終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.49 戦後へ向けて

 

 

1940年12月16日

 

先行き不透明な部分が大きくなってきてるので、戦争、さっさと終わらせたいんだけども……なんか終わりそうで終わらないというか、終わらせられないというか……

 

正直、今僕とイゼッタがオーバーテクノロジー兵器引っ提げてノイエベルリンまで空飛んで突貫して、あのおっさんの首とれば、一応戦争は終わるんだけど……後処理が問題なんだよなあ。

 

1.ゲールの軍人の脱走兵・敗残兵によるゲリラ的な抵抗が続くと思われる。

 

2.各国が利権争いでゲールを分割しかねない。

 

3.どの国も疲弊してて、戦後復興しんどい。

 

4.アトランタがきな臭い。

 

大きく分けてこの4つの問題がある。

何度も言ったり書いたりしてる気がするが、これを解決できる形で終わらせなきゃいけない。

 

終わらせてから動き出して解決できないこともないかもしれないが……すさまじく面倒だからできれば避けたい。特に4つ目。

 

幸いというか、解決への道筋はすでに立っているので、それに沿って進めればいいだけなんだけど……ゲールとアトランタがどう動くかわからないから、慎重になるしかない。

すぐにでも勝てる戦いを、あれこれ理由つけて後回しにしてでも。

 

まず1つ目……これはまあ、こっちの……旧ゲールから離反した軍人や政治家の腕の見せどころでもある。きちっと統制すれば、どうにか……全くの0とは言わずとも、抑制はできるだろう。

 

あとは、ゲールを完膚なきまでに叩きのめして負けさせることで諦めさせる、って手もある。

負けたんだから、抵抗しても無駄。そう思わせて、言い訳や逃げ道を作らせない。ああしてれば勝てたとか、こうしてればわからなかったとか、四の五の言わせないってことだ。

 

……それを考えると、僕らの裏切りがその言い訳の筆頭候補になってる気もするけど……まあ、これはもう仕方ない。こうしなきゃそもそも何も始まらなかったんだから、割り切ろう。

 

そういうわけで、僕らはゲールを正面から総力戦で、完膚なきまでに叩きのめすことが必要なわけだ。魔女の力だけで勝ったんじゃ、そうとは見られないだろう。

 

さて2つ目。まあ……これは、戦争の常だしね。

そして3つ目。2つ目にもつながることだ。

 

戦争の後には復興があり、それには莫大な資源や金が要る。そしてそれは通常、敗戦国からの賠償金や領土割譲といった形で賄われる。

 

しかし今回、ゲール一国で、戦争に参加した欧州のいくつもの国へ払えるだけの賠償金を工面するのは不可能だ。

 

それに、仮にゲールが干からびるまで搾りとったとしても……各国が持ち直すには到底足りないだろう……だから、ここんところも解決する必要があるわけだ。

 

……すでに言ったが、目途は立っている。

 

ここでもうネタバレしてしまうと……僕らが進めてきた研究は、この問題を解決するためにあったと言っていい。まだオフレコだけども。

 

一言で言えば……『魔女の力』を、資源として使う。

または、資源を作るための手段として用いる。

 

……『錬金術』の研究で通過した地点。『魔女の力』を使って原子構造をいじり、等質量の全く別な物質を作り出す。すでに、一部ではあるが成功している技術だ。

 

これを応用すれば、名前の通りの『錬金術』――鋼の、ではない系――によって、様々な物質を人工的に作り出し、利活用することができるようになる。

 

例えば、金。Au。黄金。グラム数千円する、言わずと知れた貴金属の代表格。

 

例えば、プラチナ。

 

例えば、タングステン。

 

コバルト、クロム、ニッケル……まあその他にも、貴金属ないし、レアメタル諸々。

 

単一の元素に限らずとも……石油とか、石炭とか、バイオ燃料、LNG……人類の未来を形作るのに有用で、しかし同時に有限である資源は、いくらでも種類がある。

 

『錬金術』を使えば、それらを……材料となる物質さえあれば、ほぼ無限に作り出せる。

そしてそれをさらに、必要に応じて作り変えて、リサイクルすることもできる。

 

例えば、鉄や合金でできている戦車や戦闘機の装甲。

戦争が終わった後は、それを解体して溶かして、生活用品に生まれ変わらせつつ……一部は『錬金術』で金とかクロムとかのレアメタルに変え、半導体なんかの材料にする……なんてことも。

 

こんなことができれば……仮に僕の前世の地球でも、エネルギー問題を解決する絶妙な一手として、大絶賛どころじゃなかっただろうし、その有用性は、比喩表現抜きに世界を救うだろう。

資源目当てで争っている連中は軒並み黙るだろうし……戦争だって止まるだろう。

 

まあ、その利権目当てに新たな争いは起こるかもしれないが……そこは、どんな分野でも、新しい技術が生まれた時にはついて回ることだ。

 

そしてこの技術は、この技術から生み出される物質や富は……ゲールを含めた欧州全体の傷をいやすのに十分なものであるはずだ。

 

僕らは、これを使って戦後復興を進めるつもりでいる。

戦争が終わった後すぐに取り掛かり、人々が苦しむ期間をなるべく短くできればと思っている。

 

その分、世界に平和が早く戻ってくるだろうし……そうなればなるほど、僕らの手柄が大きくなって、新しい世界における発言権や、身柄そのものの重要度が大きくなる、という打算もある。

 

