「と、いうわけで! 冗談抜きで世界の危機になりかねないので、緊急会議です! 皆さんからの忌憚のない意見を希望します。マジで。じゃんじゃん発言しちゃって頂戴無礼講ね今日コレ」
「……前フリの割に、言っている調子は軽い感じに聞こえるが?」
「そーでもしないとやってられないんですよー畜生。死ねあのポンコツ合衆国」
「わ、割と本気でいっぱいいっぱいみたいですね、テオ君……」
資料の用意もろくにできないまま、有識者と意思決定権を持つ者をとにかく集められるだけ集めて、会議が開催されようとしていた。
場所は、エイルシュタットの国境付近……『ケネンベルク』にある、ゲール軍の元・収容所。現・臨時多目的拠点施設である。
なぜここに集まったからと言えば、一番交通の便が良くて、各国からほぼ等距離にあって、会議室が開いていたから……というだけの理由だ。
そのあたりをさっと適当に決めてでも、とにかく早く集まらなければならない、そして各国で共通認識を持たなければならない……そんな事案であった。
集まっている面子は……とにかく急いだということもあって、各国のできる限り上の、参加できる者たち……下は外交官から、上は国家元首までさまざまであった。
そして、国家元首レベルの1人……フィーネと、同行者兼有識者としてここにきているイゼッタの、若干の茶々入れと共に始まった会議。
しかし、そこで語られる内容に……数分後には、参加者のほとんどが顔面を蒼白にしていた。
そうでないのは……最初から顔色が悪かったり、いらだちを隠していなかった面々。
会議の招集者であるテオや、その配下の研究者、調査員たち。そして、黒の騎士団のゼロだ。
もっとも、ゼロ(影武者)は……もともと仮面で顔色をうかがうことができないが。
そして……極秘裏にアトランタから事情を聴かされていた、ブリタニアの代表者もだった。
当初、『この件はくれぐれも連合各国には内密に』と言われていたが……ことの大きさが明らかになり、どう考えても一国で、それも『魔女』を有しない自国が対処できる問題ではないと判断したブリタニア政府は、早々に……『魔女の力』に最も深い識見を有する、『黒の騎士団』と『新ゲルマニア』に話を通した。アトランタとかからの抗議や、何らかの処置を覚悟で。
もともと、島が一つ吹き飛んだという異常事態を察し、独自に動いていた彼らは、その情報を組み込んで急ピッチで調査を実施……そして会議が招集され、今に至る。
「つ、つまりそれは……何かね? 大西洋のど真ん中に、我ら欧州連合にまで甚大な被害を及ぼしかねない『爆弾』が漂っていると……そう言うのかね?」
「細かい情報や学術的根拠は省きますが……もし、アトランタの内通者や密告者からの情報が正しい場合、被害の規模は……このような形になるかと」
資料が用意できなかったため、テオはあらかじめ用意していた道具を使って説明する。
会議室の机全体を覆うほどに巨大な、欧州や南北のアトランタ大陸、そしてその間の大西洋が描写されている地図を広げ、全員に見えるようにする。
そこに……チェスの駒と、色付きのビーズを大量に持ち出して、魔力を流して操作し……
「まず、推定ですが……現在その、エクセニウムを満載した輸送船は、海流から計算して……このあたりです」
チェスの駒を、大西洋の真ん中……しかし、きちんと計算して割り出した緯度・経度に置く。
「それが、臨界予想時間には……ここまで動きます」
次にそれを、わずかに斜め上……やや欧州寄りの場所に動かす。
「ここで爆発が予想されるわけですが……その場合、まず、爆発によって完全消滅、あるいはそれに匹敵するダメージが発生する範囲が、半径約100㎞……このくらいです」
地図上の駒の真上から、手に持っていた入れ物を逆さにしてビーズをぶちまけるテオ。それを魔力で操作し、円形に、均等に散らしていく。
数秒で、きっかり100㎞分の大きさの円が出来上がる。
その範囲の大きさに……見ている首脳陣は、息をのむ。
「その余波……要するに、爆風やら衝撃波が、明確な実害をもって届くと予想されるのがこのくらい。さらに、衝撃の伝道によって津波が発生することが予想され、その影響範囲がこのくらい。なお、被害はともかく爆風等の『観測』だけであれば、おそらく……地球全体に及びます」
同じように、色違いのビーズを使って、範囲をわかりやすく図面上に表していくテオ。
新たに示した2つは……冗談のような広さを、地図上で覆いつくしていた。
