僕は君と、何かを見つける旅をする   作:十三

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ユウキ:
本作主人公。普段はポケモンたちに目一杯の愛情をもって接するが、いざバトルを始めると怖ろしいまでに合理的に動く13歳。歳不相応の落ち着きぶりを見せるが、ミヅキとリーリエの二人の前では歳相応になるときも稀にある。
アローラ初代チャンピオン決定戦にて幼馴染のミヅキに敗北。セミ・チャンピオンに甘んじる。その後、カントーに向かうリーリエの付き添い兼トレーナー修行の為にカントーに赴く。

リーリエ:
本作ヒロインその1。母ルザミーネの体内に残ったウツロイドの毒の除去をする方法を探るためにカントーに赴く。以前はポケモンに触れる事に忌避感を覚えていたが、ミヅキとユウキの尽力により、今はそうそう苦手意識もなくなった。

ミヅキ:
本作ヒロインその2。ユウキとはカントーに居た時からの幼馴染。アローラ初代チャンピオン決定戦にてユウキに勝利して、栄えある初代チャンピオンの地位に就く。
所謂天才型のトレーナーであり、自然体のままでトレーナーの最高峰に至る天賦の才の持ち主。




波乱万丈カントー道中

 

 

 

 

 

 ホウエン地方のミナモシティに寄港した後の船旅は、順調であった。

 

 そも、わざわざ飛行機ではなく客船でカントーに行こうと思ったのは、この世界には多種多様なトレーナーが存在するのだという事をリーリエに理解してもらうためであり、その目論見は、事実達せられた。

 

 

 ポケモントレーナー、それもジムバッチを複数個所有するようなトレーナーになると、他のトレーナーを見るだけで対戦意欲が疼くのだ。

 自分のポケモンにより多く経験を積ませるために、より多種多様なトレーナーと出会う事で、自分自身の糧とするために。

 

 故に、こういった閉鎖空間でトレーナー同士が鉢合ったら、やる事は一つしかない。

 だからこそ、中型以上の客船には必ずポケモンバトルができるレベルの広さと耐久性を兼ねたデッキが存在しているし、トレーナーではない一般乗客も、こうした野良試合を楽しみにしている風潮がある。

 

 

 実際、ユウキも都合5度ほど対戦を申し込まれ、それに全勝した。

 ジョウト、シンオウ、カロス、イッシュ、ホウエン―――相対したトレーナーがそれぞれ別々の地方出身であった事はかなり幸運であったし、誰一人として弱くなかったのも良かった。

 それでも流石に四天王挑戦者クラスは存在していなかったので、特に苦戦するようなことも無かったのだが。

 

 以前であればポケモン同士が戦う事、傷つくことを忌避してマトモにバトルを見られなかったリーリエであったが、エーテル財団を巡る一件、そしてミヅキと共に旅をした経験が生きたのだろう。

 恐らくはまだ自分自身がポケモンを従えて戦う事には違和感が残るだろうが、傍からポケモンバトルを観戦していても―――若干ハラハラしているような様子は見られたが―――以前のような忌避感の籠った視線は感じられなくなっていた。

 

 だが、「ポケモンが傷つくところを見たくない」と言う感情―――それは一般的で、普通の事なのだ。

 上位のトレーナーになってしまえば、所謂「死に出し」と呼ばれる、自身のポケモン一体を犠牲にして後の勝利につなげる戦術も基礎の基礎となってくる。優しいだけ、甘いだけではポケモントレーナーは強くなれない。

 

 ユウキは個人的に、リーリエにはそうあって欲しくないと思っている。

 ただそれでも、正しいポケモンとの接し方は知っておかなくてはならない。

 

 

 

 そうして船上生活4日目。特にもうバトルをすることも無く、リーリエがミナモシティで買った本を読み、ユウキがポケモンたちのブラッシングをしている時―――事件は起こった。

 

 それは、西廻りクチバ航路の最終経路であるふたごじま付近を通っている時。外の景色は、1日前のそれが嘘であったかのように濃霧に包まれ、気温は平均気温より10℃は下がっていた。

 理由そのものは分かっていた。というより、カントー地方の情勢に通じているトレーナーであれば誰でも分かっている。

 

