終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.52 デスドレン、燃ゆ

 

1940年12月20日

 

……昨日の夜、何かよくわかんない出来事があった。

 

ゾフィーが来て、雑談して、お土産おいて、キスして、帰った。

 

……あらためて文章に起こしてみると……何だコレ? 自分でもわけがわからん。

 

違和感は、そういえば……前からあったんだよな、うん。

具体的には、ノイエベルリンでゾフィーにあった時に。

 

なんか、『ゼロ』として戦場で見たゾフィーや、部下たちの報告にあったゾフィーの性格と、あんまりにも違ったもんだから……今回もそれにあたる。

 

……僕が直接顔を合わせた時のゾフィーと、他の人が顔を合わせたゾフィーの差が激しい。

 

それまで不機嫌な口調だったお母さんが、電話口で急に別人レベルにまで声色を変えるのと同じくらい激しい。アレびっくりするよね見てて。

 

……けどさあ、

 

『元気そうで安心したわ』

 

とか、

 

『あなたとは仲良くしたかったのだけどね』

 

とか、

 

『今からでも戻って来る気はない?』

 

とか……何で僕こんなゾフィーに好かれてんの?

 

話聞く限り……1回キス(という名の物理攻撃)したくらいでポッといくようなチョロインじゃないでしょ君。あ、再会した時の合わせれば2回か……いや、どっちにしろね?

 

で、そのまましばらく雑談して。

誘導尋問とか、不意打ち気味の質問とかが来るんじゃないか、って警戒してたんだけど……何もなかったな。

 

イゼッタが、最初にゾフィーに会った時、平和を願ってます、あなたを止めます、みたいな語り口で油断させられた後、『じゃあ殺す!』みたいに豹変して不意打ち気味に襲い掛かってきた……って聞いてたから、てっきりコレもそうかと思ったんだけども。

 

そして、雑談が終わって、しばし黙ったかと思うと……キッ、と、鋭い目つきになって。

とうとう来るか……と思って身構えた……けど、来なかった。

 

代わりに、ゾフィーは口を動かして、

 

『……あなたとこうして話すのも、きっとこれが最後でしょうね……。来るなら来なさい、相手になってあげるから……伝説とうたわれた、『白き魔女』の全力でね』

 

その直後、敵意・悪意のかけらも感じさせないまま……ふっと僕の懐に入ってきて、

 

ちゅっ、と頬に柔らかい感触があって、

 

その後……唖然としている僕に構わず、『……さよなら』とだけ言い残して、飛び去って行った。

 

しかもその時……見間違いじゃなければ、目の端にきらりと光るものが……あった、ような?

 

……その間、隙を見て捕縛しようか、いやでもこいつが敵にいないと計画が一部使えなくなる……とか考えてて、結局逃がしてしまったのは、猛省。

 

……しかし、何なんだろう……あの態度?

僕、別に彼女に好かれるようなこと、何もしてないよな……せいぜい、あの事故で目覚めさせたくらいだけど、それであんだけ好かれるってのも変な話だし……

 

……だめだ、わからん。

 

 

 

わからんけど、戦いは待ってくれない。

 

多分だけど……もう少ししたら、戦いが始まる。その兆候がある。

遅くとも、年明け。早ければ……数日以内にでも。

 

ゲール領辺境の、交通の要所『デスドレン』。そこを抑えられるかで、ゲールはこの先、負けが確定するか、あるいはもうちょっと粘れるか(勝てるとは言わない)が分かれるのだ。

 

当然、死に物狂いで抵抗してくるだろう……降伏っていう選択肢がないから。

 

ただ逆に言えば、そこでの戦いに勝利できれば、こっちの勝ちが決まる、ということでもある。

 

それは、こっちにも都合がいい。どうにか準備も、まあ、最低限は終わってるし――欲を言えばもう1か月弱ほしかったけど、やむをえまい――ここでケリをつけるのも悪くない。

 

それに、合衆国が突っかかってくる前に終わらせられるのが何より大きい。

欧州の結束については、今後外交交渉でどうにかなるし。

 

……ひょっとしたら、ゾフィーは……それを察知して僕のところに来たのかも?

