終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.33 勝利と敗北の使い方

 

1940年10月6日

 

まったく……勝利?に浮かれるのはいいけど、相変わらずうちの軍部はこらえ性がない。

そこに、ノルドの首脳連中の無能ぶりが加わって、いらん結果になった。

 

折角、双方痛み分けのドローって形にして、あの軍港は奪わないであげたのに……。

 

僕がソグネフィヨルドの戦いで連中を撃退した後……簡単に報告を上げた。

攻略には失敗したけど、敵も被害甚大。しばらくは大きな戦いはないだろう、という見通しも添えて。

 

しかし、帝国のお偉方は、その報告を……都合よく、いいとこどりをする要領で受け取ったらしい。加えて、現場の指揮官たちが別口で報告を上げていたらしかったことも大きい。

 

結論から言おう。また、英雄扱いにされた。

そして、それを最大限利用された。ネームバリューも、戦果も。

 

まず、プロパガンダ的に僕が持ち上げられて、『英雄が再び帝国に勝利をもたらした!』って感じでお祭り騒ぎ。凱旋パレードまでやらされた。北方の大都市と、帝都の大通りで。2回も。

 

次に、その熱狂冷めやらぬうちに、士気のこれでもかと上がった軍を大規模動員し――この展開を見越して用意してた節が見られる――なんと、ノルド王国領を再制圧してしまった。

 

それは、ノルドの首脳陣が、今回の痛み分けの戦果に焦ってバカやったのに端を発する。

 

痛み分けといっても、それは連合国軍から見た場合だ……ノルドにとっては、精神的支柱であった『ライトニングバロン』ゼクス・マーキスの戦死という、大きすぎる痛手を負っている。

そこだけ見れば、大敗北だ。士気もだだ下がりである。

 

それに加えて、帝国軍が間を置かずに動き出そうとしている気配。

思い浮かぶのは……この機を逃さずに、帝国が再び国土を脅かそうとしている、という驚異だろう。実際その通りだったわけだし。

 

しかしそこで、焦ったノルド王国政府は、悪手を打った。

 

普通に市民とかと協力できたならよかったんだろうけど……政府は、帝国相手に戦うために、戦時中で生活も苦しく、復興も滞りがちな状況下で、無茶な徴収やら何やらを行った。

食料とか、物資色々……『国を守るため』という名目で。

 

そこまでなら、ノルドの国民もまだ納得というか、我慢できたんだろうけど……その後がまずかった。

 

連合に働きかけて増援を出してもらうまでの間、そのかき集めた兵站と、なけなしの兵力で持ちこたえようとしていたわけだが……その初戦で惨敗。戦線はあっさり崩壊した。

 

……僕も半分くらい忘れてたんだけども、内戦戦略による局所的優位の確立という点において、正確無比な戦争機械たる帝国の実力は、諸国の中でもずば抜けていたのだ。

 

僕の勝利の報告が届くや、すぐさま鉄道ダイヤを調整し、死蔵されているものも含めて兵站を輸送、北部に集中させ、さらに連邦肝いりの海軍艦隊も使って輸送ルート・進軍ルートの両方を確立。あっという間に総攻撃の準備を整えた。

 

結果ノルドは、ぐぅの音も出ないほど見事に、木っ端微塵に負けた。

 

そして、もうだめだと悟ったノルドの首脳陣および軍上層部は……テルミドール共和国の真似をした。反抗の勢力を残すために、国外に逃亡したのである。国民と国土を見捨てて。

 

それは、彼らにしてみれば、いつか必ずこの地に帰ってくると誓った末の、苦渋の決断だったのかもしれない。しかし……タイミングと状況が最悪だった。

 

残されたのは、物資を取られるだけ取られた末に置いてけぼりにされた国民たち。

しかも、農業関係はちょうど収穫の時期だったことが災いして、刈り取った穀物その他を持っていかれてしまい……物資が圧倒的に不足していた。

 

そこに気づかなかったノルド首脳の求心力は……もともと、無謀な越境侵犯を行った結果として帝国との先端が開かれたことで地の底だった支持率が、さらに底をぶち抜いて暴落。

 

レジスタンスの英雄を失ったことも相まって、もう絶望一色だった。

 

そして、ここでさらに猛威を振るったのが……『帝国からの援助』だった。

懐柔策、とも言う。

 

 

『我々は確かに、あなた方から見れば冷酷非道の侵略者かもしれません』

 

『それは正しい見方でもありますが、間違ってもおります。我々は確かに、数多の屍の山を築いた上でこの地を踏んでおります。この手は、敵と味方、両方の血にまみれてしまっている』

 

『ですが我々は、この手を血で濡らすために戦っているのではない、その先にある、血の流れぬ世のために戦っているのです……あなた方が、ちょうどそう望むように』

 

『どうか覚えておいてほしい。わかってくれとは言いません。そのようなこと、口が裂けても言えません。だが……我々もまた、守るものを背負って戦っております』

 

