終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.7 ベアル攻防戦

 

 

 

 

「状況はどうなっている!? 帝国の援軍が現れたと聞いたが……」

 

「し、将軍……し、しばしお待ちを、今、確認中で……」

 

「じ、情報入りました! 敵増援……総数、大隊規模! 戦域座標23-5-34に展開中。構成は、歩兵と……ほ、砲兵を主軸! しかも、これは……」

 

「バカな、足の遅い砲兵を……しかも場所が山の中ではないか! いつの間にそんなところに……どこから現れた!? 一体どこに隠れていたというのだ!?」

 

「落ち着いてください、将軍……それで、その増援部隊の動きは? ……それと、何か言いかけなかったか?」

 

突如として現れた、帝国の援軍んと思しき部隊。

混乱の只中にある、エイルシュタット軍の司令部にて、焦るあまり声を荒げるシュナイダー将軍と、それをいさめるジークハルト・ミュラー補佐官。

 

このイレギュラーに、彼らは――動けているのは正確には補佐官1人にも見えるが――情報をまとめ、戦線の立て直しを図っていたが……

 

「は、はい……現在、当該地点にて展開し、攻撃目標は……義勇軍部隊の模様で。少数の先行部隊による射撃隊列を敷いていますが。魔女様のお力により阻止いただいております!」

 

「……まさか」

 

―――ドォン! ドォン、ドォン!

 

突如響いた爆音に、何事かとその場にいた者達が外に出ると……

 

「あ、あれは……砲兵による砲撃では!? しかもあそこは「将軍!!」」

 

焦るあまり……うっかり口を滑らせそうになったシュナイダー将軍を、すんでのところでミュラー補佐官がとどめた。

 

あのまま放っておけば、次の瞬間には、『近衛たちがいる山では!?』などと口走っていたかもしれない……近衛による、魔女の力を装った狙撃のトリックは、重要機密であるにも関わらず。

 

この、有能だが口の軽くうかつな部分がある将軍に辟易しつつも……ミュラー補佐官は、今将軍も口にしそうになっていた懸念を頭に浮かべ……しかし、すぐに否定する。

 

(……いや、あの位置ならば近衛たちに被害はない……だが……)

 

その直後、同じような砲撃が、いくつもの山々に……それも、かなり上の方に向けて放たれ、着弾するのを……その場にいた全員が見ていた。

帝国軍の意図が分からず、ほとんどの者がその顔に困惑を浮かべる中……

 

(砲兵の配置、あの射撃位置、そしてあの小隊の意味は…………やられたな。どうやら、援軍の指揮官は余程の切れ者らしい……)

 

ただ1人が、その意味を悟っていた。

 

 

 

 

――時は少し、さかのぼる。

 

 

1940年5月20日 テオ視点

 

ルートヴィヒ中将は、罷免を目前にしての最後のあがきというか……本人にしてみれば、乾坤一擲の攻勢のつもりだったようだけど、どうにかエイルシュタットを攻略すべく、ベアル峠から全軍を動員しての一斉攻撃を仕掛ける計画に出たようだった。

 

ある程度以上、帝国の内情に通じている者なら、今回のコレもただの悪あがきにしか感じないところだろうけど(実際そうだし)

 

けど、偶然ながら……対『魔女』戦略で見た場合、ホントにただの偶然だけど、妙手足りうる結果となっているようで。

 

今日、こっそり明日以降の決戦の予定場所に忍び込んで、『計測器』を使ってみた。

その結果……このベアル峠は、レイラインが通っていない……つまりは、魔法が使えない場所であるとわかった。マリーを一緒に連れてきて確認したから、間違いない。

 

となると、ここではイゼッタちゃんの力は使えないわけで。

さて、どうやってしのぐつもりなのか……って、それもすぐわかったけども。

 

見張りは立ててたけど、注意力散漫だね、落第。ニコラがすぐに調べて報告してくれた。

この山には、あちこちに昔使われていた鉱道が通っていて……そして今、そこにたっぷりと爆薬が仕掛けられていると。見たところまだ途中のようだけど、それだけわかれば十分。

 

鉱道戦術。昔からある、手間はかかるし危険も大きいけど……うまくやれば絶大な効果を見込める戦術だ。敵を足元から吹きとばす……単純だけど凶悪なそれ。

テルミドールの戦線を食い破る時にも、レルゲン中佐が使ってたな。

 

