二次創作「ガールズ&パンツァー 狂せいだー」のオリキャラとなります。
午後三時のフリータイム。窓から爽やかな風が吹き、空は真っ青で快晴。フローラ迷彩柄のカーペットを踏みしめ、銀髪の少女が糸の切れたマリオネットのように体から力を抜き、ソファに身を預けた。
低反発でレザーの肌触りのよいソファが戦車道の練習で披露した体を癒すのにちょうど良く、クッションに顔をうずめてゴロゴロと転がった。実に至福の時だ、と感慨にふけっていると、ふとカレンダーとその横の写真立てが目に入った。
カレンダーは去年のままで、写真にはエリカを含めた七人の女子が映っており、誰もいない部屋の中で独り言を述べる。
「此処も一年……あの子らと一緒にもう一年なのね」
エリカは強い脱力感と共に言った。この家の”七人”と住んで最早一年も経ってしまったのだ。
七人と言う人数には意味があるのだろうか。今年になって大学二年になった逸見エリカはソファに寝そべりながら、そんな事を考えていた。シーリングファンがグルグル回る天井を見つめ、そんな事を思ったのはシェアハウス「パッシェンデール」では何度目だろうか。
例えば、映画などを挙げてみれば七人と言う人数は非常に印象的だ。野武士に襲われている村を救うのも七人、荒野に集まるのも七人だ。大洗で首狩り兎と称されているチームも七人。これは運命的な数字なのだろうか。
7、ラッキーセブンとも言う。だが、エリカは問いたい。何がラッキーなのか、と。大学と言う新たな人生、予算の都合で住みこんだシェアハウスに来たのはよりにもよって同じ黒歴史を共有する七人。
神様がこの世全ての理不尽を自分に与えようとしていると聞けば、エリカは信じることが出来た。戦車道と栄光、後は穏やかな植物の様な生活があればいい。ただそれだけを望んでいたと言うのに、ルームメイトは特級のバカ共、サイコ、化け物の混成部隊だ。
オープンカフェでコーヒーを楽しんでいたら、空爆されたようなショックを受けたと言う感じだろうか。ともかくエリカから平穏とか平和は消え去ったと言う訳だ。
歯ぎしりして悔しがっていると、ふとエリカは思い出し、ポケットからスマホを取り出して、アルバムをタップ。そして、動画の欄へと操作すると、一つの動画が現れた。21分程の長い動画で、画面には赤毛の少女の満面の笑みが映っている。
――何よ、アイドルのPVでもあるまいし。
鼻を鳴らし、小ばかにしようものの、エリカもまた、そのお馬鹿の一員であることに違いはない。サンダースでやってしまった忌まわしい記憶を思い出し、肩を震わせた。何故あんなことをしたのか。自分でも分からなかった。
サンダース高の学園祭、シャーマンのパレードと言う一番目立つ場所でパンツァ―リートを5万を超す観客の前で披露してしまったなど、一生忘れる訳もない。仮に忘れようとしても、動画サイトにTVニュースにまでバッチリと映像が残っているので不可能。
『エリカさん、可愛い!』
『良かったぞエリカ』
トドメに西住姉妹の褒め殺しでしばらく悶絶したし、来年の新入生にいたっては挨拶として歌いだし、同級生の爆笑を呼んだのだ。
だが、同時に懐かしさを覚えたので、黒歴史を直視すると分かっていながらも再生ボタンを押した。
① ローズヒップ
私、聖グロから来た! ローズヒップですのよ! ご存じない方はいませんわ!
何せ、聖グロ一の俊足にして、クルセイダー隊のたいちょーなのですわ!
ダージリン様からの教えも持って、戦車も完ぺき、パーフェクトなおレディですのよ!
え? 水着で戦車に乗ったことあるのに? カヴェナンターは中がものスゲーあっついから仕方ないのですわ! それにちゃんとパンツァ―ジャケットも来たからノーカンですわ! ノーカン!
とりあえず、ぶっ飛ばして、かっ飛ばしってしまえば何事も万事OKですのよ! 観覧車だろうが、カールだろうが、クルセイダーにかかればちょちょいのちょい! お紅茶が冷めるまでに決着をつけるのが主義ですから当然ですのよ!
とにかく! 私の前に走る者なし! 私を常に世界を追い越しているのでありますわ! 改めて、聖グロリアーナのファーストレディ ローズヒップ! よろしくなのですわ!
② 吉田薫子
聖グロリアーナより来ました。吉田薫子です。以前は……というか、これからもローズヒップの操縦手をさせていただいています。そうですね。気品と伝統、優雅たるレディとして、育った新たな私を生かして……ちょっと待ってください。何ですその書類? 次乗る戦車はトータス重駆逐戦車? 時速は? 30km出ない?
