僕は君と、何かを見つける旅をする   作:十三

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朽葉色の港町

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね」

 

 すっかりと伝説種の危機が去った20番水道を進みながら、ラプラスの背に立ったカンナはそう謝った。

 

「言い訳をするつもりではないのだけど、シロガネ山の方で命知らずの密猟団がヨーギラスの卵を強奪してるって話があってね。セキエイ本部の方から頼まれてその対処に行ってたのよ」

 

「そいつは酷い。で? そのならず者達は?」

 

「そっちは大した苦労もなく私のマンムーが一人残らず氷漬けにして警備本部に突き出したから良かったのだけど」

 

「解決策が割と平和で驚きました」

 

 ユウキが大してビビる事も無くそう言ってのけた事に対して、彼の傍で同じようにカンナのラプラスの背に乗っていたリーリエは「え? え?」と思いっきり動揺していた。

 

「まだマシな対処方法だと思うよ、コレ。実際カントー・ジョウト地方チャンピオンは人相手に躊躇いなく”はかいこうせん”放てるような人だし」

 

「チャンプはトレーナーとしては確かに最高峰なのだけど、少し倫理観がアレなのよね……」

 

 呆れるように一つ息を吐きながらカンナが言うと、それに応じるようにラプラスもクゥンと鳴く。

 

 チラと横目でリーリエを見てみると、トレーナーが御している筈のポケモンが他者を傷つけるという現実を―――初めて見たわけではないが、それでもまだ受け入れ難いというような表情をしていた。

 だが実際、リーグ戦でも上位に入るような優秀なポケモントレーナーは何かしら対人戦の心得を身に着けているものである。事実、ユウキもその一人。

 

 

 ミヅキとリーリエには今に至るまで言っていないが、ルザミーネの野望を阻止するために共にエーテルパラダイスへと赴いた際、彼女たちを先に進めてから、ユウキはグラジオとタッグを組んで()()()()()()()

 エーテル財団の”裏”の事業に携わり、自分たちを阻んできた職員たちを一人残らず叩き潰したのだ。先に進んだミヅキとリーリエ(彼女たち)の邪魔が出来ないように、徹底的に。

 

 自ら進んで非道に手を染めようとは思わない。だが、自分たちにとって大切な存在に危害が及ぶような事態になり得るならば、排除することを一切厭わない―――そう言った意味では、ユウキとグラジオは似た者同士であった。

 だからこそ、互いに親友と呼べるような関係になったのだが。

 

 そういった経緯があるからこそ、彼女らには余り世界の裏側には接して欲しくないと思っている。

 競技としてのポケモンバトル、ポケモンを正しく扱い、正しく接し、正しく生きている者達との接触を何より大切にしてほしい。―――そのために何か対価を支払わなければならないのなら、自分たちが支払う。

 

 背負い過ぎだ、と、しまキングを務める大人たちには随分と窘められ、心配されてもいるのだが。

 

 

 

「そう言えば、こっちの自己紹介がまだでした」

 

 色々あり過ぎて一番重要な事を忘れていた、という事を思い出し、ユウキが再び口を開く。

 

「アローラ地方から来た、ユウキといいます。こっちはリーリエ」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「へぇ、アローラから。一度観光で行ったことがあるけれど、良いところよねあそこは。……そういえば、アローラには最近新しくポケモンリーグ支部が建設されたって聞いたのだけど」

 

 そこまで言うと、カンナは振り向き、そのままユウキの事を見やる。

 

「そこの初代セミ・チャンピオンの名前が確かユウキ君、だったわね。情報誌に名前が載ってて、レッド君と同じくらい若かったから良く覚えているわ」

 

「はは、元カントー四天王、《氷妃》のカンナさんに覚えてもらえるとは光栄です」

 

 若輩者ですよ、自分は。と、謙遜を交えつつ言葉を放つと、それに含まれた感情すらも見抜いたかのようにカンナは微笑んだ。

 

「伝説種と真っ向から渡り合える胆力と実力があるトレーナーが、ただの若輩であるわけがないじゃない。……正直こんな状況でなければ一試合付き合って貰いたいくらい」

 