今回はこれを利用して……山でも崩すってか? そしてそれを、魔女の力に見せかけて……こっちに対して、『レイライン』という弱点を悟らせないようにする、と。

 

……すでにそのことを知っている僕からすれば、滑稽なもんだけど……まあ、効果的だろうな。

 

さて、そうなると……だ。うまくエイルシュタット陣営の作戦がハマった場合、こっちの被害は壊滅に等しいものになる、か……。山道という、行軍に決して適しているとは言えない場所である以上、展開する場所なんて簡単に予測されちゃうだろうし。

 

それはあんまりよろしくないな。

別にゲールをかばうとか守るわけじゃないが、僕らの目的のためには、少なくとも当分の間、ゲールに滅びられては困るわけだし。

 

……悪いけど、介入させてもらおう。

 

 

 

1940年5月23日

 

人形を使った飛行演出の特撮、狙撃によるゲール軍の銃撃の無効化、山を崩す魔法……という名の鉱道戦術による敵兵の掃滅。

どれも単純なれどよく考えられた作戦だし、これなら、敵味方共にごまかすのは十分だっただろう……僕ら以外は。

 

そして……とどめに、隣国テルミドール・リヴォニアから招き入れた義勇軍をけしかけて息の根を止める、か。ちと強引だけど、隣国に活躍の場を与え、恩の売り買いまでできるわけだ。

 

しかし残念……そうは問屋が卸さない。

 

まず、夜の闇に紛れて進軍させ、山の中に隠しておいた僕の直轄部隊を展開させる。

 

どこに隠してたかって? 連中も使ってた鉱道の中だよ。

 

一口に鉱道と言っても、その全部が鉱道戦術に使えるわけじゃない……つかそもそも、本物の鉱道じゃなくて、それっぽく掘ったトンネルを使うのがそれであって……まあいいや。

 

要するに、中にはそれに適さないものもあるってこと。爆破してもあまり大きな範囲を崩すことができなかったり、逆に崩しちゃいけないところまで崩れちゃったりする場合もある。

 

そもそも、山全部の鉱道に爆薬を仕掛けるなんてことはできるわけないんだから……より戦術に適したところを選ぶはず。となれば……逆に考えて、爆破しないであろう鉱道を選んで、兵隊の潜伏先にできる。ちと狭かったが、何とかなった。

 

そして、機を見計らって展開させた、ってわけだ。

 

霧が出てたのは、トリックを使ってるエイルシュタット側には運がよかっただろうけど……こっちにも好都合だった。気づかれないように少しずつ部隊を動かして、所定の位置に展開させるには、もってこいのロケーションと言える。

 

次に、さっきまでの軍同様、イゼッタちゃんを狙って小隊単位での狙撃兵を出し、撃たせる。

しかしコレは当てるつもりはない。ただの威嚇射撃みたいなもんだ……本当の狙いは、これを妨害させることにある。

 

これと同じようなのをいくつか展開して、違う地点から射撃を行わせた。そして、どの隊が狙撃・妨害されたか、どの方向から弾丸が飛んできたかで、ある程度の狙撃位置を割り出した。

銃の弾かれた方向はもちろん……僕は人より動体視力がいいので、大体わかる。

 

しかし、まだ何か所か候補があったので、その山の上部に砲撃を叩き込み、崩落が起こりかねない状況を作り出して、どこかにいたであろう狙撃手を退避させた。

 

あと、残るは……こっちに迫りくる義勇軍の連中への対処だ。

これもまあ……決まったようなもんだけども。

 

僕らが展開しているのは、事前に調査して崩落も、それに巻き込まれる危険もない場所。

それでいて、崩落後に最も進みやすいであろう道を……そこを通ってくる軍隊を、半包囲できる位置取りだ。エイルシュタット軍じゃなく、義勇軍が来たわけだけど。

 

狙撃にのみ警戒が必要だったが……これで後顧の憂いもなくなった。

 

後は……弾着観測を行いながら、ゲール軍の敗残兵を追っかけて突出してきた連中を半包囲、砲撃で叩くだけ。日本原産の戦闘民族・鬼島津(偏見)が誇る『釣り野伏』もどきである。

偽装撤退じゃなくて、あの人らホントに逃げてるだけだけどね。

 

さて……急ごしらえじゃここまでが限界だったけど……上出来だろう。兵の何割かは持って帰れたし、今後の作戦行動にも……ま、多少の遅れは出るだろうが、問題ない。

 

今回の戦、痛み分け……ってとこかな?

