1940年10月23日
……『真理』を見た。
気がする。
いや、その……マジでなんかこう、あーこれどう言ったらいいんだろ?
マジで何か不思議な感じで……うーん、説明に困る。
……率直に結果とかを述べよう。
連邦の魔女の遺跡……通称『女神の島』から持ち帰ったあの謎物質×3の解析が終わった。壁に刻まれていた碑文の解読も終わった。
結果は……僕らがにらんだ通りでもあったけど、違ってもいた。
あの赤い液体と、赤い石は……やはりというか、レイラインの魔力を結晶化したものだった。
そして、その……レイラインの『魔力』の正体は……やはり、『魂』だった。
碑文の記録と、サンプルの解析結果から導き出した内容になるが……過去、僕らと似たようなやり方でレイラインの魔力を物質化していたらしい。
しかも、すぐに消えてしまう魔力結晶などとは違い、きちんと物質として安定した状態にすることに成功している。媒介となる不純物を介さずに。
牛乳ビンみたいなビンと、缶詰みたいなビンに入っていた、あの液体と小石は……その成功例だった。どちらも『魔力結晶』……それも、精製する段階で枝分かれした、どちらも同じ物質ながら、液体と固体で異なる形をとったそれ。
そして、試験管サイズのそれに入っていた粘性の高いそれは……より完成度の高い『魔力結晶』だった。
具体的に言うと、持ち手の意思で個体に、液体にと自在に姿を変える上、燃料でなく魔法を強化する媒体としても機能し……とまあ、僕らがこれまでに作った物質のいいとこどりみたいなオールラウンダーっぷりだ。
純度100%、つなぎや不純物を一切含まないにもかかわらず安定していて、しかも状態を変化させてなおその物質化が崩れることがない……見事なもんだ。
自然には絶対に作られることがない物質。
帝国に保管されている、あの『魔石』とやらと比べてもなお、圧倒的なレア度。
その作り方は、石板に記されていた。
僕はそれに、僕らが研究して発見した法則や情報を当てはめ、改良した上で……試した。
貴重な材料を湯水のごとく消費する上、かなり難しかった。簡単には試せない実験だ。
けど、それを承知で何度も挑戦し、何度も失敗し、そのたびに考え、試行錯誤の末に……どうにかそれを再現して作ることに成功した。
魔力を練り上げ、編み込んで形を成していく赤い物質。
『人造魔石』の義眼で魔力の流れを見ながら作業していると、大河のような膨大な量の魔力が、その規模に見合わぬ繊細さで紡がれ、折りたたまれるように……小さな結晶として顕現していく様子がわかった。
で、それをやっている最中からなんだけど……何だかこう、頭がすーっと冴え渡っていく、みたいな感覚がね? 魔力を扱うのに、全然頭に負荷がかからなくなって……まるで、そのための『演算能力』がめっちゃ上がった、みたいな感覚があったのだ。
手足を動かすような感覚で魔力を動かせる。それも、今までよりもずっと大規模に。
……うぬぼれじゃなければ、『カルネアデス』で見た、イゼッタの戦闘と同レベルのことすらできそうだ……戦車くらいなら、うん。
幸いなことに、右腕がなくなったりとか、全身がなくなったりとか、内臓がなくなったりとか……『持っていかれる』ようなことは起こらなかったけども。
そして、一時的にではあろうけども……周囲の魔力をごっそり削り取り、さらには様々な器具や触媒を、二度と使い物にならなくなるレベルで酷使した果てに精製されたそれは……うれしいことに、大きさ、完成度共に、連邦で入手したあの試験管の中身を凌駕した。
連邦でのあれは、せいぜいビー玉程度の大きさだったけど……今僕の手に持っているそれは、ずっと大きい。それこそおそらく……帝都にある天然の『魔石』の、割れる前よりも。
形は正八面体。正三角形の面8枚で作られる形。
そして大きさは……正三角形の一辺が10㎝くらい。それが8枚なので……けっこう大きい。片手でも持てるけど、表面すべすべだから油断すると落としそうだ。
この物質は……うん、名付けるとすれば、アレしかないだろう。
というわけで、この真紅の正八面体の結晶の名前は……『賢者の石』にします。
そしてもう1つ。
この『賢者の石』を作り、同時に『真理』に触れた――って言っていいのかはわかんないけど、他の言い方パッと思いつかないのでひとまずこれで行く――結果、えらいことになった。
演算能力が上がったからか、はたまた別の理由かはわからないけど……率直に言おう。
『鋼』系の錬金術が使えるようになった。
前々から仮説として考えていた、『ものを動かす』ということを、単なるテレキネシス系の能力ではなく、分子構造や内含するエネルギーをも操作して物質の形状・状態に変化を起こす、ということが可能になったと見るべきか。
とにかく、手をパンってやってバシィィッって火花出て変形、ができるようになった。
パンってやんなくても使えたけど、こっちの方が雰囲気出るのでやってる。
そして、薬学的な意味での『錬金術』も上達した。『鋼』系のそれと併用することで、いろんなことがさらにできるようになった。
いや~……嬉しすぎる誤算だ。大進歩だ、うん。
これは……これから先、色々と大変になる見通しだっただけにうれしいな。
色んなものが作れるようになりそうだし……だいぶ楽になるかも。
より一層、気合い入れて研究も進めなきゃいけないな!
