ドラゴンボールUW~記憶を失くしたサイヤ人~ 作:月下の案内人
「ここに来るのも久しぶりだなぁ。二人とも元気かな?」
ここは博麗神社。境内に足を踏み入れたのは妖夢であった。
ホウレンと修行をするようになってから妖夢は週に三回くらいの頻度で博麗神社に顔を出していている。更に白玉楼でも仕事がないときには自ら進んで修行を行っており、その実力は幻想郷の数いる強者たちにも匹敵、またはそれ以上ではないかと囁かれている。
二人が外にいないことを確認すると妖夢は靴を脱いで縁側に上がり、部屋の前に立った。
「こんにちわ!ホウレンさんいらっしゃいますか?」
妖夢の元気な声とは裏腹に部屋の中からは物音一つしなかった。
「?おかしいな。気配はあるのに……。ホウレンさん?霊夢さん?どちらかいらっしゃらないんですか!?」
妖夢が大きめの声で呼びかけると今度は中から微かに声が聞こえてきた。
『……う…んぅ……?』
「あ、誰かいるんですね?よかった。入りますよ?」
誰かいるとわかった妖夢は一言声をかけてから引き戸を開けて部屋の中に足を踏み入れた。
そして部屋に入ってみるとそこには……。
「グー…グー……。」
テーブルの上で大の字になって眠っている少女が一人いただけで霊夢とホウレンの姿はなかった。
「……なんだ、眠ってたんですね。萃香さん、起きてください萃香さん!」
「んんっ……ふぇ?」
「おはようございます。ちょっとお聞きしたいことがあるんですがいいですか?」
「ふわぁ~……。なんだ妖夢じゃん。どうかしたの?」
テーブルの上で胡坐をかいて眠たそうに欠伸をしている少女は伊吹萃香であった。
萃香はいつも幻想郷のあちこちを自由気ままに行き来しており、それが天界であろうと地底であろうとどこにでも現れる神出鬼没な鬼だ。
萃香がここで眠っていたことに妖夢が驚かないのは彼女の特性を知っているという理由だけではなく、そもそも萃香が過去に異変を起こして霊夢に解決されて以来、霊夢を気に入ったらしく頻繁に博麗神社に訪れることがあったからだ。
故に週三日くらいで来ている妖夢もすっかり慣れてしまっている。
「あの、ホウレンさんと霊夢さんはどちらに?」
「あ~あの二人ね。あの二人ならお昼くらいから人里に行ってるよ。」
「お買い物ですか?」
「いんや?なんか人里でおっきいお祭りをやるんだってさ。だからここ数日はそれにかかりっきりでね~。私の相手もしてくれないんだよ~。」
萃香はわざとらしくがっくりと肩を落として見せると傍らに置いてあった伊吹瓢で酒を飲み始めた。
「お祭りですか……。それなら私もお手伝いしに行った方がいいかもしれませんね。」
「プハッ!……と言ってもお祭りはもう明日だよ?もうほとんど終わってるはずだから大丈夫だって。」
「あ、そうなんですね。……でもせっかく二週間ぶりくらいに来たのに運が悪いなぁ……。」
「帰ってくるまで待ってれば?」
「流石に準備で疲れて帰ってくる人に修行の相手なんて頼めませんよ。仕方ありません、今日はもう帰るとしましょう。では失礼しました。」
妖夢は萃香にお辞儀してそのまま部屋を出ていこうとした。
「ちょ~っと待った。」
すると引き戸に手をかけたところで萃香が妖夢を呼び止めたのだった。
振り返ると萃香は再び伊吹瓢で豪快に酒を飲んでいた。
「プハッ!ここに来たってことは今日はもう暇だろう?だったら私に付き合ってくれないかい?」
「えと……何にでしょうか?」
「決まってるさ。……この私と力比べをしようってことだよ。」
「あ、貴方とですか……!?急にどうして?」
「ん~?……まあ気まぐれってやつかな。あの男との組手で随分強くなってるみたいだしね~。どこまで実力が上がったのか見せておくれよ。」
(……萃香さんと力比べ……。以前の私ならほとんど勝負にならずに遊ばれてしまっていました。試してみたい……今の私の実力がどこまで通用するのか……!)
