「あ、あれは……そんな……」
「ま、まさか……魔女!?」
「嘘だろ……帝国が捕えたんじゃなかったのかよ!? 何で戦場を飛んでんだ!?」
「あぁ、こっちに……こっちに来る……」
自然災害に襲われ、待ち伏せていた敵に奇襲され、味方のはずの基地の帝国軍にすら攻撃され……ただでさえ混乱しているところに、トラウマと言ってもいい、エイルシュタットの超巨大戦力・イゼッタが姿を現したことで、半狂乱になるゲールの兵士たち。
そんな姿を少し哀れに思うも、ここで迷ってはテオ達が戦場を整えてくれたのを無駄にすると、イゼッタは『白き魔女』としての仕事モードに入る。
またがっているのは……今まで、魔女として戦場を駆けてきた愛機(?)と言える対戦車ライフルではなく……テオらによって新しく用意されたもの。
今まで使っていたものは、ゾフィーとの戦いの時に喪失していた。
テオがあの時イゼッタは助けたものの、その武器まではさすがに手が回らなかったためだ。おそらくあの時の戦いで、流れ弾で爆弾か何かを食らって吹き飛んだと思われる。
愛用していたものなので、少し寂しくはあったが、だからと言って立ち止まるわけにはいかないイゼッタは、気持ちを切り替え……『親友』からもらった銃の二代目として、『弟』が自分のためにあつらえてくれたプレゼントだという改造対戦車ライフルを受け取り、ここに来た。
……ほんの数十分前、説明を受けてその規格外のスペックに戦慄しつつ。
地上から加えられる集中砲火。小銃から戦車砲まで、一気に火を噴くそれらを……イゼッタはいつもの調子で急上昇・急降下を繰り返してよけようとして……
「……っ……! これ、やっぱり、すごい……っ!」
想定、というよりも『想像』を超えた急加速からくるGが原因で、少し息が苦しくなる。それでも、ほんの数秒でそれに慣れると……魔力をコントロールしてちょうどいい速さに調節し、いつも通りの立ち回りを取り戻した。
そして、周囲に浮遊させているいつもの馬上槍を突貫させる。
それらの速度、そして威力もまた、それまで……イゼッタが操った時のそれを大幅に上回る。
以前は、戦車の装甲を貫通して突き刺さる程度だったそれが……ほとんど減速することすらなく、戦車に突き刺さって反対側から抜けた。馬上槍の直径分の風穴をあけられた戦車は、当然ながら、ほどなくして爆散する。
それを繰り返し、片っ端から戦車をスクラップにしつつ……イゼッタは、自分に狙いをつける敵の歩兵隊に、ライフルの照準を合わせ……発射。
ハンドル型の引き金を引くと同時に、その銃口から……電気を帯びて超加速した弾丸が放たれ、着弾と同時に大爆発を起こしてその周辺を吹き飛ばした。
「うわぁ……すごい、ホントに……」
それまで自分が使っていたものとは何もかも別格なその性能を目の当たりにし……あらためてイゼッタは、またがっている新兵器……『ランスロット』という名前らしいそれに戦慄する。
テオが全身全霊を込めて作った、オーバーテクノロジーもいいところであるそれは、イゼッタの『白き魔女』というネーミングにちなんで、メインのカラーリングが白と金色である。
軽くて強い超金属『ガンダニュウム合金』に加え、精神感応物質『サイコフレーム』をメイン素材として作られた上は、どれだけ無茶な使い方をしても耐えられるレベルである上……組み込まれている武装がさらに凶悪である。
今イゼッタが放った『
『蜃気楼』にも搭載されていたバリア『ブレイズルミナス(もどき)』によって防御力も高く、戦車砲くらいなら直撃でも防いでしまう。どころか、この『ランスロット』に搭載のそれは自動発動型で、常に微弱に発動していて飛礫などを防ぐ上、風防の役割を果たしてもいる。
おまけに、小ぶりだが魔力の増幅装置として破格の性能を誇る『賢者の石』が組み込まれ……さらにイゼッタ自身が首元に、アクセサリーとしてテオお手製の『人造魔石』をつけているため、魔女の力の出力自体がそれまでよりも大幅に上がっているのだ。
(テオ君確か……つけたい兵装全部は組み込めなかった、ってちょっと悔しがってたけど……十分だよね、コレ……。加速しすぎるとちょっと辛いけど、普通にやってれば飛ぶのもすごく楽だし、威力もすごいし……これで、あきらめたって言ってた『はどろんほう』と『ふくしゃはどう』とかいうのつけたらどうなるんだろ……)
