S泊地の日常風景   作:夕月 日暮

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三隈と鈴谷は恋愛ドラマとか結構好きで涙もろい性質、最上と熊野はハリウッドのアクションものでわーっと盛り上がってそうというイメージ。
泊地のネット環境は90年代半ばから後半くらいのイメージですかね(うろ覚え)。


過疎地は辛いよ(三隈・最上・熊野・鈴谷・青葉・夕張)

「この泊地にいながら流行に乗っていく方法ってないかしら」

 

 ため息をこぼしながらそんなことを呟いたのは、最上型二番艦の艦娘・三隈だ。

 

「どうしたんだい、藪から棒に」

 

 うどんをすすりながら返したのは一番艦の最上である。

 

「いえ、先日資料室でパソコンを使ってインターネットをいろいろ見てみたのだけど」

「ネットサーフィン、というやつですわね」

 

 若干どや顔で補足したのは四番艦熊野だ。その隣には三番艦の鈴谷もいる。

 今、最上型の四人は姉妹水入らずで昼食を取っているのだ。

 

「サーフィンをした覚えはないのだけど……」

「私もなぜそのように言うのかは不思議なのだけど、インターネットでいろいろなものを見て回ることをネットサーフィンというのだそうよ?」

「そうだったの。熊野は博識ね」

「お二人さーん、話が逸れてる逸れてる」

 

 脱線しかかった流れを鈴谷が慌てて修正する。

 

「流行に乗っていきたいって話でしょ? でも三隈がそんなこと言い出すのって珍しいじゃん。あんまり流行とかそういうのに興味なさそうな感じしたけど」

「そんなことはないわ。今年の流行語大賞とか漢字一文字とか欠かさずチェックしているもの。なになに大賞とかのニュースだってよく見ているのよ」

 

 それは流行に乗っているというのとはまたちょっと違うのでは……という言葉を鈴谷は飲み込んだ。また脱線しかねない。

 

「でも、ふと思ったの。この泊地では――そういう流行がまったく入ってこないということに」

「それは仕方ないんじゃないかなあ。だってここ、控え目に言って田舎もいいところだし」

 

 最上の回答はドライなものだったが、実際そうとしか言いようがなかった。

 ソロモン諸島の首都ホニアラへ行くにも結構な時間を要するし、日本や台湾――オーストラリアにも気軽に行けるような距離ではない。コンビニなんてあるはずもなく、それどころか店らしい店は泊地内で独自に開かれているものくらいしか見ることがない。泊地の店はこの食堂・間宮や鳳翔の居酒屋、理髪店や日用雑貨店がせいぜいで、生活に必要なもの以外は全然ない。

 本やゲームは取り寄せか出張時にまとめ買いするしかない。お洒落をしたければ自作した方が早いという場所である。

 

「ここで流行に乗りたいなら、ここを一大都市まで発展させて人や流行を呼び込むくらいしないと無理だよ」

「何十年かかるか分かったもんじゃないね……。成功率も恐ろしく低そうだし」

「この泊地はこの泊地で独自の文化を築いていけば良いのではなくて? ほら、江戸時代の日本みたいに」

「むう……」

 

 あまり乗り気ではなさそうな三人に、三隈はやや不満げな様子を見せたが――その場ではそれ以上話を蒸し返さなかった。

 

 

 

「ふむふむ、それで私のところに来たというわけですか」

 

 翌日、三隈は資料室で青葉と向き合っていた。

 

「青葉はいろいろな情報を取り扱っているから、流行にも詳しいでしょう? この泊地が流行に取り残されないような方法って何かないかと思って」

「うーん。率直に言って最上さんたちと同様なかなか難しいという見解ですが……それで済ませてしまってはせっかく頼ってきてくれた三隈さんに申し訳ないですしね。同郷のよしみでもありますし、もう少し考えてみましょう」

 

 青葉の言葉に三隈はぱっと顔を輝かせた。

 

