終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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最終回です。


Last Stage 幸せなおとぎばなし

1941年4月9日

 

ただの偶然なんだろうけど……今日は、エイルシュタットとゲルマニアの間に戦端が開かれてから、ちょうど一年である。

その節目の日に、色々なことがあったので……『日記』に残しておこうかと思う。

 

……およそ2か月前。

世にいう『エクセニウム危機』――キューバ危機みたいなネーミングだ。こっちのは火種から何からアトランタだけど――を乗り越えたものの、戦後処理がいっそう忙しくなり、日記を書く時間もろくになくなる中……さらには、とある『長期出張』に出て……それにこの日記を持っていくのを忘れるという大ポカをやらかしてから、ずいぶん経ってしまった。

 

なので、日記のつけ方としては間違っている気がするが……ここ2ヶ月分の出来事を、一気に。

 

 

 

あれから先、ドでかい借りを欧州に作った形になるアトランタをけん制し、ちくちく突っついていびりながら、こっちへの干渉を封じ……その間に僕ら欧州連合は、無事に『EU』という超巨大連合型国際組織を作り上げ、あらゆる意味で合衆国に対抗する、どころか上回る力を得た。

 

その主軸になってるのは……順当に、戦乱の世を生き抜いて国力を保っていたブリタニア。ついで、まだ不安定だがブリタニア以上の国力を持つヴォルガ連邦、潜在的な国力であればブリタニアに近いレベルである、テルミドールやリヴォニアといった形になった。

 

ゲルマニアはまあ……国際的に見れば、浄化されたとはいえ前科持ちの戦犯国家だし、エイルシュタットはそもそもの国力が小さい。どちらも、表立って権力を持つことは、当分はない。

……その方が面倒ごとに巻き込まれないから、好都合なんだけどね。

 

ただし、それには一部例外がある。

 

言わずもがな……『魔女の力』がらみだ。

 

『ドラゴンボール作戦』の実行は、エクセニウム臨界爆発の危機を防いだだけでなく、本来の目的……全世界のレイライン、その魔力を変質させ、より安定していて安全な状態に、そして資源として利用しやすい形に変化させる……という結果をもたらした。もくろみ通りに。

 

この、新しい魔力を使って何ができるかというと……まあ、平たく言ってしまえば、エネルギー問題や資源枯渇系の問題を、一気に解決できる。

魔力……正確には、それを使った『錬金術』には、それだけのポテンシャルがある。可能性の次元ではなく、確立された手法として。

 

『錬金術』は、そのままの意味として……物質を、他の物質に変化させることができる。

 

これは、僕もこの日記に何度か書いている『分子構造を動かす』というものなわけだけども……これにより、埋蔵されている地下資源……採掘し、消費していけば、いずれ枯渇するとされているそれらの問題を一気に解決できる見通しだ。

 

用は、使わない鉄くずとか、リサイクルにも適さない金属ゴミなんかは……今の技術水準では、埋め立てとかで処分するのが一般的だ。しかし、『錬金術』で、それらを原料にして、同質量のレアメタルなんかを作り出せるわけだ。

 

金、白金、クロム、ニッケル……まあ、レアメタルに限らず、作り出せる物質は多岐に渡る。それこそ、燃料なんかも錬成できるしね。

原油も、油田が枯渇する未来はそう遠くない、とか言われて危険視され始めてるし。

 

しかし、極端な話……『錬金術』なら、魔力さえあれば、いらない物質を有用な物質に変化させていつまでも使い続けられるのだ。究極的なエコ、循環型社会につながる技術と言える。

 

そして、その研究の最先端を突っ走っているのが……ゲルマニアの『特務』、僕の周辺の仲間たち、そして『黒の騎士団』が組み合わさって構成された『EMAAO』――『Europeans Magic And Alchemic Office』。和訳、『欧州魔法・錬金術機関』。

 

どっかのファンタジー小説にでも出てきそうな名前だが、大真面目に国際社会において超がつくほど重要な役目を担うことになった組織である。

その名の通り、魔法および錬金術の研究および運用を担う機関だ。

 

そしてそこに所属しているのは、僕、アレス、ニコラ、マリー、イゼッタ、ゾフィー、ベルクマン……とまあ、あの戦争で魔法関連の最先端に立っていたメンバーである。

このうちの何人かに関しては、国家運営に携わるのに難色を示したから、島流し的にここによこされた背景があったりなかったりするけど。

 