「……ば、バカな! 冗談でしょう!? これでは、これでは……欧州の、海に面している部分がほぼ全て巻き込まれるということではないですか!」
「……冗談だったらよかったんですけどね」
「我が国の有識者にも、爆発の規模等の情報を伝えて計算させましたが……同様の見解です」
悲鳴に近い反応を返す、テルミドール共和国の代表。
それに、テオと、ブリタニアの代表が、悲痛そうにしつつも、残酷な現実を告げた。
声こそ上げないが、他の各国首脳も同様に愕然とする中……色がだいぶ変わった地図を指示棒で指しながら、テオは話を続ける。
「取り繕っても仕方ないので率直に申し上げます。このデータをもとにざっと試算した被害規模ですが、まず大西洋、および地中海の大部分を含む生態系はほぼ壊滅。漁場にも、再起不能レベルの深刻な被害が出ます。加えて、沿岸地域には衝撃波が届いて、家屋の倒壊や窓ガラスの破砕など。さらに津波も起こります。これも沿岸部……地形によるので、範囲等一概には言えませんが、かなりの広範囲が壊滅、川の逆流なども起こります。死者、行方不明者、発生する難民・帰宅困難者、避難者総数、経済損失額は……計算が追いつきませんでした。そして最後に……島国であるブリタニア王国などについては、国土のうち、海抜付近の標高の部分が水没する恐れがあります」
「地質学、環境学等の専門家の観点から補足を申し上げますと……これはあくまで、現段階の情報で『おそらくこのくらいは』と推定できる範囲です。これにさらに……爆発の熱による付近の海水温や気温の上昇、海流、風向等気候条件の異常変動、海底のプレートの損傷による地殻変動など、予想もつかない部分が加わりますと……それ以上の範囲で、想像もつかない被害が発生する可能性も否定できません。最悪……付近の陸地や海域が、アネクメーネ化してしまう恐れも……」
ほぼ一息で、早口で……その事実は語られた。
しかし、各国の首脳は、一言一句それらを聞き逃すことなく脳内に刻み……その、自分たちが直面している問題の大きさに、改めて絶句する。
これでは、冗談抜きに……欧州やアトランタにおける、人類の生存圏の危機ではないかと。
「……ここまでくると、こうして会議をしている時間も惜しいと思えるな。ペンドラゴン大佐、話を進めてくれ……あなたのことだ、すでに打開策、ないし案を策定しているのだろう?」
沈黙を破った、ゼロのその言葉に、参加者達の視線がテオに集まる。
「私もさすがに専門知識には明るくないが、それでも、この事態が一刻を争うそれだということはわかる……それでもこのような会議の場を開いたということは、この会議の意味は、情報の周知と方向性の統一、各国への全面的な協力要請、そして……作戦の通達が主目的ではないのかな?」
「話が早くて助かります、ゼロ……お察しのとおり、策はある。しかし、迅速に動かなければならないので……あらゆる手続きはすっとばして、あるいは後回しで進めさせていただきたい。各国におかれましても、超法規的措置の10回や20回の適用は容認願います。そして……今から作戦の内容を説明しますが、最初に言っておくと、これには、現在我々欧州連合が保有している『魔女の力』保有者の全員の協力が必要になります」
言いながら、テオは視線を……会議参加者の中にいる、自分以外の、その条件に該当する者達を目で追っていく。
エイルシュタットのイゼッタ。
黒の騎士団のゼロ(……ということになっている)。
ゲルマニア……兼、ヴォルガ連邦所属でもあるマリー。
そして……ゲルマニアとエイルシュタットで身柄預かりとなっている、ゾフィー。
イゼッタはフィーネとアイコンタクトですでに意思を確認しているし、ゼロもマリーも堂々と構えていて、言わなくともその意思は推し量れる。テオも同様だ。
しかし、残る1人、ゾフィーに関して言えば……賛否両論あるところなのか、様々な視線が会議室内を交錯するが……その空気を、当のゾフィーがばっさりと切った。
「……私は別に構わないわ。それがこの場における、欧州全てを守るための最善の選択であるなら……この力、そのために使いましょう。もっとも……あなた方が私を信用できるなら、だけど。かつて……厳密には『別人』とはいえ、復讐に身を焦がし、各国に刃を向けた私をね」
「……それについては、すでに公式発表で、あなた個人の責任を否定している。この場で蒸し返すようなことではない」
同じように、ゼロが事務的に返す。