「……やらなければいけない事は、フリーザーの動向の監視ですか?」

 

「そう。まぁ、厳密に言えば違うのだけれど」

 

 振り返ると、20番水道の奥―――薄くぼやけて見える島が見える。その島の上空は、未だに厚い雲に覆われていた。

 

「……私は昔からふたごじまには修行の為に赴いていたから、フリーザーとも一応顔見知りなのよ。普段、冬場でもなければ彼女は島の外には出てこない筈なのに」

 

「…………」

 

「あ、あのっ……」

 

 そこで、今まで黙っていたリーリエが遠慮がちに口を開いた。

 

「えっと、その……た、多分今回フリーザーさんが島から出てきたのは……私が原因、だと、思います……」

 

「貴女が? ……いえ、でも、そうね」

 

 責めるような口調でもなく、ただ純粋に疑問に思ったかのような表情をカンナは見せる。

 

「貴女からは何となくポケモンから好かれそうな感じがするというか、興味を持たれそうな感じがするわ」

 

 初見でそれに気付いたかと、ユウキは改めて四天王クラスのトレーナーの観察眼の高さを評価した。

 

 実際、リーリエという少女はポケモンに好かれやすい体質をしている。以前は彼女自身がポケモンと触れ合う事に対して苦手意識を持っていた為そうは思わなかったのだが、彼女が勇気を出してその苦手意識を克服した後はその体質―――というよりも才能を顕著に感じる部分があった。

 野生のポケモンがいつの間にか彼女の近くに寄り添っていたというのはいつもの事で、酷い時には彼女の近くに小規模の時空の歪みが発生して、そこから顔を覗かせたウツロイド(触手畜生)が彼女を拉致しようとしたこともあった。―――その時はユウキが捕獲していた他のUB(ウルトラビースト)が総出で”仕置き”をした為、以降そういった危機は訪れなくなったのだが。

 

 リーリエってポケモンに愛されてるよねー、とは底抜けに素直で能天気な幼馴染(ミヅキ)の言葉だったが、それでは片付けられない”何か”が彼女にはあった。

 少なくとも色々と特殊であったとはいえ伝説級の一体であった「ほしぐもちゃん」―――《太陽獣》ソルガレオに無条件で好かれるぐらいには。

 

「まぁでも、安心して良いわよ、リーリエちゃん。今ふたごじまには私のエースが向かってるから、もうフリーザーが冬季まで顔を出す事はないでしょうね」

 

「あ、でも……わ、私の所為で……」

 

「それを言うなら、フリーザーの観察を疎かにしていた私の所為よ。伝説種にすら興味を持たれる人を見るのは珍しいけれど、決してゼロじゃない。そのことを、貴女が申し訳なく思う必要は全くないのよ?」

 

 むしろ誇っていい才能だわ、と。カンナはリーリエの頭を優しく撫でながら穏やかな口調でそう言った。

 それを聞き、リーリエの強張った表情が緩和する。そりゃあ自分の存在の所為で伝説種に興味持たれて、船を沈めてしまったなんて考えると不安になるのも仕方ないよなぁと思いつつ、しかしユウキは敢えてそれを慰め続ける事はしない。

 

 ミヅキやグラジオにも頼まれた手前、リーリエに降りかかる火の粉を払う事に異論はない。だが、彼女にはこのカントー地方の旅で多少は自分と向き合ってもらわなければならない。

 

「(……いや、それは()()()()()。人の事を言える立場じゃない)」

 

 彼女が持つその稀少な才が他地方で何を齎すのか。それを見つめる事で、彼女の中にまた新たな価値観が生まれる可能性がある。

 それを見守って欲しいとユウキに頼んだのは、他ならぬ彼女の母親であったのだが。

 

 

「まぁとにかく、このままサイクリングロードの下を通ってクチバまで行ってしまいましょ。貴方たちに危険を強いてしまったお詫びに、数日の滞在場所と船舶会社に話を付ける事くらいはさせてもらうわ」

 

「いや、それは流石に悪いですよ」

 

