その何か……おそらくは乗り物だろう、その操縦席に、戦闘機の風防のような、窓の役割を果たす場所は……ないはずだった。
にもかかわらず、壁であるはずの面に、外の景色が映っていた。
何度かイゼッタも乗り込んだり、乗らずとも隣を飛んで中を見たことがある、戦闘機の操縦席にあるような計器やら何やらは、ない。代わりに、何に使うのかわからない色々な『何か』がある。
後ろの座席に縛り付けられ、質問にもろくすっぽ答えてもらえず、ただ荷物のように運ばれるがままになっているイゼッタ。
その視線は、時々、室内の機材や窓の外の景色にやりつつも、ほとんどの時間、前の座席に座っているテオに向けられている。
色々と聞きたいことがあるのだろうし、実際に何度も聞かれているのだが……その全てを封殺し、テオはその乗り物……『蜃気楼』を飛ばしていた。
「……ねえ」
もう何度目かになる、イゼッタからの説明要求。
それを遮ると同時に……テオの口からは、今までとは違うセリフも出る。
「もうちょいで目的地に着くから、待ってて」
その数分後、テオが到着したのは……
☆☆☆
1940年11月4日
ちょっと日記読み直してみたんだけど……あらためて見ると、ここ一週間弱(時差込み)の間に、めっちゃ動いたな、戦況。
魔女2人目の出現、エイルシュタット公国への総攻撃……からの失敗、第二次魔女VS魔女、そして最後には謎の巨大ロボットを従えてテロリストが乱入……と。
……最後の僕なんだけどね。
さて、回想とも呼べない雑な振り返りはこのくらいにして……今現在、僕は『ノルド王国』の北部のある地域にある、隠れ家的な秘密基地に来ている。
ここは、帝国軍の物資デポ――小規模な集積所――の1つとして登録されている場所の1つだが、巧妙にカモフラージュして、帝国軍内部の『反戦派』のアジトの1つになっている。
もちろん用意したのは僕だが、最近は他の偉い人も使い始めた感じである。
そこに、ひとまずイゼッタの手当と、今後の計画の確認のために降り立った。
事前に連絡をしておいたので、僕に続いて、自国の宿敵ともいえる『魔女』が降りてきても、部下たちはさほど戸惑った様子もなく、命じられた仕事をてきぱきとこなしていった。
まず、『話は後!』とびしっと言った上で、イゼッタは医務室に放り込んでおいた。
医務室……に限らず、この基地には僕らの息がかかった兵士以外はいない。なので、きちんと安心してイゼッタを任せておくことができる。
加えて……医務室には、何かあった時のため、『錬金術』で作り出した薬も置いてある。通常の薬を笑えるくらいの性能を誇る、もはやポーションと言っていいレベルの薬を。
それを使えば……あの程度の傷なら、すぐに良くなるはずだ。
僕が『錬丹術』……『錬金術』の医療特化バージョンを使って治療に当たれば、もっと早く治るだろうけど……今はその時間すら惜しいので却下。
問題がある程度片付いた後でならやってもいいけど、それまでは医官たちに任せよう。
……さて、さっきも言った気がするが、やることは多い。
世界情勢が一気に動きすぎだもんな……あー忙しい。
……のんびりしてる暇はもうないな、一刻も早く……『反逆』を始めないと。
1940年11月5日
とりあえず、各方面に指示を出し、手を回した。
前々から進めていた『計画』に着手できるように準備を始めさせ……同時に、この事態を重く見て動き出した『反戦派』の上層部……ゼートゥーア閣下やルーデルドルフ閣下らとも呼応し、期を見て一気に動き出せるように準備を進めることにした。
そのための拠点として、ルーデルドルフ閣下がレルゲン大佐を動かして、最前線付近のある場所をすでに影響下に置いていた。さすがは閣下……やることが大胆かつ効果的だ。
あそこなら逆にわかりづらいし、動きやすい。
あまり大きく動くと、逆に違和感どころでなくなって隠し切れない場所でもあるけど……そんなことになる時はすなわち、僕らが本格的に動く時だろうし、何も問題ない。
と、なると……メインキャストは全員そこに集める必要があるな。
まあ、帝国の動きはこの辺にしといて……もう1つ、大きな問題は……イゼッタ関連だな。
ゾフィーから救出・保護したはいいとして……彼女にもこれから、ちょっとばかり働いてもらわなきゃならない。そうでないと、計画がスムーズに進まんので。
とりあえず彼女には、一緒に食事しながら、説明しておいた。ゆっくり、簡潔に、順番に。
まず僕が……いや、この基地にいる者全員が、帝国の、ひいてはこの世界そのものの未来を憂い、戦争を終わらせるために立ち上がった仲間であること。
