S泊地の日常風景   作:夕月 日暮

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わんこそば、実は挑戦したことがありません。
いつかは挑戦してみたい……。


四葉祭(4)―お祭り開催編―(第六戦隊・皐月・ウォースパイト・叢雲)

 その日、泊地は珍しく多くの人で賑わっていた。

 普段から常駐している艦娘やスタッフだけではなく、島の人や外から来ている人々が大勢いる。ソロモン諸島の人々、日本からやって来た人々。初めてここを訪れる人もいれば顔なじみになりつつある人もいるし、中には自衛隊や政府のお偉方もいる。

 

「賑わってますねえ」

 

 雑踏の中、一人悠々と歩きながら青葉は愉快そうに周囲を見渡した。

 彼女の役目は、祭りの写真を撮ってアルバムを作成すること。出来上がったアルバムは後日艦娘たちやスタッフには無償で、外部の人にはお手頃価格(自称)で提供することになっている。売上は泊地の運営資金になるので、貧乏泊地としてはそれなりにアルバム作成も重要視されていた。

 

「青葉ー、はいこれ」

 

 どこかに行っていた衣笠が駆け寄って来て、青葉に焼き鳥を差し出した。

 

「おっ、塩焼き鳥とは分かってるねガサ。んー、美味しい!」

「そりゃ普段から塩塩言われてるからね。私としては断然たれ派なんだけどなあ」

 

 衣笠の手にも青葉のものと同じカメラがあった。一人だけでは祭りの写真を撮りきれないので、何人かに手伝いを頼んでいるのだ。衣笠もその一人である。

 

「この焼き鳥はどこで?」

「潜水艦の子たちが屋台出してたわよ。焼き鳥、焼きトウモロコシ、わたあめ等々。大型艦対策で購入数制限ついてたけど、もっと買いたかったなあ」

「ガサは食べるの好きだなあ。それなのにあんまり太らないというのはずるい!」

「いやいや、これでも食後の運動とかきっちりやってますから!」

 

 二人でそんなやり取りをしながら祭りの中を歩き回る。

 

「おっ、青葉さーん」

 

 皐月の声がした。大部屋の前にある受付の机に鉢巻きを巻いた皐月の姿が見える。

 早速そんな皐月の姿をパシャリと撮る。

 

「どうも皐月さん。どうですか、調子は」

「盛り上がってるよ。二人も参加してく?」

 

 皐月は自身の横にあるスコアボードを指し示した。

 スコアボードには「一般:216杯」「艦娘(駆逐艦・潜水艦以外):365杯」とあった。更にその横には皐月賞・水無月賞・文月賞・長月賞とある。

 

「二人は重巡だから艦娘コースになるね。今の最高記録はラバウルの大和さんだよ」

「勝てそうな気がしないので遠慮しときます」

「右に同じ」

「そっか。最高記録更新したら豪華景品、できなくてもボクたちの記録越えたら景品あげたんだけどなあ」

 

 部屋の中を覗き込むと、水無月・文月・長月がせわしなくそばを配っていた。人の入りは結構ある。成功している部類と見て良さそうだ。

 

「代わりと言ってはなんですが、お写真撮らせてもらっていいですか?」

「どうぞどうぞ。とびきりいいやつお願いね!」

 

 親指を立てて応じた皐月に、青葉は自身も親指を立てて返すのだった。

 

 

 

 武勇部門は演習システム――仮想空間による戦闘――で行われる。

 普段は艦娘のデータを使ったCPUと戦うのだが、今回は対人戦ということになる。その様子は外部端子からモニターに映し出されて観客にも見えるようになっていた。

 対戦者はそれぞれトレースルームと呼ばれる部屋に入り、実際に海域へ出撃しているのと同じ感覚で戦闘を行うことができる。

 痛覚のオン・オフも自由だ。実戦と同じ感覚で訓練することを重視する者はオンにするし、訓練ならではの無茶をしたい者はオフにする。四葉祭では観客を不安にさせないようにという配慮からオフで固定されるのだが。