「大人の責務のようなものだから気にしないで頂戴」

 

 その後は他愛のない、それでいて興味を惹かざるを得ない会話をしながら海の上を進み続け、途中でセキチクシティに立ち寄りながら、本来の目的地であったクチバシティに辿り着いたのはその翌日の事であった。

 

 カンナの手引きで船の管理をしていた船舶会社に連絡を取ったところ、脱出した船の乗客や船員は全員無事に近郊の港で保護されたようで、安否不明であった二人に対しては特に過剰なほどの謝罪の言葉と、そう遠くない内に補償金が支払われる手筈となった。

 到着早々面倒くさい事態になったと思いはしたが、旅などそんな面倒くさい事の繰り返しだ。ユウキの旅の経験はたった一年程度しかなかったが、そう悟れる程度には濃い時間を過ごしたという自負がある。

 

 

 

「流石カントーでもヤマブキ、タマムシに続く街だなぁ」

 

「何だか……アローラ地方とは色々と違いますねぇ。すっごい”都会”という感じがします」

 

「生憎と僕もクチバには来たことがなかったからなぁ」

 

 一連の面倒事が終わり、再びふたごじまの方へと去ったカンナを見送った後、ユウキとリーリエは揃ってクチバシティの中を歩いていた。

 カントーでも屈指の港町という事もあり、その賑わいも相当なもの。アローラ最大の港町であるアーカラ島のカンタイシティでも賑わいや規模では及ばない。

 アローラ生まれ、アローラ育ちのリーリエはあちらこちらに視線を向けながら興味深そうに景色を眺めており、ユウキはそんなリーリエの姿を見てクスリと笑う。

 

「まぁ、とりあえずポケモンセンターに行こう。僕もちゃんとドヒドイデ(アダマス)を休ませないといけないし、ミヅキにちゃんと到着したことを知らせないとね」

 

「あっ、そ、そうですね‼」

 

 流石にふたごじま近海で船の沈没事故が起こったことはまだ彼女の耳に入っていないだろうと、そうタカを括って二人とも笑顔のままポケモンセンターに行き……。

 

 

 

 

 

 

『何か言う事はあるかな?』

 

「「ないです。ごめんなさい」」

 

 

 ―――笑顔なのに目が笑っていないミヅキに、テレビ電話の前で小一時間説教を喰らう羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

『ほんっ、とうに心配したんだよっ‼』

 

 彼女(ミヅキ)がここまで怒るのは、UB(ウルトラビースト)捕獲作戦の時に結構な無茶をやった時以来か、などと考えながら、一旦リーリエに席を外させて、ユウキは苦笑しながら画面に向き合い続ける。

 

「あぁ……ごめんって。色々と最初に起こり過ぎてさ。海上じゃ連絡も取れないから」

 

『しかもカントーの伝説種と戦ったって……』

 

「いやぁ……やっぱりロクな用意もせずに伝説種と喧嘩しようとするものじゃあないね。アッチが本当に戦うつもりだったら、絶対に……負けてたな」

 

『…………』

 

「リーリエの才能を、少し過小評価し過ぎていたかな」

 

 悪い意味ではないけどね、と追記すると、ミヅキの奥から一人の男性が画面に割り込んでくる。

 

『いやぁ、でも君たち二人が無事でよかった。速報を聞いた時は、まったく肝を冷やしたよ』

 

「僕としては中々得難い経験になったから特には……あ、ゴメンナサイ。後ろのミヅキがまたドエラいマジギレオーラ出してるのでこれ以上は控えます」

 

『おおぅ、本当だ。13歳の女の子が出しちゃいけない怒りの波動を放出しているね』

 

 割り込んできた人物―――アローラ地方におけるポケモンの技開発・研究の権威であるククイ博士は、それよりも、と話を軌道修正する。

 

『カントー《三鳥》の一角、フリーザーか。また結構な大物を”寄せた”みたいだね』

 

「えぇ。まぁ、あそこで僕が打開策を講じなくとも、リーリエが何とかしてくれなくとも、後はカンナさんがどうにかしてくれたとは思いますけれど」

 

