Sideアザゼル
冥府―――。
冥界の下層に位置する死者の魂が選別される場所。
そこに俺――――アザゼルは赴いていた。
冥府はオリュンポス――――ギリシャ勢力の神であるハーデスが統治する世界だ。
冥界ほどの広大さはなく、荒れ地が広がり、生物が生息できない死の世界でもある。
その深奥に古代ギリシャ式の神殿が姿を見せる。この冥府に住む
俺は数人のメンバーと共にそこに足を踏み入れていた。
ここに来た理由は簡単だ。ハーデスの野郎に一言物申すためと、現在危機に置かれている冥界を骸骨オヤジの好きにさせないためだ。
俺達がたどり着いたのは、祭儀場らしきところだった。広い場内は装飾に黄金などが使われており、冥府に不似合いな煌びやかで豪華な作りだった。
祭儀場の奥から、死神を複数引き連れて司祭の祭服にミトラという出で立ちの骸骨さま――――ハーデスの野郎がご登場だ。連れている死神も相当な手練れだな。漂わせている気の質から察するに上級から最上級クラスか。・・・・先日の最上級死神プルートがここにいないのが気になるが・・・・。それ以上に俺の後ろにいるショウが気になって仕方がない。
「・・・・・・・・」
無言だがショウからは何の変化も見当たらない。
あの疑似空間フィールドから帰還した俺は、オーフィスの件を始め、イッセーのことも包み隠さずすべて話した。殴られてもいい覚悟だった。だがショウは。
『イッセーは生きている』
迷いもなくそう告げた。誰よりも仲間想いで誰かを失うことに敏感なショウが力強くそう告げてきたことに俺が驚かされた。
ショウはフィルナたちにリアスたちのところに向かわせると俺に言ってきた。
『アザゼル先生。俺を冥府へと連れていってくれませんか?』
それからサーゼクスにもこのことを伝え、俺はサーゼクスたちと冥府へと来ていた。
眼球のない眼孔の奥を不気味に輝かせて、ハーデスは笑いを漏らす。
《貴殿らが直接ここに来るとは・・・・。ファファファ、これはまた虚を突かれたものだ》
ハーデスの視線が俺たちの後方にいる者に注がれる。
《そちらの天使もどきは?尋常ならざる波動を感じてならぬが》
俺たちの後方にいるのはショウと神父服に身を包んだブロンドにグリーンの瞳という青年だ。
――――その背には十枚にも及ぶ純白な翼が生えている。
青年は軽く会釈をした。
「これはどうも。『
かなり軽い調子だな・・・・。噂通りか、変わり者のジョーカー、デュリオ。
『
《・・・・・噂の天界の切り札か。その身に宿る
ハーデスの視線がデュリオからショウへと注がれた。
《ルルナの使い手まで寄越すとは。ファファファ、コウモリとカラスの首領、それに
よく言うぜ、これだけ用意しても退けそうな実力持っているくせによ。・・・・そうか、表にいる
前にショウの神器のことについて聞いた。ルルナという水神が怒りのあまり神を殺した水神がショウが持つ神器に封じられているということを。正直、信じられない話では合ったがオーディンの爺さんからそのことを聞くとその事が事実だと判明した。だが、神々ではその存在を危険視し、ルルナという水神のことを隠蔽した。何故そのようになったのかはわからなかったが・・・・。
《茶を飲みながらその方らと話すのもやぶさかではないのだが・・・・あえて訊ねよう。何用か?》
サーゼクスはあくまで自然に答える。
「先日、冥界の悪魔側にあるグラシャボラス領で事件がありました。中級悪魔昇格の試験をおこなうセンター会場付近に存在する某ホテルにて、我が妹とその眷属、ここにいるアザゼル総督が『
《ああ、それか。報告は受けているが》
「そこで総督方は死神に襲われたと聞き及んでおります」
《なんでも貴殿の妹君がアザゼル殿と結託して、かのウロボロス―――――オーフィスと密談をしていると耳にしてな。そのような危険極まりない裏切り行為があっては全勢力の足並みが乱れるというものだからなぁ。それが平和を誰よりも謳うアザゼル総督自らとなれば事も大きくなるであろう?敬愛する総督の是非が知りたくなってなぁ、配下の者に調査を頼んだのだよ。仮にそのような裏切り行為があった場合、最低限の警告をするようにも命じただけのこと》
