終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.32 第二次ソグン海戦(後編)

 

ノルドの独断専行を皮切りに、連合軍の戦況は混乱から次第に不利になり始める。

現場の困惑は、戦術指示を実行に移す手際を鈍らせ、先程までほどに機敏な反応を不可能にしていた。

 

さらに、陸上はそれ以上に、加速度的に戦況が悪くなっている。

その様子は……無線通信の向こうからの、数々の悲痛な叫び声から想像できた。

 

『ほ、報告! 湾岸部後方の山麓地域にて、展開中の部隊が謎の爆発により全滅! 状況から推察するに、敵の鉱道戦術によって足元から吹きとばされた模様! 後詰めの部隊も全滅です!』

 

『報告! 湾岸の路線を、傍流から侵入したと思しき不明列車1台が通過中! 戦闘用の兵装を搭載した車両であることを確認! 連邦製の列車砲であると思われます!』

 

『報告っ! 先に鉱道戦術が行われた地点を通り、敵戦車部隊多数が浸透中……このままでは、湾岸部が背後から叩かれます! 支給応援を! 予備選力を投じて穴をふさがなければ……』

 

『し、しかしその予備選力が吹き飛ばされたんだろう!? 湾岸の方から……』

 

『だめだ、さっきの列車の爆発で吹き飛んじまってる! 湾岸部の人員しか実働は……』

 

『こ、こちら湾岸砲台! 現在、敵の列車砲を目視で確認! 対処はうわああぁぁ!?』

 

『せ、戦車だ、向こうから戦車が……あ、あああ……何だよ、何だよあの数っ!?』

 

鉱道戦術によって敵の後ろの守りを破壊する『大地の怒り作戦』。

 

そこを通って戦車部隊を送り込み、さらに路線を利用して、連邦から譲り受けた列車砲を展開し、砲台を半包囲状態で叩いて無力化する『鋼の流れ星作戦』。

 

テオの立てた作戦が次々成功しつつある状況下……陸上における大勢は決まりつつあった。

 

 

 

一方で……海における戦いは、一進一退だった。

一時は陸の波乱ぶりにゼロも戸惑ったように見えたものの……すぐに冷静さを取り戻し、今できる最大限をこなして戦いを進めている最中だ。

 

『車掛り』の陣形で横に広がり、大きさゆえに的として狙いやすそうなドラッヘンフェルスを攻撃せんとする帝国に対し、連合は潜水艦による奇襲でその一角を崩す。

 

連合が『鶴翼の陣』、あるいはカンナエのハンニバルの要領で包囲戦のために帝国を誘おうとしている時に、帝国は陣形を『雁行の陣』に変え、戦力を集中させて、敵左翼のドラッヘンフェルスを半包囲して逃げられないように迫る。

 

しかし連合軍もまた、それに対応して陣形を変え、ドラッヘンフェルスを中心に据えた、魚鱗の陣を思わせる形で迎え撃つ。

 

今まさに、希代の戦略家同士による、読み合いからのジャブの応酬が、ゼロとテオの間で繰り広げられている――

 

(……まあ、どっちも指揮してるの僕なんだけどもね……ああ、戦略版1人2役、疲れる)

 

――ように、見えていた。

 

ゼロ役の影武者の男には、事前に作戦を伝えて八百長試合を演じている。

ノルドがバカなことをやって自滅するであろう予測ーー事前に入手した情報の裏付け含むーーも含めてだ。

 

戦況があくまで計算通り、もとい『予定通り』に動く中、戦いはさらなる局面へ進みつつあった。

 

 

「観測班より入電! 戦闘機および爆撃機部隊を確認! 数、戦闘機12、爆撃機20です!」

 

「ここにきてか……我々に察知されないよう、観測拠点を限界まで迂回してきたようだな……だが、気づけてしまえば対処は可能だ。戦闘機部隊、第1から第3まで出撃! 敵爆撃機部隊を撃滅せよ! 並びに、イゼッタ嬢、ゼクス殿、出撃用意を! お2人は戦闘機部隊の排除を頼みたい、出撃はイゼッタ嬢が120秒後、ゼクス殿が300秒後だ!」

 

『はいっ!』

 

『心得た』

 

 

「……って感じで、おそらくは魔女と、例のエースパイロットも出てくると思われる。魔女については対処は事前の打ち合わせ通りに……戦闘機の方は判断は任せます、バスラー大尉」

 

『了解した……雪辱の機会を与えてくれたこと、感謝する、少佐殿。よし、行くぞ野郎共!』

 

『了解! 大尉殿に続きます!』

 

 

爆撃機部隊に先行して現れた戦闘機部隊。

帝国空軍、バスラー大尉に率いられた12の最新鋭戦闘機は……即座に砲台か、あるいは船への攻撃を開始するかと思われていたが……その予想は、外れることとなる。

 