 武勇部門はトーナメント制で、今は準決勝が行われていた。

 

「やっぱ上位に残る連中は皆ちょっとおかしいくらい強いなあ」

 

 加古が感心とも呆れとも取れるような呟きを洩らした。

 

「加古はあんまり興味なさそうだよね」

「敵を倒してのんびり寝たりお酒飲めればいいかなあ。古鷹だってそうだろ?」

「うーん、私はあんまりお酒は得意じゃないけど……確かにそこまで強さにこだわりはないかな。もう沈まないって決めたから、そのための強さは欲しいけど」

「あー、うん。生きるための強さなら要るねえ」

 

 二人でそんな話をしていると、若干暗い表情のウォースパイトがやって来た。

 

「Hello, フルタカ、カコ。二人は見学?」

「はい、青葉に頼まれて撮影係です」

「ウォースパイトの雄姿もしっかり撮っておいたよー」

「ううっ……」

 

 加古の言葉に、ウォースパイトは無念の表情を浮かべた。

 

「雄姿と言っても、一回戦負けです……。それも駆逐艦相手に負けるなんて」

「いや、あれは相手が悪かったよ。あたしだって清霜相手は嫌だ」

 

 ウォースパイトは一回戦で清霜と戦った。決して悪くはない動きだったのだが、ぎりぎりのところですべて攻撃を避けられ、至近距離から魚雷を喰らって中破、最後に夜戦でとどめを刺されてしまった。

 

「うちの清霜ちゃんは大本営からも『バトルシップ』って異名を貰うくらいの武闘派だから……。練度も駆逐艦の中だと磯風ちゃんと並んで二位なんですよ」

「なるほど。その情報を聞いて少しだけ慰められました」

 

 そうは言いつつもウォースパイトの表情は晴れない。

 

「その悔しさがあれば大丈夫よ」

 

 そんなウォースパイトの肩をポンポンと叩いたのは叢雲だった。

 

「叢雲ちゃんお疲れ様。惜しかったね」

「ありがと古鷹。長門ったら初っ端から全力全開で仕掛けてくるんだもの。いきなり大破させられたら何もできないわ」

 

 叢雲は一回戦でいきなり長門とあたり、猛攻に押し切られる形で敗退した。

 その長門も二回戦で瑞鶴のロングレンジ攻撃に敗退している。トーナメント形式なのでどれだけ強かろうと組合せ次第ではあっさり敗退することがあるので、武勇部門は存外展開が読めない。

 

「勝負は時の運でもあるし、次は負けないって意気込みがあればいいと思うわ。さっきの試合だって、結果だけ見れば清霜のパーフェクト勝利だったけど、一発でも当てられてたら貴方の勝ち確定だったと思う。実際かなり際どかったわよ」

「……そうですね。落ち込んでばかりもいられません」

 

 両手で頬をパンと叩き、ウォースパイトは気合を入れ直した。

 自分に足りないもの、磨き上げていくべきもの。それを見直して次こそは勝つ。彼女の表情はそう物語っていた。

 

「はい、それじゃ気合入ったところでこれお願いね」

 

 と、そこで叢雲はウォースパイトにデジタルカメラを渡した。

 

「……ムラクモ。これは?」

「撮影係用のカメラ。良いと思った写真適当に撮ってね」

「えっ、いえ、その」

 

 突然のことに戸惑うウォースパイトを尻目に、叢雲は手をひらひらと振りながら去っていった。

 

「多分、気分転換にいろいろ見て回ったら、ということだと思いますよ」

 

 古鷹がフォローを入れる。

 

「なんだったら、あたしらと見て回るかい?」

「え、ええ。そうしていただけると助かるわ……」

 

 困った表情を浮かべてカメラを眺めるウォースパイトを見て微笑む古鷹と加古。

 試合の展開に、観客席はますます盛り上がりを見せていた。


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