そんな仲間が、ここの他にもまだまだいること。
僕の階級よりもずっと上にもいること。
あの『白き魔女』ゾフィーについても話した。帝国が研究を続けていたクローンであることや、『魔石』というアイテムを使って自分を強化していること(このへんはイゼッタも知ってた)、エイルシュタットへの復讐のために戦っていること、その他もろもろ。
さらに、僕らは独自に『魔女の力』の研究を進めていて、その過程で様々な技術を確立させ、様々な新しい物質を生み出し、戦闘に利用していることも。
そして……これから僕らがどう動くか、イゼッタやフィーネ達にはどう動いてほしいか、そのために、何をどうすべきか、etc。
どうやら頭脳労働はあんまり得意じゃないらしいイゼッタは、それらをどうにかかみ砕いて理解するのに四苦八苦していた。
それでも、あきらめずになんとか飲み込もうとしていた。まじめで熱心だな、ホント。
とはいえ、イゼッタだけに説明しておけば万事OK、なんてことにはなりえないので……こっちはこっちできちんと動くけどね。
できれば、フィーネ達にも話を通したいところではあるけど……あっちはただでさえ切羽詰まってる状況だ。
説明するったって、そのための準備とか、外部に気づかれないための色々なカモフラージュその他の下準備が必要になる。そして……そんなことをしている時間は、ない。
となれば……行き当たりばったりというか、事後承諾というか……そんな感じで進めるしかないだろう。願わくば、それを向こうが察して動いてくれれば助かるが。
何はともあれ、準備に入らなくちゃ。
できれば2日以内……遅くとも5日以内には行動に入らないと、帝国の過激派・戦争派がまたいらん事を始めるだろうから……マジで時間ないな。
☆☆☆
「さて、丸1日ゆっくり休んで、体力はもちろん傷もきちんと回復したっぽいので……お待ちかねの説明タイムです。敵の基地のど真ん中で落ち着かんかもだけど、そのへんは我慢してね」
「あ、うん……でも、その辺は多分大丈夫だと思う。この基地の人たち、敵って感じしないし……みんな、すごく優しくしてくれたから」
場所は、テオの執務室。
テオはデスクに、そしてイゼッタは、いつもの白い戦闘服で、部屋の中央にある応接用のソファに腰かけていた。
基地についてすぐに、全身にしていたケガを治療するために医務室に放り込まれたイゼッタ。その日はそのまま医務室に泊まることとなり(実質的な入院患者であった)、しかしその翌日、細かな傷や打撲などは、きれいさっぱり直っていた。
骨折……には至っていないものの、骨にひびが入っていたりするような大きなケガについては、さすがに一晩では完治はしていなかったが、ギプスなども取れ、今は激しい運動をしなければ、十分に歩ける程度にまで回復している。
もちろんこのことに驚いたのはイゼッタである。素人目にも、完治するのには時間がかかるだろうと思われた傷が、たった一晩でここまで治癒してしまった。
このペースなら、あと2日も同様に治療すれば、自分の体調は万全になるだろう。
今までの経験則から、そう確信できていた。
そしてそんな治療は、彼女が旅の間に慣れ親しんでいた民間療法や、エイルシュタットの王宮で見た最新の医療技術でも不可能なことだった。
この時点で、ゲールとの……あるいは、『テオの仲間たち』との間に、イゼッタはフィーネの国と隔絶した技術格差があることを悟っていた。
そのことについても、この場で聞くつもりだった。
もっとも、そのくらいはテオも予想で来ているし、そもそも聞かれなければ自分の方から説明に盛り込むつもりだったのだが。
「やみくもに説明していってもわかりづらいだけだし、かといって最初から順番に話すと長くなりすぎる。だから……こないだの秘密会談の時に、答えられなかった質問をベースに説明するよ」
さかのぼること、およそ2ヶ月と少し前。
小国『カルネアデス王国』での結婚式の際、フィーネとイゼッタ、そしてテオ達が極秘に会談を行った時……テオはその立場と、その時の状況から……まだ、彼女たちに多くを話すことができなかった。
しかし、今ならば……話せる。
いや、話さなければならない。
テオは1つずつ、ゆっくりと、イゼッタにもわかるように説明していった。
前提条件として……自分たちは、この戦争を終わらせるために、ゲール内における獅子身中の虫として活動を続け、戦っていること。その目的として、単にゲールを倒すためでなく、ゲールの民達も含めて救われるような終わり方をさせるために動いていること。
