終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.2 はじまりの小隊

1935年3月7日

 

入学してもう半年が過ぎた。思えば随分と長いこと書き続けられたもんだ。

前世じゃ自他ともに認める三日坊主だった僕がね……意味もなく感慨深い。

 

ここに至るまでの学生生活は、未体験で刺激的なことの連続だった。知識としては知っているものも、いくつかあったけど。

 

ラッパで起床し、きちんと決められたスケジュールの中での規則正しい生活を送りながら、色々な訓練を――それこそ、日本じゃ絶対に経験できそうにないようなのも含めて――こなしてきた。

 

戦闘訓練はもちろん、緊急時の応急処置とか、各種アイテムの使い方とか……銃とか分解して整備して再度組み立て、なんてのも。

 

戦闘訓練っつったって色々あって、基礎体力作りに始まり、徒手格闘、ナイフ術、長剣術、さらには銃剣戦闘……そして、銃と実弾を使った射撃訓練。

 

変わり種では、催涙ガスをわざと吸い込んで行うガス訓練や、重装備を背負っての行軍訓練、食料全部現地調達のサバイバルキャンプや、敵につかまった時対策の尋問訓練なんてのも……。

 

……最後の結構きつかったな。実際に拷問されるわけじゃないんだけど、何時間も同じ姿勢でいたり、暗所・閉所に閉じ込められたリ、少ない食料で暮らしたり、単純作業を延々と繰り返したり……って感じで、精神的なタフネスを養うものだった。

 

座学も大変だったな。興味ある科目はいいけど、そうでもない……一般常識というか、最低限の教養として身に着ける奴は、正直前世の学校とさほど変わりなかったから。

 

逆に、戦術・戦略の基礎知識系は、前世半オタクだった僕には面白い分野だった。死ぬ直前のクールで見てた、とあるアニメの影響もあって。

 

……そういやあのアニメも、二次大戦期の地球(ただし異世界)が舞台だったな。

 

転生してしばらくの間、オタク脳だった僕は、この世界が何かのアニメとかマンガ、ゲームの世界じゃないか、って期待してた時期があった。

 

けど、少なくとも……僕の知っているそういった作品の中に、この世界にあてはまるものはなかった。しかし、地球の過去ってわけではないのも確かだ……地名違うし。

 

帝都の名前……『ノイエベルリン』だったからなあ……。

戦争モノのアニメはいくつか知ってるけど、この地名が当てはまるものはない。転生直前に見てたやつは……帝都『ベルン』だったからなぁ。軍服はやや似てるんだけど。

 

仮に何かのアニメの世界だったとしても、自分が知らなきゃそれは別に意味もない。

ファンタジーみたいに剣やら魔法があるわけでもない世界のようだし……言い方は変だけども、『ただの異世界』とすっぱり割り切った。

 

これから長い人生、色眼鏡で物事を見るようになっちゃうのはよろしくないだろう。

 

そもそもこの士官学校生活だって先はまだ長いんだ。まだカリキュラムを、期間的に見ればその8分の1が終わったところに過ぎない。あと3年半残ってるわけだ。

 

ただ、最近の成績を見るに、飛び級できそうなのでどうしようか迷っていたりする。

 

叔父さんは僕に、じっくり時間をかけて学んでほしいようだけど……この半年間で僕の能力を把握した教官たちは、一刻も早く現場でその力を使うべきだ、的なことをよく言ってくる。

叔父さんと同じように慎重派な教官も同数くらいはいるので、今のところ『強制はしない、という名の強制』によって進路や飛び級を決められるような気配はないけども。

 

……ぼちぼち考え始めた方がいいのかな、希望進路。

まだ入学して半年だってのに、やれやれ……せわしないもんだよ。

 

 

 

1935年8月6日

 

……今日、初めてカリキュラムの実行で躓いた。

 

いや、まあ……軍人になる進路を取ったことで、わかりきってたことではある。いつかはこうなると。

それでも……平和な日本育ちの僕には、うん……きつかった。

 

……『銃殺訓練』。

要するに、人を殺す訓練。死刑囚を使ったそれを、今日やった。

 

入学から約1年という節目を前に行われたこの訓練。

……なんていうか、うまく言葉で言い表せないけども、精神的に負担になる。相手が死刑囚で、僕がやらなくてもいずれ死ぬ運命にあるとわかっていても。

 

拘束されている相手の胸めがけて引き金を引く、たったそれだけ。

いつもは円形の的を相手にやっている訓練を、生身の人間相手にやることの難しさ、恐ろしさというものを身をもって知った。

 

頭の奥にずーんと重いものがある。吐いたりこそしなかったものの、その後の夕食の時は、さすがに食欲は出なかった。

 

……この感覚にも……今後、慣れていくんだろうか?