全くのはずれ、というわけではないが……迎撃のためにイゼッタと、連合軍の戦闘機部隊が上がって来た際……彼らは道をそれて、戦域の端の方へ離脱してしまったのである。

 

艦を沈めにかかるでも、港にとどめをさすでもなく、こちらに対して何もせずに、しかし油断できない範囲を飛行している。

 

しかし、こちらから攻め入ると……普通に反撃してくる。

その際の連携自体は見事なもので、バスラー大尉を筆頭としたエース部隊は、うかつに突出してくる相手をうまく誘い込んで即座に狩ってしまう。

 

ならばと、こちらの切り札であるイゼッタやゼクスが前に出ても、決定打にはなりえなかった。

 

ゼクス――として参加している、一応凄腕ではあるレジスタンスのパイロット――が出てきても、頭を取られないように高高度を維持して戦うため、『トールギス』の本領である急降下爆撃が封じられてしまっている。かといって爆装も、最初から航空機戦を想定して整えているため、戦艦を相手にするには火力が心もとなく、さらにそれを変えている時間もない。

 

イゼッタも同様だ。驚異的な機動力と、大型のランスを高速で飛ばす攻撃力、そして魔力と体力の許す限り飛び続けられる継戦能力が自慢であるが……生身であるがゆえに、あまりの高高度での戦闘は難しい、という欠点があった。

 

気温が下がり、酸素濃度が人間の活動に適さないレベルの高さを飛ばれると、いくらイゼッタでもどうしようもない。戦闘能力では上回っているとはいえ、敵のホームグラウンドで余裕を持っていられるほどではないのだから。

ゼロからも深追いはするなと指令が飛んだため、こちらも膠着状態と相成った。

 

もっとも、それだけ高度差があるとなれば、向こうもイゼッタに攻撃を当てることなどできないし、爆弾を落としてきても避けるなり迎撃するなりはたやすい。

それをわかっているのか、帝国も無駄弾を撃ってくる様子はなかった。

 

しかし、ならばなぜこうして敵の部隊は飛んでいるのか。

 

飛行機や軍艦は動かすだけでも金がかかる。何か意図があるはず。

皆考えるも、一向に答えは出ず、時間だけが過ぎていった……その時だった。

 

「観測基地より入電! 湾岸部後方に新たな敵航空機部隊を視認したとのこと! ただ……」

 

「? ただ、何だ? 早く報告しろ」

 

「それが……すいません、もう一度確認します。多分、誤報だと……いくら何でも、おかしい報告だったもので……」

 

……しかし、何度暗号通信の解読を試みても、その結果が変わることはなく。

 

しびれを切らした将官達が、その数分後、いいから報告しろと怒鳴るその直前……湾岸にいた兵士たちは、とんでもない光景を目にすることとなった。

 

目視で確認できる位置まで近づいてきていた、その帝国の『謎の航空機部隊』。

その異様な姿に……誰もが、凍り付いた。

 

……誰かが、呟いた。

 

 

 

「……何だよ、あれ……? 何で……何で……

 

 

 

 ……戦闘機が、戦車をぶら下げて飛んでるんだ!?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

1940年10月2日

 

ミッションコンプリート。

当初の予定通り、ソグンの争奪戦はなあなあでうやむやにできた。

 

まあ、それどころじゃないドでかい戦いになったけども。

 

しかしまあ、元々この作戦では帝国を勝たせるつもりはなかった。

けど、僕の失態だけって感じにならないように、向こうにもいい感じに被害は出した。

 

これでまあ、よくはないだろうけど……『雪辱を果たした』形にはしたし、プラマイゼロってところかな。

もともとぶっ壊す予定の国だ、そこまで評価を気にしても仕方ない。

 

今回僕は、というかゲールは、いくつもの新兵器をこの戦いに投入した。

内2つは、新兵器?って感じのものだけども。

 

新兵器?は、連邦からもらった列車砲と、無人在来線爆d……じゃなくて、列車爆弾である。

どちらも、効果的に敵を攻撃することはできたけど……後者が色々とひどかったかもな。列車を1つ使い捨てにしたわけだから、コストとかアレだったし。

 

ただまあ、それに見合った働きはしただろうけど。

積載重量限界まで爆発物と燃焼促進剤を積み込んだ列車を、高速で突っ込ませて自爆させる……コレ、ネタに見えるけどすげーえげつない威力だからね。

 

貨物を一両当たり十数トン詰め込める列車を、そこにそれだけの量の爆発物を積み込んで、しかも8両編成でほっぽったわけだから……重さに比例して大変なことになるよそりゃ。

 

単純計算で、一点集中的に戦略爆撃レベルの火力が叩き込まれたわけである。

一撃で軍事施設を木端微塵にした上、港の3分の1以上が火の海になったっけ……。

 