ゲールの軍に『魔女の力』の情報を教えていないのもそのため。テオはいずれ、ゲールを裏切って、この力を主軸にして戦うつもりでいたからだ。
……もっとも、予想外に国内外に『魔女』の第2、第3勢力が現れてしまったのだが。
エイルシュタットのイゼッタと、帝国のゾフィー、そして、そのバックにいる研究機関が。
また、テオの『魔女の力』については、なぜこうして発現しているのかは不明。
タイミングとしては、イゼッタと再会した後……使えるようになった。
しかし、それ以前からテオには、彼が『SEED』と呼ぶ、正体不明の力が備わっていて、それが彼の超人的な身体能力の秘密である。頭の中で何かがはじけたような感覚と共に、全ての能力が限界を超えて強化される。銃火器相手に、剣1本で圧倒できるほどに。
もちろん、それ以上にテオのたゆまぬ努力あってのものでもあるのだが。
そしてさらに、同様に魔法が使えないうちから『魔女の力』についての知識などを有していたことについては……彼には、仲間がいたから。
その力について、各々が別な方面からアプローチして研究していた『知識』を持った仲間が。
軍士官学校での同期に……3人も。
それが、アレス、ニコラ、マリー。
本名……アレイスター・クロウリー、ニコラ・フラメル、マリアンヌ・ロマノヴァナ・ラスプーチン……現在の側近3人だ。
いずれも、様々な理由から『魔女の力』に造詣が深く、またゲルマニアをよく思っていない。虎視眈々と、その隙を伺っていた……知り合う前からの同志だった。
アレイスター・クロウリーは、ブリタニア王国の出身であり。『魔術師』の家系。
しかし、『魔女』の血筋だったわけではなく、あくまでその力の研究を進めていた立場だった。その発祥は古く、かの魔女ゾフィーが、『白き魔女』として戦っていた頃から続いている。
しかし、公には広くは知られておらず、知っていても眉唾物のおとぎ話だとされているがために、代々異端視されてきた家柄である。
最初は後ろ指をさされる程度だったそれは、いつしかそれは表立った過激なものになり、追い出されるようにブリタニアを出た……というのが、彼の何代も前の先祖の話だそうだ。
しかし、その間も、『白き魔女』の最盛期に手を尽くして手に入れた『魔女の力』のサンプルや文献、古文書などをもとに研究を重ね、レイラインやその力のメカニズムについて、ある程度の、正確な知識を、それらがまとめられた資料を有していた。
そして彼は、今現在も研究を続ける中で……摩訶不思議な力を使えるテオに出会ったのである。側近三人のうち、最初に、だ。
ニコラ・フラメルは、テルミドール共和国の出身。
イゼッタ同様、細々と秘密を守りながら暮らしていた『魔女』の一族の出身だが……その力は代を重ねるごとに弱くなっていった上に、力を持つ者が徐々に生まれなくなっていっていた。
ニコラは、力をもって生まれなかった。
しかし、彼女は熱心に勉強し……その一族が代々受け継いでいた、『錬金術』というものに関する知識を持っていた。
学問としての錬金術……鉱物や薬品などを用いて、望む物質を作り出すというそれ。
その知識や、そのもとになった資料は、古文書に近いもので……かつての昔は存在し、魔女の力によってなされた『奇跡』を、今の世でも再現できるようにする……という、先の見えない霧の中を進むようなものだったのだが。
それでも、ニコラは懸命に勉強し、研究し、一族でも類を見ない高い水準に至る技術力を持っていたのだが……一族は、魔法の力を持って生まれた子のみを優遇し、彼女を冷遇した。
そして、さらなる悲劇が彼女を襲う。
優遇されていた『魔女』である子が、薬品の取り扱いに失敗して死んだのだ。
魔法の力がないゆえに『落ちこぼれ』扱いされていたニコラ。そのニコラができるのなら、自分にもできるはずだ、という愚かな考えで、大人でも取り扱いの難しい薬品を使って実験を行い……失敗した。発生した有毒な気体を吸い、『魔女の力』など役に立たぬまま、死んだ。
一族は、その代で唯一の『魔女』だったその子を失ったことに嘆き悲しんだ後、その責任をニコラに押し付けた。きちんと薬品を管理していなかったのが悪い、と。
身一つで一族を追放され、山をさまよっていたニコラは……空腹と疲労で限界だったところで、休暇で来ていたテオに拾われた。
そしてその後、前々から付近の村々から異端視されていた一族が、焼き討ちにあって皆殺しにされたことを知り……これからどうしたいか聞かれて、テオについていくことを決めた。
命の恩人として……その生涯を、そしてこの知識と技術の全てを捧げて仕える、と。
