1940年12月9日
連邦掌握から2週間。
季節はもう冬。連邦はもちろん、アルプスを領土内に持つエイルシュタットにおいても……降雪という特大の戦争阻害剤が登場し、戦線は膠着状態になっていた。
といっても、力関係は対等なんて形では当然なく……ゲールの圧倒的不利である。
順番に、今の状況を並べてみると……そのとんでもなさって奴がわかるだろうな。
まず第1に、現在帝国は、包囲網を敷かれている状態にある。東西南北に。
西はテルミドール。こないだの大敗北で、ゲールは西方一次工業地域まで撤退せざるを得なくなり、アレーヌ市を含む元々の支配地域までが奪還されている。現在は元々の国境のところまで戦線は下がり、帝国の植民地支配が進んでいたエリアはきれいにリセット。
東はリヴォニア東部。ここは最初に帝国が侵略して、そこから開発とか続けてただけあって、わりと抵抗が頑強だ。しかし、その東をさらに進むと行き当たる連邦がすでに僕らの味方なので、地理的優位は僕らにある。冬だから無理しないようにしつつ、じっくり攻めている。
北はノルド王国。帝国が『奪い返し返した』この国は、ゼートゥーア閣下の融和政策でうまく治められていて……そのまま閣下に任せといた方がいいと判断した帝国上層部の指示で、閣下の指揮下にあった。そして、閣下の離反の際に、支持率そのままに国ごとこっちについてきてくれた。
そして、我らが祖国ー! ってことで意気揚々と帰った、元ノルド王族や政権関係者の方々は……当然のごとく、以前の失態を理由に受け入れられることはなく。
まあ、立場が立場なのである程度の身分は保証されたものの、それは最早お飾りそのもの。実権は、ゼートゥーア閣下子飼いの連中と、ノルドの国民から選ばれた代表たちに委ねられている。
そして、南。ここは一番鉄壁だ。何せ僕とイゼッタがいる。
より一層強力な力を使えるようになった上、国民たちからの支持も厚いイゼッタとフィーネ、そこにオーバーテクノロジーと、別形態の魔法を使いこなす僕がいるので、三枚看板だ。
西……苦戦中。
東……同じく苦戦中。
北……乗っ取られた上、冬のため攻め込めず。
南……勝負にならない。
こんな感じの帝国包囲網。
しかしこれに満足せず、僕らはさらに帝国を弱らせるため、あるいは戦争を自分たち優位に進めるために、今から暗躍を始めている。
そろそろ準備が整って、動き出せる頃だ……明後日あたりからかな。ああ、楽しみ。
1940年12月11日
現在、ゲールは……いや、現在に限らず前からそうだけど、世界全てを相手に喧嘩を売っている状況にある。
ゆえに、必然的にというか……諸外国との国交は皆無。同盟国であるイタリアと日本……じゃなかった、ロムルス連邦と秋津島皇国くらいしか相手はいない。
その2国とも、海と陸の両方のルートを抑えられている以上、物資のやり取りなんかもできるわけはなく。
さらには、当然のように経済封鎖とかも徹底してやられているし、主要な港湾はきちんと見張って密輸なんかもできないようにしてある。大回りしていくらかはやってるかもしれないけど、大規模なものならブリタニアとノルドが見逃さない。焼け石に水がせいぜいだろう。
そうして、物資を途絶させて、国内での生産に頼る形にさせ……徐々に抵抗を弱めていく。
コレやると、ゲールの国民の生活も苦しくなるので、あんまりやりたくはなかったんだけど……だからって封鎖緩めて物資を通しても、ゲールは軍備に回して爆弾に変えちゃうからね。
とりあえず、心を鬼に……ってことで。
加えて、春期以降の戦闘を優位に進めるために、設備を充実させることも始めた。
開戦と同時に勝利をほぼ確定させられるくらいのを。
キーワードは……『マジノ線』、そして『一夜城』だ。
『マジノ線』というのは別名『マジノ要塞』とも言い……前世の地球での世界大戦の時に(第1次か第2次かは忘れた)フランスが作った超大規模な要塞だ。
堅牢極まりない防御力、数多くの火砲を組み込んだことによる攻撃力を兼ね備え、極めて高い籠城戦能力を持った要塞だった。物資や人員の輸送・供給という点でも優秀で……内部に鉄道まで走っていたという、ロマンの塊だ。
……ただ、ドイツ軍はそれを迂回してしまったので、その真価を発揮することはできなかったという、悲しい歴史もあるんだけども。
そして、『一夜城』というのは……日本の歴史の中に出てくる、豊臣秀吉の戦略?の1つ。
上流で組み立てた出城をパーツごとに解体してイカダにして流し、下流でそれを回収して、再度城に組み上げるというもの。一から作るのではなく、パーツを組み立てるだけなのでめっちゃ早く、夜の間に運搬と組み立てを完了……一夜にしてそこに拠点となる出城が立ったように見える。
ゆえに、『一夜城』だ。……実際には、組み立てには数日かかってた、なんていう話もあるけど……一夜でできた、って方がロマンがあっていいよね?