「どうすんのさ。やるの?やらないの?」
「……やります。萃香さん、ぜひ手合わせお願いします!」
「よ~し!そうと決まれば外行こ!外!久しぶりに暴れるぞ~!」
「あ、あまり周りの物を壊さないでくださいね?霊夢さんに怒られちゃいますから……。」
「わかってるって。ちゃんと気を付けて闘うよ。」
「よかった……。それなら安心して闘え__」
「壊れない可能性は二割くらいあるから運が良ければへいきへいき!」
「__ませんでした!す、萃香さん。場所を変えましょう!山の途中に開けた場所がありますからそこでやりましょう!」
「え~?別にここでもいいんじゃないの?」
「よくありません!いいから来てくださいぃぃ!」
「わ、わかったって。そんな引っ張らなくてもちゃんとついて行くよ。」
それから数分後。二人は山の途中にある開けた場所へとやってきた。周りを木々に囲まれたその場所はとても広くまるで草原のようでもあるがあちこちに闘いの痕跡が残されていた。
妖夢と萃香は一定の距離を保った状態でお互いに軽く体を動かしてウォーミングアップを行っている。
「この場所。随分と壊れてるけど、ひょっとしてあんたたちの修行場なのかい?」
「ええ、そうです。境内で派手な修行は出来ませんからね。ここなら物を壊す心配もありません。お互い全力で闘えます!」
「ふふふ、なら妖夢は私に全力を出させてくれるんだろうね?」
その瞬間、萃香からとてつもない妖気が発せられた。その妖気はそこいらの妖怪とは比べ物にならないほどの圧倒的な力。星熊勇儀と肩を並べる『山の四天王』と呼ばれた鬼が力の片鱗を見せたのだ。
これは萃香にとって悪戯のようなものだがそれと同時に妖夢の力を試す意味もあった。大抵の者ならば今の妖気を間近で感じてしまうと足がすくんで動けなくなったり、動揺して集中力が低下したりしてしまう。それ故に試したのだ。もしこれで妖夢に何かしらの変化があれば本気を出す必要はない。それが萃香の考えであった。そして妖夢は__
「当然です!むしろ手加減なんてさせてあげませんからね!」
__今の妖気を間近で感じてもそこに一切の動揺はなかった。むしろ今のでよりやる気を出しているようにも感じられる。ここ一年の間でいくつもの修羅場をくぐってきた妖夢にとって萃香の悪戯は闘争心を高める結果にしかならなかったのだ。
その反応に萃香は少しきょとんとしながらも楽しそうに口元を緩めた。
「……こりゃ思った以上に楽しめそうだ。さ~て、そろそろ始めようか!あんたの力……私に見せてみなよっ!!」
「わかりました。ここ一年近くで鍛え上げた私の剣技をお見せしましょう!」
「それじゃ、まずは小手調べ!」
そう言うと萃香は自らの髪の毛を引き抜き、それを触媒にして小さな分身をたくさん作り出した。
「!分身……っ!?」
「いっけ~!!」
萃香の合図と共にたくさんの小さな萃香が妖夢の周りを囲み、いろいろな角度から攻撃を仕掛けてくる。だが妖夢はその攻撃を全て最小限の動きでかわして、逆に空中で隙だらけになった分身を全て一刀両断してみせた。すると斬られた分身が元の髪の毛に戻り、ひらひらと宙を舞った。
「これしきの分身では小手調べにもなりませんよ!」
「みたいだね。じゃあこれならどうかな?」 鬼符『濛々迷霧』
萃香は驚いた様子もなく指を鳴らした。すると妖夢の周りを舞っていた髪の毛が霧状に変わり、そのまま妖夢を包み込んだ。まるで早朝のような濃く深い霧の中で妖夢は視界が狭まり、相手の攻撃が読みにくくなってしまった。
(……霧全体に気配を感じる。これでは正確な位置を掴むことが出来ません。逆に私にはどこからでも攻撃可能のはず……厄介ですね。)
