終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.60 DRAGON BALL EXE

1941年2月14日

午前5時55分 作戦開始まで残り5分

 

「さて……じゃ、ぼちぼち用意始めますか」

 

「……何か、ホントに怪しい『儀式』とかやるみたいな感じだよね」

 

「大筋は間違ってはおりませんな。ただ、やるのは効果の不確かなまじないではなく……きちんと理論に基づいた化学反応の類ですが」

 

「それで起こるのは、魔法より魔法じみた奇跡だけれどね……」

 

テオ、イゼッタ、マリー、そしてゾフィー。

ねつ造の存在である『ゼロ』を除いた、この欧州で『魔女の力』を持つ4人全員がそろい……今正に、人類の未来を救うための『ドラゴンボール作戦』が始まろうとしていた。

 

4人の目の前にあるのは……ガラスのような、澄んだオレンジ色の結晶体でできた、7つの球体。それぞれの中に、赤い星のようなものが入っていて……7つ全部個数が違う。1つだけのものから、7つ入っているものまである。

 

日本人であればほぼ誰でも、ぱっと見ただけでこれが何か、何を模したものかわかるだろう。しかし、イゼッタ達にしてみれば……必然ではあるが、『テオが作った何か』という以上の認識を持つものではない。

この7つの宝玉の名前が『ドラゴンボール』だと聞いても、思い浮かぶことなどない。

 

せいぜい、『どこも『ドラゴン』じゃないけど……』と疑問に思うくらいであろう。

 

まあもっとも、別に7つそろえても神の龍が出てくるわけではなく、似せたのがガワだけである以上、テオ的にもネタで名前を付けて形を整えただけのものでしかないわけだが。

 

しかし、全くの飾り物であるというわけもなく……この7つの宝玉は、テオがこれまでの研究の成果の全てを注ぎ込んで作り上げた、誇張抜きに『世界を救う』秘宝であった。

 

もともとは、全く別な意図で製作が進められていたのだが、今回のこの未曽有の危機に、有用な対抗手段足りうるということで、急遽使用することになったのである。

 

「……さて、3分前。各自、持ち場について」

 

そう、自分以外の3人に声をかけながら……テオは、7つの宝玉を、それぞれ決まった場所に並べていく。

 

今、テオ達がいる場所は……エイルシュタット領内、アルプス山脈の中腹。

何もない岩肌の、ただひたすらに広く、開けた場所。冬だから、なおさら何もない。今さっき、テオが『鋼の錬金術』で雪をどかし、岩肌を平面に整えたくらいである。

 

そこに、ちょうど宝玉がはまるような、ちょうどいいくぼみを均等に7か所作って、テオは『ドラゴンボール』を置いていく。

 

その周囲に、イゼッタが、指でつまめるくらいの大きさの、ひし形の結晶体を……円形になって囲むように、その3倍の数……21個を均等に並べた。

 

さらにその周囲に、電信柱くらいの大きさと形の、これまた結晶体の柱を……ゾフィーが浮かせて、さらに3倍の63個並べた。これもまた、円形になるように、均等に。

 

最後に、マリーが……掌に乗るサイズの楕円球形の結晶体を、189個、その周囲に……やはり円形になるように、均等に並べた。

 

まるで魔法陣を作るがごとく並べられたこれらは全て、テオ達が作った『人造魔石』であり……中央にある7つの宝玉に至っては『賢者の石』である。

 

そしてこれらはいずれも、ある特殊な加工がなされたものだった。

 

『ドラゴンボール作戦』は、これらを使って実行されるのだ。

 

「開始まで1分。カウントダウン開始……59、58、57……」

 

近づくその時に、テオのみならず、その場にいる全員の表情が引き締まる。

 

テオは魔法陣の中心、つまりは7つの『ドラゴンボール』のすぐそばに立ち、イゼッタ達は魔法陣よりも外側、189個の『人造魔石』よりも外側に、それぞれ……浮いていた。

 

「3、2、1……作戦開始」

 

午前6時00分。

テオは、号令と共に……『ドラゴンボール』の1つに触れて魔力を流す。

 

すると、触れていない他の6つも合わせて、共鳴するように宝玉が輝き始め……あらかじめ内部に蓄えられていたすさまじい魔力が、指向性をもってあふれ出す。

 

その魔力は、その周囲に置かれた21個の人造魔石に向けて拡散しながら放たれ……吸い込まれていく。すると、その21個を経由して魔力はさらに、波長を変えて放たれ……まるで電気信号のように、明らかに自然の魔力とは異なる異質さを孕んで拡散していく。

 