そんな物が戦車? 舐めるのも大概にしてください。 いいですか、この世で何が必要か、それはスピード。スピードなんですよ? MBTで時速30kmしか出ない戦車なんて無いんだよ。 30km以下の戦車は戦車じゃない!
そうでしょう! ローズヒップ! あと、それは私のお紅茶ですから!後で、砂糖漬けのマンゴーもあげますから! お座り!
とにかく50km! 31マイル! 27ノット! 45フィート! 出してくださいよ! チャーフィー寄越せってんだよ! 空を燃やし尽くし、流星になるんです! 何だ! またお前か! 中学の私なんか出てこなくて……離せ! 離しなさい! そいつを殴らせろ! ホラ、そこにいる小生意気な女だ! 見えないってことないですよね?! そうでしょう! Don’t stop me no……
③ ノンナ
同志薫子には眠っていただきました。少しスピード中毒で錯乱したようですね。死ぬほどお疲れでしたから起こさないように。さて、少々早いですが、私の番ですね。プラウダ校、いえ全国最高の砲手にしてカチューシャのお母……いえ失礼。
とにかく、皆さんより一つ歳は上ですが気兼ねなく接していただけると嬉しいです。しかしながら、大学に進学してと言うものカチューシャも反抗期に突入し、今では例のカンテレの方と同棲しているとのことだそうですね。同志クラーラよりは安心ですが、継続は元々盗人。カチューシャを“鹵獲”しないか不安で不安でたまりません……カチューシャと言えば、いつものシャンプーとボデイ―ソープを背が足りずに買えず、代用品を買っていまして……可愛い……可哀想でしたので取り替えて来ました。
あ、同志ローズヒップ、もう少し落ち着いてください。 音が入ってしまってますよ。
はて、どうやって替えたのか? 聞きたいのならお聞かせしても構いませんが、その代わり“二人きり”で“私の部屋”でなら構いませんよ……話がそれましたね。カチューシャとして外せないのが、何といっても寝顔で、三日前のがコチラに……
④ 秋山優花里
アレ? もう私の出番ですか? ノンナ殿はどちらに? ああ、カチューシャ殿の部屋ですね。クラーラ殿も先ほど向かっていたので鉢合わせしなければいいですねぇ。
おっと、自己紹介でしたね。秋山優花里です! 元あんこうチーム所属! 普通科でした!
西住殿と一緒に過ごすことで同じ大学に推薦を頂き感謝感激です!
今までお友達がいなかったのに、今ではすっかり皆さんと一緒に大学に生けるだなんて、嬉しすぎて、涙が……ああ、ハンカチありがとうございます。
ああ、ローズヒップ殿! お紅茶が! 紅茶が零れてます!
いや、失礼しました。――大学といえば、戦車道のエリートたちが集う有名校! 所持車両は多岐にわたり、何と現地改修で、ベルゲパンターに四号の砲塔をくっ付けたと言うヒジョーに珍しい物があるんですよ! 何がスゴイと言うと、パンターの車体に四号の砲塔ですよ! 戦闘用の車両が少なかった苦肉の策とは言えますが、戦車道用の車両として、コレが現存しているのが、此処だけなんです! パンターと四号では砲塔のターレットリングが違うので砲塔が回りませんが、その見た目はキュートなんですよ~!是非とも、駆逐戦車として使用して欲しくてこの前学務課に嘆願書を300枚ほど提出しました!
ああ、あと! フランスのFT戦車もありましてね――
⑤ アリサ
――ああ、まだ話し終えてないのにー!
アンタは喋り過ぎ! DVD一枚分も使って! これだからミリタリーナードは! ああ、もう後で編集しておくから! それでいいでしょ!
それで、自己紹介だっけ? アリサよ。サンダースの元隊長。去年は準決勝で負けちゃった? 何よ、フィールドがだだっ広い平地だから勝ったようなものよ。後半故障が続発した癖に。 ま、いいわ。このパッシェンデールにおいて私以外に事務に長けたのはいないのよ? 感謝しなさいよ。ここの家計は私が支えてるんだから!
自己主張が激しい? 当然よ。私と言うありがたみを、ね……タカシは? それを言うんじゃないわよ! いい、アイツ最近誰にはまっていると思う? 五十鈴よ! 五十鈴! 何で大洗な訳!? おっとりして簡単にヤレそうだから?! アタシは?! 三年間一緒に居た……ストーカーじゃないわよ! お黙りオッドボール! アンタも! そこのノンナも! エリカだって! みーんな好きな人追っかけているじゃない! アタシと差なんてないじゃないの!