その後、一進一退の攻防が続いた末に、こっちの戦闘機部隊登場に合わせて、連合軍も戦闘機と、イゼッタとゼクスも出してきた。

しかし、最初からまともに戦う気はなかった『囮』の戦闘機部隊を相手に、にらみ合いに。

 

そしてその隙に……本命の新兵器、軽量化戦車が飛んできて港に布陣した。

 

史実でもいくつか例のある、戦闘機で運べる戦車。空挺戦車っていうんだっけかな。

パラシュートを使って、空から落とすことができるこいつを、技術廠に頼んで作ってもらって……今回の作戦でロールアウトした。

 

『鋼の流れ星』作戦は、単に列車砲と戦車部隊で港湾を制圧するものだけども……どちらも、その現地にまで行くことはできない。

列車砲は線路の上しか動けないし、戦車は……途中にある地形の関係で、射程圏内に港の砲台を収めて蹂躙することはできても、そこに乗り込むことはできなかったのだ。

 

そこで、あらかた港を更地にした上で、馬力のある輸送機でこの空挺戦車を運んで港に投下し、そこで即席の砲台として配置させることで……陸上の制圧を完了した、というわけ。

 

これにより、連合軍は陸地に近づくことが困難になった。

 

ただまあ、その後すぐ撤退したけどね。港も放棄して、列車砲と一緒に。

 

だって、戦車だけ配備したって、その弾薬がほとんどないし、人もいないんだから、そのまま港を抑える、なんてことできないからね。少し考えればわかるだろう。

まあ、1戦くらいなら耐えられる量は兵器ストックはあったわけだけど。

 

そしてその時……この戦いで、帝国にとって最大の戦果の1つも手に入れた。

『ライトニングバロン』ゼクス・マーキスの戦死である。

 

偽物でも腕利きのパイロットであり、指揮官クラスの1人でもあった彼は、いち早く帝国の目的に気づき、それを阻止するために部隊を率いて港へ向かった。敵の空挺戦車たちを、お得意の急降下爆撃で……できれば着地前に破壊してしまおうと。

……危険だと引き留めるゼロの制止を振り切って。

 

これで、焦って逸った独断専行が確定したところで……その運命もまた確定した。

 

待ってましたとばかりに編隊を組んで猛襲してきたバスラー大尉達の部隊が、うかつにも背中を見せた連合軍の戦闘機を次々落とし……それにゼクスが驚いて、慌てて高度を取って反撃しようとしたところに……お株を奪う急降下爆撃をかまして、バスラー大尉がそれを爆砕した。

 

ノルド王国のライトニングバロンと、その愛機トールギスは、ノルドの空に散った。

 

で、その後……最終的には、帝国軍は撤退したものの……後に残ったのは、破壊しつくされ、焼き尽くされた物資や施設。到底軍港としての機能を残していない、ソグネフィヨルドの残骸。

 

しかも、撤退の際に戦車が線路を通って去っていった上、そこに爆撃機があちこちに爆弾を落としていったもんだから、ソグンは鉄道を使った物流の要所としての価値を完全に失った。

 

帝国にしてみれば、攻め落とせこそしなかったものの、敵の重要な拠点の一つをつぶし、これから冬が近づいてくるに際して敵をけん制してうまく動けない状況を作れた。

さらに、脅威の1つとされていた敵エースパイロットを仕留め、敵の士気を下げ、こちらの士気を上げることに成功した。

 

一方で、連合軍の方も、切り札を1つ失った上に拠点も失ったに等しい損害とはいえ、いまだ場所を抑えているのに変わりはないし、連邦テコ入れの大艦隊を押し戻したという実績もある。

 

まあ、早い話が……この勝負、ドローってとこか。

 

双方、色々な意味で負った傷は大きい。しばらく派手なことはできないだろう。

 

特に連合軍……の、ノルド。

独断専行を繰り返した挙句に被害を拡大させた立ち位置なので、今後はさぞかし肩身の狭い思いをするだろう。自国の株を上げてた英雄も死んだ(ってことになってる)し。

 

発言権の欠落はもちろん、今後あらゆる作戦ではのけ者にされるか鉄砲玉扱いされ、手に入る利益は他国のおこぼれに等しいものになるだろう。

ひょっとしたら、何らかの形でこの戦争が終わった後も、株の暴落は続くかもしれない。

 

ざまぁ。越境侵犯なんて馬鹿やるからこうなるんだ。反省しろ。しても許さんけど。

 

というわけで、しばらくは小競り合いレベルの戦闘がせいぜいだろう。時間ができるね。

 

いい感じの状況下で『ゼクス』も死なせたから、その分僕が演劇やらなくて済むようになったし、色々できそうだな……さて、何を進めようか。

 

 

 

 

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