なお、一族が持っていた資料や実験機材などは、地下の隠し倉庫に保管されていたものを、後日テオと一緒にニコラが回収している。
マリアンヌ・ロマノヴァナ・ラスプーチンは、3人の中でもひときわ特殊な生まれを、境遇を持っている。
彼女は、かの怪僧『グリゴリー・ラスプーチン』の子孫である……と、同時に、
彼女自身が、『ラスプーチン』本人なのである。
彼女の家系は、『魔女』の一族の中でもひときわ特殊であり……『ものを動かす』という力の他に……自らが死んだ後、血族の赤子――生まれる前の子にその精神を宿して復活する、『転生』という力があった。いくつもの事前の準備などを要するが、とてつもない力である。
時の権力者が知れば、どんなことをしてでも手にしようとするだろう。肉体を幾度も取り換える必要があるとはいえ、実質的に死を免れることができるのだから。
マリーは、『ラスプーチン』よりも何代も前に生まれた先祖であり、当初の性別は女だった。
一族に伝わっていた転生の秘術によって、その後何度も何度も生まれ直し、しかし掟に従い、人の世にはかかわらずに生きていた。
その時の流れの中で、同じく『転生』によって生きていた古くからの家族たちは、あまりにも長い時を生きることに疲れ、途中で転生をやめて死を選んでいった。
そんな中、不安定になった祖国を立て直さんと、彼女は一度『怪僧グリゴリー・ラスプーチン』として、当時の政権に力を貸した。魔女の力は極力使わず、その数百年もの間に培った知識と手腕で。
しかし、最後には裏切られて殺された『ラスプーチン』は、事前に準備していたおかげで『転生』したものの、祖国に、全てに失望し、次の転生はすまいと決めていた。
ゾフィーのように憎しみに囚われることこそなかったものの……その心は失意で満ちていた。
そして、儀式を行わないままに死んだのだが……彼女は、もう一度転生することとなる。
ただし、その脳内に以前の人格は残さず……『記憶』だけを、受け継いで。
皮肉にも、転生した先は何と……『ラスプーチン』の頃に関係を持った当時の皇族の、処刑を免れて隠れ住んでいた末裔。
今の体、『マリアンヌ』――『マリー』だった。
彼女は『ラスプーチン』の記憶と知識を受け継いでいたものの……それにとらわれずに自分の人生を歩んだ。一時はそれを気味悪く思ったものの、自分の人生は自分のものだ、と。
そして同時に、『魔女の力』も持っていたが、これは極力使わずに生きてきた。
暴走などさせないように、隠れて訓練くらいはしていたが。
しかし、国名を『ヴォルガ連邦』と変えた今の国が、
そして、ゲルマニア帝国の士官学校に志願して入学する。
『ラスプーチン』の記憶と知識を最大限に有効利用したことにより、近年まれに見る天才と評されるものの……同時期に入学した者の中に、自分以上の天才がいることを知った。
そしてその数か月後……士官候補生女子主席であるマリーは、全体総主席であるテオに出会う。
そして現在、3人は……テオを含めて、士官学校で出会って意気投合し、そのうちに、互いの秘密を打ち明け合う仲になり……今では、テオをリーダーに据え、国家転覆と、それぞれの目的をかなえるために戦う反逆者となった。
アレスは、先祖代々受け継がれてきた研究を完成させるため。そして、単純にその知的好奇心から、各地に残された遺跡などを探り、より詳しく『魔女』の力を研究するため。
今、テオの副官として、様々な局面で辣腕をふるいながら、研究を進め続けている。
ニコラは、忠誠を誓うテオの望みをかなえるため。その身の全てをささげると誓った彼のために、立ちふさがる障害をすべて排除し、さらに持てる技術と知識で彼を補佐するため。
技術・薬学分野の担当として、錬金術の研究を進めている。『計測器』を作ったのも彼女である。さらに、隠密戦闘等の訓練を積み、護衛やスパイという働きすらも可能にした。
マリーは、故郷に帰るため。共産主義の奔流で自由を失い、『党』の意向に振り回され、締め付けられるばかりの祖国を開放し……身の安全のためやむなく亡命し捨てた故郷を取り戻すため。
実家がもともと持っていた伝手をたどり、それをさらに拡大した人脈は、各界の有力者や連邦の裏社会にすらつながり、その力でもってテオの目的をサポートしている。
そしてテオは、謎すぎる自分の力と出生の秘密の解明のため……そして、立ちふさがる脅威や不安定要素を排除して平和な日常を獲得するため……この3人の力を束ね、あらゆる分野に手を伸ばしてその力を高め、今日に至るまで、暗躍してきたのだ。