厳しいと感じていた規則正しい生活や、戦闘訓練系のカリキュラムが、今ではすっかり淡々と、当然のようにこなせるようになってしまったように。

 

……そう考えると……ちょっと怖いな。

 

……気分が晴れない、今日はもう寝よう。明日からの訓練に差し障る。

 

 

 

1935年9月1日

 

柄にもなく落ち込んでしまった『銃殺訓練』から早一月。

そのまま自信喪失……なんてこともなく、きちんと立ち直って学生生活を再開。こうして今日、無事に二階生になることができた。

 

やけ食いでどうにかなるとは……我ながら単純である。こんなところは前世と変わんないな。

 

今年度から、さらに厳しく、さらに難解なカリキュラムが実施されていくわけだけども……それと同時に、『バディ』という制度が始まった。

単純に、訓練とか何をするにも2人1組でやる、っていうもの。基本的に下士官とかの軍人は、複数人数で行動することが多いので、その最小単位である2人組での行動を常に行い、連帯感を養う……っていうものなんだそうだ。

 

僕が組んだのは、当然ながら同期の……アレスという名の男子候補生だ。

年齢的に当然だけども、ショタで童顔な僕と違い、甘いマスクのイケメンで……この国には割と珍しい、黒髪黒目。背が高く、引き締まっていつつもがっしりとした体つきである。

 

文武両道で、今年度の当初評価は学年次席。学内全体に知られる秀才だ。

ちなみに首席は僕だ。いぇい。

 

本来この『バディ』、成績も出身地もバラバラな者同士が組まされることが多い。お互いの弱点をカバーしあう的な目的で。

 

しかし、首席と次席というツートップが組まされた僕らのバディの場合、総合成績はともかく、年齢と体格差がそれを補って余りある不一致要素になると判断されたようだ。

僕ら、身長差ひっどいからな……アレスが180超えてるのに対して、僕まだ150もないし。

 

また、僕ら2人は3席以下に大差をつけてツートップになっているので、他の生徒と下手に組ませられない、というのもあるらしい。ここまで能力が違うのに組まされるようなことになれば、それは明らかに効率性を欠いたものであり、軍務上失策でしかない……だそうだ。

 

とはいえ、僕としてもコレは純粋にありがたい。

こいつと僕は去年からの……言ってみれば、親友と呼べる間柄なので。

 

幾度も助けたり、助けられたりってことがあったから、正直『今日からお前らバディな』って言われたところで、今更感がある。前からほぼそうでしたけど、的な。

互いの弱点のカバーにしたって、組むことが多かった去年からさんざん研究してたし。

 

成績も近いから、互いに教えあい、工夫しあい、切磋琢磨してきた記憶もあるし……おまけにフランクで性格いいから、話していて、一緒にいて楽しい相手だ。

 

むしろ僕にとっては、これ以上ない最高のバディと言えるであろう男だったりする。

 

 

 

………………これで、オネエ口調のオカマじゃなかったら完璧だったんだろうけど。

 

 

 

成績優秀スポーツ万能、おまけにフランクで誰とでも仲良くなれる彼だが……色恋話については噂のかけらも持ち上がらない理由がここだったりする。同期の女子学生の中には、俺様系でも顔がよければいいとか、経済力最重視とかいう女子はそこそこいるようだけど……さすがにオカマでもOK、はいないようだ。

 

ちなみに、ショタでもOK、はいるようで……僕は何度か声かけられたリ、靴箱にラブレターが入っていたりした。怖いから全部断ったけど。

 

……モテモテだろとかいうな。なんか、こう……肉食系っていうか、目がマジな、まさに肉食動物を連想する感じの娘が多いんだよここは。

それが10歳年下のショタに告ってるんだぞ……怖いって。邪推もしようもんだ。

 

なお、その時に相談に乗ってもらったのが、他でもない、アレスだ。

こいつは、最初誤解されがちだけど……さっきも言った通り内面はすごくいいやつなのである。むしろ、男前、と言ってもいいくらいに。

 

……オカマとか同性愛系の男キャラって、アニメとかゲームで、性格めっちゃいい奴けっこう多いと思うんだけど、こいつはその典型だと思った。成績優秀はもちろん、リーダーシップあって面倒見もよくて、とっさの判断力に優れ、事務系仕事も得意。会議とかでも発言に物おじしない。

