どうも。初めましての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。十三と申します。
僕自身リーリエロスを感じてはや4ヶ月……今はそれも薄れてきましたが、だったら主人公とリーリエが一緒にカントーを旅する話を作ればいいじゃない‼
……と思って書きました。
ただ、それだけの物語です。
その日、アローラ地方の天候は雲一つない青空だった。
何一つ遮るものなく燦々と降り注ぐ陽光が、まさに世紀の大勝負とも言うべき二人の少年少女の闘いの行方を見守っていた。
アローラ地方に存在する4つの有人島。その中のウラウラ島に存在するアローラ最大の山岳、ラナキラマウンテン。
その山頂に設けられた施設こそが、ポケモンリーグ。古くからアローラ地方に伝わる”大試練”と呼ばれる儀式を全てクリアした者にのみ門戸が開かれる場所。
他地方では当たり前のように存在しているこの施設が、アローラに設けられたのはつい一週間前のこと。、ポケモン技研究に於いて卓越した研究成果を挙げているククイ博士の提唱により、アローラ地方におけるポケモントレーナーの相互実力向上という目的のために作り上げられたのだ。
アローラ地方においては、古くから野生のポケモンとの関わり合いを重要視する風潮があり、科学技術が普及した昨今でも、島の守り神と呼ばれるポケモンに奉納を行ったり、島巡りに於ける”試練”にはアローラの肥沃な環境で頑強に育ったぬしポケモンを相手にするものが多い。
本来、他地方では旅に出たポケモントレーナーがポケモンリーグ公式ジムリーダーに挑み、ジムバッジをゲットすることでポケモンリーグへの参加資格を得られるというシステマチックな形式を取っているところからも、如何にアローラ地方が伝統的な風習を守り続けているかということが窺える。
しかしながらククイ博士は、自らアローラから遠く離れたカントー地方に足を運び、そして直々に四天王の頂点に立つ男とポケモンバトルを行い、そして理解した。
ジムリーダーに勝利し、バッジを得たポケモントレーナーたちが集い、そして互いの相棒とも呼べるポケモンを闘わせる聖地、ポケモンリーグ。
アローラのトレーナーたちのレベルを更に飛躍させるためには、この施設が不可欠である―――と。
そうして出来上がったのが、ハラ、ライチ、アセロラ、カヒリという四天王を据えたアローラポケモンリーグ。
他地方のポケモンリーグとは異なり、完成して間もない為、条件を満たしたトレーナー同士での入り乱れての勝ち抜き戦ではなく、四天王を下した者のみがチャンピオンと対戦できる方式がとられている。
しかしながら、元よりレベルの高いアローラのトレーナーたちにとって、栄誉ある『アローラポケモンリーグ初代チャンピオン』という肩書きは垂涎物であり、完成当初から挑戦者は殺到した。
だが、それら全てが強大な四天王という壁に阻まれる。
メレメレ島の島キング―――ハラ
アーカラ島の若き島クイーン―――ライチ
ゴーストタイプのキャプテン―――アセロラ
元島巡りチャンピオン―――カヒリ
いずれもがアローラにおいては一級のポケモントレーナーであり、彼らが司る”壁”はポケモントレーナーであれば誰もが理解できるだろう。
だが、そんな彼らのポケモンたちを全て下し、ラナキラマウンテンの山頂―――誇り高きチャンピオンが座する場に辿り着いた二人の子供がいた。
一人の名はミヅキといった。
容貌だけ見れば、いたって普通の少女である。感情表現や仕草などもいたって普通の、天真爛漫の女の子そのものであり、傍から見ればとても四天王を突破できるトレーナーには見えないだろう。
しかしながら、”ポケモントレーナー”として相対したときに、彼女の真価が現れる。