そうなれば……ゲールを分割する動きも小さくなるだろう。

国家分割とか紛争の元だし、統治するのも滅茶苦茶大変だ。分割されるのは、戦争を悲しんでいた国民であり、自分たちが何をしたわけでもないのに……って、不満につながる可能性もある。

 

第一、わざわざ反発してくること確実な属領を持ちたがる国もないと思うけど……

 

それに、そうしなくても十分に復興の道筋が立って……かつ、別な形で『悪いゲール』に罰が与えられたときちんとわかれば、それで大丈夫だろう。うん。

 

だから、ゲールは形はなるべくそのまま、戦後立ち上げる新政権によって即座に戦後統治を進める必要があるのだ……まあ、最初の数か月から数年は、GHQみたいな占領統治になるかもしれないし、それは仕方ないだろうけど。

でも、確実にそこには僕らも入れるだろうから、そこから始めるのも手と言えば手だ。

 

そして、旧ゲールの遺物共には生贄になってもらう……と。皇帝含めて。

 

……さて、問題の4つ目。

 

アトランタ……今にも介入を始めてきそうな(義勇軍って形でもうちょっかい出してきてるけど)、あの国への対策……これはもう、『さっさと終わらせる』以外にないだろう。

 

幸いなことに、と言っていいのか……あの国は民主制ゆえに、国民感情に、軍事行動を含めた政権運営が左右され、支持されない行動をとることができない。

できないこともないけど、やろうもんなら反発が大きくて、即座に足元がぐらつく。

 

ましてや、その場所が外様もいいところ……海1つ挟んだ欧州だ。そんなところに、いくら潜在的に危険要素だからって、大統領やその周辺の独断で軍事介入した日にゃ、デモ行進が酷いことになるだろう。

 

だからこそ今、こないだ会ったあの外交官から聞いた内容をもとに、ゲルマニアもエイルシュタットも両方滅ぼすべき、という方針で動いてるわけだし。議会を、国民を説得して、方針を一致させたうえで軍事行動に出るために。それまでは、大統領の個人的な援助と義勇軍だけ。

 

まあ、最近魔女増えた上に、色々とんでもないオーバーテクノロジー出てきたから、方針転換ないし修正で足踏み状態みたいだけど。

 

この分であれば、さらに慎重になっているあの国が参戦してくるまで、数か月はある。

けど逆に言えば、数か月経てばあの国が参戦してくる。してきてしまう。

 

一度でも参戦し『関係者』になったが最後……戦争中の方針はもちろん、戦後の利権分配、戦後のゲールの統治やその方針、そして魔女の力の今後の扱い方に至るまで、あの国は口を出してくるだろう……参戦してない今でも口出ししたそうにしてるんだから、もう間違いない。

 

まあもっとも、自国の利権最優先で欲望のままに……って感じじゃないだろうけど、だからこそ危険だというか。『魔女』そのものを爆弾として処理したがってるから怖いというか。

 

利用価値があると分かったら分かったで、国力を盾にその恩恵に最大限あずかろうとしてくるとも思えるし、『世界の警察』としてその力を暴走しないよう管理下に置く、とか言い出しかねないから怖い。だれがお世話になんぞなるかバカたれ。

 

……だから、その前に、欧州の力だけで戦争を終わらせなきゃいけない。

 

現在、フィーネをはじめとした欧州各国の代表たちや、ゼートゥーア閣下が、今のうちから色々と手を回して利権に、あるいは粛清に近づこうとしてくる合衆国をけん制している。

 

合衆国の協力なしでも勝てる見通しが立った今、介入を助長するのは得策ではない。力を借りれば、それ相応の見返りを要求されるのは当然であり……それをしなくても済みそうである以上、力が無駄に大きい外様を呼び込むのは、あまり賢いとは言えないからだ。

 

言葉を選び、なるべく怒らせないよう丁寧に『黙ってろ』と言ってるわけなんだけども……対するアトランタも、『一枚かませろ』『言質をとらせろ』と婉曲表現で……あーもう、めんどい。

 

まあでも、このまま順調にいけば、向こうが本格的に動き出す前にどうにかなるだろうし……焦ることもないだろう。ゆっくり、確実に、しかしのろすぎないように……だな。

 

今はとりあえず、ゲールが妙な動きをしてきて奇襲食らいました、なんてことにならないようにだけ気を付けておけば――

 

 

☆☆☆

 

――ジリリリリ……!

 

その一行を書き終わる直前、部屋に備え付けてあった電話が鳴る。

 

少しびっくりして肩を浮かせつつ、テオはいったんペンを置き、それを手に取った。

 

「はいもしもし?」

 

『テオか? 私だが……今大丈夫か?』

 

「あ、フィーネ? うん、いいけど……何?」

 

『暇な時……などというものがお前にはないであろうことは、承知なんだがな? 今度、私が視察に行く予定だった場所に、同行を依頼したいのだ』

 

「……視察に同行? まあ、スケジュール次第だけど……ちなみに、いつ、どこ?」

 

『時期は、むしろそちらに合わせるつもりなので、来週か再来週ならどこでも問題ない。そして場所だが、テルミドール共和国、旧ゲール占領統治区の……』

 

 

 

そして、その数日後。

 

「……視察、じゃなかったっけ?」

 

「うむ、視察だぞ?」

 

「あ、あはは……うん、そう、みたい」

 

執務室で支度をしていたテオの元に……服を変えて帽子やメガネを付けただけという……変装とも呼べない変装に身を包んだ、フィーネ、イゼッタ、それにビアンカが訪れていた。

 

「……それはひょっとして、ギャグでやってるのか?」

 

「「は?」」

 

 

 

 

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