組織の本部は、エイルシュタットのケネンベルクにある。

この国が『魔法』発祥の地みたいな扱われ方をしていて、イメージ的に一番いいのに加え……単に交通の便がいいし、欧州連合参加国家全体のほぼ中央にある、ってのも理由だ。

 

ここに所属するメンバーは、公的な権力を一切持たない。

というか、『EMAAO』そのものがそういう立ち位置だ。『EU』直下の組織っていう形になってて、方針やら何やらにおける決定権は、全て『EU』の評議会が握っている。

 

もともと『EU』……もとい、欧州全体の平和と、公共の利益のためにその全ての力を振るう組織として作られているので、まあ何も問題はないけど。

 

所属するメンバーも、あらゆる国家に対して絶対中立の立ち位置であり、どこの国をひいきするなんてことはない。僕らがゲルマニアをひいきすることも、イゼッタがエイルシュタットに便宜を図ることもない。できない。

 

まあ、どこぞのエイリアン対策機関みたく、国籍とか個人情報全部削除してるわけじゃないので、望めば普通に里帰りとかもできるし、公人の友人を持ってるメンバーも普通にいる。

僕やイゼッタとか。思いっきり、フィーネと仲いいのは周知の事実だから。

 

ただ、エイルシュタットは、その組織を位置的に受け入れている国として、国際社会に対しての窓口替わりの役割を果たしていたりもして……その点、影響力を持たないっていう唯一の例外と見れなくもない。

 

が、繰り返すが……もともとエイルシュタットの国力は小さいので、癒着したところで大したことはできない。ゆえに、そのへんも考えてこの役割を担っている、という裏事情もある。

……もともと、あのフィーネがトップを務める国には無用な心配だろうけど。

 

今となっては、僕もイゼッタも、他の仲間たちも……今後の国際社会の発展のために、日々『魔女の力』の研究を進めている。

 

……戦争してるより、よっぽど有意義な時間の使い方だ。うん、断言できる。

 

研究の1つ1つが、人殺しでなく、今を生きる人々の未来を創ることに貢献できている……っていうのが、いい。青春なんてもんを全く感じなかった、あの血と硝煙にまみれた日々よりも……よっぽど、有意義に生きている感じがする。

 

イゼッタも同じようで……旅暮らしの日々が楽しくなかったわけじゃないけど、今みたいに、仲のいい友達や仲間がいて、職場の同僚がいて、皆で同じ目標に向かって協力して向かっていける……っていう日常が、たまらなく楽しいそうだ。

 

一生をフィーネのために戦いにささげ、その道半ばで、色々なものを背負って死んでいく覚悟すら決めていただけに……その果てに目指していた『皆が未来を選べる世界』を、直接作るということに貢献できる今を、本当に嬉しく思っているようだった。

 

……もっとも、イゼッタ……こう言っちゃなんだけど、いち職員として使い物になるように訓練するまでに、かなり大変だったけど。

事務系の仕事とか、経験もノウハウも皆無だったから、一から、いやゼロから指導だったし。

 

『実技系』……魔力の扱いに関して言えば問題はほぼなしだっただけに、思わぬ足踏みだったな、と、今思い出しても苦笑を誘う。

そのために、フィーネに相談して人員出してもらったくらいだ。非っっ常に贅沢な近衛の使い方だった、と思う。

 

そしてまあ、僕らが中心になってこの『錬金術』とかは使ってるわけだけど、世界で『力』をもつ4人しか使えない技術じゃあ、あんまりにも公共の技術としての意味合いが弱い。

 

なので、『EMAAO』発足から真っ先に研究・開発を進めたのが……『魔女の力』の汎用化だった。

 

もちろん、誰もかれもが僕らみたいなことをできるようになったんじゃ、モラルハザードどころの話じゃなくなるし……そもそもそんなことは不可能だ。

なので、僕らが進めたのは……魔力の資源利用にかかる部分のみの汎用化……『錬金術』だ。

 

そして、今日……形になったそれを『EU』に報告、研究成果として認められた。

近いうちに、エネルギー革命として、僕らが作ったアイテム……『演算宝珠』は、欧州全体に、色々な制限つきでではあるが、広まっていくだろう。そして、この世界大戦の傷をいやし、世界をさらに発展させることに貢献してくれるだろう。

 

なお、説明すると……『演算宝珠』とは、魔女でない者でも、潜在的にある程度の『素質』を持った者であれば、特殊な訓練を積み、特別な薬品を服用することで、ごくごく一部分だけ、魔力を扱うことを可能にするデバイスである。