ほぼ全てのポケモントレーナーが根底に抱いている「バトルを楽しみたい」という思い。彼女はその思いを純粋に抱き続けたまま、トレーナーとしての才能を開花させたのだ。彼女はその成長の底を未だに見せないまま―――誰よりも早くアローラポケモンリーグチャンピオンという頂点に君臨したのである。
もう一人の名は、ユウキといった。
年齢自体はミヅキと変わらず、そもそも二人は幼馴染同士であった。常に明るい表情を崩さず、好奇心旺盛な歳相応なミヅキとは異なり、彼は逆に歳不相応な落ち着き払った印象を初対面で与える少年であった。
冷静沈着な性格は、彼の長所と言えた。バトルにおいてもポケモンへの指示は常に的確であり、多少のことでは一切取り乱さない胆力と判断力も備わっている。
だが、ポケモンを愛するという、トレーナーにとって一番大切な思いは常に抱き続けている少年であった。トレーナーの精神力の資質という点で見るのであれば、ミヅキよりも完成されたトレーナーであると言えるだろう。
普段吹雪が吹き荒れるラナキラマウンテンの山頂に青空が広がったその日、この二人が相対した。
此処に至るまでに仲間にし、寝食を共にして鍛え上げてきたポケモン達の実力、そして磨き上げたトレーナーとしての実力を惜しげもなくぶつけ合った。
ミヅキもユウキも、互いに幼馴染だからと手心を加えるような事はなかった。ミヅキは初のチャンピオン防衛戦として、ユウキはチャレンジャー戦として本気で相対したのである。
そして、頭上で輝いていた太陽がやや傾き始めた頃―――決着は着いた。
「……参った。僕の負けだ」
普段であれば敗北を喫した時でも、そうした感情は極力表に出さないユウキ。
しかしこの時ばかりは、流石にその言葉には落胆の感情が籠っていた。
「ありがとう、
そう言ってユウキは、初めて貰ったモンスターボールに、初めて貰ったポケモン―――アシマリから進化したアシレーヌを戻す。
その行動を終えたことで、ユウキの手持ちポケモンは皆戦闘不能となった。逆にミヅキの下には、ギリギリではあるが立ち続けているポケモン―――こちらも最初に貰ったモクローの最終進化であるジュナイパーがいる。
ふぅ、と一息を吐く余裕程度はあった。
頭上を見上げてみれば、カラス越しに相も変わらず目が眩むような光が差し込んでいた。その光が、勝者であるミヅキを祝福しているように見えたのは、きっと気のせいではないのだろう。
「正直、悔しい。僕はまた、君にポケモンバトルで勝てなかったんだから」
「ユウキ……」
「ポケモン達は本当に頑張ってくれた。君に勝てなかったのは……まぁ、僕のトレーナーとしての腕が君に及んでなかった。それだけだな」
嫌悪感に浸っているわけでもなく、これはただ単に敗因を客観的に見ているだけ。
腰に取り付けた6個のボール。先程まで自分の指示で一生懸命戦ってくれたポケモン達を労う意味でポンと手を触れた。
そこでユウキは、ミヅキの視線に気付く。
哀しそうな眼をしていた。まるで自分が勝ってしまったことを申し訳なさそうに思っているような、そんな表情だ。
幼馴染だからこそ理解できる。あれは敗者を憐れんでいるわけではなく、混じり気のない彼女の優しさから来ているものなのだと。
他者を蹴落としてでも高みに上ろうなどと、彼女は全く考えていないし、恐らくこれから先も考えることはないだろう。
その心自体はとても良いものだと思える。他者を信じ、他者を敬える。それは一種のカリスマ性とも言えるだろう。―――だが。
「そんな顔をするな、ミヅキ」
「え……」
「君は僕に勝ったんだ。だったらいつものように笑っていろ。堂々としていろ。君にそんな気がないというのは分かっているけど、そんな表情は敗者をより惨めにさせてしまうものだよ」
勝者には、それに相応しい振る舞いというものがある。いつもの野良試合でならばそんなことは考えなくても良かったかもしれない。
だがもはや、彼女はチャンピオンだ。名実共に、アローラ地方という地域を代表するトレーナーになった。
