

 叢雲は「いやいやいや、まぐれ勝ちよ」と手を振った。

 

「ま、あんまり難しく考えても仕方ないし迷ったらいろんな人に話を聞いてみると良いわ。一番大事なのは祭を楽しむことだから、一番面白そうだと思ったのに出れば良いと思う」

 

 そう叢雲が締めくくって、その場はお開きとなった。

 

 

 

「あ、水無月ちゃん帰ってきた!」

「お、ふみちゃんじゃん。どうしたの?」

 

 寮に戻ってくると文月に長月、そして皐月が待ち構えていた。

 

「浦波たちと一緒に叢雲から呼び出されたと聞いてな。四葉祭の件だろう?」

「ながなが鋭いね」

「その呼び方は……いや、いいか。ところで水無月、お前は何に参加するのかもう決めたのか?」

「うーん、全然。ただ武勇部門は参加しても一回戦負けしそうな気がするからやめとこうかなーって思ったくらい」

「ああ、うん。それはそうだね……」

 

 皐月がうんうんと頷く。

 

「ボクも一度参加してみたことあるけど、だいたい運が良くても一回か二回勝つと戦艦か空母、重巡の人たちとぶつかるからね……。最初から夜戦前提ならどうにかなるかもだけど、あれはきついよ」

「でねー、水無月ちゃんもあたしたちと団体部門に参加しないかなって」

 

 駄目かな、と文月に手を握られた。

 

 ……うーん、これはずるい。ふみちゃんにこう言われては断れるはずがないよ。

「分かったよふみちゃん。せっかく二十二駆全員揃ったんだし、このメンバーで何かやってみよっか!」

「ふ、やはり文月に乞われては断れないか。分かるぞ水無月」

 

 長月が腕組みをしながらふふんと笑みを浮かべていた。

 

「それじゃ早速何やるか決めようか。団体戦は長丁場になるし、予算確保とか資材調達も自分たちでやらないといけないからね。早め早めに動いていこう!」

「お、さっちんやる気だね。それなら水無月も頑張るかな!」

 

 二十二駆全員で「おー!」と掛け声をあげる。

 このメンバーなら面白いことになりそうな、そんな予感がした。

 

 

 

「えー、お化け屋敷がいいよぉ」

「お化け屋敷は怖……いや、うん。そうだな……クレープ屋なんかどうだ?」

「いやいや、ここは射的だよ射的!」

 

 各人の意見がぶつかり合う。かれこれ三十分はこの調子だ。

 

「もう、これじゃまとまる気がしないよ~」

 

 皐月の悲鳴が寮に響き渡る。

 四葉祭開催まで、まだ少し時間がある日の光景だった。


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