で、今回僕らがやってるのは、その2つの合わせ技だ。
まず、設計図を引きます。作るのは、マジノ線クラスかそれ以上の超大規模要塞です。
次に、資材を集めます。鉄とか、レンガとかです。要塞の材料です。
設計図を基に、必要なパーツを割り出します。そのための図面も作ります。
その図面に沿って、『鋼の錬金術』でパーツを作ります。必要な分全部。
最後に、『魔女の力』を使ってテレキネシスでそれを組み立てます。以上。
とまあ、僕が、戦車や戦闘機を『魔女の力』で作る時の手順と同じである。これを超スケールでやろう、ってだけの話だ。
パーツの形とかは、組み立てが魔法という名の人力なので、なるたけ簡略にして。
その準備段階として……同じ方法で『鉄道』を敷いて、それを使って資材の運搬をしている。
どこか適当な広い土地で『パーツ』を作り、それを鉄道で運び、建築現場で組み立てることで……どんどん『マジノ線』を作っていく。帝国との戦争に向けての設備を、急ピッチで。
武器を振り回すだけだと思ってた『魔女の力』をこんな風に使うなんて、ってことで皆びっくりしてたけど、ものを動かすってのは、およそ人がその手でもってできることはほぼ全てできるってことだ。手を触れずに。
応用としちゃ、特に驚くようなことでもないと思うんだけどもね。
組み立てには繊細な作業の他、どこにどのパーツを使うかきちんと記憶する頭が必要なので、イゼッタは運搬に集中してもらって、組み立ては主に僕がやっている。
デスクワークとか会議の気分転換にちょうどいいんだよね。
パーツさえ問題なくできてれば、組み立てるだけならプラモデルの要領、通常何か月もかかる工事を数分から数十分単位で終わらせられるので、どんどん要塞は成長していっている。
今月末……そうだな、クリスマスあたりまでには、全部は無理でも……ゲールの主な進軍ルート全部ふさぐ感じで建設することは可能だろう。
鉄道も資源も、連邦からいくらでも持って来れるし。しかも鉄道は、燃料いらずでイゼッタとかが機関部を動かして走らせられるし。『魔石』を使えば、何両も一気に。
そしてもちろん、僕らがやっているのは要塞の建設工事だけじゃなく……冬でありながら謀略のために動こうとする、あるいは奇襲をかけてこようとする帝国軍への対処もある。
ただまあ、そっちの方はレルゲン大佐やルーデルドルフ閣下なんかが頑張ってくれてるので、僕らの出番はそれほど多くない。
僕らにしかできないことに集中してくれ、ってことだそうだ。
純粋にありがたいので、甘えさせてもらおう。
……もっとも、まだ解決しなきゃいけない問題が残ってるんだけどね……でかいのが、2つほど。
1つ目は……なぜか最近、めっきり戦場で見かけなくなった、ゾフィー。
僕らが危惧する最大戦力の一角であり……単騎で絨毯爆撃余裕で可能なレベルの彼女は、ちょっと前までのイゼッタ同様、局所的に戦線を崩壊させる『
……何で温存、もしくは出し惜しみしてるんだろう……わからん。情報が足りん。
そしてもう1つは……言わずもがな、海の向こうの合衆国である。
形勢逆転してゲール滅びかけ、って感じになってるけど……だからこそ余計にあの国はこっちに警戒心を向けている。
『魔女』がイゼッタだけだった時でさえ、その力を危惧してひそかに色々進めてたようなのに……そこに僕とマリーも魔法使いだしたし、ゲールにはゾフィーが出たからな。
あと、アレスとニコラも。2人は厳密には『魔女』とは違って、特殊技能扱ってるだけだけど。
……どういう意味かって?
いやそもそも、アレスとニコラは『魔女』じゃないはずじゃないのかって? 力を使えないはずだろうって?
……もうちょっと後でね?