 この時期、ふたごじまにはとある伝説級ポケモンが滞在している。氷鳥―――フリーザーはそこに存在しているだけで周囲の環境を一変させる。

 今ならばまだ良い方で、冬季にはふたごじま周辺海域に大規模な流氷を発生させ、砕氷機を搭載している船でないとそもそも通れない。その為、カントー地方の西廻り航路はほとんど閉鎖される。

 厳冬で有名なシンオウ地方、カロス地方北部、イッシュ地方北部以上にレアな光景が見られる為、それを目当てに観光に来る人もいるのだが―――事故も多い。

 

 今回はたまたま、運が悪く、その事故に当たってしまった。それも結構笑えない事故に。

 

 

 

 まず感じたのは衝撃。船体が大きく揺れ、隣で読書をしていたリーリエが思わず床に転げ落ちてしまいそうになるのをユウキが寸前で支え、直後、彼女を伴って船室から出る。

 こういった場合、素人が自分勝手に行動するのは悪手であるとユウキ自体も理解していたが、それでも直前に感じた振動がシャレにならないものであると直感的に感じていたのだ。

 

「アンジェ‼」

 

 廊下に出た時点で、ユウキは不安定な体勢のまま手持ちの一体―――アブリボンを出す。

 

「外の様子を見てきてくれ。大峡谷でも鼻歌交じりに飛んでたお前なら大丈夫だろうけど……ヤバいと思ったらすぐに帰ってくるんだぞ」

 

「キュウ、キュゥィ【かっしこまりましたぁ】‼」

 

 ユウキの手持ちの中での所謂”ドラゴンキラー”の一体であるアブリボン(アンジェ)が、敬礼のような仕草を見せて船外へと飛んでいく。僅かに荒れ始めている海上を飛行するには体重が軽いアブリボンは不向きのようにも思えるが、ユウキがアブリーの頃から育成を続けた彼女は何故ひこうタイプを有していないのかと思う程にどんな状況でも安定した飛行技術を会得しているため、こうした斥候のような役目を任せる事が多い。

 

 アブリボン(アンジェ)の帰りを待つ間、船体が30度近く傾いたり、乗客が船室内でパニックになっていたり、二人を船室に戻そうと注意しに来た船員がそのまま廊下を転がって行ったりとパニックの状況が続く。

 

 ユウキ自身、完全に冷静な状態ではなかったのだが、そんな中でも思考がパニックになっていなかったのは、間違いなくリーリエの存在があったからだ。

 

 

「ゆ、ゆゆゆゆユウキさん‼ こ、ここ、これはだ、だだ大丈夫なんですかぁ⁉」

 

「落ち着いて、リーリエ。今すぐどうにかなるわけじゃあないから」

 

 共に居る存在が完全にパニックになっていると、その影響か逆に冷静になれる。

 海が荒れている、とは言っても転覆する程の極限的な悪天候なわけではない。本来であればこのような状況に成りうるはずがないのだ。

 

「とにかく、落ち着いて。ハイ、深呼吸」

 

「あ、は、はい。す―――は―――……す―――……きゃあっ⁉」

 

 再びグラリと船体が揺れ、躓いたリーリエを再びユウキが支え、そして諸共に体勢を崩したユウキを―――ベルトから転がったモンスターボールから飛び出したアシレーヌ(ヴィアーチェ)が支えた。

 

「ありがとう、アシレーヌ(ヴィアーチェ)

 

「キュイキュイ、キュウ【気を付けてくださいね、もう】」

 

 凡そハプニングのような感じで出てきてしまった彼女であったが、これからしようとしていることを考えると、このまま出て貰っていた方がいい。そんな事を考えていると、僅かに開いた扉の向こうからアブリボン(アンジェ)が戻って来た。

 

「どんな感じだった、アブリボン(アンジェ)

 

「キュルル、キィ‼……キュキュキュウゥ【船の下の方に水がいっぱい溜まって来てる‼ ……このままじゃ危ないよ】」

 

 ポケモンと魂レベルで心を通わせたトレーナー、もしくは”そういった”才能があるトレーナーはポケモンの言葉が自動的に人語に翻訳されて聞こえるという話は耳にした事があるが、ユウキは生憎とその域にまで達していない。

 主に聞こえるのは普通にポケモンの鳴き声で、それに付随するように副音声のような形で何を言っているのかぐらいは理解できる……そんな感じだ。

 