そんなことを考えつつ、イゼッタはその、自分自身と武器、双方のスペックを生かして戦場を蹂躙していく。
かつてここケネンベルクで、フィーネ達を助けるため、何の情報もないところに飛来して……ゲールの軍を一方的に蹂躙し、叩き返した記憶がよみがえる。
今回は……その時よりひどい。何せ、イゼッタ自身すら驚き、おののくほどのスペックの武器がいくつも味方に付いているのだから。
ジーク補佐官の情報では、眼下に見えるのはイゼッタ対策に作られたという戦車だ。
素早い機動性に加え、連射性が高く弾幕を作れる砲撃性能を持つ。さらには砲身の可動域が広く、真上に近い角度にまで射撃を行うことができるという。
しかしそれらも……グレネードランチャーから放たれた爆弾を、魔女の力で操作してぶつけてくる……爆撃機としての性能すら獲得したイゼッタには無力だった。
砲身が回る前に吹き飛ばされる上に、ランスの一撃をそもそも防げず、他の普通の戦車と同様に風穴をあけられている。
本当ならこの後、テオも加わって掃討戦に移るはずだったのだが……この分だとその前に、自分一人で全部どうにかできてしまえそうだ、とイゼッタは思うのだった。
そしてその頃、テオが何をしているかというと……。
☆☆☆
場所は……『収容所』の敷地内に設けられた、ゲールの高級軍人らや視察に来た政治家などが宿泊するための『別館』。貴族達をも満足させるような絢爛豪華な内装に加え、もしものことを考えて、一時的に籠城にも使えるような強固な作りになっている。
命からがら、テオの『モンスターハウス』から逃れたヘイガー少佐らは、自分と一緒に来た、『反戦派』ではない高級軍人や政治家たちとここに立てこもっている。
防弾用の中扉や中窓を閉めれば、援軍が来るまでならそれも可能だろう、と。
すでに施設内にあった無線で救援要請を出したヘイガー少佐らは、一縷の望みをかけて、周辺展開中の伏兵たちがくるのを待つことにした。
……が、ものの数分でその望みも、たくらみも、砕け散る。
――ぱんっ、バシィィイイッ!!
両掌を打ち合わせる快音の後に、破裂音に似た甲高い音が響き渡り……固く閉じられていたはずの鉄の扉が、ゲルのようにぐにゃあ……と歪んで、あけっぴろげの大穴に変わる。
「……驚いたな、それも『魔女の力』なのか」
「応用というか、派生というか……まあ、説明するとややこしいんで後でね」
今しがた『手をパン』してものに触れることで発動する『鋼の錬金術』で、籠城の要である扉を無力化したテオは、その後ろで驚いているフィーネやジーク、ベルクマンといった、魔女の力にまだまだ無知な面々に対して適当に答えつつ……歩みを進める。
館の中には……当然ながら、ヘイガー少佐や政府高官たちの手のものがいて、待ち伏せする形で自分たちを狙っている。
……その面々も、今の超常現象に困惑している気配が伝わってきたが。
「……何度も話したけど、非戦闘員のフィーネやベルクマン中佐、ジーク補佐官らは前に出ないでください。守るの大変なんで。ニコラ、そのへんよろしく」
「お任せください……指一本触れさせません」
軍服ではなくメイド服を身にまとっているニコラは、しかしながら隙のないたたずまいで、何かあった時すぐに全員を守れる位置に立っていた。
それを確認して頷くと、テオはいよいよ屋敷に踏み入る……前に、左目を覆っていた眼帯を外す。
その下から、真っ赤な巴の紋様の入った義眼が姿を見せ……魔力の流れたそこに、魔力を視認できる、テオ曰く『なんちゃって写輪眼』が出現。
そして、魔力とはすなわち魂であり……義眼のセンサーの出力を上げることで、生命反応をキャッチすることもできるようになる。
さらに、懐から例のガス銃を出すと、特に狙いもつけず、屋敷の奥の方へ向けて数発発砲。
飛び出した弾丸が、十数m飛んだ先で……テオの『力』で、意思を持っているかのように別れ、ありえない軌道で飛んで物影を攻撃する。
その全弾が、隠れていた……しかしばっちり見つかっていた兵士たちに直撃し、命を断った。
(……まあ、さっきの『錬金術』とやらといい……こんな滅茶苦茶な能力、初めて見せられたら、そりゃ驚くどころじゃないからな……無理もない)