 

 

 

――追記――

 

……どうでもいいことだけど……作戦の最中、一か所だけ吹き出しそうになった。

 

偽魔法の演技の時、イゼッタちゃん、めっちゃ堂々と演技してて、大したもんだと思ってた。銃を実際に向けられてるわけなのに、よく恐れもせずにいられるなって。

 

いくら、味方が狙撃して妨害してくれるのがわかっていても、だ。

 

……その狙撃手もいい腕してたな、一撃で確実に……大したもんだ。

特殊部隊……いや、もしかすると大公家譜代の近衛あたりか?

 

それはいいんだけど……その直後に、ね……ちょっとね。

 

 

 

……まさか、呪文を詠唱するとは思ってなかったもの。

 

 

 

魔女の鉄槌、はまだしも……ノームて……大地の精霊て……

僕のゲーム脳にドカンと反応してしまいましたよ……。

 

いや、山崩しなんだからそりゃまあ大地の精霊様かもしれないけどさ……あの呪文考えた人、結構なセンスだな……。誰だろ。一度話してみたいもんだ。

 

 

☆☆☆

 

 

ゲール軍を追い返し、見事、祖国の防衛に成功したことにより……小国エイルシュタットには、またつかの間の平穏が戻ってきていた。

 

『魔女の力』を目の当たりにした兵士たちは、口々にそれをほめたたえ、誇り……帝国に対して『いつでも来てみろってんだ』などと強気になる者もいた。

 

……それとは対照的に、その『魔女』本人……イゼッタを含め、エイルシュタットの中枢部の者達がそろっている、王宮の会議室では……決して、明るいとは言えない空気が漂っていた。

悲壮というほどではないが、その緊張感は……まるで、戦の前のようだ。戦が、まさに終わったところだというのに。

 

「……以上が、今回の作戦の全容になります」

 

指示棒を手に、壁に貼り付けられた図面を使って、今日行われた作戦について、後付けではあるが説明を行うのは、ジークハルト・ミュラー主席補佐官。

 

それを聞いていたのは……大公・フィーネに、将軍シュナイダーや、近衛隊長のビアンカ、そして……『魔女』本人たるイゼッタである。

 

近衛による狙撃、旧ローマ時代の岩塩坑――テオは『鉱山』だと勘違いしていたが――を利用した爆発演出。そして、イゼッタ本人の希望による、彼女本人が敵兵の前に立つ演出。

 

いくらか気になること、言いたいことはありそうだったが……実際に効果のある作戦であり、事実、帝国軍を追い返すことができたため、皆、口をつぐんでいるのだ。

 

その沈黙を破ったのは……他でもない、イゼッタだった。

 

「あの……ジークさん?」

 

「……? 何かな、イゼッタ君?」

 

「その……今回の作戦って、成功なんでしょうか? その……帝国軍は確かに帰っていきましたけど、最後の方……よくわからない、援軍? が来てましたし……」

 

「それについては、私も気になっていた。撤退の指揮で手いっぱいだったが……ジーク補佐官?」

 

ビアンカからも同様に問いかけられ、その場にいる全員の興味の視線が集中する。ジーク補佐官はその問いに……傍らに置いていた何かの機材を机の上に出し、説明を再開する。

 

「今回確認された敵の援軍……正確には伏兵と言った方がいい部隊のようですが……詳細は不明です。ただ、強いて言うなら……非常に危険な相手かと」

 

「危険……とは? 具体的にはどういうことなのだ?」

 

将軍の問いに、補佐官は機材をいじりながら、

 

「あの伏兵たちは、配備はもちろん、戦闘開始後に展開を始めたと思われますが……あのわずかな時間で、こちらの展開範囲や規模に対して、極めて有効な陣形を敷いていました。加えて……」

 

そこまで言って、補佐官は言葉を切り……今までいじっていた機材のスイッチを入れた。

それは録音設備だったようで……なにごとか、話し声が聞こえてくる。

 