 ユウキはアブリボン(アンジェ)からの報告を聞くと、思った以上の深刻な状況であったことに流石に焦燥感を抱く。

 

「原因は……船員さんたちが何か言ってた?」

 

「キィ……キュイキュゥ? キィキィキュウキュ【えっと……なんか”でっかいこおりのかたまり”? みたいなものに当たったって言ってたような】」

 

「この時期に? ……四天王を引退したカンナさんがフリーザーの動向に気を払ってるっていう情報が嘘だとは思えないし……」

 

 一地方の四天王を務めたトレーナーだ。本人がそこまで距離が離れていないナナシマ地方出身者であり、こおりタイプのエキスパートという事もあってかポケモンリーグセキエイ本部は彼女に”伝説の三鳥”の一角であるフリーザーの動向の”監視”を任せているという。

 

 時期によってフリーザーが齎す影響は、既に”環境”の範囲内。だが、それ以上の事が起きるとなれば”暴走”の圏内だ。

 そして、まさに今回のそれが”そう”だった。

 

「……リーリエ、ひとまず脱出の準備をするよ。船員さんたちだってプロだ、救命ボートの手筈くらいはもう整えているだろうから」

 

 ユウキのその声色に気圧されてか、リーリエは一度だけ深く頷いた。

 

 

 

 

 そこから先は速かった。

 一般の乗客はともかく、ポケモントレーナーは多かれ少なかれ色々な場所を旅する人種だ。パニック程度には慣れているし、予想外の事態に対する対処もある程度は心得ている。

 だが、船員たちの先導で次々と救命ボートに乗客が乗っていき、最後にユウキとリーリエが乗り込もうとしたとき……事件が起きた。

 

 乗客の一人である女性が、半ばパニックになりながら船員に詰め寄っていたのだ。

 「私の娘がまだ乗っていない」、と。

 

 娘の安否を真剣に案ずる母―――それがリーリエの心に揺らぎを与えたのは確かだろう。

 気付けば彼女は踵を返して、引き留めようとする船員の声に耳を傾けずに船内へと戻る。無論、一人で放っておけないユウキもそれに続いた。

 

 探して、探して、どれくらいの時間が経ったのかは思い出せない。ユウキもポケモンたちの力を借りて捜索し、母とはぐれたその少女がデッキ近くで泣きながら蹲っていたのを発見した頃には、船の軋みは既に大きくなっていた。

 

 まるで映画のラストみたいだ、と思わず呟いたユウキに対して「不謹慎ですよっ」と困ったような顔で言い返せる程度には心の余裕がリーリエには出来ていた。このままこの少女を母親の元まで帰し、自分たちも救命ボートに乗り込めばそれで一件落着。体を張った甲斐があったというものだった。

 

 

 だが、往々にしてこうした映画のラストにはもう一波乱あるものであり、()()()()()()()()()、今回はリアルにおいてもその法則が適応されてしまった。

 

 

 船が、割れた。

 危機を感じ取ったユウキが直前で少女の背を優しく押して斜めになった廊下を滑らせ、その少女の体を母親が抱き留める。

 その代わりに、ユウキとリーリエの二人は割れた船体の所為で救命ボートには乗り込めなくなり、あわやそのまま何もできずに溺死コース一直線―――などという理不尽な最後を、ユウキが許すはずもなく。

 

「悪いね。頼むよアダマス」

 

 ピンと指で弾き、割れた窓から飛び出したそのボールからは―――巨大なポケモンが現出する。そしてそれの触手が、ユウキとリーリエを絡め取った。

 

「プルル、プルギュルル?【二人とも、無事?】」

 

「あぁ、大丈夫。ありがとう、ドヒドイデ(アダマス)

 

「あ、ありがとうございましたっ……」

 

 二人を窮地から救ったのは、15メートル級巨大ドヒドイデ。

 外見は怪獣そのものな彼だが、それとは裏腹に繊細な扱いで二人を頭の上へと乗せる。

 

 薄眼で見てみると、どうやら救命ボートは距離を取る事で船の崩落の被害を直接受ける事は免れたようだが、その余波の津波の所為で随分と遠くに流されてしまっている。

 あれでは自分たちを拾う事は出来ないだろうと、一つ息を吐いて気持ちを静めた。

 