先程見ていなければ、自分もこうなっていただろう、と考えながら……ベルクマンは、あっけにとられているフィーネやジーク補佐官を『さあ』と急かしつつ、前に進んでいく。
途中、何度か行く先に、迎撃せんと兵士たちが潜んでいたが……姿を現す前にテオに察知され、同じように『曲がる弾丸』で射殺されていく。
扉の向こうなどにいて、開くと同時に仕掛けてこようとしていた者などについては……ニコラが作った麻酔薬を隙間から流し込んで気化させて眠らせたり、『錬金術』で扉を脆くした後、『モンドラゴン』を取り出して開けずに撃ちぬいて壁の向こうから吹きとばしたりして対処していた。
「……正直、事前の説明があってなお、夢でも見ているような気分になるな……これが、魔女の力を十全に使って戦う、ということか」
「弾丸の動きを操って、射程制限なしの誘導弾に。機械駆動そのものに『力』を組み込むことで、強度などの制限を一部取り払って開発・強化を可能にする。さらには、物質の生成段階で『力』を作用させて、従来では考えられないような物質を作成可能に……全く、これが敵のままだったらと思うと、恐ろしくてかなわない。大公殿下の人脈というものに感謝するばかりです」
軽口でそんなことを言うベルクマンをにらみつけつつも……ビアンカやジーク補佐官も何も言わない。2人もまた、全く同じ意見だったからだ。
(発想の質が違う……こんな、普通に考えても考え付かないようなことを平然と思い付き、さらにそれを実行する手腕……確かに、彼が敵であることの恐ろしさは想像を絶するか)
(絶対に、絶対に敵に回してはいけない相手だ……。大丈夫だとは思うが……もし、『左目』の一件が尾を引いて、フィーネ様達に迷惑が掛かるようなら……私は、この首を差し出してでも……)
全く予想もつかない、どころか、戦闘に用いられるという前例や認識がない手段で攻撃されることほど恐ろしいことはない。何せ、ノウハウが全くなく、対抗手段が導き出せないのだから。
それを確立するまで、敵からはいいように弄ばれることになり……最悪、そのまま戦争が終わり、敗北する……というようなことにもなりかねない。ジーク補佐官もビアンカも、その恐ろしさは、語るまでもなくわかる。
……目の前にいるテオが、そう言った手段を湯水のごとく使ってくる可能性があるような、別な意味での『規格外』だったのだということも。一言も言葉を交わさずとも、理解できた。
一行はこの繰り返しで一番奥に到着すると……そこに待っていたのは、焦燥や絶望、そして憎悪その他いろいろな感情を顔に張り付けた、ゲールの高級官僚や高級軍人たちだった。
兵士たちがこちらに銃口を向けて威圧してくるが、完全に腰が引けているのがわかる。
その中で、精一杯の虚勢か、はたまた感情をそのまま吐露したか……口を開いたのは、ヘイガー少佐だった。
「き、きさまら……っ! こんなことをして、タダで済むと……」
「本っ当に……予想できる定番のセリフしか言わない男だな」
やれやれ、とため息をつくテオ。
その後ろにいるフィーネが、ニコラに守られながら前に出る。テオより前には出ないように。
「ゲールの方々……見てわかる通り、すでに勝敗は決した。この収容所内にいるゲールの手の者は、ここにいる我らの同志を除けば、あなた方が最後だ、最早あなた方に勝ちの目はない。大人しく投降していただければ……戦時捕虜として、名誉ある扱いを保証する。返答を聞こう」
「ふざけるな! この小娘が!」
「いい気になりおって……小国の、それもくたばった父の跡を継いだだけの、お飾りの国家元首の分際で! 我々ゲールの高級官僚に対してこのような……タダではすまさんぞ!」
露骨なまでの選民意識が漏れ出たその罵詈雑言。君主であるフィーネをけなされ、ビアンカの額に青筋が浮かぶ。ジーク補佐官の目も、心なしか細められたように見えた。
「これ以上無礼を働いてみろ! 貴様らのちっぽけな祖国など、わが軍の力をもって焼き滅ぼしてくれようか!」
「そうだ! 無礼を詫びるなら今のうちごぐぁ!」
「あ、ごめん、ムカついたもんだからつい」
そして同様に、『姉』をけなされて苛立っていたテオ。
丁度手近にあった、というか、突入の際に蹴破った扉を蹴飛ばし、官僚の1人を沈黙させた。
一応生きているようだが、顔面に直撃したので、前歯が2~3本折れて足元に転がっていた。