ドタバタ走るんじゃない! ローズヒップ!
戦車が恋人?! ヘタレってか?! 言いやがったなこの! 全員この場コルトオフィサー45でファックしてや……
⑥ ぺパロニ
おっ 遂にアタシの番だな。早く呼べよ~。コトレッタ作っていたら、楽しそうに花火とか上げてるし、てか何で薫子がコート掛けにぶら下がってたり、アリサがシーリングファンに宙吊りにされてんだ? 寝てる? マジか。後で毛布かけてやらねーとな。それから壁に穴開けるなよ。45口径カーボン弾は取り出すのメンドイだろぉ。
ああ、自己紹介な。ペパロニっす。アンツィオから来たぜ。料理に操縦は任せな! でも試験だけは勘弁な。この前掛け算を出来るようにするのに手いっぱいだったしさ。あ? この前の中間の試験? そんなのあったか? 最初に訳わかんねープリントならあったけどよ。細かい事気にすんなって。そんな事考えてたらパスタのゆで時間を間違えちまうよ。
ゆで時間はエメラルドより貴重だぜ。アタシ達はパスタを茹でてる間は神の時間と一体化してるって言うしな。
おっと、ローズまだ早い! 蓋はまだ開けるなよ!
危うく開けられるとこだったな。で、何の話だっけ? ああそう、大切な物のことな。
ほら、エリカよぉ、お前にとってのみほだって。宝物だろ? 女友達ってさ。カルパッチョがよく言ってたもんだ。“離れない、添い遂げる”ってさ。そう思って、この前みほに言っておいたぜ。「エリカはみほの事、Ti voglio bene Baciami!」ってさ。
あ、おい! どこ行くんだよ! エリカ? エリカー?!
エリカはそこまで再生させた後、停止ボタンをタップした。動画のシークバーはまだ途中で、再生時間もまだ3分残っていたが、エリカはそれ以上再生させようとしなかった。何故かと問われれば、それは彼女にとってパンドラの箱であるからだった。
誰もが触れてはいけない部分を持っていると言うが、エリカにとってもそれは同じである。誰だって、昔を思い出してしまう黒歴史ノートを読み直したくはない。そう、「それは大切な物なのかな?」などと平然と聞くような捻くれた態度や、「こんな言葉を知っている?」と言って格言を放っていた記憶など普通の者なら、そんな記憶は銀河の彼方まで投げ飛ばしたくなると言う物だ。
エリカはその記憶の一端を思い出し、顔を真っ赤にした。形の良い唇を抑え、身を思わずよじってしまった。自己紹介ビデオ最後の三分間に凝縮された人生最悪で、どことなく最高だった一瞬は黒森峰の元隊長を悶えさせるに十分な破壊力を有していた。
「クソ! クソ! 何で再生したのよ私! アレを思い出してどうしようってのよぉ!?」
エリカは叫び、枕に顔をうずめて、バタバタと床の上をのたうち回った。最初から再生しなければ、こんな事を思い出さずとも! と思っても覆水盆に返らず。耳まで赤くした彼女が暴れている内にスマホがカーペットへとずり落ち、動画が再生されてしまった。
⑦ エリカ
ふっざけんな! アンタなに言ってくれてんの?! いい、アンタが言った言葉の意味はね……え? ちょっと、何でアンタがいんのよ? な、何よ。ぺパロニの言うことなんか信じる訳? アンタどんだけ頭がおめでたい……って待って。 何その酒瓶? 酔ってる? ちょ、ちょちょ、まってそんな来ないで、止めなさい! やめて! 私、まだファース……ローズ! 今みほを押したら……ダメ!
その日、ローズヒップが“彼女”の背中を押すことによってエリカの人生が激変するとは誰も想像できなかった。
逸見エリカ。元黒森峰隊長にしてティ―ガーⅡ車長。薄いプラチナブロンドのロングヘアーにアーモンド形の瞳が狼のような鋭さを宿す美しき戦車道の乙女。
この物語はおバカと戦車、硝煙と百合に香りが漂う、逸見エリカの華麗なる大学生活をつづる物である。
なお余談であるが、先ほどのビデオを撮影終了後にシェアハウス パッシェンデールに20mm対空機関砲が秋山名義で置かれたのは偶然である。
とりあえず、元の二次創作から独立させてみました。
これの反応を見て、暇を見ては書いて行こうと思います。投稿はスローペースとなるかもですが、よろしくお願いします。
ペパロニのTi voglio bene Baciami! はイタリア語ですが、間違ってなければいいのですが不安ですね。