萃香は『密と疎を操る程度の能力』の使い手でそれはあらゆるものの密度を自在に操ると言うものだ。物質は密度を高めれば高熱を帯び、逆に密度を下げれば物質は霧状になる性質がある。この特性を使うことによって萃香は自らの分身を作り出したのだ。
更に萃香は髪の毛を霧状に変化させた中に自らも霧状に変化して混ざった。つまり妖夢が霧全体から気配を感じるのは妖夢を包み込んでいる霧そのものが萃香であるからだ。
そして次の瞬間、妖夢の背後で霧が腕を形成してそのまま妖夢に殴り掛かった。
「……っ!そこです!」
しかし神経を研ぎ澄ませていた妖夢は背後からの攻撃に即座に反応してその拳を叩き斬った。斬られた拳はその瞬間に再び霧に変わり恐らくダメージにはなっていないであろう。魔理沙曰くこっちからは何もできないのに向こうからは攻撃し放題の狡いスペルカードだそうだ。
すると今度は全体の霧がうごめきだし、無数の攻撃が妖夢を襲った。
「……っ!」
全方位から襲い来る攻撃に対して妖夢は咄嗟にもう片方の刀を抜いて二刀流で対応するがすべての攻撃を防ぐことは難しく、徐々にダメージを受けてしまう。
「くっ……!(このままじゃ手も足も出ない……!だったら!)」
すると妖夢は刀を振る速度をどんどん上げ始め自分の刀の届く範囲すべてを高速で斬りつけていく。そうすることによって全体からの攻撃を全て防げているのだ。
しかしその動きは萃香からすれば、ただがむしゃらに刀を振っているだけに等しい。いくら攻撃のすべてを防げてもそんな動きをしていればいずれ体力が底を尽きるであろう。それに比べて萃香がこのスペルカードで体力を減らすことはない。このまま闘いを続ければ間違いなく自分が勝利するであろうと確信していた。
(修行したっていってもやっぱりまだまだ半人前か。と言ってもこの攻撃はちょっとやりすぎだったかな?まあいいや、もう終わりに__)
「やああーーー!!」 六道剣『一念無量刧』
「っ!?」
萃香が妖夢に止めを刺そうとした瞬間、妖夢の刀を振り回す速度が最大にまで達した。超高速で振りまわされた刀は通った場所に数多の残像を残してただ近づくすべての攻撃を斬り刻む。それだけならまだ状況はさきほどとさして変わらないはずだった。
だが妖夢の狙いは最初から攻撃を防ぐことではなかった。妖夢は霧の中では何をやっても無意味と悟り、すぐに霧を無効化する方法を考えていた。そして辿り着いた答えはシンプルなものだった。
「吹き飛べぇええーーっ!!」
「っ……!うわああああ!?」
それは超高速で刀を振るいその風圧によって周りの霧を吹き飛ばすという力業であった。そしてその力業は見事成功し、霧はすべて周囲に拡散され萃香も声を上げながら元の姿に戻り、空中で体勢を立て直そうとするも強い風圧に邪魔されてうまく体勢を立て直せずにいた。
「見えた!はあっ!!」
妖夢は姿を現した萃香を目で捉え、強く踏み込んで萃香の元へ一気に飛び上がった。
「やるじゃんか……!でもまだ甘いよ!」
萃香は風圧を力任せに拳を振るって拳圧で相殺させると一直線に飛んでくる妖夢の上を乗り越えてその攻撃をかわした。
「絶好のチャンスを逃したね!もう次はない__っ!?」
妖夢をかわしてその後ろ姿に攻撃を入れようと空中で振り返った萃香の目に映ったのは、なんと今攻撃を外して通り過ぎていったはずの妖夢であった。それも妖夢の射程圏内に入ってしまうほどの距離をこの一瞬で詰められている。
(ありえない!いくら速く空を飛んでもあの一瞬で方向転換して私にここまで接近するなんて!)