その外側、63本の柱型の人造魔石がそれを受け取ると……受け取った魔力は、柱型の魔石の中にあらかじめ封入されていた、『ドラゴンボール』に劣らぬ量の魔力量が、『21個』から放たれたものと同質のそれになって、さらに勢いよくあふれ出した。

 

そしてその外側……189個の『人造魔石』によってできた最後の『円』に到達すると、その全てが光のラインでつながり……しかし、ややバランスの悪いいびつな光円を作った。

 

ここで、イゼッタとマリー、そしてゾフィーが動く。3人は、外側から魔力に干渉し……その光のラインを、少しずつ形を変化させ……真円形になるように整えた。

 

その光の縁の内部では、7個から21個へ、21個から63本へ、そして63本から真円の189個へと魔力があふれ続け……どんどんと内部から魔力の奔流があふれ出し、しかし最後の円でせき止められ、それ以上広がらない。

 

……しかし、それも限界に来たその時。

 

イゼッタ達が整えていた円形の外縁から、その形そのままに……円がそのまま広がるように、

膨大な魔力が一気にあふれ出し、360度全方向へ、光の奔流となって拡散した。

 

 

 

今一体何が起こっているのか、テオ達が何をしたのか……ここで明らかにしようと思う。

 

テオ達は、もともと……世界各地にあふれている『魔力』を、そしてそれを操る『魔女の力』や、それによって生成される各種の物質などを、『資源』として有効利用することを考えていた。

 

しかしそのためには、『魔力』そのものを、より扱いやすく、安全な形で運用する必要があった。

今のように、『エクセニウム』として物質化したはいいが、きっかけ一つで蒸発してしまったり、性質が変化したり、あまつさえ爆発するような危険な状態では不適格だったのだ。

 

それゆえにテオが考えていたのは、今行った、儀式という名の超大規模魔力化学反応によって、世界全体のレイラインの魔力を変質させ、より安定した、安全なものに変えてしまうというもの。

 

まず、『ドラゴンボール』……これの正体は、火種となる魔力を蓄えておくタンクであると同時に、どのように科学反応を起こさせるかという内容をあらかじめ刻み込んでおいた、いわば設計図。

これから放たれる魔力は、種火であると同時に、変質させる魔力のいわば原液だ。

 

それを囲む、周囲の21個は、放出された原液たる魔力を拡散させるためのレンズ、あるいはプリズムの役割を果たし、

 

さらにその外側の63本の柱は、プリズムから放たれた魔力を受け止め、それを中和して程よい濃度にしてから、最初以上の勢いで放つ放出口。

 

最後の189個、外縁部の光円は、それを勢いよく……それこそ、世界全体に拡散するほどに加速して放射させるカタパルトだ。イゼッタ達が形状を円形になるように協力して調整しているのと、ある程度ため込んでから一気に解放する形をとったのは、魔力の放出にムラをなくすため。

 

そこから放たれた魔力の波は、世界全体にまんべんなく広がりながら、レイラインにしみこみ、混ざり……魔力を変質させていく。『ドラゴンボール』の中に刻まれた設計図通りに、安定して扱える、安全な性質の、全く新しい『魔力』へと。

 

しかも、この『魔法陣』の機能はこれだけではない。

 

波となって魔力が世界各地に広がっていくうちで、レイラインからは、注ぎ込まれてあふれ出た分の……まだ変質していない魔力が空気中に拡散する。

 

するとそれは、まるで波が『寄せて返す』かのように、その中心……『魔法陣』へ向けて逆流する。そして、189個、63個、21個……と、最初とは逆のプロセスで流れていき、最終的に『ドラゴンボール』の中に吸収されるのだ。

 

そしてその魔力は、『設計図』によって変質し、あらたな『種火』となり、最初に広がったそれと同様に、また外側へ拡散し、『波』となって広がっていくのだ。

 

こうなるように作られた、一度起動させれば、世界中の魔力を変質させつくすまで止まらない『永久機関』ともよべる機構。それが、この『魔法陣』の全容である。必要なのは、一番外側の部分を円形に保つことのみ。それさえ『魔女の力』で整えておけば、後は全てがオートだ。

 

そしてこれこそが、『臨界爆発』を目前にしたエクセニウムから人類を救う手段でもある。

 

不安定な結晶体の『エクセニウム』は、レイラインの魔力と同様に、この『魔法陣』による変質を受ける。つまりは、分解され、無害かつ安定した『魔力』に再構成されて、蒸発し、大地に、あるいは海中に溶けてしまうのだ。

 

例えば、だ。アトランタに目をつけられている現状と、魔力が争いの火種、ないし爆薬という意味での火種にもなりかねない現状を改善……あるいは、魔女の力を用いた戦争そのものへの終止符を打つ、ということを考えた場合……極端な策がある。