 

具体的には、あらかじめ『宝珠』にインプットされた設計図に基づいて魔力を運用し、下処理のほどこされた物質を『錬金』することが可能になる。局所的なものなので、悪用される心配はほぼなしと言っていい。

 

それに使われている技術は、全くの非公開……というか、解析できるようなものではない。僕らが『魔法』で作っているものだからだ……完全なブラックボックスである。

服用する薬も、人体への副作用や悪影響はない。きちんと正しく、要領を守って服用すれば。

 

まあ、別にそれでいいだろう……一流のプログラマーでも、コンピューターに内蔵されている半導体の作り方とか、光回線の構造的な仕組みを全部理解してるわけじゃない。それでも使えてれば、職業上は問題ないはずなんだから。極端な言い方だけど、望む結果を出せればいい。

 

そして今日はもう2つほど、大きな?出来事があった。

 

1つは吉報。

もう1つは……トラブルの種?というべきか。

 

吉報の方は……今日をもって、欧州各国が各種条約の締結や戦後処理の全てを終え、『魔女戦役』と呼ばれた世界大戦が完全に終了した、と、EUが発表した。

 

もう、戦場ではミサイルどころか鉛玉の1発も飛ばなくなってから久しいわけだし、ぶっちゃけ今更……って感じがしなくもないが、明確な『区切り』というのは、まあ、必要なわけである。

気分的にも一味二味違うんだろう、民衆はその知らせに喜び、安堵したりしているようだし。

 

無論、ここに至るまでに締結された条約の中には……戦犯国家たるゲールに厳しい内容のものも少なくないけど、そもそもそれは必要なことだろうし、『魔法』関連の技術提供で随分と棒引きにしてもらっているので、特に文句を言うようなことはない。

 

……戦犯、というか、わかりやすいスケープゴートとして、戦時中からバカやっていた官僚連中や、皇帝の側近やそれに近い連中、高級軍人なんかをあらかた処分してるから、割と諸国からゲールへの怒りや恨みも鎮火済みだし。皇帝は自殺して死んでたけどね。

 

最後の瞬間まで、わけのわからないことをわめき散らし、自分たちの非を認めようとしなかったり、みっともなく責任の擦り付け合いをしたり、命乞いをしている連中の姿は、各国の首脳や、それを見ている民衆の溜飲を下げるのにピッタリの道化だった。

 

酷いことを言っているように聞こえるかもしれないが、現状・現実を見ずに、民衆や軍に不要な損害を敷いてきた連中である。実際、僕も何度もその『被害』にあった身として、奴らが背負う罪の大きさは肌で感じて知っている……このくらいは言ってもばちは当たるまい。

 

……なお、こんな感じで戦争の後処理は終わったわけだけども……ここにおいて、アトランタ合衆国は、一切関与していない。いい意味でも、悪い意味でも。

 

国家として本格介入してくる前に全てを終わらせることができたので、利権を主張してくることも、賠償請求すら一切させずに全ての終戦処理を終えることができた。

 

『臨界爆発』の一件も……アレ自体を幸事と言うことはできないけど、結果としてアトランタの発言権にとどめをさす形になったので、まあいいとして……それに加えて、あの国にはちょっと、あの一件の際に、1つ仕込みを入れてある。

 

『尸魂の玉』を使って、魔法陣の設計図をちょいと書き換え……南北アトランタ大陸のレイラインに細工した。

 

具体的に、かつ簡単に言うと……あのあたりで魔力が流動した際、その一部をピンハネするような感じで、欧州に流れてくるようにした。アトランタで100の魔力を使ったとすると、そのままレイラインに還るのは70、残り30は別な流れに乗り、海を渡って欧州に来る……という感じ。

 

現在、アトランタには『錬金術』の情報は、秘匿どころか供与・貸与すら行われていないが、今後全くそれを行わない、っていうのは不可能だろう。色々な理由で、数年後、あるいは数十年後には、アトランタでも『錬金術』が使えるようになるはずだ。

 

しかしそうなった時には、アトランタ大陸の資源としての魔力量……レイラインの規模は、欧州の数分の一、あるいは数十分の一か。

 

向こう2、3世紀はこっちに対して強く出れまい。ざまーみろ。

 

ちなみにこのことを知っているのは僕以外にはいない。墓場まで持ってく。

 

さて、吉報はこのくらいにして……もう1つの出来事、トラブルの種?の方も話すか。

 