 

『繰り返す……こちらは帝国軍参謀本部所属、第7特務大隊隊長、ペンドラゴン少佐である。現刻をもって、本戦線の前線指揮官を継承した。援軍と連携し、速やかな撤退戦および、突出してきた敵軍伏兵の迎撃並びに包囲撃滅を指揮する。各位、死にたくなければ指示通りに動け』

 

『砲兵隊、および射撃小隊第一~第四、所定の位置へ展開完了しました』

 

『よろしい。第一部隊、指定した地点を順番に砲撃。その後後退せよ。第二から第四、観測射による面制圧を開始。突出してきた愚か者どもを撃て。残りは後退中の部隊の支援に当たれ』

 

『了解、各隊に伝えます』

 

『後退中の本隊は負傷者を後方に下げつつ、残りの兵員は殿軍を務めよ。各隊歩兵との連携により撃ち漏らしを狩れ。ただし、砲兵隊の邪魔になるから前には出るな』

 

『了解』

 

 

「……迅速な指揮ですね。戦況を即座に把握して、最適な位置取りに展開を……確かに、これが帝国の指揮官の手腕ゆえのものならば……相当な難敵かと」

 

「確かにそうだが……問題はこの後だ」

 

「この後……?」

 

不思議そうに聞き返すビアンカ。その他の面々も同様の表情をしていたが……次の瞬間、その意味を理解する。

 

それは……義勇軍が早くも崩壊を始めたところでのセリフ。

 

 

『各隊、掃討戦へ移行せよ。まだ崩せそうな山がいくつかあるのに、ここまでやって『魔女の鉄槌』とやらがないところを見ると……大地の精霊とやらがへそを曲げてしまったのかは知らんが、かの魔女殿の力も万能ではないらしい。好機である、全軍、前進せよ』

 

 

「「「―――っ!?」」」

 

全員の背筋に寒いものが走る。

悟ったからだ。まだ全てではないとはいえ……この作戦で隠そうとした、魔女の力の『弱点』……そのごく一部ではあるが、見破られた、と。

 

「……凶報を重ねてしまい、申し訳ありませんが……先の通信で言っていた、砲撃によって攻撃した地点……これについても、もしかすると……」

 

「……そうか! 私たち近衛は、あの時……山の上部に砲撃が着弾したことで、落石を警戒して撤収せざるを得なかった……まさか、それも?」

 

「可能性としてではありますが……前に出てきた、イゼッタ君を狙った銃撃部隊の反応から推測された可能性もあります。私の目算が正しければ……砲撃された山はすべて、イゼッタ君の掩護のために行う狙撃がしやすい位置取りだった……」

 

「で、では……こちらのトリックが見破られてしまったと!?」

 

「そんな……それでは、この戦の意味が……!」

 

「おそらくそこまでには至っていないでしょう。ですが……先程無線で言っていた通り、こちらの『魔女の力』に何らかの制限があることまでは……かぎつけられたかもしれません。それに加えて……この通信の男、ペンドラゴンという者が……今後も、我が国への侵攻軍に駐留する可能性が高い点もまた、問題かと」

 

「一瞬でこちらのトリックを見破り、対処してくる怪物が相手か……いや待て、ミュラー補佐官、ペンドラゴンという名前、聞き覚えがないか?」

 

「さすが将軍……ご存知でしたか。……こう言えばわかるでしょうか……『ソグンの悪魔』と」

 

「「「!!」」」

 

その言葉に反応したのは、将軍だけではなかった。

具体的には……イゼッタ以外、全員。

 

『ソグンの悪魔』……北方、ノルド王国はソグネフィヨルド軍港で猛威を振るったとされる、帝国軍の英雄にして、敵対国家にとっては悪魔と呼ぶべき存在。

 

詳細が広くは知られていないことから、都市伝説ならぬ戦場伝説の1つとまで言われているが……その奇跡とも呼ぶべき勝利をもぎ取ったとされる『悪魔』が今、母国に牙をむきかけている。

 

それを想像し……これからの戦いが一層厳しくなることを予感した一同は――それこそ、名前を知らなくとも、深刻さを空気から理解したイゼッタも合わせて――喉に小骨が引っかかったような気分のまま、その日の会議を終えることとなった。

 

 

 

 

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