「たああーーー!!」
「あぐっ!?」
勝負は一瞬の動揺が敗北を招くこともある。萃香はそれを十分に理解していた。だがそれはあくまで実力が近い相手か格上の相手との闘いでの話だ。萃香は妖夢と力比べをしようと思ったのは本当に気まぐれで軽く遊び相手になればいいというくらいの軽い気持ちであった。
鬼としてのプライドが無意識の内に妖夢をずっと格下の存在だと思い込んでしまっていたのだ。 萃香は地面に叩き落されながらその考えが間違いだったことに気が付いた。
「……どうやら甘かったのは私の方だったみたいだね~。」
そう言うと萃香はとびきりの笑顔を見せて、立ち上がり上空の妖夢を見上げた。すると妖夢はすでに次の攻撃のために刀に霊力を込めて大きく振りかぶっていた。
「あんたのこと甘く見てたよ。だからこれはそのお詫びさ!私の全身全霊のスペルカードであんたを負かしてやろうじゃないか!」
霊力が込められて青白く光る巨大な刀を構えた妖夢に対して、萃香は山の四天王の奥義であるスペルカードで迎え撃とうと拳を構えた。そして妖夢が一気に急降下して萃香目掛けて刀を振り下ろした。
「勝つのは私ですっ!!」 断迷剣『迷津慈航斬』
「い~や私だっ!!」 四天王奥義『三歩壊廃』
次の瞬間、二人のスペルカードがぶつかりあい大きな衝撃が辺り一帯を包み込んだ。その衝撃に木々はざわめき上空にあった雲までもが吹き飛んでしまった。小さく陥没した地面に立っていたのは……。
「はぁ…はぁ……驚いたよ。まさか奥義を使うことになるとはねぇ。」
「あんたにここまで追い詰められるとは思ってもみなかったよ。正直舐めてた。」
「……これからも頑張んなよ。あんたはもっと強くなれるはずさ。鬼である私が保証するよ!」
「……なにせ山の四天王と呼ばれた私を倒したんだからね。自信持ちなよ。」
その場に立っていたのは妖夢だった。無言だった妖夢は萃香の言葉を噛み締めると顔を上げて大きく頭を下げた。
「はい……!手合わせありがとうございました!!」
それから少しの間、疲労回復のために二人は日に当たって休憩をすることにした。すると萃香が隣に座っている妖夢にある話を始めた。
「あんたがそんなに強くなったってことはもしかしたらあいつらも強くなってるかもしれないね~。」
「?誰のことですか?」
「半年前にあちこちで大きな闘いがあったでしょ?その時そのあちこちで闘った連中のことだよ。霊夢だけじゃなく魔理沙にあの人形遣い、守矢の巫女どころかあの勇儀まで随分手こずったらしいじゃないか。」
「そうですね。あの時の敵はみんな今までの幻想郷では考えられないほどの強さでした。」
「そう。それであんただけじゃなくてみんなこの半年の間に実力をどんどん上げてるって聞いてるんだよ。信じらんないよね~。あの勇儀が修行するってこともだけど何よりも霊夢が修行をしてるってのが一番信じらんないよ~。」
「あはは、霊夢さんは元々そういったことは一切やらない方でしたからね……。」
「……でもまあ、こんだけ強いやつらが集まってるにも関わらず更に強くなろうってんだからこの幻想郷はそう簡単には落とせないと私は思うよ。」
「……だといいんですけど。」
萃香の言うとおり幻想郷の強者たちの一部は半年前に比べて遥かに力が増したのは事実である。だが妖夢は不安を搔き消すことが出来なかった。この先どんなに強いやつが幻想郷を責めてくるかわからない。もしかしたら自分たちよりも強い敵が来るかもしれない。そうなったとき自分は役に立つことが出来るのであろうか?
妖夢は弱気な考えを振り払おうと頭を振って空を見上げた。
「……さて、それでは私は帰ります。」
「ん?もう帰るの?」
「はい。今日は手合わせ本当にありがとうございました。それでは私はこれで。」
妖夢がその場から立ち去ろうとするとぐっと後ろに引っ張られて腰を抜かした。何かと思い後ろを見ると萃香が妖夢の左手を掴んでいた。
「あの……萃香さん?どうしたんでしょうか?」
妖夢が問いかけるが萃香は何も言わずに妖夢の襟のところを掴むとずるずると引きずって歩き出した。
「え?あの……ど、どこに行くんでしょうか?」
「決まってんじゃん!せっかく遊びに来たんだからもうちょっと付き合ってよ~。」
「ええ!?別に遊びに来たわけじゃないんですが!?」
「い~からい~から!一人で飲むより二人で飲んだ方が楽しいよ~?」
「ってこんな時間からお酒ですか!?わ、私は遠慮しますよ!」
「聞こえな~い。さあ神社に戻ろ~!二人で乾杯だ~!」
「ちょ……えええええ!?」
それから数時間が経ち夕方を過ぎた頃、ホウレンと霊夢が神社に帰ってくるとそこには満足そうに眠っている萃香とその腕の中で酔いつぶれている妖夢の姿があったという。
__祭り開催まで あと 1 日
意見を聞いたところ変えても問題なしと判断しましたので次回からこの作品のタイトルは変更となります。まだ名前は決まってませんがぜひこれからも楽しんで読んでいただけると幸いです!ちょっと早めですが皆さんよいお年を!