語られるのは……すでに国際社会に発表された、欧州連合としての公式見解であり……フィーネやテオが、ゾフィーの助命のためにでっちあげた『方便』でもあった。
「クローンによって復活させられた『白き魔女』……しかしそう一言に言っても、我々の前に現れたあなたは『1人』ではなかった。詭弁に聞こえるだろうが、現在の国際法において、『同一人物である別人』による犯罪行為を、連帯責任で罰する規定はない」
帝国が『クローン』という技術によって――その詳細は公開されていないが――ゾフィーを『量産』していたことは、すでに周知の事実である。おぞましい研究であり、人命への冒涜である、という、一部の宗教的見解と共に。
そして同時に発表されていたのは……『クローンのゾフィーは寿命が極端に短く、複数回の戦闘行為に耐えられない。そのため、戦場に出てきたゾフィーはすべてが同一人物ではなく、力尽きて死ぬたびに新たなクローンが投入されていた……つまりは『別人』である』という報告だった。
つまりは、『アレーヌ市を焼いたゾフィー』『最初にイゼッタと戦ったゾフィー』『ゼロと戦ったゾフィー』『各国の部隊と小規模に戦っていたゾフィー』『最終決戦でとらえたゾフィー』は、データから見るに、全部が同一人物ではなく、少なくとも何回か『代替わり』があったというもの。
その証拠となる書類も提出されており……これが強力な武器となって、現在のゾフィーは、『ゾフィー』全体の戦争責任についての追求から対象外として判断されていた。
それでも、経過観察は必要として、身柄預かりになっているのである。
もっとも、さすがに無条件ではなく……テオ達が作った、『魔法を封じる首輪』をつけてだが。
もちろん、その証拠というのは偽造なのだが、本物の書類をそもそも扱っており、いくらでも『正規の偽物』を作れるベルクマンや、『錬金術で記載のインクを分解する』というとんでもない手段で書類偽造を可能にしていたテオが協力している時点で、監査・検察部門が見破れるはずもなかった。
そして、ここでもそれが武器となり、今再び、ゾフィーは……今度は、欧州を守るために、その正義によって『魔女の力』を振るう場に立つこととなったのである。
引き締まった表情、信念に燃える瞳……その身に罪を背負いながらも、全力で『正義』のために戦う決意をみなぎらせているゾフィーに、各国の首脳は、おののきつつも頼もしさを覚え……
(任せておきなさい、テオ! お母さん頑張るわ! アトランタが何よ、うちの子の未来にケチつけるなら消し飛ばしてあげるんだから!)
実際は、おそらくはこんな感じだろうな、と……何人かは予想して、心で苦笑していた。
具体的に言うと……一瞬、ほんの一瞬、その表情を崩したり、目をジト目に変えた……テオ、イゼッタ、フィーネ、アレスは。
彼ら、彼女らは、最近のゾフィーとの交流が多い。
ゆえに、知っていた。今の彼女を。
国際的に、公的に事実上の免罪を勝ち取り、さらにテオによって『虚弱体質』や『短命』などの先天的な欠点を克服し――薬品と『錬金術』と『GN粒子』と『賢者の石』でどうにかなった――これからの人生、愛する我が子と歩んでいく権利と時間を、彼女は手に入れた。
さらに、少し困惑気味ではあったものの……テオ自身が、自分を、存在も知らなかった母親を受け入れ……『まあ、これから……ちょっとずつ、ね。急には無理だけど……親子なわけだしさ、一緒にいれた方がいいでしょ』と、自分に居場所をくれた。
その結果、憑き物が落ちたような、救われた気分だった……とは、本人の弁。
前向きに生きていく姿勢と、エイルシュタットへの恨みを捨て、赦し……未来への希望に生きることを決めた彼女は、憎しみに支配されていた時よりも、余程魅力的だった。
……その結果として、変な方向に進んでしまったと気づくのは、数週間後だった。
彼女の性根が現在『親バカ』と『過保護』、そして『小姑』方向に振り切れており……今まで離れ離れ?だった分、テオにべったりになってしまっている事実を知る者達は……頼もしいけど残念、という属性を持つ『元祖・白き魔女』を見て……何だかやるせない気分になっていた。
しかし、今はそんな場合ではない、と(無理やり)会議に向き直った。
……まあ、
「それでは、今から作戦の概要を説明させていただきます。時間もありませんので簡略に。まず、今回の、人類の未来を救うための作戦名は……
……
息子も色々ひどいのだが。