 

教官いわく、今年は僕がいるせいでちょっと目立たないけど、間違いなく彼も『天才』に分類される一人、だそうだ。僕も同意見である。

 

まあ、そういうわけなので、別に一緒の部屋で寝起きしたからって寝込みを襲われるようなことはないだろうけど……騒がしい2年目になりそうではある、な。

 

 

 

1936年10月23日

 

……人生、何が起こるかわからないとはよく聞くが……今まさに、そんな気分だ。

 

まだ、卒業もしていない――飛び級しているので、間近ではあるが――この時期に、まさか実戦を経験することになるとは。

現在、出撃を待つ時間を利用して、この日記をしたためている最中である。

 

……最後の1ページになるかもしれないが。

 

僕らは今、バディであるアレスを含む、メンバーとして組まされている1個小隊規模の同級生らと共に、ゲルマニア帝国北部、隣国『ノルド王国』との国境付近の基地に、研修で来ていた。

 

2週間で終わる、あくまでただの研修……のはずだったんだが、なんだか、どこかで見覚えのある展開に巻き込まれている。

そのノルド王国が、突如として大軍を動かして帝国への越境侵犯を開始したのだ。

 

聞く限り、同国において昨今思わしくない国内情勢を改善するため、プロパガンダというか何というか……国内向けのデモンストレーションとしてやらかしたのがコレらしい。

 

祖国が強大な隣国にも屈しない強さを持っている、と国内に知らしめるために、何をトチ狂ったか国境を越えてきた。帝国が何もしないと予想して……もとい、高をくくって。

『オラオラ、撃ってきてみろよ、あーん? できねーだろバーカ』的な感じで。

 

国内に対しては、『我が国は帝国にも恐れなどせず、長年領土問題を抱えている地を我が国の領土であるときちんと、強硬姿勢で主張するだけの力がある!』とアピールし、求心力を高めるために。

 

前世の地球でもそんな国あったな。

 

……盗人猛々しいとはこのことだ。いや、盗人ってのも何か違うかコレは……あの国は密漁船がサンゴ盗んでったりしてたけど。

 

しかし、前世の日本なら大使館越しに遺憾の意を表明する程度で済んでいたこの問題も、この世界の、このゲルマニア帝国が相手では……ただの自殺行為だったわけで。

 

当然というか、帝国は方面軍を動かしてコレをがっつり迎撃するとともに、宣戦布告を出して全面戦争に移行、侵入してきた敵軍を完膚なきまでにぶっ叩いて、そのまま攻め込んだ。

 

これに驚いたノルドは、『理性的かつ思慮に富んだ寛大な対応を』とか何とかほざいてたけども、ゲルマニアは一切聞く耳持たずに戦争継続。あれよあれよという間に国境付近の軍は壊滅し、国内に攻め込まれている……というのが現状だ。

 

で、僕らは運悪くその時まさに研修にきてた。

最初こそ、研修生であるがゆえに後方に下げられて待機させられてたんだけども……急きょ、僕らにまで仕事が回ってくることになった。

 

方面軍は、これから冬に入るのを前に、できるだけ戦線を押し込もうとして突出しすぎてしまったらしく……多数の友軍が敵地深くで孤立状態となってしまった。それを救出しなければならないということで……捜索兼援軍として、この基地の戦力を総動員することになった。

 

で、僕ら研修生も、一時的に駆り出されることになったのだ。

 

思いがけず巡ってきた実戦の機会。上の話によれば、生きて帰った暁には叙勲を含めた報奨を約束する、とかなんとか言ってるが……上層部の失策で窮地に追い込まれた戦線に強制参加とは、何とも運がないな、と苦笑せざるを得ない。

 

プランでは……一定範囲を捜索の後、すでに掌握している敵国の鉄道の一部を使って帰ってくるだけの簡単なお仕事、だということだけど……敵地である以上、どこに敵軍がいて、どんな罠があるかわからない。

 

……入学以来、最大の難問になりそうだな……いや、コレは正確にはカリキュラムですらないわけだから、この表現は正しくないか?

 

……まあいいや、今日はここまでにしよう。

 

アレスや、一緒に行動する二コラやマリー達と、最後の打ち合わせがある。日記の続きは……生きて帰って、帝都のあったかい自室に戻れたら……その時にでも。

 

 

 

 

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