であれば、それらしく在らねばならない。負けた人間がこんな事を偉そうに言えるものではないと理解はしていたが。
「そういうもの……なのかな?」
「多分、ね。君のことだから辛いかもしれないけど……」
「ううん」
しかしミヅキは
「ユウキくんの言う通り、わたしはもうチャンピオンだもん。だから、チャンピオンらしく戦って、チャンピオンらしく勝って、チャンピオンらしく居続ける‼」
空元気ではあるのだろうが、そう言って胸を張ったミヅキを見て、ユウキも微笑を浮かべる。
こんな笑顔を前にして、惨めな表情を見せるわけにはいかない。ユウキは自分の心の内に燻っていた、やり場のない悔しさを吞み込んだ。
「ミヅキさん‼ ユウキさん‼」
すると、王者の間に続く階段を、一人の少女が駆け上がってきた。
その後ろには、見知った人物や友人たちもいる。彼らは一様に闘いを終えたミヅキとユウキの姿を見ると、どこか複雑そうな表情を浮かべながらも、チャンピオンとチャレンジャー、両者の健闘を讃えてくれた。
実際、誰が見ても称賛するような闘いであった。ポケモンリーグがエンターテイメントとして定着しており、目が肥えている他地方の人間ですらも、彼らと同じ感情を抱くに違いない。
ユウキとて、健闘を讃えてくれるのは素直に嬉しかった。元よりあまり感情を表には出さない少年だが、この時ばかりは自分たちと同じように島巡りの試練に挑んだ
―――だがそれでも、どれほど自分とポケモン達の闘いぶりが心から称賛されても、一度呑み込んだ悔しさが喉元を過ぎた程度で暑さを忘れるわけではない。
それを感じているのは自分だけではない筈だ。恐らくは先程の闘いで懸命に闘った自分のポケモン達も、悔しさを滲ませているに違いない。
―――また負けてしまった。
―――また勝てなかった。
その言葉だけが、頭の中を反芻するのだ。
自分には一体何が足りないのか。どうすればこの少女に勝てるのか。どうすれば―――。
「ユウキ?」
そんな思考の袋小路に迷い込みかけていると、いつの間にか近づいてきていたミヅキがユウキの顔を覗き込んでいた。
小さい頃からあまり変わらない顔だ。とびきり美人というわけではないが、無条件で人を安心させる何かがある。そしてそれは彼女の、人を惹きつける天稟でもあった。
「何でもないよ」
幼馴染だから、というだけではない。
そんな複雑な感情を抱え込みながら、ユウキは改めて、幼馴染の栄光を讃えた。
アローラポケモンリーグ初代チャンピオン就任。そして初の防衛戦勝利。
それはユウキにとっては確かに、誇らしいことであったのだから。
―――*―――*―――
人工島、エーテルパラダイス。
アローラ地方のほぼ中心部に位置するその場所は、肉体的・精神的に傷ついたポケモン達を保護するという名目で設立されたものであり、その島を所有しているエーテル財団とは―――良くも悪くも縁があるのがユウキという少年だった。
”縁”という意味では、同じように旅をしたミヅキやハウも同じようなものなのだが。
「来てくださったんですね、ユウキさん。先日の件では、大変お世話になりました」
エーテルパラダイスの地下一階。
嘗てはエーテル財団が決して公にはしないような非人道的な実験―――所謂生命遺伝子そのものを改造しての局地型戦闘生命体の製造を行っていた場所も、今では静かになった。
ミヅキやハウと共に殴り込みを仕掛けたことも遥か昔のように思えてしまうが、それもたかだか数ヶ月前のことだ。
その研究所の一角。そこに入ったユウキを出迎えたのは、財団における幹部職員の一人。
財団の後ろ暗い一面が暴かれ、強制的な縮小化を迫られた現在では、彼女こそがエーテル財団の顔であるとも言えた。
「いえ。僕の方こそ、お忙しい中時間を作っていただいてありがとうございました。ビッケさん」
「気にしないでください。ユウキさん達には色々とご迷惑をお掛けしてしまいましたから、これくらいの事は何でもありませんよ」