ゲルマニアを倒し、理想的な形で戦争を終わらせ……皆の願いを成就させるために。
「……とまあ、こないだの会談でこ答えられなかったことについては、こんなとこかな。さて、何か質問とかある?」
あまりに色々なことを一度に話されて、理解するのに悪戦苦闘しているらしいイゼッタだったが……最後にはどうにか全てかみ砕いて飲み込めたらしい。
ふぅ、と一息ついた上で……はい、と行儀よく手をあげた。
「えっと、色々あるんだけど……テオ君たちって、どんなことができるの? 明らかに、その……私とか、ゾフィーさんとか、同じ『魔女』ができる範囲じゃないことまで色々できるよね?」
「そりゃまあ、色々研究してきたからね。同じ力でも、使い方を工夫したり、間に道具やら何やらを介在させてうまく使ったり、それを使って何かを作る……とか、色々やりようはあるから」
「ゾフィーさんが、あの……魔力を結晶にして打ち出してたような感じ?」
「ああ……まあね。もっとも、僕らが作れるのはあんなもんじゃないけど」
言いながらテオは、傍らに用意していた、手のひらに乗る程度の大きさの、金属製のケースを机の上に乗せ、開く。
中を見て、イゼッタは思わず『あっ!』と叫び声をあげた。
そこに……2日前、保護された時に『没収』された『魔石』があったからだ。
反射的に手を伸ばしかけたイゼッタだったが、それは予想されていたのだろう……その魔石は、ふたの下でさらに、強化ガラスか何かと思しき透明なケースによって、守られていたからだ。
しかし、どうやらここはレイラインが通っているようだし、力を使えば箱を分解して……と、イゼッタは考えたが、
「あ、この箱ももちろん、『魔女の力』効かないようになってるから」
「………………」
見透かされていたことを知り、浮かせかけていた腰を下ろす。
そして仕方がないので……普通に頼むことにした。
「……あの……これ、返して?」
「だめ」
「何でぇ!?」
エイルシュタットのなのに! と、半泣きになるイゼッタだが、テオはしれっと言い返す。
「こんな危ないの使っちゃいけません。知ってんでしょ? コレ使うと、めっちゃ痛い上に命が削られ……っていう、まんま呪いのアイテムなんだから」
「っ……だけど! これがなきゃ、私は……あの人と戦えないの! 普通に戦ったんじゃ、魔女としての力はあの人が上だし、レイラインの魔力を吸い上げられでもすれば、魔法が使えなくなる……だから、これがたとえどれだけ危険でも!」
「はいそこで今回ご案内させていただきますのがこちら」
「え?」
急に軽い感じの口調になったテオは、また別なケースを取り出して開ける。
その中には……イゼッタの『魔石』とよく似た、『何か』が入っていた。
ただし、その色は……透明だった。
「これね……僕らが作った人造の魔石。本家と違って、反動の激痛や命ダメージなしで使える。ちょっと出力は低いけど……ちゃんと魔力蓄えたりもできるよ」
「……っ!?」
驚愕に目を見開くイゼッタ。
それも当然だろう……悲壮な覚悟と共に手にしようとしていた、救国のための最終手段……それを、いとも簡単に解決してしまう性能を持つ物質を、ポンと差し出されたのだから。
しかし、そこで話を終えず、口をはさむ暇すら与えず、テオは続けた。
「こんなもんで驚いてもらっちゃ困りますよーイゼッタおねーちゃん? まだ色々あるんだから」
言いながら、今度は大きめのジュラルミンケースのようなものを出し、机の上に置く。
その中には……似たような、しかしどれも違う、様々な、宝石のようなものが複数入っていた。
直方体に整られた、純白の、何かの金属の塊。
同じく金属の、しかしこちらは『T』の字の形をしている塊。
紅色の、しかしやや三角形に近い楕円系の、中心部にうっすらと十字の紋様が見える宝石。
薄い桃色の真珠のようで、数珠のようなものがついている宝玉。
金色の円形の枠に、赤色の球体がはめ込まれ、その上部に金属の十字のような部品が取り付けられている、アクセサリーのような何か。
そして……赤い、正八面体の、片手で持てる程度の大きさの、鉱物とも宝石ともとれる物体。
「きちんと全部説明させてもらう。だから全部覚えてよ……これからイゼッタにも、コレら使って色々無双とかしてもらうかんね。今日一日は、現在の状況把握はもちろん、今後の予定とかそのへんも含めた座学にするから、しっかり勉強しましょう。よろしく」
「えええぇ――……?」
なんとなく大変なことになりそうな雰囲気は伝わったためか、ちょっぴり泣きそうなイゼッタだった。