『白々しく聞こえるでしょう……だが、一時、どうか一時だけ耳をお傾け願いたい! 我々は、平和を、明日を望んでおります! 皆が笑顔で、1日1日を希望をもって生きられる日々を!』

 

『物資の不足に怯え、来る冬に怯え、敵国の銃声に怯え……その根源とは? 何がきっかけでこのような泥沼の戦いになったのか……人の弱さ、無知たる罪、他者への嘲り、やられる前にやらなければならないという、強迫観念にも似た……平和な未来への渇望!』

 

『皮肉にもそれが、今日の戦いの世を作り出している事実を、我々は受け止めねばなりません』

 

『しかし、それもまた人の選択によって切り開かれた道ならば、それに終止符を打つこともまた、人の意思によって、選択によってなせるものである、と、私は確信いたします!』

 

『これから我々が行う、炊き出しや物資配給と言った人道支援は、その第一歩足りうると、私は思っております。下心がないとは言いません、何かを期待していないとも言いません……ただ私たちは、この白々しく厚かましい施しの果てに、一握りの救いがあるならば、手を伸ばしましょう』

 

『命じることなどできません。要請することも、誠実ではないでしょう。私にできるのは、ただ願うことのみであります』

 

『どうか、我々を……あなた方と共に歩ませていただきたい。平和への渇望を共に心に抱えながら、様々な問題に遮られ、それを共に歩むことができなかった我々を……しかし、手を取り合うことさえできれば、いつの日か輝かしい未来をつかむことができるであろう、友として!』

 

『それこそ……今、あなた方が必死で守ろうとしている、小さな命……次の世代、そのまた次の世代のためにも……』

 

『この先、どれだけの長い時間がかかるかはわからない。しかしいつか、いつの日か……それこそ、私がこの老い先短い命を散らせた後であろうとも……皆が、自分の生き方を選べる明日が来ることを願って……私、ハンス・フォン・ゼートゥーア少将より、ご挨拶とさせていただきます』

 

 

その際の演説の、ほんの一部分の抜粋なんだけどもね。コレ。

 

しかし、この演説の影響は決して小さくはなかった。

劇的に変わった、ってわけじゃないけど……確実に、進駐する帝国軍に対しての風当たりその他は大幅に弱まり……当初予想されていたレベルよりも、よっぽど穏やかに事が運んでいる。

 

失策で祖国を窮地に追い込んだ上、搾れるだけ搾り取って自分たちを見捨てた(と、最早見られている)、いざという時に全くあてにできない首脳陣と比べて……敵ではあるし、怖いけど、人道的で実際に助けてくれるし、特に狼藉も何もない帝国軍を天秤にかけて……後者に傾く人が、順調に増えている。

 

……本当に、恐れ入る。

この短期間で、ゼートゥーア閣下と来たら、地盤を固めつつある。

 

占領統治に差し向けられたのは、特に厳しく軍規を守る部隊だった。

 

乱暴狼藉は決して働かず、紳士的に、人道的に統治と治安維持を進めた。

 

その合間に、酒場とかで『平和』を願う感じの愚痴をこぼしたりする仕込み演技もあった。

 

……平和を願う。その言葉は本当だろうし、そこに別に下心も裏もないだろう。僕の知るあの人は……そういう人だ。祖国を一番に考えはするけども。

けど、まあ何というか……そこまでの道のりを周到に計算したもんだ、とは思う。

 

直属のレルゲン中佐が動いてた時から、そうじゃないかとは思ってたけど……ここまで全部計算通りか。恐るべし、閣下。

 

そういうわけで、再び帝国はノルドを実質支配下においた。しかも、前回よりもよっぽど安定した地盤を築きつつあり……首脳の皆さんの居場所、仮にこの後再奪還しても、もうない感じ。

 

とどめにというか、希望の芽の一切を摘み取るように……ソグネフィヨルドの港も完全に抑えた。破壊しつくした砲台の代わりに……僕がやったのと同じように、戦車をそこに派遣して、砲台の代わりに使って、海ににらみを利かせ……その間に、鉄道網と砲台を再整備。

見事、軍港として復活させてしまった、恐るべし、帝国軍の兵站能力。

 

ノルドで起こった一連の戦いから総合的に見て、帝国の完全勝利である。終わったー。ノルド、終わったー…。

 

幸いなのは……ほとんどが、それこそ僕の計算外の部分までが、ノルドの暴走というか自爆が引き起こした損害である点で……イゼッタやゼロ、そして連合軍そのものの名に傷がついたわけではないこと、くらいか。全部全部、ノルドの株の暴落だけで済んでいる。

 

結果的にはよかったのかもね。これで。ノルド以外どこも損してないし。

さすがゼートゥーア閣下。若者では詰めの甘いところを、きっちりカバーしてくれたか。

 

……それでも、だ。

また、勝ちすぎた。そんな懸念は、どうしても出る。

 

嫌な予感がする。上層部の老害共が……そしてその親玉が、これでまた調子に乗る予感が。

 

 

 

 

 

1940年10月10日

 

……予感的中。

 

だから、もう、マジで……バカ、あの爺共……ホントに、もう。

 

レルゲン『大佐』やゼートゥーア『中将』、そして僕こと、ペンドラゴン『中佐』が、どんな思いで穏便に物事を運ぼうとしてるか……わかってんだろうか? わかってないな(確信)。

 

せっかく、これ以上の被害とか抜きに、できる限り穏便な形でまとまろうかって時に……ステーキとワインばっか食ってる、欲の皮の突っ張った豚共が……!

