終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.55 テオ・前編

 

時は、少しさかのぼる。

 

場所は……帝都ノイエベルリン。

一時期……世界をこのまま手にするのではないか、とまで言われていた、大国・ゲルマニア帝国の中心部であり……皇帝のお膝元。軍部や生産部門など、国家における様々な部門の中心地。

 

その都市は、今まさに……連合軍によって、陥落させられようとしていた。

 

最早、ここを守るだけの力すら帝国にはなく……戦車も戦闘機も、鎧袖一触とばかりに蹴散らされていく。

 

それを先導するのは、総司令官ゼロ。

そして、前線に立って猛威を振るうのは……魔女イゼッタと、魔人ペンドラゴン。

 

2人は、立ちはだかる障害を次々と排除し……帝都に、そして宮殿に乗り込んでいた。

 

そして……その最深部、玉座の間、と呼ばれるその場所において……

 

「一足、遅かったですね。ペンドラゴン中佐」

 

「……みたいだね」

 

玉座に腰かけたまま……自分で自分のこめかみを撃ち抜いて死んでいる、皇帝オットーと……その側近・エリオットを発見したのだった。

 

 

 

それから先は、拍子抜けするほどとんとん拍子に物事が進んだ。

 

皇帝の側近・エリオットは、何の抵抗もなく降伏し、その身柄を連合軍で抑えられることとなり……ゲール軍は全面降伏。少し遅めにではあるが、帝都ノイエベルリンは、皇帝不在につき、代表エリオットの名と、軍部・政治部高官数名の連名で無防備都市宣言が出された。

 

気が付けば、夕日で地平線が赤く染まるよりも先に、連合軍は帝都制圧を完了していた。

 

……そのまま、長く続いたこの戦争も、ようやく終わる……かに思われた。

 

いや、その言い方で本来間違ってはいない。

大多数、ほぼ全ての欧州の人民にとっては……事実、そのまま戦争は終わったのだから。

 

 

 

……ここから先は、連合軍の中のごく一部でのみの波風となった、ある出来事の話になる。

無関係の者には、知らなくても何の問題もなく、

関係ある者であっても、気にしなければ何の問題もない、というような事柄だった。

 

……それでも。

その、『真実』を知りたがっていた、そしてその人物を知っていた者達にとっては……決して、小さくない事柄であったに違いない。

 

 

☆☆☆

 

 

「……は、……で、……だから……」

 

「なるほど。では……は本来、……を……だったわけか」

 

帝都ノイエベルリンを制圧した、その日の夜。

 

特に何も問題はなく制圧の後処理は進んでいたことから、連合軍の本部では……捕虜とした者達の中で、最も価値のある――立場的にも、持っている情報的にも――エリオットへの取り調べが行われていた。

 

事前に自分で言っていた通り、特に何も隠すことなく、黙秘もせず……エリオットは、淡々とジーク補佐官の質問に答えていた。

 

それがなぜかと言えば……『陛下が死をもって、御身とこの国の覇道を閉ざされたのであれば、私が義理立てすべき相手も、その意義ももはやありませんので』とのことであった。

要するに、主君が死んだのなら、せめてこの先のこの国の未来に後腐れはないようにしたい、ということらしい。

 

それ自体はありがたいことなので、そのまま普通に取り調べを進める補佐官ら。

 

しかし、エリオットも……全くの無報酬で、彼らに協力しているわけではない。

ごく一部の人間しか知らないことではあるが……彼から1つだけ、全面的に戦後処理に協力する見返りとして、条件が提示されていた。

 

そしてそれは……その夜、取り調べがひと段落した段階で……すぐに遂行された。

 

 

 

「……約束を守ってくださって、感謝します」

 

「いえいえ、こんなんで協力してくれるんなら、安いもんですよ……どういう意図があるのかは、わかりませんけど」

 

「……先に言っておくが、いかにあなたがこれから世に出ることのない身だとはいっても、公開できる情報には限りがあるぞ?」

 

「ご心配なく……あなた方に何かを聞きたいわけではありませんので。むしろ……私の方から、あなた方に伝えるべきことがあるのです」

 

エリオットは……自らの望みとして、ある人物たちへの面会を望んでいた。

今目の前にいる、その3人……イゼッタ、フィーネ、テオドールの3人と。

 