 何せこおりタイプをメイン軸に据える四天王は、彼女と、後はもう一人ホウエン四天王のプリムしかいない。今は引退してしまっているが、それでも過日の実力は今でも衰えていないだろう。

 少なくともユウキよりかは、伝説種を相手に立ち回るだけの経験と技量を兼ね備えている筈だ。

 

『……でも、無茶しちゃダメだよ』

 

 しかしそんな軽口も、本気で心配そうな声色と表情のミヅキの前では無意識に閉じてしまう。

 

『リーリエも結構無茶するところあるけど、ユウキはそれの比じゃないから』

 

「信用無いなぁ」

 

『幼馴染として、言うべきところは言うもん。……やっぱりわたしも着いて行った方が良かったかなぁ』

 

「バトルツリーで会ったシロナさんみたいな事するのやめてね」

 

 あれだけ色々なところを興味本位でうろついていて、果たしてシンオウ地方のポケモンリーグ支部は大丈夫なのだろうかなどと思うレベルの奔放さをミヅキには発揮して欲しくないなぁと思う。

 

『でも伝説種クラスとはこれからも出会うかもしれないんでしょ? だったら、やっぱり横着しないでカプちゃんたちやビーストちゃんたちも連れて行った方がいいんじゃない?』

 

「うーん……まぁそれも一理ある、か」

 

『というより、ユウキが大変な目に遭ったって聞いた後らへんからテテフちゃんやカグヤちゃん辺りの様子がおかしいんだけど』

 

「あの二匹が来ると自重しなさそうなんだよなぁ……考えておくよ」

 

 アローラ地方で捕獲に成功した準伝説種、即ち島の守り神であるカプ神と、異世界からやってきたUB(ウルトラビースト)をレギュラーメンバーとしてカントーに連れてこなかったのは、偏にこの旅の目的の一つがユウキ自身の修行の為であったからだ。

 種族で差こそあるが、基本準伝以上になれば他のポケモンを種族値で軽く上回ってしまう。圧倒的な火力を以てしての蹂躙はまぁ魅力的ではあるのだが、それに頼ってばかりではトレーナーとしての実力を磨くことはできない。

 

 もう一つの理由は、あまり彼らを他地方の人間の目に触れさせたくない、というものだ。

 島の守護神であるカプ神ならまだしも、元来のポケモンとは一線を画するUB(ウルトラビースト)種は、その発生理由を知らない他地方の研究者からしたらとても興味深い”研究対象”になる事だろう。

 無論全ての研究者がそうであるとは思わないが、強引にでも奪い取って研究材料にしようとしたり、或いはその潜在的な力を利用しようとする浅薄な輩の目に留まるのは問題しか呼ばない。

 それが、現在ミヅキと自分(ユウキ)が”保護”という名目で所持しているポケモンであれば猶更だ。

 

 そんなUB(ウルトラビースト)の話題で一つ思い出したことを、今度はククイに話しかける。

 

「博士、もう財団や国際警察研究部の方で”ウツロイドの神経毒”の解析は終わってるんですよね?」

 

『うん? あぁ、ビッケ女史やリラ女史からはそう聞いているね。やはりというか何というか、今のこの世界には存在していないモノであったとか』

 

 ボクは門外漢だから詳しい事は分からないけれど、とククイは付け加える。

 

 だが、神経毒そのものは解析できても、その神経毒が人体の中に注入されてしまった場合、どうやって抽出するかの結論は出ていない。

 果たして人体による自浄作用が効果を成すのか否か。自然回復で消え失せる適用内か否か。()()()が過去に存在していない以上、そのデータベースも存在していない。

 

『でも、ルザミーネ代表を死に至らしめる程の劇毒ではない……君が本当に訊きたいのはそれだろう?』

 

「……えぇ、まぁ。本人からはそう訊いていましたが、客観的な情報ではなかったので」

 

『君は本当に要所要所で現実主義者だねぇ……でもこれはイッシュ地方の高名な医科大学の院長が言っていた事だ。衰弱はしているものの、無茶な行動をして残留している神経毒を必要以上に巡らせなければこれ以上体の容体が悪化することはない、とね』