 幸い、ここからセキチクシティまではそれほど遠くはない。ドヒドイデ(アダマス)の巨体であれば津波の心配もせずにそこまで向かう事ができるだろう、と。

 生き残る解決策が直ぐに思い浮かんだことで―――油断していた面も確かにあった。

 

 

 

「プギュ⁉ プルル、ギュギュプルル‼【ッ⁉ マスター、前、前‼】」

 

 途端、周囲の気温が一気に氷点下まで滑り落ちた。

 吐く息が白くなり、突然の気温の急降下によって体が軽く拒否反応を起こす。ユウキはすぐさま自身が羽織っていたジャケットをリーリエに着させると、ドヒドイデ(アダマス)の言葉通り真正面を向く。

 

 

 ―――そこには、伝説が居た。

 

 氷の化身、カントー伝説種の一柱。宝石のように淡く美しく輝く羽を優雅に羽搏かせ、此方を睥睨する存在。

 何故此処に―――その疑問を浮かべる暇など無いと理解していた。こういった一つの”聖域”に留まるタイプの伝説種がそこを出てまでやってくるという事は、何かしら理由がある。

 自分たちヒトには、決して理解できない理由が。

 

「――――――――――――」

 

 フリーザーは、その悠然とした双眸でただ一つの存在を見ていた。

 それはトレーナーとして伝説種に抗えるレベルの実力を有するユウキ、ではない。それが俯瞰しているのは、そんな彼の横で畏怖の感情を孕ませた瞳で見上げる少女。

 

「っ……‼」

 

 リーリエが、そんな超常存在の視線に怯えたような声を漏らした瞬間、ユウキはリーリエの視線を遮るように前に出た。

 

「申し訳ない、ふたごじまの守護鳥。連れが怯えているから、この場は去って貰えないか?」

 

 その言葉を、フリーザーがどう受け取ったのかは知らない。

 ただ、伝説種が一瞬だけ見せた意識の変化を、ユウキは決して見逃さなかった。

 

ドヒドイデ(アダマス)‼ 最堅トーチカだ‼」

 

 その一言に呼応し、ドヒドイデ(アダマス)の触手の一本が再びユウキとリーリエを絡め取り、自身の内部へと収納する。

 そしてその全身を強化させ、存在そのものを堅牢な城塞へと変化させる。だがユウキの指示はそこでは止まらなかった。

 

「っ―――追加で”まもる”だ。その一撃を何が何でも防ぎ通せ‼」

 

 直後、フリーザーから放たれたのは極寒の波動。通常のポケモンであれば”ぜったいれいど”と同等の威力を誇るそれは、伝説種であるフリーザーが()()で放った”ふぶき”。

 羽搏いたその一波だけで、海の表面は凍り付き、空気中にはダイヤモンドダストが生まれ、付近にまだ浮かんでいた船の残骸は一瞬の内に氷の彫像となった。

 ”まもる”と”トーチカ”。この二つの絶対的な守護を以てしてもその極悪な冷気を完全に受け潰すことは出来ず、閉じられたその触手の針の穴よりもなお細く、紙切れ一枚が通るよりなお薄い隙間から、触れただけで凍り付いてしまいそうな空気が滲みこんでくる。

 

「……ドヒドイデ(アダマス)、耐えられる?」

 

「プギュウ……プギュギュ、ウギュ【うーん……二度目は危ないかも。僕の触手が凍り付いちゃうよ】」

 

 実際、みずタイプのドヒドイデに対しての”ふぶき”はこうかがいまひとつである筈なのに、耐久に特化させたドヒドイデ(アダマス)の体力をごっそりと持って行っていた。

 ユウキはバッグの中から”かいふくのくすり”を取り出してドヒドイデ(アダマス)に与え、その間に打開策を思案する。

 

 

 大前提として、伝説級のポケモンと相対するときにはそれ相応の準備が必要となる。

 そもトレーナー一人で相対することが既に無茶無謀の域であるのだが、プライドが高い伝説種は基本的に一人の人間とそれに従うポケモンらによる勇士を好むことが多い。

 だからこそ、種族値の暴力を技と知性で覆すトレーナーによる綿密に練られた計画性と実力が必要になる。断じて、行き当たりばったりで挑むような存在ではない。

 