そのほかに、ジーク補佐官とベルクマン中佐、それに、それぞれの付き添いとして、アレスとビアンカもいる。さらに、マジックミラーを挟んで壁の向こうには……ゼートゥーアとレルゲン、エルヴィラに、何かあった時のために近衛数名もいた。

 

このメンバーは……事前にエリオットから指定されていたもう1つの条件……『何を聞かれても問題ないメンバーだけを同席させてほしい』というそれを反映したものだった。

 

そのことをあらかじめ話されていて承知しているエリオットは、並んで卓についている3人の顔を順番に見て……話しだした。

 

「ペンドラゴン中佐。あなたは……自分の出生について、知りたがっていたそうですね?」

 

その言葉に、テオとフィーネの眉がぴくっと動いて反応し……イゼッタはそれよりも幾分わかりやすく、息をのむ形で反応を見せた。

ジークとベルクマンは反応なしである。この辺りは年季の差かもしれない。

 

「……それを、教えてくれる……というか、あんたがたは知っている、と?」

 

「ええ……もっとも、調査して、確信を持ったのは……比較的最近のことですが」

 

「調査……能力があるとはいえ、いち軍人について、出生というところまで詳しく調べるとなると、それ相応の理由があるのだろうな」

 

「それも、僕ら特務にすら内緒で進めるほどの……極秘案件たる理由がね」

 

と、ジークとベルクマンが口をはさんだ。

エリオットは視線を二人にちらっとやり、

 

「そういえば……先程の取り調べで、お2人はすでに、彼の出自についてご存じのような口ぶりでしたね?」

 

それに驚いたように、2人に視線をやるテオとイゼッタ。

しかし、他2人と同じようにはしなかったフィーネは……エリオットに視線を向けたまま、

 

「……それについては、私も知っている。いや、聞いている……というべきか」

 

「姫様!?」

 

驚いたようなイゼッタの声。今度は、2人分の視線がフィーネに集まった。

 

「……すまんな、イゼッタ、テオ……数日前、補佐官から、あくまで予想だ、として聞かされていた……だが、うかつに伝えていいものかどうか判断しかねたために、私の判断で黙っていた。……すまなかった、許してほしい」

 

「……僕らに伝えるのがためらわれる内容だった……と?」

 

「ああ……真実かどうかに関わらず、ほぼ確実に君たちを動揺させてしまう内容だったからな。決戦を前にして、そのことに気を取られてしまうのではまずい、と思った」

 

そしてフィーネは、再度頭を下げると……今度はエリオットに向き直った。

 

「……興味深いですね。よければ……話の前に聞かせていただけませんか、大公殿下? あなた方の予想が、どんなものだったのか……」

 

「……では、単刀直入に言おう……。ここにいる、テオ……テオドール・エリファス・フォン・ペンドラゴンの正体は………

 

 

 

………ゲルマニア皇帝・オットーの息子ではないか?」

 

 

 

イゼッタが、息をのむ。

テオの表情が、引きつる。

ジークとベルクマン、それにエリオットの表情に……動きはない。

 

返事を求めずに……フィーネは、続ける。

 

数日前、ジーク補佐官から聞かされ、自分も驚愕のあまりどうにかなりそうだった……その予想を、1つ1つ。

 

昔……ゲルマニア皇帝の寵愛を受けたと噂されていた、ある女がいたこと。

 

その女には、父親のいない子供が1人いたこと。

 

テオが孤児院近くで、イゼッタとフィーネに拾われたのと、ちょうど同じ頃、その女が失踪し……ついぞその行方をつかめなかったこと。

 

その『父親のいない子供』の特徴……年齢や見た目などが、テオと一致すること。

 

テオは2人がエイルシュタットの国内で拾ったが、それ以前の足取りがどうやってもわからないこと。エイルシュタットの生まれなのかすら、そもそも確認できなかったこと。

 

そして、これはおまけのようなものだが……テオの特徴。黒髪に黒目が……皇帝・オットーのそれと同じカラーリングであること。

 

さらに、今しがた話になった……一介の軍人を、皇帝が命令を下してその出生を調査させたという事実……その出自が、何か特別なものであるという根拠とした。

 

全てが語られ終えるまで、黙ってエリオットはそれを聞いていて……

そして、それが終わって少しの間、フィーネの言ったことをかみ砕いで飲み込むような、ほんの少しの沈黙を挟んで……そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念ですが、全く違います」

 

 

 

盛大に落とした。

 

 

 

 

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