「ぺ……ペンドラゴン! き、貴様よくも我らを……祖国を裏切ったなぁ!?」
「愚かなことを! このままライヒに尽くせば、将来の栄光は確約されていたであろうものを!」
「やー、おぞましいこと言わんでよそんな。
「黙れ! 貴様のみならず、レルゲンやゼートゥーアまでも……手柄を立てるからと自由にさせていたがゆえに野心を抱き、調子に乗ったか!」
「もはや帝国に貴様らの居場所はないと知れ!」
「だから要らんって言っとろーに……ベルクマン中佐、降参する気ないみたいだからさっさと聞いときたいんですけど、こいつら……」
「貴様ッ、今まで祖国に育てられておきながら……金でも積まれたか!? それとも権力か!? 貴様の育て親に申し訳ないとおも゛……」
――ぱしゅっ、バギィ! バキャアッ!! バキボキベキィ!!
「――ぁ? あが、あぎゃあああぁぁあ!? は、歯が、歯ぎゃあぁああああ!?」
突如、目にもとまらぬ速さで、手にしていたガス銃の引き金を引いたテオ。
その弾丸が、たった今口を開いていた1人の官僚の口の中に、口の右半分の歯を粉砕しながら入り……その一瞬後、もう半分……左半分の歯を粉砕しながら出てきて、最後に軌道を大きく変えて、その口元を横一線にかすめるように飛び……残ったわずかな歯も全て粉砕して飛び去った。
「……失敬、少し感情的になった」
「……て……テオ?」
突然のことに驚いたフィーネが、恐る恐る、といった感じで聞くも、返答はない。
代わりにテオは、自分を落ち着かせるように深呼吸しながら、再び口を開く。
「たださぁ……そんな資格もないだろうに、うちの親についてどーこー言うのやめてくれる? 腹立つんだけど」
底冷えするような声で言い放つテオの気迫に、自らの立場を頼みにぎゃんぎゃんと騒いでいた官僚たちが一斉に黙る。その顔色は、一様に蒼白だった。
「……やれやれ、自分でも意外というか……うん、割と僕、マルクスおじさんのこと好きだったんだな……まあ、まともに育ててくれた恩もあるし、それもあってゲールに在籍してた面もあるし」
けど、と続けながら、テオは……先程から、魔女の力で背後に浮遊させて持ってきていた、謎の金属の大きな箱を手元に呼び寄せた。
「だからって僕の人生全て捧げるなんてのはノーサンキュー。そもそも、その叔父さんを切り捨てたのがあんたらだろーに、よく言えたもんだ……ああ、同じような感じで何人も何十人も使い捨てにしてるからわかんないってかそんなことも? そんな連中、真面目に相手してやるのもバカらしい。大人しく投降しときゃよかったのにゴミ共……ってことでコレの出番ですハイ注目」
言いながら……自分よりも前にその『箱』を出すテオ。
そこにいた全員の視線がそれに集まる中……その箱についている小さな穴に手を入れ、中に入っている『何か』に触れるテオ。
直後、箱が開き……中から出てきたものを見て、全員が……驚愕と困惑に目を見開いた。
中から出てきたのは……人形だった。
だが、ぬいぐるみのようにかわいらしいわけでも、フィギュアのように精巧で真に迫る造形というわけでも、マネキンのようにのっぺりしているそれでもない。
それは……光沢をもった紫色の肌に、鋭い目に黒い髪、露出の多い民族衣装のような服装、オープンフィンガーグローブを付けた両の拳、そして何より……筋骨隆々の肉体がこれでもかと力強く形作られて表現されている、大柄な成人男性の人形だった。
「こういう閉所だと、下手に発砲なんかすると跳弾の危険がある。フィーネみたいな保護・護衛対象者がいると特にそーいうのは厄介でね……だから、そういう場所で戦う時用にってのと、あと若干のネタ要素と遊び心を込めて………………『
イゼッタのライフルを作ったのと同じ素材で作られた、その戦闘用人形は……テオに触れられて魔力を流され、動き出していた。
無論、『スケルトン』と同様に、自分の意志を持っているわけではなく、テオが動かしているのだが……そのあまりに精巧な作りと、作成者であるテオのこだわりぬいた造形美ゆえに、尋常でない気迫がある。
瞼や眼球まで動くように作りこまれており、にらまれているような錯覚すらあるのだ。
その人形……『星の白金』は、空中に浮遊したまま勢いよく飛び出して……
『オラァ!!』
(((え、しゃべった!?)))