どことなく母性愛を感じる声色と性格は、技術畑出身者というよりかは家庭的じみたものを感じさせる。
エーテル財団副支部長であるビッケという女性は、掻い摘んで言えばそういう人物だった。
「
「いや、大丈夫です。彼らも、そう呼ばれていたことを気にしてないみたいですから」
そう言うとユウキは、背負ったショルダーバッグの中から4つの
「
「……貴方とミヅキさんに依頼して良かったと、今でも素直にそう思えます」
「ミヅキはともかく、僕はそんなに信用される人間じゃないですよ」
皮肉気に笑って見せたユウキだったが、それでもそれが強がりだということを年の功で見抜いたのか、ビッケは優しく微笑んで見せた。
「貴方は今までそうして、ミヅキさんを守ってきたんですね」
「…………」
「自分が嫌われてでも守りたい人がいるというのはとても素敵なことだと思います。……ですが、ミヅキさんも貴方には無茶をして欲しくないと思っているはずですよ」
「……善処します」
そんな言葉を交わしながら、二人は移動を始めた。
向かっていたのはエーテルパラダイス1階。その北口方面。南口方面が一般口としてそこそこ人通りも多いのに対し、こちら側は静寂に包まれており、ただ微かに潮騒が聞こえてくるのみ。その理由は、目の前に屹立している屋敷にあった。
以前ここに来たのは、ほとんど殴り込みのようなものだったなと思いながら、ビッケに促されてユウキだけが扉を開けて中に入った。
家の内装、整理整頓具合は家の主人の性格を表しているという。
その定説に当てはめてみれば、確かにこの家の主は神経質な人間ではあった。病的であったとも言えるし、狂っていたとも言えた。
一見煌びやかそうに見えて、実際は虚しいだけの内装には一瞥もくれず、ユウキは奥へ奥へと進んでいった。
一歩足を進めるたびに、靴音が反響する。それを数分ほど繰り返した後、とある一室にノックをしてから立ち入った。
そこは、まるで無菌室のような部屋だった。
飾るものは最低限しか置いていない。白一色に統一された床・天井・壁。―――そこに設けられていた天蓋付きのベッドの上には一人の女性が横たわっており、その傍らには女性と同じ髪色、瞳色をした少女が付き添っていた。
「あ……ユウキさん」
「久し振り、リーリエ。元気には……してるみたいだけど、少し痩せたね」
旅をしている間はどこか儚げながらも朗らかな笑みを見せてくれていた少女は、看病疲れだろうか、ただでさえ細身の体が更に少しばかり痩せたようにも見えた。
だが、以前は感じていた悲壮感のようなものは感じられない。自分の意志で歩き出すことを決めた少女の若草色の瞳には、力強さが見て取れた。
「ちゃんと許可はもらって、入らせてもらったんだ。……ルザミーネさんと二人で話したいんだけど、いいかな?」
「えっと……でも、母様は―――」
「……いいわ、リーリエ。彼と話をさせて頂戴」
ベッドに横たわっていた女性―――エーテル財団代表の女史、ルザミーネは、病人であるとは思えないほどのはっきりとした口調でそう言った。
その声色を聞いて大丈夫だと悟ったのか、実娘であるリーリエはいつもの通りの礼儀正しさでユウキに一度頭を下げると、そのまま部屋の外へと退室して行った。
「……無様な姿になってしまったものだわ」
ルザミーネは一言目に、まずそう言った。
ベッドの傍らに立ったユウキに向けられたものではない。UB-01―――個体名ウツロイドの刺激性の神経毒に犯され、憔悴しきってしまった自身に対しての言葉。
「笑いたければ笑いなさい。……自分の理想の世界を作るために実の娘と息子にまで見捨てられた挙句、こんな形で見下されている私をね」
「見捨てられてはいない。……グラジオもリーリエも、貴女をどうにか止めようと頑張っていただけだ」
それに笑うものかと、ユウキは言葉を付け足した。
