S泊地の日常風景   作:夕月 日暮

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気づけばもうすぐ秋イベ。
一期の締め括りも近づいて来てるので、盛り上がることを期待したいですね。


流れものの即興曲(睦月・如月・霧島・比叡)

 その日、駆逐艦睦月・如月は他の皆と一緒に近場の浜辺で掃除をしていた。

 大きな嵐が去った後などは、浜辺に大量の漂着物が溜まっていることがある。それを片付けているのだった。

 

「今回も大分溜まってるわねぇ……」

「よく分かんない生き物の死骸とかも転がってるね」

 

 げんなりした様子で睦月が呻いた。

 今回は結構な長期間大雨が続いた。いつもより漂着物も多い気がする。

 使えそうなものは分類してまとめておかなければならないし、この掃除は結構大変なのである。今回はとりあえず十人前後で来ているが、もうちょっと応援を呼んだ方が良いかもしれない。

 

「近場で貨物船でも沈んだのかしらね。いろいろと積荷っぽいものが多いけれど……」

 

 折り畳み式の箱が結構目につく。他にも娯楽用のオモチャと思われるものがいくつか見受けられた。

 

「あら。これ……」

 

 オモチャの中に紛れて、弦楽器らしきものが転がっていた。

 細かいところは破損しているようだが、全体として見るとそこまで酷い状態ではなさそうに見える。

 

「およ。それギター?」

「私もあまり詳しくはないけど……」

「貸して貸して」

 

 如月から楽器を受け取ると、睦月は早速ポロロンポロロンと弦を弾き始めた。

 

「睦月ちゃん、楽器できるの?」

「んーん、適当」

 

 適当な鼻歌を歌いながら弦を弾き続ける睦月。それはそれで微笑ましい光景だったが、楽器の奏でる音は少々歪な感じがした。

 

「やっぱり修理しないと駄目みたいね」

「うーん、でも楽器の修理って……明石さんたち出来るのかな」

「艤装とはまた違うものね」

 

 泊地には工作艦明石や艤装の研究開発を行う技術部の面々がいるが、さすがに楽器は専門外のはずだ。

 

「せっかく拾ったものだけど、諦めるしかないわね」

「むむ……残念だけどやむを得ないにゃしぃ」

 

 そのとき、諦めて楽器を置こうとした睦月の肩に手を置く者がいた。

 

「諦めるのはまだ早いですよ」

 

 眼鏡をキラリと光らせながら楽器を取ったのは、高速戦艦の艦娘――霧島だった。

 

「あら、霧島さん直せるの?」

「いえ、残念ながら私は打楽器専門なので弦楽器はサッパリです」

 

 言われて、二人は脳裏にドラムを叩く霧島の姿を思い浮かべた。妙に様になっている。

 

「ですがお姉様たちは造詣が深かったはずです。掃除の後で二人のところに持ち込んでみましょう」

「おおー!」

「――なので、今はきちんと掃除に集中しましょうね」

「……あ、はい」

 

 どうやら、遊んでいる二人を注意しに来たらしい。

 にこやかな霧島の表情の裏に蒼白い炎のようなものを見て、二人は揃って敬礼するのだった。

 

 

 

「うん。これならどうにか直せると思うよ」

 

 しばらく弦楽器を眺めていた比叡は、二人に向かって力強く頷いてみせた。

 ここは金剛と比叡の部屋。金剛は不在だったが、比叡は部屋で暇を持て余していたようで、快く弦楽器を見てくれた。

 

「……結構楽器類多いんですね」

 

 比叡が弦楽器を確認している間、睦月たちは部屋の様子をそれとなく見学していたのだが、割と沢山楽器が置かれているのが目についた。

 

「金剛お姉様が楽器好きなんだ。最初は『優雅なクラシックこそ至高デース!』って言ってたんだけど、提督の影響で和楽器にハマって、そこから段々ジャンル問わずあらゆる楽器に手を出すようになって」

「そういえば司令官……新さんは和楽器好きだったわね。そんなところからこんな影響が……」

「言われてみれば、たまに金剛さんたちゲリラライブしてるの見たことあるにゃしぃ」

 

 さほど頻度は多くないが、金剛姉妹が揃って何かを演奏することがあった。あれはどうやら提督の影響によるものらしい。

 

「楽しいよー、睦月ちゃんたちもやってみたらいいんじゃないかな」

「正直楽器は有り余ってるから、必要だったら貸し出せると思うわよ。漂着物とか捨てられそうだったものを修理したのがほとんどだから、品質は保証できないけど」

「そういうわけだから、修理はお手の物なんだよね」

 

 確かに部屋の楽器はどれも年季が入っていた。ところどころ外観に違和感のある個所も見受けられる。ただ、試しに使ってみると音はきちんと出た。

 

「と言っても睦月たち楽器なんて全然やったことないにゃしぃ」

「そうねえ。人間の学校ではリコーダーやるって聞くけど、ここじゃそんなに数揃えられないからってやってないし……」

「プロとしてやっていくわけでもなし、まずは適当に楽器を使うところから始めれば良いと思うわよ」

 

 霧島からおそろしくざっくりとしたアドバイスが出た。比叡もうんうんと頷いているので、金剛姉妹はそういうスタンスで音楽をやっているのかもしれない。

 

「何か好きな音楽とかあるなら、それを倣ってみるのも良いかもしれないね」

 

 霧島のアドバイスに戸惑う二人に、比叡が助け舟を出した。

 

「好きな音楽か……」

 

 如月が手に取ったのは竹製の横笛だった。どことなく和楽器らしい感じがする。

 試しに吹いてみると、高めの抜けるような音色が出た。

 

「おー、上手い上手い。如月ちゃん、和楽器得意だったっけ」

「ううん。前に新さんが吹いてるのを見たことがあるだけ。好きな音楽かどうかはちょっと自信ないけれど――なんとなく印象に残っていたから」

 

 普段あまり聴くことのない音色に引きずられたのか、如月は昔を懐かしんでいるようだった。その表情は嬉しそうでもあり、どことなく寂しそうでもある。

 一方、睦月は三味線のようなものを引っ張ってきた。セットになっていた撥で弦を弾き「あーよいよいっ」と声を出す。ベンベンと音を奏でながら、適当に即興のものと思われる歌を歌い始めた。

 明らかに適当にやっているのだが、不思議と様にはなっている。

 

「睦月ちゃん、楽しそうね。なんだか見てる方も楽しくなってくるわ」

「そ、そうかにゃー。……うん、音楽全然分かんないけど、こうやって楽器弾いて歌うのは気持ちいい感じするよ」

「その三味線でいいなら、しばらく貸してあげるよ」

 

 二人の様子を見ていた比叡が、笑いながら言った。

 

「笛の方は金剛お姉様のだから私から貸すことは出来ないけど、作り方なら教えてあげられると思う。どうする?」

「……そうね。せっかくだし、やってみようかしら。手作りというのも、うちらしいといえばうちらしいし」

 

 横笛を比叡に返しながら如月が頷く。

 彼女の脳裏には、かつて司令官が笛を吹いていた光景が浮かんでいるのかもしれなかった。

 

 

 

 それからしばらく経った日の昼下がり。

 金剛姉妹が揃って紅茶を飲んでいると、どこからともなく和楽器の演奏が聞こえてきた。

 正直、あまり全体としてはまとまっておらず、しっちゃかめっちゃかな感じではあるのだが――。

 

「なんだか、楽しそうに演奏している様子が浮かぶようです」

 

 榛名のそんなコメントに、比叡と霧島は顔を見合わせて笑い合うのだった。


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