 

「逆に言えば、それを現在の人工医療で治療することもできない、と」

 

『癪な話ではあるけれどね』

 

 ならば、と。ユウキが次に言う言葉は定まっていた。

 

「尚の事、ルザミーネ代表をこのまま一生ベッドの上に縛り付けておくわけには行きません。あの人にはまだ訊きたい事があって、そして快復した暁には今度こそ―――グラジオとリーリエの母親として相応しく在って貰わなければ」

 

 そうでなければ、リーリエが勇気を出して故郷を離れ、母を救う旅をする意味がない。

 それだけは、今回の旅の同行者として、絶対に叶えてあげなければいけない願いなのだ。

 

『……やっぱり君に任せてよかった』

 

「買い被り過ぎですよ。……解決の糸口となるマサキ氏はハナダシティの北の外れにある研究所にいらっしゃると聞いていますから、まずはこのままヤマブキシティ経由でハナダを目指します」

 

『そうだね。ボクも一回カントーには行ったことがあるから、そのルートが一番早いと思う。……だけど』

 

「?」

 

『マサキ氏は研究所に居ない事も多いと聞いている。もしカントー全域を探す羽目になるのだとしたら、徒歩では厳しい。”そらをとぶ”の移動手段を確保しておくべきだろう』

 

「でもカントーでは、アローラのようにライドポケモンは存在してないですし……”そらをとぶ”を使っての移動にはジムリーダーのバッジが……」

 

 そこでユウキは、ククイが何を言わんとしているかを理解した。それを察したのか、ククイの方もニッと笑う。

 

『君のトレーナー修行の一環だ。カントーのジムを巡り、バッジを集めると良い。君の中で言うところの、リーリエの望みを叶えるという大目標にも合致する』

 

「まぁ、それは確かに」

 

『ルザミーネ代表にも言われたんだろう? 君は君の目標を果たす事にも全力を注ぐべきだ。その程度を許容できない程、彼女も僕らも子供じゃあない』

 

「…………」

 

『ボクらの次代を担う君達にはね、君達なりの”何か”を掴んでアローラに帰ってきてほしいと思っている。子供の成長を見守ることが出来るのは大人の責務で、そして楽しみなのさ』

 

「……ははっ」

 

 ついこの間、カンナに言われたことを思い出す。

 自分たちがまだ”子供”と呼ばれる事には少しばかり思うところはあるが、実際子供なのだ。その恩恵には、しっかりと預からなければならない。そして、恩に報いなければならない。

 

「承知しました。やれるだけ頑張るとします」

 

『あぁ、頑張ってくれ』

 

「ミヅキ」

 

『うん』

 

「アローラに帰るときは……そうだな」

 

 その次にユウキの口から出てきた言葉に、画面の向こうのミヅキは少し面食らったような表情をして、しかしその直後には満足そうに笑った。

 

『楽しみにしてるよ』

 

「あぁ」

 

『あ、それとは別にちゃんと定期的に連絡してね‼ ちゃんとしないと強制的にテテフちゃん送り込むから‼』

 

「善意と脅しの微妙なラインだなぁ、それ」

 

 そうして二人との会話を終わらせると、それを察したリーリエがソファーから立ち上がってユウキの下に駆け寄ってきた。

 

「えっと、ミヅキさんはもう怒ってなかったですか?」

 

「うん、怒ってはなかったよ。発破は掛けられたけど」

 

 それじゃあ行こうか、とリーリエを伴ってポケモンセンターを後にする。ユウキの後ろを付いていくように歩いていた彼女は、ふと疑問に思ったことを口にした。

 

「えっと、マサキさんの住んでいらっしゃるところはハナダシティ、でしたよね。今から北に?」

 

「あぁ、いや。その前にやることができた」

 

 そう言うとユウキは、いつもよりも少しばかり好戦的な笑みを浮かべる。

 その表情にリーリエが僅かに顔を赤らめた事には気付かず、ユウキは再び口を開いた。

 

 

「まずはクチバジム―――オレンジバッジを頂きに行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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