全員が驚愕する中、そんな掛け声とともに兵士の腹に拳の一撃を叩き込み……反対側の壁まで吹き飛ばして激突させた。当然、兵士は一発で気絶である。
その数瞬後、はっとしてゲールの別な兵士が発砲するが、金属製のその体には当たったところで傷一つつかない。ものともせずに今度はその兵士に近づいて、殴り倒す。
さらに他の兵士が発砲すると……今度はその弾丸を掌で受け止め、指で弾いて兵士の脳天に直撃させる。怯んだところを……最初の1人と同じように、殴り飛ばして壁に激突させた。
そうして兵士たちを全員沈黙させると……今度は、部屋に残っている官僚たちを沈黙させる作業に入る。
「ひ……ひっ、やめろ、来るな! それ以上近づくと『オラァ!』あべしっ!?」
「ま、待て! な……何が望みだ!? 金か!? なら好きなだ『オラァ!』ひでぶっ!?」
「き、貴様わしを誰だと……わしは先祖代だ『オラオラァ!!』うわらばっ!?」
1人1人丁寧に、殺さないよう加減して殴り倒していく。
そのあまりの作業感に、見ているフィーネ達も唖然としていた。
銃撃戦の場では、流れ弾や跳弾が怖い。それによって、保護対象などが被弾するのはもっと怖い。
ならば、被弾しても問題ない戦力を前面に出し、自分は保護対象者の防御を徹底的に担当すればいい、と考えたテオ。
そうして『スケルトン』が作り出された……と先に説明したが、その強化版――もとい、全身全霊で趣味に走った結果として作り出されたのが、体の全てが特殊超硬合金で作られた、魔女の力で操って動かすための近接戦闘用傀儡人形……『星の白金』である。
一応現在も、『星の白金』を操りつつも、万が一流れ弾が飛んできたりした場合は、弾くなり防ぐなりできるように、テオは腰の『村正』に手をかけつつ、『星の白金』が入っていた箱を浮遊させて盾にして、隙なく構えている。
ちなみに、
「な、なあ……テオ?」
「ん? どしたのフィーネ」
「さ、さっきからその……あの人形、しゃべってるように見えるんだが……生きてるのか? 私はてっきり、お前が操ってると思ってたんだが……」
『オラァ! 腹話術オラァ!』
「……あ、そう……」
遊び心である。
そして気が付けば、官僚も全滅し……残るは1人。
「ま、待て、やめろ……やめてくれ! す……すまなかった! 待ってくれ、待って……と、投降する! この通りだ! い、命だけは……ど、どうかっ!」
すっかり委縮してしまったのか、手にしていた拳銃で抵抗することもなく、銃を捨て、平伏して許しを請うヘイガー少佐である。
無様な様子ではあるが、それを咎める者はいない。むしろ全員気絶している現状、何をしてでも生き残ろうと必死のようだった。
「な、何でもする! 何でも……金……あ、いや、その……な、何でも話す! げ、ゲールの内部情報でも、何でも教えてやるから!」
「教えて……『やる』?」
「あ、いや、その……お、教えて差し上げます! お教えします! だ、だからどうか……お、お慈悲を! 命だけは……」
冷汗をだらだらと流しながら懇願するヘイガー。
テオは、一瞬目を後ろに……背後に控えていたフィーネ達にやると、その一瞬でアイコンタクトを交わし、再びヘイガーに向き直る。
「……武装を全て解除してついてこい。これから忙しくなるんだから、抵抗とか面倒な真似したら……わかってるな?」
「は、はい! もちろんです! ありがとうございます! ありがとうございます!」
