S泊地の日常風景   作:夕月 日暮

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英国面をネタにしようとして普通の日常会話みたいになってしまった……。
英国面とはいったい……。


良いものを作るためには諦めないことが肝要である(ウォースパイト・明石・瑞鶴・夕張)

「新兵器を考案すべきだと思うのです」

 

 工廠の一角で行われるS泊地技術部の定例会議。

 その席で力強くそう宣言したのはウォースパイトだった。

 

「深海棲艦は進化し続けています。我々も現状の戦力に甘んじることなく、新たな力を作り出すべきです」

「既存兵装の改修だけでなく、新規兵装の開発を試みるべき、ということですか?」

 

 明石がウォースパイトの真意を確認すると、彼女は力強く頷いてみせた。

 

「基地航空隊の実装によって、開きつつあった彼我の戦力差は大分縮まったと聞いています。また、米国から提供された技術を基にした夜間航空機の存在によって、空母の活躍の場は大きく広がったと言ってよいでしょう。『当たり前にできること』というのは、常にアップデートしていかなければならないと思うのです」

「その発想は素晴らしいものだと思いますが」

 

 明石の態度は煮え切らない。

 ウォースパイトの言っていること自体は良い。

 問題は、彼女が技術部の部員ではないのに今回突然会議に飛び入り参加してきたこと、そして何より彼女が『あの英国』の艦娘だということである。

 時折「なぜそんなのを作った」と言いたくなるような珍兵器を生み出すことでお馴染みの英国。それがウォースパイトの中で脈々と息づいているのであれば、警戒するのは当然のことと言えた。

 

「そこで私はこんなものを考えました」

 

 ウォースパイトは持っていたスケッチブックをデスクの上に広げた。

 そこに描かれているのは、平べったい円形状のものである。

 

「なんだか、お掃除しそうな形状に見えますね」

「着想はそこから得たわ」

「あ、そうなんですね」

 

 素直に認めるウォースパイトに、明石が何とも言えない表情で相槌を打つ。

 他の拠点の明石であればここで食いつくのかもしれないが、このS泊地の明石は周囲に振り回されることが多い管理職ポジションなので、今一つノリが悪い。

 その分、悪ノリしやすい他の技術部のメンバーは、ウォースパイトの発表に関心を示していた。

 

「それで、これは何をするものなんだい?」

 

 航巡代表の最上が尋ねると、ウォースパイトは待っていましたと言わんばかりに微笑んだ。

 

「これは海域内を動き回る自立式機雷よ」

「自立式機雷……」

 

 ウォースパイトの説明を聞いて、技術部の面々はその機雷を思い浮かべた。

 脳裏に浮かぶのは、海中を覚束ない様子でふわふわと緩やかに移動し、何かにぶつかって爆発する代物である。

 

「ちなみにそれ、作動条件はどうするの?」

 

 当然の疑問を空母代表の瑞鶴が尋ねた。

 機雷の作動条件は重要事項である。

 

「もちろん軽はずみに作動しないよう条件は厳しくするつもりよ。磁気や音響、水圧――それら複数の要素から判断して、深海棲艦だと判断した場合のみ作動するものにするわ」

「……一応補足しておきますが、現状深海棲艦と私たち艦娘を今挙げた要素で識別する術って見つかってないですよ」

「更に言うと普通の艦船も区別つかないはずよ。自分で移動するような機雷だと前もって設置マップ用意することもできないし、万一民間船巻き込んだらまずくない?」

 

 明石と瑞鶴の指摘に、ウォースパイトの表情がスッと醒めたものになった。

 と言っても、それはほんの数秒のこと。すぐに「コホン」と咳払いをして、スケッチブックのページをめくる。

 

「私はこんなものも考えました」

「スルーしたのう」

 

 初春の言葉もスルーして、ウォースパイトは続ける。

 

「次のアイディアはこれよ!」

 

 スケッチブックに描かれているのは航空基地だった。

 ただ、その航空基地には妙な点があった。船の上に設置されているのである。

 

「これはなんだい?」

「移動式航空基地よ。現状、基地航空隊は極めて優秀な能力を発揮しているわ。ただ一点、航続距離の短さが欠点になることが多かった。それを解消するためには――海上を移動できる基地を用意すれば良い!」