 ポケモントレーナーという存在が、何年、何十年、何百年という長い月日をかけて編み上げたバトルの定石を嘲るかのように”力”を以て蹂躙しに来るのが伝説種。

 その恐ろしさを、ユウキは身を以て知っている。アローラ地方を司る四柱の守護神、そして外宇宙より飛来した未知の準伝説種と戦った彼は、道理も条理も易々と踏み越えるモノ達の恐ろしさを知っている。

 

 知っているからこそ、今この場でどういう対策を取るのが最善であるかも理解した。―――()()()()()()

 

 

「……アシレーヌ(ヴィアーチェ)、リーリエを連れて全速力でこの海域から離脱してくれ」

 

「えっ……」

 

「不本意とはいえ、伝説種と一戦交える事になる可能性が高いんだ。君が此処に居たら……まず間違いなく巻き込んでしまうからね」

 

 正直なところ、今の手持ちと準備ではフリーザーを”叩き潰す”事はほぼ不可能に近い。とはいえ此処で背を向けて逃げようにも、フリーザーが追いかけまわして来たら徒に被害を拡大させるだけになってしまう。

 伝説種が人々の営みがある場所で暴れまわったら大惨事どころの話ではない。まず間違いなく街の一つや二つは消えてなくなるだろう。

 

 本気で”抗う”事になるのなら……言葉には出さなかったがリーリエの存在がどうしても足枷になってしまう。

 だからこそ、自身の手持ちの中で最も多くの状況下に対応できる”相棒”にリーリエを任せて、一先ずは安心と思える場所まで避難させる。

 そこから先はユウキという一人のトレーナーの根気の勝負だ。余りにも恵まれていないこの状況下で、どこまでフリーザーという存在に抗うことが出来るのか。

 

 一歩間違えれば比喩でもなんでもなく、待つのは”死”だ。

 願わくば抗えている間に何かしらの救援が来てくれれば有難いなと思いつつ、視界の端で頷いたアシレーヌ(ヴィアーチェ)を尻目に、掌に新しいボールを滑り込ませる。

 

「(切り札としてカイザーを連れておいて良かった……アブリボン(アンジェ)が仕事できる段階じゃないし、ガラガラ(アッシュ)を戦わせるには足場が不安定過ぎる。伝説種相手にドヒドイデ(アダマス)の毒削り超耐久戦ができるわけでも無し……)」

 

 思考を際限なく加速させ、右手の中にもボールを滑り込ませる。現状、フリーザーを相手に”仕事”ができるのは今の手持ちの中ではこの二体だけ。

 頬を冷や汗が伝う感触を味わいながら、ドヒドイデ(アダマス)に頼んで再び外へと出る。

 フリーザーは児戯が終わっただけと言わんばかりに先程と変わらない悠然とした佇まいを崩さない。氷河期レベルの必中ふぶきなど、二度もマトモに受けたら同じ伝説種でもない限りほぼ確実に持って逝かれるだろう。

 

 こと此処に至ってなお合理的に伝説種を”狩る”思考を続けている時点で、やっぱり僕も色々とおかしいポケモントレーナーだなと自虐の笑みを溢そうとした時―――ユウキの背後から声が届いた。

 

 

「フリーザー、さんっ‼」

 

「リーリエ⁉」

 

 何をしに来たんだ‼ と叱責しそうになる声をぐっと飲みこんだ。

 その傍にアシレーヌ(ヴィアーチェ)が止めることも無く佇んでいるという事は、きっと破れかぶれでこの場に来たわけでもないのだろう。

 

 すると、リーリエに声を掛けられたフリーザーは、さっきまで纏っていた静かな殺気を一瞬で霧散させた。

 

「あなたが、私に何かご用があったのかは分かりませんけれど……この人(ユウキさん)とポケモンたちを傷つけるのはやめて、くださいっ」

 

「…………」

 

「必要なら、いずれ必ず、あなたの居る所へ伺いますから、だから……」

 

 そこまで言うと、フリーザーは何かに満足したのか、再び羽を大きく羽ばたかせて厚い雲の彼方へと去っていった。

 影響を及ぼしていた伝説種が居なくなったことで、海を凍てつかせていた氷は溶け、濃霧も消え去り、曇天の隙間から日光が漏れ出す。

 

