終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.4 公女と魔女

 

 

時は……1940年、4月。

アルプスの雪も解け始めたころ……そのふもとに広がる小国にて、世界の運命を変える、1つの出会いがあった。

 

1939年に、ゲルマニア帝国が隣国リヴォニアに攻め込んだことに端を発する、欧州全体を巻き込んだ大戦。周辺各国が次々とその牙にかけられていく中……戦火はついに、その隣国であり、アルプスの小国『エイルシュタット公国』にまで広がっていた。

 

戦争を行ったこともほとんどなく、軍事力も脆弱。量・質ともに大きく劣る。

自国の力ではとても帝国に勝てないとわかっている公国は……必然的に、他国の力を借りるより他にない。そのための特使として、公女オルトフィーネ・フリーレリカ・フォン・エイルシュタットは、中立国リヴォニアにて、海の向こうの大国ブリタニアとの極秘会談を行っていた。

 

自らを政略結婚の道具にすることもいとわない覚悟のもとの会談だったが、その最中に突入してきたゲルマニアの兵士により、彼女は捕らわれの身となってしまう。

 

ゲルマニア本国に護送されゆく輸送機の中、彼女はあくまでも気丈にふるまっていたが……敵の手中に落ちたその心中は、不安と恐怖でいっぱいだったのは言うまでもない。

 

「まだ無駄な抵抗を続けているようだ……まあ、もう陥落は時間の問題ですがね」

 

「どうかな……わが国民は粘り強い、簡単には諦めんぞ?」

 

「ですが……敬愛する自国の姫が死んでしまう、などということになれば考えるのでは?」

 

「……私を、脅迫の材料にするつもりか……!」

 

 

(……あれ、この、声……)

 

 

「私の命は、民の……彼らの愛にゆえにある。だからこそ私も、最後の瞬間まで戦い抜いて見せよう。この身に流れる血の最後の一滴が尽きるまで……我が一族の誇りにかけて。我が名はフィーネ……オルトフィーネ・フリーレリカ・フォン・エイルシュタットである!」

 

 

「姫……様……!」

 

 

その時、不思議なことが起こった。

 

突如として周囲にあふれかえる、光の粒子。

 

その光と共に開く、大きなカプセル。

中から現れた、赤い髪に白い服の、一人の少女。

 

(……これは……夢か……? イゼッタ……私の、白い、魔女……?)

 

「姫様……姫様ぁ!」

 

 

この数秒後、輸送機は突如として爆散し……そこに乗っていた人間は、高高度で放り出され、一人残らず行方不明となった…………少なくとも、その後数日は。

 

 

エイルシュタット公国公女、オルトフィーネ・フリーレリカ・フォン・エイルシュタット。

 

魔女の末裔……イゼッタ。

 

2人の再会が……この世界を大きく動かすこととなり、

 

……同時に、『黒』の名を持つ、とある少年が動き出すきっかけとなることを……まだ、誰も知らない。

 

 

☆☆☆

 

 

1940年4月11日

 

本日未明、久々に帝都の『実家』でゆっくり寝ていたところに……寝耳に水極まりない情報が飛び込んできた。

 

曰く……エイルシュタットに、『魔女』が出た、と。

 

まだ暗いうちからやかましく鳴り響いた電話機(盗聴防止回線)の向こうから、早口でマリーが告げてきたその報告に……一気に眠気が消し飛んだのをよく覚えている。

 

普通に考えれば、『何を言ってんだ』って切って捨てるような情報だろう。エイプリルフールにはちと遅いし。

 

いや、情報というか……それ以前だな。そんなファンタジー的な言語、軍内部で使う報告に入れでもしたら、それが単なるジョークでも『遊ぶな』と怒られるだろう。報告書や、正式な戦況報告なんかに入れた日にゃ……怒られるだけじゃすまないだろうな。

 

現に、その報告を持ち帰った、エイルシュタット侵攻軍の総司令官……グロスコップ中将は、今日さっそく皇帝陛下の前に呼び出されて査問待ったなしだったらしいし。

 

勝てるはずの戦いに負けたばかりか、わけのわからない言い訳をして責任逃れをしようとは何事か、という感じで。見せしめもかねて盛大にこき下ろされるだろうと予想されていた。

 

グロスコップ中将は、傲慢なところはあるが、ゲールそのものへの忠誠心も厚く有能だっただけに、今回のコレに落胆する人は軍部にも多かった。こんな人だったのか、と。

 

しかし驚いたことに……皇帝はその報告を受けても、中将を強く責めなかったばかりか、処分を軽減までした上……なんと、魔女の存在を認めるような発言までしたらしい。

その場にいなかったんで、伝聞だけど……宮中・軍部はそのうわさで持ち切りだ。

 

あ、ちなみに中将は、処分自体はされたそうだ。降格&領地はく奪の上、新設される収容所の所長にされたとか。まあどうでもいいけど。

 

……ここまで聞けば……普通に考えて『わけがわからないよ』の連続だろう。

魔女が出ただの、皇帝がそれを咎めたり否定したりしなかっただの、その魔女の力で帝国軍が負けただの……いつからこの世界はファンタジーになったんだ、って話である。

 

……普通なら、ね。

 

ただ、僕らみたいに……『魔女』というものの存在を知っている者からすると、違ってくる。

 

エイルシュタットに魔女が出たという胡散臭い報告は……『エイルシュタットにも魔女の生き残りがいた』という情報になり、

 

その力で帝国軍が敗走させられたというとんでもない報告は、その魔女が軍を退けるほどに、魔女の『力』を扱う能力にたけていて、なおかつエイルシュタットに味方していることを示し、

 

皇帝の各言動については……皇帝もまた、魔女の存在を知っていた、あるいは情報として聞いて疑っていた……ということを表す。

 

……ちと、詳しく調べる必要があるな。

アレスとニコラにも動いてもらおう。幸い、軍部はこの噂で持ち切りだから、普通に調べようとしても怪しまれることはあるまい……色々、普通じゃないルートも使うけど。

 

……エイルシュタットの『魔女』……か。噂では、戦車や戦闘機まで動員した大軍団を壊滅させたとか……。

 

 

 

マリーと……うちの『魔女』と、どっちが強いかな?