根元の理由はわかってないけど、そんな気がする。

 

さて、いつになるかね……向こうさんがしびれを切らすのは?

 

クリスマスや年末年始くらいは、ゆっくり過ごしたいもんだけど。

 

 

 

1940年12月23日

 

はいフラグですねうんわかってた。

 

畜生……マジで攻めてきやがったよ、ゲールの連中。

よりにもよってこんな日取りで……会敵予想、明日から明後日だよ。イヴとクリスマスだよ。

 

超急いで戦っても拠点戻ってパーティもできないじゃないか……嫌がらせか畜生め。

 

……いや別に、クリスマスを一緒に過ごす恋人もいませんけどね?

 

でも、『もし時間があったらパーティでも』って、イゼッタとフィーネに誘われてた。

戦時中だからあまり派手にはできないけど、ささやかにでも楽しめないか、って。

 

今年は、フィーネとイゼッタの、そして2人と僕の再会っていう特別な年になったから、年の最後はきちんとお祝いしたかったそうだ。

僕も……これはこれで、恋人云々よりもあったかい感じがして楽しみだった。

 

……楽しみだったんだぞ畜生!

せっかく、色々ゲールの力を削ぐ過程で手に入った密輸品とか持ち込んで、ちょっとだけパーティを豪華にするのに貢献しようと思って準備してたのに!

 

姉と弟の交流の時間をよくも奪いやがって……もう許さん。

 

明日の一戦でケリをつけてやる。もうこれ以上は戦争で予定を狂わされるのはごめんだ。

 

と、いうわけで……現在進軍している部隊は、明日を『決戦』にすべくくみ上げられた最強編成であり……デスドレン突破後、余力次第ではそのまま帝都ノイエベルリンを制圧してしまうことを考えてくみ上げてある。

具体的な構成は、簡略化して……以下のような感じ。

 

総司令官:ゼロ

副指令兼参謀総長:クルト・フォン・ルーデルドルフ

参謀副長:テオドール・ペンドラゴン

識見顧問:アルノルト・ベルクマン

第一師団長:サー・アイザック・ダスティン・ドレイク

第二師団長:エーリッヒ・フォン・レルゲン

第三師団長:グローマン

第四師団長:シュトロハイム

第五師団長:ブノワ・ド・ルーゴ

……(以下略)……

特務戦闘員:イゼッタ

      マリー・ロレンス

 

 

連合軍から優秀な軍人、指揮官、その他人材を集めて作られたドリームチーム。

個々の能力最重視で選ばれているので、ゲールの軍人とか、祖国を守れなかった軍人とかも積極的に採用されている。判断はゼロ名義。

 

ちなみに、合衆国は入ってません。正式参戦もしてないんだから、当然だね。

この先永久に出番は来ないけど。

 

様々な局面に、各個の技能を生かして即座に対応できるようにくみ上げられている。兵站線も、万が一にも襲撃を受けて途絶なんてことにならないようにされている。それらの管理も、各国から選りすぐられたスペシャリストが担当しているのだ。

 

ここまでくれば……もう、負けること自体まずなさそう、だと思えるんだけど……予想外のことが普通に起こるのが、戦場だからな。

ゾフィーとか……エクセニウムとか……合衆国とか……

 

一応、対応策は用意してあるし……いざとなれば僕が『ガウェイン』で出るから、大丈夫だとは思うけどね……。

そのためにわざわざ、僕がいきなり抜けても指揮系統大丈夫なようにしてあるんだし。

 

かといってまあ、何か起こってほしいわけじゃないし、このまま……いや、これ以上はフラグになりそうな気がする。やめとこ。

 

何にせよ……いよいよ明日なんだ、今日は早めに寝よう。

 

 

☆☆☆

 

 

それは……よくある光景だった。

 

空をかける、戦闘機。

陸を踏みしめて進む、戦車や装甲車。

銃を手にしながら進む、歩兵たち。

 