「貴女は確かに目的のために手段を選んでいなかったかもしれないけれど、逆に言えばそうまでして叶えたい理想があったんだ。たとえそれがアローラに生きる人たちにとっては迷惑極まりない理想だったとしても―――貴女にはその理想を最後まで貫き通そうとする意志があった」
「…………」
「勿論、その理想を成就させるわけにはいかないから、僕もミヅキもリーリエも抗った。それが間違いだったとは思ってないし、これからも思いません」
ただそれでも、
「……本当に、貴方は憎らしいわ」
不意に、ルザミーネの顔が歪んだ。
「貴方のその、子供らしからぬ在り方があの子たちに少なからず影響を与えたのだもの。貴方の幼馴染の素直さは好感が持てるけれど、貴方はやっぱり、好きにはなれないわね」
「そんなのは今更で、
「…………」
「貴女は、グラジオとリーリエの”母親”なんだ。確かにやり方も程度も間違えていたけれど、貴女が子供に注いでいた愛情そのものは本物だった、から……」
ユウキはそこで一瞬だけ言い澱み、その表情に翳を落とした。
「
「……あぁ、なるほどね。惜しい事をしたものだわ」
するとルザミーネは、先程までの複雑な感情が入り混じった表情を和らげた。
「貴方が私の子供であったなら、あの子たちと同じように
「……遠慮しておきます。幾らなんでも貴女の愛を受け止められるほど、僕は壊れていないので」
ルザミーネの言葉は的確だったが、それでもユウキは自分の半生が憐憫に包まれた言葉で否定されるのは我慢できなかった。
しかし、何も知らない人間に滲み出てしまった感情をぶつけるのはお門違いだと分かっていた。だからこそ言葉を呑み込み、本題に入る。
「……貴女の体内に残ったウツロイドの神経毒を完全に除去するために、リーリエが何をしようとしているかご存知ですか?」
「えぇ。カントー地方のボックスシステムの第一人者―――マサキ氏に助言を貰いに行くんだったかしら?」
このマサキという人物は、ルザミーネの言う通りポケモンセンターなどに配置されているボックスの「預かりシステム」を生み出した優秀な研究者であるのと同時に、稀代のポケモン愛好家でもある。
そのあまりのポケモン好きが高じたのか、それともただの偶然か、ポケモン転送装置の力によってポケモンと合体してしまうという類を見ない事件を引き起こしてしまったという経歴を持つ。
だがその後、肉体の遺伝子レベルで合体してしまったポケモンと無事に分離することに成功し、事なきを得たというが、リーリエはこの事件の顛末を財団に残されていたデータベースで知り、そこからヒントを得たのだ。
ウツロイドに寄生され、体内の奥深くまで撃ち込まれた神経毒を分離し、取り除くにはこのマサキ氏の助言があれば可能なのではないか、と。
「……実際、マサキ氏の助言が得られたとしても、貴女が再び健康体を取り戻せるかどうかは分かりません。でも、リーリエはそこに「可能性がある」というだけの理由でカントー地方に向かうことを決意しました」
「……そう」
「そして前にも伝えましたが、その旅に、僕も同行させてもらいます」
ルザミーネの目が僅かに細まり、枕の上から身を起き上がらせた。
未知の神経毒が残っているとは言えど、生命活動そのものに直接影響を及ぼしている程度ではない。あくまで以後どのような影響を出すかわからないから安静にしているのであって、この程度の動きは普通に行うことができた。
「聞いてはいたけれど、理由は訊いていなかったわね」
「僕は元々カントー地方の人間なので、リーリエよりは多少の土地勘があります。マサキ氏はハナダシティの自宅を留守にすることが多いとも聞いたので、僕がいることで多少のサポートはできるかと思いまして」
その話をした時に、ミヅキは自分も行くと主張してきたが、まさかチャンピオンが長期間アローラ地方を離れるわけにも行かず、断念。
結果的に、ユウキ一人がリーリエの旅に同行することに相成ったのである。