 

……日記だと、なまじ他に読む奴がいない分、口調?が乱暴になるな。

 

帝国の国力がいくら強大でも、この先永続的に、ノルド王国の全部を直接支配できるだけの余裕はない。まだ戦争は続いてるし……同じような状態の、テルミドールとリヴォニアを抱えてる。

 

テルミドールは特に、『黒の騎士団』の暗躍で張り詰めてるから、その分力を多く注がなきゃいけないところなのだ。

 

ゆえに、ノルドに力を注ぎすぎなくてもいいように、懐柔策で労力を食わない関係性を作り出して……ホントに平和に向けて、手を取り合って努力する形を作り出そうとしていた。

結果論だけど、その先に平和があるのなら……僕としても異論はない。

 

……その平和な世に、ノルドの前政権の人たちの居場所がなさそうなのはともかく。

 

そんな僕らの努力を……今回の戦果と僕のネームバリュー、レルゲン大佐の外交手腕と、平和と安全を願う国民感情……それら全てを最大限活用した、ゼートゥーア中将の策が……戦場を知りもしない奴らの欲によって壊されようとしている。

 

まあ簡単に言えば、『もっと取れるだろう?』。

 

生意気にも、帝国に反逆し、その歴史に泥を塗りつけたあの国から、無残にも2度も負けたあの国から、もっと搾り取れるだろう?

それによって、帝国に富を。さらなる繁栄を。

 

そして、それを生かして……さらなる戦いを。

そして、勝利を。

そしてまた、栄光を。富を。繁栄を。

 

……失った分を取り戻そうとするのであれば、まだ可愛げがあったかもしれない。

もっと実入りがなければ、国家財政が破たんするとかであれば……まだ、大蔵省の連中の気持ちとかもわかったかもしれない。

 

……それですらなく。ただ単に、目の前に転がっている財をわが手に、という……野盗のような、単純で野蛮な思考。それを、上等なスーツで隠した、醜いケダモノ共がいた。

 

せっかく、穏便に収まりそうなのに。

わざわざ波風立てて、それに乗っかって取れるものを取ろうと、取れなくても取ろうと。

 

……やはり、勝ちすぎた。勝たせすぎた。

 

不利な戦局をひっくり返しての、英雄的な勝利。

それに、彼らは……酔っている。

 

……誰だっけな。こんな格言を残してたのは。何かのアニメか漫画でたしか……

 

『勝利とは、時に敗北よりも恐ろしい、己を滅ぼす麻薬である』

 

……ギャンブル依存症の人が、どれだけ負けてもギャンブルをやめられないのは、勝った時の爽快感・達成感が色濃く残り、負けた時の喪失感や後悔の念はすぐ忘れてしまうからだそうだ。

 

また、負けた分を取り戻そうとするから、さらにのめり込む。

 

次がある、次こそ勝てる、そんな風に考える。根拠もなく。

 

勝てば、アレが手に入る。コレも手に入る。ソレも手に入る。

だから勝とう。また勝とう。もっと勝とう。次こそ勝とう。とにかく勝とう。

 

もっと、もっと、もっともっともっと。

 

もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。

 

知らないうちに、それをやめられなくなる。

 

最後には、そんなことしている場合じゃないくらいに負債が膨れ上がっても、逆に特に損とかしていなくても、勝利という麻薬を求めて……その先にあるものを求めて。

絵に描いた餅でも、捕らぬ狸の皮算用でも、関係なしに……ただ、盲目に。

 

……国家がそうなったら、どれだけ強大だろうと末期症状だと思うんだけどなあ。

 

……そんなわけで今日、お偉方の議会で『もっと勝て、もっと取れ』『次はあっちを攻めろ』的な数々の耳障りを聞いてきたゼートゥーア閣下に、レルゲン大佐共々呼び出されて……防音とか秘密保持完璧な穴場のレストランで、愚痴を聞かされた。

 

あまりにひどい現状に、その数十秒前に告げられた昇進の話が、あっという間に頭から吹っ飛んで……その後は、僕らも参加しての愚痴大会だった。

 

そして、酒が回った結果として口が軽くなり(僕以外)……ぽろっと漏れ出た、大佐と中将の本音。

そこから僕は……この3人がそろって、ほぼ同一の認識を持っていることを悟った。

 

 

 

 

 

『この国、もうダメだな』……と。

 

 

 

 

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