……まあ、うすうす予想してはいた、というか、こうなってしかるべきだと思ってもいることなんだけどね……自画自賛だけど、僕の能力的に。

戦争が終われば、まあ……普通に行われるであろう、政治的な駆け引きの1つだと。

 

いろんな国からね……政略結婚の話が来ている。

僕に……だけではない。イゼッタに、マリー、ゾフィーと言った『魔女』組。その周囲で辣腕を振るう、アレスやニコラなんかにも……というか、『EMAAO』の幹部クラスには、軒並み空前のモテ期が来ているようで。

 

特に、『魔女の力』を持っているメンバーへのお見合い攻勢は……時に仕事よりよっぽど疲れるレベルだ。

 

……あと、中には……ちょっと見た時に目を疑うような内容のもあったりする。

いや、本人……というか、提案してきた連中は至って真面目なんだろうけどさ……提案されたこっちは、そりゃまあ……驚くというか。

 

僕とイゼッタとか、僕とゾフィーとか、平気で『ぜひ!』って言ってくるもんな。

 

……時期が時期、立場が立場だけにそういうのもままあることだ……ってのはわかる。貴族や王族なんかは、国策の1つの手段として『結婚』というものを見ているものだし。

 

……でもさぁ……できれば、恋愛から始めて結婚まで行きたい、って思うじゃん?

少なくとも、僕は思う。

 

……さすがに、ゾフィーは……公開されてないから仕方ないとはいえ、関係上は『母親』だし……むしろゾフィーが、僕の将来の相手とかに口出してきそうだし。

 

ぶっちゃけ、僕は今まで……イゼッタやフィーネのことを、そういう目で見たことはなかった。

というか、戦争やってて、敵同士で、そんな禁じられた恋愛みたいなの……無理だろ、現実には。彼女達が魅力的でないとか、そんな問題じゃなくて……余裕ないって意味でね?

 

ただまあ……平和になって、あらためて見てみると……うん、結構レベル高い美少女だとは思う。2人とも、ルックスはもちろん……内面も。誠実で、優しくて、一生懸命で。噂では、政略結婚とか関係なしにでも、かなり人気高くて、たびたび各方面からアプローチもらってるっぽいし。

 

……実際僕も、まあ……過去の関係上、どうしても『姉』って部分が強いとはいえ、1人の女の子として意識しないか、って言えば……うん。正直、うん。

 

しかし、これもあくまで……恋慕というよりは親愛に近い情だと思うし、ここから恋慕、ないし恋愛に発展するかって言われると……正直、わからん。

 

……逆に言えば、その可能性もある、っていう意味ではあるけど。

もうずいぶん前だけど……たとえばイゼッタなら、あの、川下りの一件とか、共同戦線の時とか……色々意識しちゃった部分もあるから。

 

……ま、何にせよ……これからのことなんてわからない。

わからないからこそ、今は……今、できることを精一杯やりつつ、いざ直面したときに、その問題に対処していけばいいや。それが一番だ。それしかない、多分。

 

とにかく、今の段階だと……提案するだけならタダだとばかりに色々な縁談が持ち込まれてるから……まずはそれを整理するところから始めないと、何とも言えないしね。

 

……まあでも、同じ『見通しが立たない』でも……戦争中に使っていた言い回しとは、ずいぶん意味合いが違う。全然、未来を悲観的に思わない分……好意的に受け取れる。

 

むしろ、楽しみに思うことにしよう。この先の世界……僕は、僕たちは、どのようにして、どんな未来を作っていくことができるのか。

 

……これ以上は未来のことだな。過去を記す日記の領分じゃない。鬼が笑うってもんだ。

 

今日は……今は、ここまで。また、いつかの『未来』が『過去』になった時に……ペンを取って、この続きを書かせてもらうとしよう。

 

さて……じゃ、そのためにも……仕事だ、仕事。

 

 

 

 




ご愛読ありがとうございました!

ジャスト2ヶ月……まあ、偶然ですが。
なんか尻すぼみな、落ちの弱い感じでの終わり方ですが……

今後、時間があれば、あと思いつけば、後日談とかも書いていきたいなと思います。
……ひとくぎりなので、しばらくゆっくりしたいですが。

自分の作品は、常に書きたいようにだけ書いてるものなので、なんか……あっちへこっちへ、だいぶ迷走した作品だったなあ、という印象はありますね……クロスオーバーとか、しっちゃかめっちゃかに入れたし……

感想などいただければ嬉しいです。

それでは、これにて。
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