「それもう陸上攻撃機を陸攻とは呼べなくなりそうじゃのう」

「それは些細なことよ。どうかしら瑞鶴、航空機を扱う貴方の見解を聞かせて欲しいわ」

 

 話を振られて、瑞鶴は何とも困った表情を浮かべた。

 ウォースパイトの言う通り、基地航空隊は基地の設置場所次第で敵まで届かないというケースがある。

 それをどうにか改善したいというのはもっともなことだ。

 

「……本物の陸攻は艦攻とはサイズや運用が異なるから、こういう空母みたいなものを用意して使うのはナンセンスなのよね。それなら艦攻使えば良いわけだし。私たちの兵装については本物と少し事情が違うけど、足場が不安定になるのはマイナスになるし、基地を丸ごと沈められるリスクが出てくるのは無視できないと思うけど」

「では、こんなのはどうかしら」

 

 ウォースパイトはさして動じることなくページをめくった。

 そこに描かれているのは、異様に大きな弓だった。比較対象ということなのか、すぐ隣に「赤城の弓」とメモがついた弓が描かれている。

 

「陸攻の改善が難しいのであれば艦攻を強化すれば良い。弓を通して艦載機を扱う艦娘であれば、弓を強力なものにすることで射程距離等を伸ばせるのではないかしら」

「こんな大きいのを使えと……?」

「昔の日本には複数人で扱う弓があると聞いたことがあるわ」

「つまりコンビで使えと」

「一航戦・二航戦・五航戦ならできるのではないかしら」

 

 ウォースパイトの発言は別に皮肉でも何でもなさそうだった。

 素で出来ると思っている表情をしている。

 

「別に弓を強化してもあんまり変わらないと思うけどな。龍驤さんたちみたいな術式で艦載機出すタイプの空母とか見てると」

「むぅ……。確かに龍驤たちは別に勢いよく艦載機を発射しているわけではないわね……」

 

 

 

 議論を続けるウォースパイトと技術部の面々を見ながら、明石は隣で黙っていた夕張にこっそり耳打ちした。

 

「けど、どうしたのかしらウォースパイトさん。突然こんな風にあれこれと提案してくるなんて」

「あー……」

 

 と、夕張は若干明後日の方向に視線を逸らした。

 これは何か知っているなと、明石は夕張をじっと見据える。

 その視線に根負けしたのか、夕張は両手を上げて降参のポーズをした。

 

「この前たまたま『ここが変だよ! 珍兵器大辞典』ってのを見てたのよ」

「何その本」

「図書館になぜかあったのよねえ。摩耶に聞いてもいつ置いたか覚えてないって言ってたけど」

「……まあ、それは置いておくとして。それで?」

「読んでたところにウォースパイトが来て、表紙がパンジャンドラムだったからか、食いついて来てねえ」

 

 パンジャンドラムというのは、かつてイギリスが開発していたロケット推進型の陸上爆雷である。

 上陸艇から発射し敵の防御設備を破壊するための装備だったが、いろいろと致命的な欠陥があって開発中断となった。

 

「まあ、その本気になるみたいだったから貸してあげたのよ」

「なんて残酷なことを……」

 

 一生懸命様々なアイディアのプレゼンをするウォースパイトに、明石は同情の眼差しを向けた。

 

「……途中で止めようかと思ったけど、今の話聞いたら彼女の気の済むまでやらせてあげた方が良い気がしてきたわ」

「いっそ技術部に誘ってみる?」

「その場合アンタが責任持って面倒見なさいよ」

 

 明石に人差し指でおでこをぐりぐりされて、夕張は「あはは」と誤魔化すように笑ったのだった。

 

 

 

 以下、今回の後日談。

 

 結局その日のウォースパイトのアイディアはすべて不採用に終わった。

 ただ、どこが駄目だったのか、どこを改善すれば良いのかを他の技術部メンバーと議論することにより、ウォースパイト自身の知見は磨かれることになった。

 

 やがて技術部に参加したウォースパイトが開発した代物が思わぬ活躍をしたというが――それはまた別の話である。


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