今、色々と未来を見据えて準備を進めてる内容なので。かけることがまとまってから……ってことでひとつよろしく。
1940年12月15日
……考えないようにしてた……とは言わないまでも、あんまり考えたくなかったことが、ちと現実味を帯びてきている。やだなーもー。
ゼートゥーア閣下が頑張ってくれて、アトランタやゲールの内情をできうる限り集めてくれた。
その結果……いいニュースが1つ、悪いニュースが3つ舞い込んできた。
いいニュースは……どうやらゲールは、ゾフィーを戦力として扱う際に、慎重にならざるを得ない状況になっているようだ。
というのも……ベルクマン中佐の話で知ってはいたものの、ゲールはゾフィーのスペア……要するに、クローンを数十体単位ですでに保有しているらしい。
ここだけ聞くと凶報なんだけど……しかしながらそのクローンたち、自在に動かせるわけじゃないらしい。初期のゾフィーと同様、自意識を持たない生ける屍状態なんだとか。
今自我がある唯一のゾフィーが、どうしてきちっとした自我を持っていて、しかも前世(って言っていいのかな?)の記憶まで持ってるのか……そこんとこが全く解明されていない。ある日気が付いたら……って感じで、目覚めてたそうなので。
……それについて、奇妙なことを聞いた。
自我ナシ状態のゾフィーが、唯一興味を示したのが、カプセルに捕らえてた時に採取した、イゼッタの髪の毛とか血液だったという。なので、一説には、新鮮な『魔女』の体組織を注入、または摂取させたら何か変化があるんじゃないか、と目されてたそうな。
しかし、イゼッタの新鮮な血液なんて手に入るわけもなく、試せないままだったそうだ。
今のゾフィーの血液とかを、クローンゾフィーに摂取・投与してみたけど、何も変化がないこともあって……この案は違ったんだろう、と言われているという。
……やべ、ちょっと待ってそれ僕心当たりあるんだけど。
あの、むくっと起き上がったソフィーに激突されてラブコメ事故(負傷者1名)起こした時に、僕、唇から出血した気が……ゾフィーの歯が当たって……。
……ひょっとして、アレでウェイクアップしましたか?
そういえば……だ。結局、僕が『魔法』を使えるようになった理由、まだわかってないんだよな……僕も。というか、当初の目標だった『僕の出生』についても全然だし。
まあ、その辺は戦争終わってからでもいいかな、とか思ってるけど。
……魔法が使えるってことは、多分だけど、僕もどこかの魔女の血筋……なんだろうな。
代を経て血が薄まったから、すぐには使えるようにはならなかった……けど、あのビアンカさんの一撃で、命の危機に瀕して目覚めた……とか、そんな感じか?
『SEED』の能力は……その片鱗として、上澄みに出てきた力だったんだろうか? いや、それにしちゃなんというか……今でも使えるしな、『SEED』。
……っと、話がそれた。
それでそのゾフィーなんだけど、今あるゾフィーを雑には扱えない、っていう結論に達したらしく、扱いが慎重になってるんだそうだ。加えて、何度も戦場で戦わせたせいか、クローンゆえに虚弱な体がちょっとボロボロになってるらしく、療養中でそうそう出せないらしい。
万が一にも、下手に戦場に出して、パワーアップしたイゼッタや、一度は彼女を撃退したゼロ、そして未知数の実力を誇るも相当に強いと目される僕なんかの、連合側の『魔女戦力』に撃破、あるいは拿捕されたりしたら、本格的にゲール詰むし(僕とゼロ同一人物だけども)。
……いや、すでに詰んでるんだけどね? 今の僕らなら、その気になれば速攻『ノイエベルリン』まで攻め込めるから。
ただ、それやると損害度外視で抵抗してきて、民間人が大勢巻き添えになるし、町一つ……どころじゃなく火の海になりそうだし、それはさすがに望まない。
それに……あんまり最初から最後まで、圧倒的に魔女の力で無双しすぎると、アトランタがうるさそうだからな……今でも十分厄介だけど。
『悪いニュース』の1つ目がそれだ。アトランタ、やっぱり僕ら『魔女』(男だけど)を危険視して、消そうとしてるらしい。危険だからって。
しかし、居てもイゼッタ1人という当初の前提条件が崩れ去ったので、今は何やら暗躍を続けている最中のようで……気味悪いな。
閣下たちが注意して見てくれてるらしいから、とりあえずそこはお任せしよう。
悪いニュース2つ目は……ゲールである。
さっき、ゾフィー温存策で攻めあぐねてる、と言ったけど……もう1つの方の切り札の研究は、相変わらず熱心なようで……。
……『エクセニウム兵器』。魔力をゾフィーに結晶化させた魔力結晶を使った、最悪の兵器。
それを、かなりの水準まで作り上げつつあるという報告がある。
……いざって時は、また魔法無双することになっても、あるいは……多少の犠牲や市街地破壊は覚悟してでも、戦争終わらせてゲールを黙らせないとダメかもな。準備はしておこう。
そして最後、悪いニュース3つ目。
これは……もしかしたらというか、まだ可能性、僕の中での危惧の段階なんだけど、さ……ゼートゥーア閣下が仕入れてきた情報の中に、1つ、気になるものがありましてな?
アトランタってさ……技術力や生産性を見れば、ゲール以上なんだよ。圧倒的に。
ただ、兵士の錬度がすさまじく低くて、そっちも逆に圧倒的らしいんだけど……兵器の質とか量、兵站線の強靭さで、仮に出兵して来ようもんなら、海1つ超えたここでもかなりの猛威を振るうだろうと見られている。フィーネが期待してたように。
……その国が、さあ……
……何だか、ウランを使った兵器の研究進めてるらしくて……。