ハーデスは会話の端々にわざとらしい敬意を払ってそう説明した。
・・・・腸が煮え繰り返そうな物言いだな。正直、この野郎ののど元に光の槍でも突き立ててやりたいぐらいだが・・・・・。
ハーデスは肉のない顎を擦りながら続ける。
《だが、それは私の早とちりだったようだ。もしそちらに被害が出てしまっていたのなら、非礼を詫びよう。贖罪も望むのであればなんなりと言うがいい。私の命以外ならば大概のものは叶えてやらんでもないが》
「・・・・黙って聞いていたらどの口がほざくのやら。いや、その口すらなかったな」
上から目線の物言いと態度を出すハーデスに今まで無言を貫いていたショウが突然口を開いた。
口を開いたと思ったらショウはサーゼクスより前へ出る。
《ルルナの使い手か。ああ、そういえばお主はサーゼクス殿の妹君の眷属であったな。襲撃に関して謝罪でも求めるためにここに来たのか?》
変わらず上からの態度のハーデスだがショウは驚くほど冷静に返した。
「俺はあんたから謝罪や贖罪を求めるためにここに来たわけじゃない。どうしてもあんたに言っておきたいことがあっただけだ」
《ほう、申してみよ》
「警告だ」
刹那―――――。俺は目を疑った。一瞬にしてこの神殿全体が凍りついたからだ。だが、その光景以上にその中央にいるショウから目を離せなかった。
「次に俺の仲間に手を出してみろ・・・・・ッ!その時はこの冥府もろともお前を本当の冥府へと送ってやるッ!!」
絶対零度に満ちた眼光で冥府の神を鋭く睨みつけ、全身から強烈なまでの怒りを露わにするショウ。
だが、それでもハーデスは微塵も気配を変えず言った。
《ほう、面白いことをほざくな。たかがコウモリ風情が何が出来る?》
「少なくともお前を殺すことはできる。忘れるな、冥府の神―――ハーデス。お前ら神々が恐れ、消した存在と力を俺は持っているということを」
《・・・・・・・・》
ハーデスが黙るのを確認したショウは振り返って俺たちのところまで来た。
「後はお願いします。俺は冥界へ行って冥界の人たちを守りに行きます。皆も動き始めるころだと思いますし」
それだけを告げてショウは魔方陣でジャンプしていった。
ハハ、神殿を凍らせて、ハーデスの警告してあっさり行っちまいやがった。だが、ショウのおかげでしやすくはなったな。
後は任せな。そっちは任せるぜ?
―――――それとよ。
イッセー、そろそろ帰ってこいや。いい場面を全部ショウに取られちまうぜ?
Sideout
Sideショウ
「ふぅ、少しは気持ちが晴れたな」
魔王領にある冥界(悪魔側)の首都―――――リリス。
俺は今、そこに向かって飛んでいる。
正直、アザゼル先生からイッセーのことを聞かされた時は頭が真っ白になった。だけど、何故だろうか、イッセーが死んだとは思えなかった。
まぁ、部長の胸を求めているイッセーだ。いずれ部長の胸に飢えて戻ってくるだろう。
とりあえずはイッセーのことは心配しなくてもいいだろう。ハーデスにもケジメだけはつけた。今、俺にできることは・・・・。
「一人でも多く冥界の人たちを守る事」
覚悟を決め、俺はやっと首都―――リリスへと到着すると、そこには地獄絵図ともいえるような光景だった。暴れ回るモンスターたち。燃えている建物や悲鳴。
「・・・・・行かないと」
迷う暇があれば一人でも多く助けろ。イッセーなら迷わずそうするはずだ。
俺は地面に着地すると同時
キリがない・・・・ッ!やっぱりここは部長たちと合流して皆で巨大モンスターを倒しに行った方が・・・・・ッ!
減らない小型モンスター、燃え移るビルに俺はそう考え始めていると俺の視界に子供とその子供を襲おうとしているモンスターの姿が映った。
逃げ遅れた子供か!?