土下座姿勢で何度も言うヘイガーからそっぽを向き、すたすたと歩いていくテオ達。
後ろにいたフィーネ達も同様にする中……
「……ひひっ」
背後からそんな声が聞こえたかと思うと、
「お、お前ら全員動くなぁ! 動くとこの小娘を殺scばbそslさtぶぐろしゃあぁああ!?」
……何が起こったかというと、今背を向けたのを隙と見て、隠し持っていたナイフを使って、人質にしようと、この中で一番非力そうな……しかし実際にはテオに次ぐ白兵戦闘力を持つニコラに後ろから襲い掛かったヘイガーが、あえなく返り討ちにあっただけである。
羽交い絞めが決まる前に肘がみぞおちに入り、前かがみになったところに膝蹴りで頭をカチ上げげられ、胸ぐらをつかまれて逃げられなくされたところで、鉄底仕込みの靴の踵で足の甲を踏み抜いて砕かれ、もう片方の手で麻痺毒を塗ったナイフを太ももに突き立てられ、先程つかんだ胸ぐらを軸に、重心移動で振り回されて勢いをつけて……背負い投げの要領で投げ飛ばされた。
しかも、着弾地点は、官僚連中が飲んでいたと思しき酒やグラスが置かれていたテーブルの上。背中から突っ込んだヘイガーは、テーブルが壊れるほどの投げの勢いはもちろん、割れたビンやグラスの破片で背中がズタズタだった。
そこにさらに……こつ、こつ……と、不吉な足音と共に歩み寄る……テオ。
その背後には……『星の白金』。
「さっきも言ったけどさあ……あんたってホントに予想を裏切らないよね。悪い意味で」
わざと静かに言うテオを見上げて、再び冷汗を噴出させながら……衝撃で息が詰まった上に、麻痺毒のせいもあってうまく動かない舌を必死で動かし、命乞いをするヘイガー。
「う、うぐ……す、す、ませ……で、き、心、で……こ、今度、はお、とな、しく……な、何でも……情、報……た、助け……」
「……って言ってるけど、どうしようベルクマン中佐?」
「心配はいらないよ、ペンドラゴン中佐。賭けてもいい……彼が知ってることで、僕が知らないことなんてないだろうからね。ま、せいぜい僕の暗殺指令くらいかな? それだって簡単に予想できたが……全く、視線や殺気をごまかすのが下手すぎるんだよ、君は」
「……あ……ひっ!?」
突然の浮遊感。
麻痺している体でも感じるそれは……『星の白金』の手で、ヘイガーの体が胸ぐらをつかまれて持ち上げられたことによるものだった。
見下ろす形で目があったテオの、その、生身の黒い右目と、義眼の赤い左目が、とてつもなく恐ろしいもののように感じて……ヘイガーは、どっと汗が、涙が、鼻水すら噴き出した。
「ま、待っへ、やめ、て……は、話せば、わかる!」
「―――問答無用♪」
「――ぃゃ」
『オォォオォ――ラァオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァアアァア―――ッ!!!!』
「ヤッダーバァアァァァァアアアアア!!!」
腕が5本にも10本にも見えるほどの速さ・勢い・気迫で叩き込まれた渾身のラッシュは、1発たりとも外れることなくヘイガーの体をとらえ……もはや数えるのも不可能なほどの鉄拳を食らったその体は、キレイな放物線を描いて飛んでいき……部屋の隅のゴミ箱にドグシャア!! と頭から突っ込んで……それきりぴくりとも動かなかった。
原作11話でフィーネに顎クイしやがった上に、ロッテちゃん達を火炎放射機の的にしようとしたお方の末路。
割と序盤の方から『断末魔は「ヤッダーバァアァァァァアアアアア!!!」にしよう』って決めてました。