 最悪の状況下で伝説種と一戦交えるという事態が避けられた事で全身の緊張感が一気に解れ、身体の底から力が抜け落ちていくのを、ユウキは感じた。

 

「ゆ、ユウキさん、大丈夫ですか⁉」

 

「あぁ、大丈夫大丈夫。それより、凄かったねリーリエ」

 

 皮肉でもなんでもなく、ユウキは最大限の賛辞をリーリエへと投げた。

 

「普通伝説種のプレッシャーを受けたら、大抵の人間はその場にへたり込んで黙り切っちゃうものだけど……やっぱりほしぐもちゃんと一緒にいたからかな? そこらへんは慣れてたか」

 

「そ、そんなことはないです。今だって安心したら足のガクガクが止まらなくなっちゃってぇ……」

 

 そう言ってへたり込むリーリエの頭を、付き添ったアシレーヌ(ヴィアーチェ)のヒレが優しく撫でる。

 

「キュウ、キュキューウ【リーリエ様は良く頑張られました】」

 

「僕は少しヒヤヒヤしたけれどね」

 

「キュ? キュイキュイキュウキュー【あら? ご主人様も珍しく死を覚悟されておいでではありませんでしたか】」

 

「……やっぱりお前は騙せないね、アシレーヌ(ヴィアーチェ)

 

 当然です、と。少し得意げになっているアシレーヌ(ヴィアーチェ)を見て、ようやくリーリエの表情に笑顔が戻る。

 ふと後ろを向けば、既に乗客を乗せた救命ボートの姿はどこにも無くなっていた。転覆は……恐らくしていないと思いたい。

 

「お前もお疲れ、ドヒドイデ(アダマス)。伝説種の一撃をもらった後で申し訳ないけれど、少し休んだらセキチクシティまで運んでくれるかい?」

 

「プギュルル、プギュー【うん、ちゃんとマスターとリーリエちゃんを運ばせてもらうよ】」

 

 アシレーヌ(ヴィアーチェ)が常温の水で泡沫を作ってドヒドイデ(アダマス)の触手の表面に当て、徐々に張り付いた氷を解凍していく様子を見ながら空を見上げて息を吐いていると、不意に水の上を移動してくるポケモンの姿が見えた。

 

 それはラプラスであったが、群れから離れてしまって彷徨う野生個体では無い事は一瞬で判別できた。―――表には出ていないが、途轍もない練度のラプラスだ。その佇まい、双眸の落ち着き払い具合からでも、それは充分に理解できる。

 

「あれは……」

 

 リーリエもラプラスの存在に気付き、声を漏らしたが、ユウキは寧ろ、そのラプラスの背に乗っている人物の方に視線を向けた。

 

「あー……やっぱりあの人が直接出向くレベルの事件だったんだなぁ」

 

 今更管理不行き届きを言うつもりなど毛頭ない。しかし、それだけの事態であるならば、自分たちとしても知らん顔は出来ないだろう。

 

「あなた達、大丈夫⁉」

 

 この場にまだ残っていたフリーザーの闘気の残滓を感じ取ったのか、安否を確認する声を掛けてくるその人物に、ユウキは手を振り返した。

 

 まさかカントーに来て初めての野良バトルが伝説種とで、初めて出会ったトレーナーが元四天王とはねぇ―――そんな波乱万丈を思わせる展開に、ユウキはもう一度、軽く息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 ウルトラサン・ムーンの発売が近いからね。リビドーが溢れて手を付けたら一日で書きあがりましたよ‼ まぁ言うても前に投稿したの4月だからもう7ヶ月近くも空いちゃったんだけどね‼ もう誰もこの作品覚えてないんじゃないかな‼(ヤケクソ)

 実際、ハーメルンで定期的に読むポケモン小説がクオリティ高くて、その人の作品見てると僕も書きたくなってくる。
 どんなポケモン小説でも伝説種相手は血の雨が降るけど、あの方のは特に修羅度高いからなぁ……。

 ちなみに、主人公がアローラ準伝を連れていないのは「修行する身で準伝を連れてっても修行にならないなぁ……」という考えからです。
 そりゃアンタ、普通のトレーナー相手に準伝出すとか普通ならイジメレベルでしょ(目逸らし)。
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