それが……2方向から、向かい合い、ぶつかるようにして、進んできていた。

 

今は戦争中だ。ゆえに、どこにでもある……とまでは言わないが、別段珍しい光景でもない。

同じようなことは、今まで何度も、そこかしこで起こってきた。

 

規模にしても……両軍とも、かなり大きなそれではあるが……今まで、全く前例がない、というほどでもない。

 

それでも、

この戦いは、間違いなく……1年前、1939年から始まった、欧州全体を巻き込んだ戦乱の……終わりの一戦。

いうなれば、最終決戦であると言えた。

 

そして、その一番槍として、互いの軍の先頭に立っているのは……戦場と、そこに跋扈する無数の鉄の塊の中にあって、異質なことこの上ない……2人の少女。

 

連合軍の先頭に立つは、赤い髪に白い装束に身を包み、改造対戦車ライフル『ランスロット』にまたがって飛ぶ、エイルシュタット公国の『白き魔女』……イゼッタ。

 

帝国軍の先頭に立つは、白い髪に黒メインの装束に身を包み、『魔石』をはめ込んだ杖を携えて飛ぶ、クローン技術でよみがえった、本物の『白き魔女』……ゾフィー。

 

互いに互いを認めた、ゾフィーとイゼッタは……どちらからともなく、空を飛んで急接近し……互いの肉声が届くまでのところに、歩み寄った。

 

そうして最初に口を開いたのは……ゾフィー。

 

「……あの子は来ていないのね」

 

「……あの子?」

 

少し考えて……イゼッタは、ゾフィーが誰のことを言っているのか、思い至った。

 

「テオ君のことですか? ……あの子、なんていうから、誰のことかと思いました……誰か小さい子でも探してるのか、って」

 

「私が数百年前の人物だってこと、忘れてない? それに、もともと私は死んだ当時、今のこの体よりずっと年上だったの……私から見れば、あなたも彼も、お子様同然よ」

 

そう言って、ゾフィーはため息をつく。

 

「テオ君なら……後方です。司令官ですから、戦場全体に指示を出す役目です」

 

「そう……ということはつまり、私の相手はあなたがする、ということね?」

 

「……この前のようにはいきません」

 

そう、覚悟を決めた目でこちらを見据えてくるイゼッタを、ゾフィーは警戒を込めた視線で見返し……同時に、イゼッタの乗る対戦車ライフルや、装備している『魔石』のような何かを見る。

 

依然見た時と、明らかに違う装備や武器であるのは一目瞭然。

そして、あの理解不能な兵器を有する男と同じ陣営にいる以上……たんなるモデルチェンジではないというのは、簡単に予想できることだった。

 

(おそらく、『魔石』と同じ、力をブーストさせたり、レイラインの有無による無力化をカバーする効果があると見ていい……武器の方は、『ブラックリベリオン』の報告でも見た通り、かなりのグレードアップ。魔法の強化を単なる出力の上昇とみても……油断はできないわね)

 

自分で改めて、確かめるように、心の中でつぶやくゾフィー。

 

(おそらくは、彼の手が入った道具……そう、彼は……この子たちの……エイルシュタットの味方、なのよね…………それでも、私は……)

 

少しだけ、心の中に浮かんだ迷いを振り切り……ゾフィーはイゼッタを、にらむように鋭い目つきで見据えた。

 

「……あなたとは、前回、前々回……十分に言葉を交わした。これ以上話すことはないわ……私は、復讐のために……エイルシュタットを滅ぼす。その邪魔をするなら……全て消し飛ばしてあげる」

 

「そうは……させません。私は、姫様の……みんなの明日のために、この戦争を終わらせる。そのための道筋を、テオ君達が作ってくれた……だから私も、全力で戦います!」

 

直後、

 

何の合図もなく、弾かれたように……2人の魔女は一気に後方に飛び去り……その代りに、2人が操っていた飛行爆弾が殺到し……いくつもの火柱が天を焦がし、

 

その瞬間……両軍の戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

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