 

『魔石』ないし『賢者の石』を使い、全世界の魔力を集めて宇宙にでも放ってしまう……という方法。だが、そんなことをすれば、レイラインに魔力が還元されることがなくなり、二度と魔法が地球上で使えなくなる上に……膨大な負荷が術者にかかって間違いなく死ぬが。

 

そんな方法を取るバカはいないだろうが……と思った直後、テオは『イゼッタならやるかも……こないだも、フィーネのためなら笑って死ねるとか、そんな感じのこと言ってたし』などと思って顔を引きつらせながら、テオがそれを大幅に改善して作り上げたのが、この『魔法陣』である。

 

反動のない『人造魔石』を大量に使い、さらにその核となる部分に『設計図』を刻み込み、起動と拡散機構(真円)以外は全てをオートでできるようにして、さらに魔力そのものを、散らすのではなく変質させることで、この先の資源とする形で平和につなげる。

 

意地でも犠牲を出さず、さらにアトランタに口も出させないために考え出した、秘策だった。

 

あふれ出す光が広がっていき、外から帰ってきた光は7つの宝玉に吸い込まれ、また光となって広がっていく……そんな幻想的な光景に、役目をしっかりと果たしつつも、目を奪われているイゼッタ達。

その間にも、どんどんと世界の『魔力』は塗り替えられていく。

 

その中心で、テオは……何もしないで立っているわけではない。

 

右目の『賢者の石』の義眼を媒介に、寄せて返ってきた魔力の波から情報を吸い上げ……一定以上の濃度で凝縮している『魔力』のありかを観察していた。

 

すなわち、結晶化させられ、臨界を待つ身となっている『エクセニウム』を。

 

ここに至るまでの準備の間に、アトランタが作ってくれた3か所の『大量』のエクセニウム貯蔵箇所のうち、1か所が間に合わず、臨界、爆発した。

 

結果、南北のアトランタ大陸が、陸路で行き来できなくなり……合衆国政府は火消しに奔走しているが、文字通り焼け石に水である。情報を秘匿していたがために被害は少なくなかった。求心力の低下はかつてないレベルとなり、さらにはどこからか、あと2か所、似たような『爆弾』が隠されているということまで知られ、国内は騒然となった。

 

最早なりふり構っていられない、という事態になり、合衆国が欧州に真実を話して助けを求めてきたのが数日前。

 

人道的な側面から、連合国はそれを承諾したものの、欧州としても、残りの超大規模エクセニウム貯蔵施設に直接手を出して爆発物処理というのは不可能であるため、この『ドラゴンボール作戦』での一斉浄化によって対応することとなっていた。

 

それが上手くいっている……すなわち、アトランタのエクセニウムが、徐々に分解されていっていることを、テオは読み取っていた…………が、

 

(やれやれ、どうにかなった……けど、このまま終わったんじゃ……こっちが苦労かけられっぱなしで、面白くない……ってことで、ちょいと小細工させてもらおうか……)

 

世界全体をパニックに陥れかねない事態であったため、あくまで極秘裏に行われたこの作戦。その功績は、世界の裏側では語られ、知られるであろうものの……表立って称賛が起こるようなことはなく、アトランタからも、無難な称賛と感謝が発信されるだけだろう。

 

最初から最後まで、裏で事態が動いた結果としては当然であるが……これだけの大問題を起こされて、それの解決のために奔走して、それで何もご褒美なし、というのは……根本的なところで、子供らしい部分を残すテオにとって、承服しがたいものだった。

 

(今後、『魔女の力』に関して不干渉を……なんて条件を出しても、向こうははぐらかして首を縦には振らないだろうし……仮に承諾したとしても、数年も経てばしれっと破るだろう。なら……)

 

テオは懐から、1つの宝玉を取り出した。

『秋津島皇国』から、皇国政府との裏取引を経て手に入れた、無名の秘宝『尸魂の玉』を。

 

コレの正体は、魔力波長を変化させる内部機構を持った……すなわち、天然の『ドラゴンボール』である。コレを解析し、元にしてテオは、足元にある7つの宝玉を作っていた。

 

そしてテオは、同一の機能においてはより強い力を持つ、桃色の宝玉に魔力を流し、起動させ……『魔法陣』に干渉し、一部を書き換える。リアルタイムで設計図を新たに構築しているのだ。

 

(……これでよし。さて、後々明らかになった時が楽しみだ……早くて数年後かな?)

 

とある『いたずら』を完了させたテオが、悪い笑みを浮かべて満足げにうなずいた、その数時間後……時刻にしてその日の正午前、無事に『儀式』は終了したのだった。

 

 

 

 




次回、最終回(唐突)。
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