 

 

 

1940年4月14日

 

思いのほか生存者が多かったもんで、情報は割とすぐにそろった。

箇条書きでまとめてみよう。

 

・対戦車ライフルにまたがって空を飛んでいた。

・剣やランスを何十本も空中に浮かばせて、飛ばして攻撃してきた。

・剣を組み合わせて盾を作り、砲撃を防御した。

・戦車や戦闘機は、次々にランスで貫かれて破壊された。

・戦闘機より速く、高く飛んだ。

・赤い髪に青い……おそらくは公国の軍服。まだ幼さの残る少女だった。

・スタイルがよかった。

 

……眉唾がさらに加速しそうな情報の数々。

あと最後の情報くれた奴、意外と余裕あるなおい?

 

魔法って感じはあんまりしないかも。炎も雷も出さないし、バリアも使わないと……いや、コレはこれで偏ってる印象というか、偏見というか、アニメ脳なのはわかってるけど。

なんか、超能力っぽい印象を受ける。テレキネシスとかの。

 

いやまあ、僕としても魔法ってのはそういうもんだとわかってるけどね。どうしてもね。

 

ともあれ……僕が知ってる『魔女の力』の特徴と一致するな。コレはどうやら、本当に魔女らしい……エイルシュタット公国に、どういうわけだか味方する『魔女』が現れたか。

 

……今後どうすんのかね? すでに口止めとか隠蔽不可能なレベルで噂が広まってるけど。

 

まさか、大っぴらに魔女を戦力として公開して戦っていくなんてことは……いや、案外ありうるか? 彼女が確実に協力してくれる立場なのなら……それも。

この科学と鉄の時代に、ファンタジーを全面に押し出すのは一種の賭けだろうけど……実際に大勝利をおさめ、これからもそれを発揮できるとすれば……。

 

……そういえば、あの国、つい先日大公が亡くなって、オルトフィーネ公女殿下が、数日後に行われる式典で新大公に即位する、って話だったな……発表の場としては、ありうるか。

 

……ニコラに頼もう。彼女確か、旧テルミドールの出版社に伝手があったはずだ。

 

 

☆☆☆

 

それから数日後。

 

エイルシュタットの歴史ある古城において、新大公、オルトフィーネ・フリーレリカ・フォン・エイルシュタットの即位式が行われた。

 

その式典において……同時に、1人の少女の存在が、世界に向けて喧伝された。

エイルシュタットに伝わる『白き魔女(ヴァイス・エクセ)』――かつて、大国の侵略からかの国を守るために戦ったという、おとぎ話の存在の……しかし、実在した、その末裔。

 

イゼッタという名の、本物の『魔女』の存在である。

 

光に包まれ、対戦車ライフルに乗って空を飛び、宝剣を自由自在に動かして岩を切り裂き、果てはフィーネ大公を抱えて空に舞い上がる……誰もが、その光景に息をのんだ。

 

その場において、魔女の力が本物だと示されたと共に……オルトフィーネ大公との間に、確かな信頼が、主従の関係があることが見て取れたからだ。

かの魔女は、エイルシュタットに味方しているのだ、と。

 

イゼッタに抱えられ、微笑みかけられながら……フィーネは、声には出さず、その心に誓っていた。

 

彼女は、自分の……この国のために戦うと言ってくれた。

レイラインという、自らの弱点を迷うことなく明かし、その上で、その力を……今や一人しか生き残りのいない『魔女の力』を……この、自分のために使ってくれると。

 

ならば自分も、大公として、そして彼女の友として、全力をもって応えよう。

 

彼女が自分に望んだ、『私の希望になってくれますか』という願いのため。

この、兵士たちが、人々が死に場所を選ぶことすらできない時代を終わらせ……『皆が明日を選べる世界』を作るために、この命あるかぎり力を尽くそう、と。

 

 

 

……その様子を、記者の一団に混じってみている者がいた。

 

(……どうです、マリーさん?)

 

(本物、だな……あの娘、確かに魔力を操っておる。しかも、相当な錬度と出力だ……エイルシュタットの魔女・イゼッタ……とんでもないのが今まで隠れていたものだ。仮に戦いになれば……正面からでは、私ではまず勝てんだろうな)

 

(そこまでですか……でも、まさかこんな風に堂々と世界に向けて発信するなんて……思い切ったことをしますね、今度の大公殿下は)

 

(これまでの保守的な連中とはちと違うようだな……此度の戦、一筋縄ではいかんぞ、確実にな)

 

会場に潜入し、演技としてその光景に見入っているふりをしている2人が、小声で話していた声は……場の喧騒と歓声にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

 

 

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