「それに……」
「?」
「個人的にも少し、カントー地方に行きたいと思っていました。アローラとは違う環境下であれば、僕も少しはより良いポケモンバトルの方法を磨けると思いまして」
全体的に、カントー地方のポケモントレーナーのレベルは他地方のそれに比べても高いと言われている。
ジョウト、ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロス―――無論のこと地域ごとに特色はあり、一概にどの地方のトレーナーが一番レベルが高いかを決めることはできないが、少なくともカントー地方のポケモン育成のそれが、アローラと全く同じだとは思えない。
「勿論、最優先はリーリエの望みを叶える事です。僕の方はただのオマケだと思ってもらって構いません」
「……ふぅ。
どこか呆れたような感情を孕んだ言葉がルザミーネの口から漏れ出た。
「私の体内に残った毒は微量なもの。確かに以前のように動き回ることはできませんけれど、命に別状はないわ。急を要するような事案ではないというのは、貴方ならば分かるでしょう?」
「それは……えぇ」
「それに、私は貴方に情けをかけれらる代償のような事は何もしていないわ。―――リーリエのエスコートをする事については何も言わないけれど、マサキ氏の助言を貰ってくるのはあくまで”ついで”。……これを期に、あの子をトレーナーとして育て上げてきなさいな」
「トレーナー、ですか」
「あの子がポケモンと接することを怖がるようになったのは私の責任。でも、貴方たちと旅をする内にその恐怖心も薄まってきたのなら……貴方に任せるのが適任でしょう」
その提案に対して、ユウキは頷く事はできなかった。ただ先程と同じように「善処します」と一言を置いただけ。
それと同時に、やはりリーリエの事が羨ましく感じられたのは否定できなかった。
その言葉は、その提案は、子の成長を願う親でなければ紡ぎだす事はできないものだ。ウルトラビーストによる事件が解決し、精神的に落ち着きを取り戻したルザミーネは今、少なくとも以前よりかは真っ当な母親として娘の成長を想っている。
その一翼を担う、という事に関して荷が重いと感じたのかもしれない。
自分がポケモントレーナーになり、自分自身と自分のポケモンを鍛えるという事は幾らでもやってきたが、他の人をポケモントレーナーとして育て上げるという事は、全くの未経験。最悪、トレーナーとしての未来の一切を断ち切ってしまう事すらあり得るのだ。
気づけばユウキは、ルザミーネのいた部屋から退室して、エントランスに向かって歩いていた。
さてどうしたものかと悩みながら歩いていると、ふとエントランスにリーリエと、もう一人の姿を確認できた。
「久し振りだな」
「……グラジオ」
声をかけてきたのは、リーリエの実兄であり、ポケモントレーナーとしてはライバルでもあるグラジオ。
元より目つきは良くはない少年だが、彼はユウキの表情を見るなり、腕を掴んで邸宅の外まで引っ張り出した。
「何だ、その悩みに嵌ったような顔は。仮にもサブチャンピオンならば、もっと堂々としていろ」
「ハハ……似たようなことをミヅキに言った気がするけれど……そんなに酷かったか?」
「少なくとも、俺が見て「腑抜けている」と感じた程度にはな」
そう言い放つと、グラジオは腰に取り付けた6つのモンスターボールの内の一つを手に取り、構えた。
「かかって来い、サブチャンピオン。お前自身が大丈夫だと思うのなら、証明して見せろ」
「……良い友人が得られたものだね、僕は」
ふぅ、と一息吐き、ユウキも手首のスナップを利用してモンスターボールを構える。
グラジオの背後でリーリエが見守る中、二人の少年は互いに同じタイミングでボールを投擲した。
次回、VSグラジオ戦。
主人公のポケモンは、ある種の統一パで構成されています。環境メタとかではないです。