俺はすぐに駆けつけてモンスターを凍らせる。子供の方を見るとたいした怪我はなかった。
「大丈夫か?助けに・・・・・」
来た。と、そう言おうとしたが俺は子供の足下を見て言葉が出なくなった。子供の足下には大量の血の跡があったからだ。そして、その近くに瓦礫の端から見える腕は・・・・・。
「・・・・・・・・・」
俺は目を逸らし子供を抱きかかえて避難場所へと連れていく。恐らくだが瓦礫の下にいたのはこの子の・・・・・。いや、今はこの子を安全な場所へ!
俺は子供を避難場所へ連れていきそこにいる人にその子を預けて俺はもう一度首都へと向かう。
・・・・アザゼル先生が言っていたな。モンスターたちはシャルバ・ベルゼブブが
俺はさっきのことを思い出して拳を強く握った。
これが・・・・これがシャルバ・ベルゼブブの呪いの象徴だというのかよ・・・・ッ!何の関係のない人たちまで巻き込むなんてどうかしていやがる!冥界の人たちが何をしたっていうんだ!?
俺はシャルバ・ベルゼブブに怒りを感じたが今はそれどころじゃない。今の俺にできることは一体でも多くモンスターを倒しながら冥界の人たちを助ける事だ。
「これはこれはこんなところで会うとは。久しいな、氷血神」
「ッ!?曹操!」
急に俺の目の前に現れたのは
「京都以来だ。キミのことは聞いているよ。上級悪魔に昇格したそうじゃないか。おめでとう」
「・・・・敵に褒められるなんて少し複雑だな。で、何の用だ?」
最大限警戒しながら俺は曹操に問いかける。
「見学だ。シャルバ・ベルゼブブが創り出した超巨大魔獣がどこまで攻め込むことが出来るか、この目で見ておこうと思ってね」
「なら、そこをどけ。今の俺にお前にかまってやる余裕はないんだ」
「さて、どうしようか。せっかく会ったんだ。ちょっと俺と遊んではくれないか?」
槍の先端を俺に向ける曹操。すると、曹操の背後にボウリングの球ほどの七つの球体が宙に浮かんで出現した。
「キミに見せるのは初めてだったね。これが俺の
あれが曹操の
部長さんがいない今の俺はプロモーションは出来ない。だけど、やるしかない。
「
曹操は足下に球体を置くと宙に飛びだした。
飛行能力か。
俺も悪魔の翼を広げて曹操を追う。
高層ビルが建ち並ぶ空中で俺は氷の弾丸を曹操に放つ。曹操はそれを避けて聖なる波動を飛ばしてくるが俺はそれを躱して曹操の周りに氷の球体を創る。
「
水蒸気爆発を起こすがそこに曹操の姿はなかった。気配を探り俺の背後から伸びてくる聖槍をなんとか躱す。
爆殺する前にすでに転移する球を置いていたのか・・・・ッ!相手だけでなく自分の転移の対象者というわけか・・・・。
「
一つの球体がフッと消えると同時、俺は前方に氷の障壁を張る。だが、球体は氷の障壁を難なく破壊した。
「チッ!」
氷の障壁が破壊されたと同時、俺はほぼ反射的に槍を盾代わりにし何とか防御することが出来た。
「
「それはどうも!雷光!」
指先に魔力を集中させ雷光を放つ。一瞬曹操は虚を突かれたのか目を見開くが一つの球体が雷光に飛来していく。
ギュゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!
雷光が球体の前方に生まれた黒い渦に吸い込まれていく。あれが、襲い掛かってくる攻撃を他者へ受け流す球か。だが・・・・。
俺は瞬時に曹操の周辺に氷の刃を創る。逃げ場なしの一斉攻撃。どうする?曹操。
「
曹操は前方に一つの球体を移動させるとそれが弾けて光り輝く人型の存在が複数出現し、曹操はそれを盾にして氷の刃を防いだ。そして、先程雷光を吸収した渦は別の処へ新たな渦が出現してそこから雷光が放たれていた。
なるほど、あの球体は一回に複数使うことも可能なのか。それとも二個までしかつかえないのか?