1940年10月29日
この一週間弱、研究を続けてみて、わかった。
錬金術、マジでチートすぐる。
武器やら何やらの生産効率がやばいくらいに上がった……下手に表に出せないほどに。
いや、もともと技術的に表に出せないけど。
それにしても……パンってやってバシィィッ、だけで、鉄だろうがレンガだろうが簡単に加工できる。形はもちろん、性質や強度すらも自由自在だ。限度はあるけど。
それにしたって、まさか戦車とか戦闘機を1時間以内で作れるとか……。
やり方は簡単……でもないけど、説明しようとすれば単純だ。
試しに、戦車を作る時の手順を。
①戦車のパーツ全部を網羅した一覧表を用意します。
この時、さすがに電子部品……半導体とかは事前に用意しとかなきゃダメです。作れません。
でも、歯車とかねじとかなら楽勝です。
②必要な量の金属その他素材を用意します。
鉄くずを使っても構いませんが、その場合は不純物は事前に取り除いておきましょう。その方が強度に心配が残りません。
③『錬金術』を使って、素材をもとにパーツを作ります。
④『魔女の力』を使って、その素材を組み立てます。必要ならその途中で、溶接とかする代わりに『錬金術』を使ったりします。
⑤できあがり。
普通なら工廠とか作って、何週間、何か月がかりで作るようなものをこんなお手軽に、ってんで……技術部の連中に『ふざけんな!』って言われそうなほど簡単である。
ただまあ、これ、③と④を完ぺきにこなせる精神力や演算能力、記憶力、知識その他が必要になるので……実質僕にしかできないんだけど。
同じ魔女の力を使えるマリーには無理だ。もうちょっと簡単なものなら、なんとか作れるけど。
……それと、だ。あと2つほど、作ったものがある。
1つは、前々から見え隠れしていた、宇宙世紀素材……のうち、軽い合金と、感応するサイコ素材。エネルギー炉はまだだ……もうちょっとっぽいけど。
そしてもう1つは……その素材と、その他研究の副産物を使って、僕が独断で作り上げた、ある兵器だ。
……正直、作ってる途中はハイになってて何も思わなかったんだけど……気が付いたら完成していたそれを目の前にして、『何をしてるんだ僕は?』って感じの思いを抱いた。
……深夜テンションって、怖いね。
……前々から洒落で考えていた構想、なんとなく書いてみていた設計図、
それをもとにして色々やってみて、テンション上がって素材も作って、夜通し精製と組み立て……気が付いたら、完成品が、窓から差し込む朝日を受けてガレージの中で堂々と『立っていた』。
全高4m超ほどのそれを見上げ……『やっちまった』的な気分になった。
……とりあえず、アレスたちには正直に話して、ちょっと怒られて……けど、かなりいいものができたのはホントなので(簡単に表に出せないけど)、いざって時の切り札として扱うことにした。一応、そのための試運転とかも終えてある。
結果は……想像以上だ。僕が趣味と、オタクだった前世からの厨二病を全開にして、さらに実際にファンタジーを組み込んで作り上げただけのことはある(自画自賛)。
まあでも、コレが必要になるような事態なんて、そうそう起こるもんじゃ(日記はここで途切れている)
☆☆☆
時は少しさかのぼる。
場所は、エイルシュタット国境付近、ゼルン回廊。
テオがいる連邦中北部とは、時差ゆえに同じ時間で比べることはできないが……その日の昼、まだ日が高い時間に……イゼッタは、その空を飛んでいた。
そして……絶句していた。
彼女が出撃したのは、ゲール軍が攻めてきた、という報告を受けてのことだ。
先立って、エイルシュタットを含む反帝国同盟国は……帝国内部に、内通者とも呼べる協力者を持つことに成功していた。
『黒の騎士団』のゼロ経由で紹介されたその者達……中将2名という大物を含むその存在に、フィーネ達は驚き、しかし同時にそれを歓迎した。
帝国の内部情報が手に入るから、という理由もそうだが……帝国軍にも、この先の世界を憂いている者達がいるのだと、知ることができたからだ。
もっとも、不信感を抱き、そう簡単に信用できないと主張する国も当然いたのだが。
それでも、着々とその協力関係が築き上げられていき、来月早くには、顔合わせも行う予定……という場面に来ての、これである。
物分かりが悪い方の帝国軍の襲撃。水を差された気分になるのも、当然というものだった。
それに対処するために、イゼッタは出撃したのだが……そこでイゼッタは、そして駆けつけたエイルシュタットの軍は、信じられないものを目にする。
それは……少女だった。
戦場に、まだ年端もいかぬ……イゼッタと同じくらいの年齢に見える、少女がいたのだ。
……イゼッタと同じように、空中に浮いて、だ。
白い髪に、赤い目が特徴的だ。線が細い体つきで、整ったつくりの顔に、どこか儚げな、悲し気な表情を浮かべている。
対戦車ライフルにまたがって飛んでいるイゼッタと同じように、彼女は……やや禍々しい形の、長い棒か、杖らしきものに腰かけていた。
恐らくは、あの杖を浮遊させて飛んでいるのだろう、と想像できる。
さらに、周囲に魚雷を浮遊させているイゼッタと、これまた同じように……大剣のような形状の巨大な金属塊を、その少女は周囲にいくつも浮遊させていた。
で、あるならば、あの少女もまた……イゼッタと同じ『魔女』なのか、と、それを目にした者達が思い至るのに、時間はさほど必要なかった。
そしてその疑問は……問いかける前に、答えを提示される。
視線の先にいる当の本人が、口を開いたからだ。
「……エイルシュタット公国の魔女、イゼッタさんですね?」
「あ、あなたは……?」
「……私は……私の名は、ゾフィー。ゲルマニアの科学技術によって、この世によみがえった……かつて、あなたの国で『白き魔女』と呼ばれていた者です」