「ただ、一つ疑問なのですが三隈さんは具体的に何をしたいんです? 流行と言ってもジャンルは様々でしょう」

「ジャンル……。そうね、私が興味あるのはドラマや映画かしら」

「今時ならインターネットで配信されてるものも多いですよね。……あ、でもここだと回線速度遅すぎて動画コンテンツは実用に耐えないんでしたね」

 

 動画系コンテンツを見ようとしても、すぐに「読み込み中」と表示されて再生が中断してしまう。それが泊地の現状だった。

 これはインフラ面によるところが大きいので、泊地のシステム担当者に頼んでもどうにもならないだろう。

 

「時折インターネットで流行りのドラマや映画のあらすじやキャッチフレーズを見て、とても面白そうなものがあるのだけど、実際にそれを見ることが敵わない――ということが何度もあって」

「ブルーレイやDVDが出るまでにはタイムラグがありますしねえ。こっちまで取り寄せるとなると更に時間がかかりますし。青葉も昨年ブームを巻き起こした映画観たかったんですけど、未だ観れてないんですよ」

 

 んー、と青葉は首を捻りながら考えを巡らせていた。

 インターネットは無理。記録媒体で見れるようになるのも時間がかかる。当然電波なんかも入らない。正直、お手上げと言ってもいい状況である。

 

「……自前で映画館を建てるっていうのも上映権どうするんだって問題があるしなー。せめて購入したのをダウンロードできれば再生はスムーズにできると思うんだけど……」

「いくつかそういうサービスはあるわよ」

 

 と、そこで急に第三者の声がした。

 三隈と青葉が声の主に視線を移す。そこにいたのは、機械工学に関する本に目を通していた夕張だった。

 

「ダウンロードしてオフラインでも視聴できるようにして欲しいっていう要望は結構あるみたいで、そういうのに対応してるのサービスは探すと結構出てくるわ。非対応のサービスもあるみたいだけどね。オフライン対応するなら悪用されないようコンテンツにガードかけないといけないから、多分コストがかさむんだと思うけど」

「ほほう、夕張さん詳しいですね」

「まあね。たまにアニメとかそうやってダウンロードして見たりすることもあるし」

 

 そういえば夕張はアニメ鑑賞が趣味だった。今どきのアニメもそうやってチェックしているということなのだろう。

 

「夕張、良ければ三隈にそういったサービスのこと教えていただけないかしら」

「いいよー。ジャンルは違えどエンタメを愛する者同士。こうやって同好の士が増えていくのは私としても嬉しいしね!」

「……ふむ。では青葉も後学のために……」

 

 わいわいと盛り上がりながら、三人は資料室にあった共用パソコンの電源をつけるのだった――。

 

 

 

「くっ……どうなってんだこりゃあ」

 

 数日後、泊地のシステム担当である板部――彼は人間のスタッフである――は頭を抱えていた。

 ネットワークが妙に遅いと思い調べてみたところ、ここ最近のトラフィック量がこれまでと比べて急増していた。

 普通のテキストベースのサイトすら数秒待たないと開けない。酷いときはタイムアウトすることもある。

 泊地の各所から苦情が来ているが、通信量の増加は簡単に解消できるものではない。

 

「流れからすると外部からのDoS攻撃って感じじゃなさそうだし、泊地の誰かがアホみたいな量のデータ取ろうとしてるな……。1人や2人じゃねえ。何ヵ所も同時にやってやがる……。IPアドレスから……これは多分、動画サービスか……?」

 

 通信データを解析しながら、板部は眉間にしわを寄せた。

 

「仕方ない。帯域制限かけて……あといくらかアクセス制限かけとくか。これじゃ通常の業務に支障が出るしな」

 

 恨んでくれるな、と呟きながらキーを叩く。

 その瞬間、大量に流れていた通信はパタリと止まった。

 

 

 

 後日。

 快適なインターネットを使用するため、と題したチラシが泊地の各寮に届けられた。

 そこにはネット利用に関する泊地独自の規則やら制限やらが載っており、各所から大ブーイングを浴びたという。

 更にそこから回線増強運動が起こり、泊地の資産管理を行う大淀の頭を悩ませることになるのだが――それはまた別の話である。


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