「随分と慎重だな」
聖槍で肩を叩きながら問いかけてくる曹操。
当たり前だろ。お前のようなテクニックタイプは何をしてくるかわからん。それに下手に近づくと
「正直、俺は驚いているよ」
そう考えていると不意に曹操がそう言い始めた。
「赤龍帝、兵藤一誠の死に一番ショックを受けるのはキミだと俺は思っていた。だが、現実は違った。京都で一戦交えた時より、冷静で力も衰えていない」
「イッセーは生きている」
そう、イッセーは生きてる。アザゼル先生からイッセーの魂はまだオーフィスと共に次元の狭間で生きている。だからあいつは必ず帰ってくる。
「友情、いや、キミたちのグレモリー眷属の絆とでも言うべきかな」
笑みを浮かばせながら言ってくる曹操。だが、曹操の表情はすぐに険しいものへとなった。
「氷血神。キミは何故戦う?」
「・・・・どういう意味だ?」
質問の意味がわからない俺は曹操に訊き返す。
「言葉通りの意味さ。キミの戦う理由が知りたいだけだ」
いったいどういうつもりだ?
曹操の考えがわからない俺は自分の考えを言うことにした。
「守る為だ。俺の手の届く範囲だけでもいい。俺は目の前で誰かが傷つくのはもう嫌だ。だから俺は仲間を、守るべき人たちを守る。その為に俺は戦う」
嘘偽りのないこれが俺の正直な答え。だけど曹操は呆れるかのように嘆息していた。
「それを聞いて確信したよ。氷血神、キミに戦う覚悟はない」
「・・・・どういうことだ?俺に戦う覚悟がない?勝手に決めつけるな。覚悟ならとっくに出来てる!何を根拠にそんなことが言えるんだ!?」
戦う覚悟なら出来てる。俺は仲間のために誰よりも戦わなくちゃならねえ。俺の気持ちを勝手に否定するな!
「根拠ならあるさ。キミは覚悟を持って戦っていない。キミが戦わせているのは恐怖だ。誰かを失いたくないという恐怖心がキミを動かしているにすぎない。心当たりはあるんじゃないか?」
恐怖心・・・・・・。
ライザー、コカビエル、テロリスト、ディオドラ、英雄派、酒呑童子。今までの俺が戦うために動いていたのは恐怖心・・・いや、違う!俺は・・・俺は戦う覚悟は出来てる!仲間のために戦う覚悟は出来てる!そうでなければ俺は
そう考え気持ちを落ち着かせる俺に曹操は確信的な言葉を俺に告げてきた。
「だからこそキミは赤龍帝のように紅の鎧になれないんじゃないか?」
「っ!?」
紅の鎧、イッセーの真『
「・・・・・別にそこまで乱させるつもりはなかったのだが。
ガシャァァァァァァァアアアアアアァァァァンッ!
球体の衝撃を受けた俺は腹に風穴を空けながらビルの壁にへと激突した。
「カハ・・・・・ッ!」
腹部の激痛と同時に俺は口から吐血した。確認するまでもなく致命傷だ。逃げようにも体が言うことをきかない。
ビルの壁へ磔にされている俺の眼前に曹操が現れ聖槍を俺にへと向けた。
「氷血神。俺は何もキミの戦い全てを否定するつもりはない。むしろ、キミの想いの強さは尊敬に値するよ。だが、それは覚悟ではない。今のままのキミではこれから待っているのはキミにとっての地獄だろう。それは余りにも酷だ。なら、ここで俺が終わらせてやろう」
ズンッ!
聖槍が俺の胸へと深々と突き刺さり曹操は手に力を入れて叫んだ。
「――――輝け、神を滅ぼす槍よっ!」
カァァァァァァァァッ!
槍から溢れる膨大な閃光。その光が開放されれば一瞬で俺は死ぬ・・・・。死ぬ・・・・・?
死ぬ直前俺は今までの事を思い出していた。凛を守れなかった。イッセーと出会った、部長さん、朱乃、木場、小猫ちゃん、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセさん、黒歌、レイヴェル。皆俺の大切な仲間・・・・・・・。
「い・・・・いや・・・・だ・・・・」
俺は動けない身体に力を入れ聖槍を握りしめる。
「俺・・・・は・・・・・死にたく・・・・・な・・・い・・・・」
もう・・・・皆と会えなくなるのは・・・・・いやだ・・・・・・。
「生き・・・・たい・・・・・」
まだ・・・・まだ・・・皆と・・・・一緒に・・・・・・。
「・・・・・さらばだ。氷血神、駿河彰」
曹操の無情の言葉と共に俺は光に包まれた。
Sideout