東方Project×ウルトラセブン (小説版)   作:泉シロー(旧柊太)

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時系列としては1話の事件の少し前のエピソードになります。


side story1「異変前夜」

-1-

 

 夜の山道を、何者かが走る音が近づいてくる。

 

 

 「な…何だ?」

 

 

 ここは里の外れの畑。

真夜中、たまたま催して家の外の畑にある厠で用を足していた男は、こちらに近づいてくる足音に気づいた。

 

 

 どうやら人間の足音のようだが……。

 

 

「こんな真夜中に……。よ、妖怪かもしれねぇ」

 

 

 男は傍にあった鍬を持った。

 

 

 カサカサカサカサ……

 

 

 草むらをかき分ける音が、

 更に近づいてくる。

 

 男は手に鍬を持ち、厠の小屋に身を隠す。

 

 

 そして足音がついに草むらから飛び出すーー

 

 

 

「!?」

 

 

 草むらから飛び出してきたソイツの姿は、頭が臀部のように2つに突き出していた。

 禿頭で肌の色が露出している。

 目は彫りが深く、瞳は見えない。

 身体は蓑虫のようなものを全身に覆っているように見える。

 

 

 

 そいつはかつて「宇宙の帝王」を自称していた宇宙人、バド星人である。

 バド星人は手に光線銃を持ち、後方を気にしつつ逃走しているようだ。

 

 

 

 「こんな罠のような場所を用意しやがって!

 小賢しい地球人どもめ!」

 

 バド星人が振り向きざまに、後方に向かって叫ぶ。

 するとバド星人に向かって、蒼白い炎の玉が襲いかかる。

 

(狐火だ!)

 

 

 青年はそれを見て息を飲む。

 慌ててバド星人は前方に逃げ出すが、バド星人に炎の玉の一つが、ついに背中に命中する。

 

 

  「ウギィィ!ギィィィ!」

 

 

 バド星人は悲鳴のような声を上げて倒れ込む。

それを皮切りに、次々とバド星人の体に火の玉が命中する。

 

 するとバド星人の身体は火が付いたように燃え上がり、

 不思議なことに、すぐに炎ごと跡形もなく消滅してしまった。

 

 

 「ふう。これで片付いたか。

 

  宇宙人というのもこんなのばかりなら、そこまで警戒する必要はないのだがな……」

 

 

 すると、独り言を呟きながら、草むらの中からゆっくりと近づいて来る者がいた。

 

 (……九尾の、狐だ!)

 

 

 そこにいたのは、美しい九本の尾を持つ、狐の妖怪の姿があった。

 

 

(噂には聞いていたが…まぁなんとも美しい尾をしているな……。)

 

 男は小屋の影から彼女の尾に見蕩れていると

 

 

 

 

 「……。そこに誰かいるのか?」

 

 

 いつの間にか女狐と目が合っていた。

 

 

 「あ……。」

 

 

 ギロッ

 

 

 女狐は男を鋭い眼光で睨みつける。

 

 それは到底人間のモノとは思えぬ、獣のような眼であった。

 

 

 「う、うわわ……ワァァー!」

 

 

 男は女狐に恐れをなして、一目散に自分の家へと逃げ帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……なんだ、ただの人間か。」

 

 

 九尾の狐、八雲紫の式神である、八雲藍はふっと溜息をつく。

 藍は自らの主である幻想郷の管理者、八雲紫の命令で、様々な仕事を行っている。

 

 

 「藍、ご苦労様。」

 

 

 どこからとも無く声がすると、藍の身体は空間に出来たスキマの中に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 -2-

 

 

 ここは八雲紫の住まう家。

 

 ここは彼女自身の「境界を操る程度の能力」により作り出された空間であり、幻想郷のどこかに存在するが、決して彼女達以外には辿り着くことのできない場所である。

 

 ここでは、その主である八雲紫とその従者である八雲藍が何やら話し合いをしていた。

 

 

 

 「そう、ここを『罠』だと。

 ……やはりこの結界が宇宙人を呼び寄せてしまっているのは間違いないようね。」

 

 

 「何故こんなことが起きているのでしょうか?

 いくら外の世界で宇宙人の存在が忘れられてきているとは言え、何もかも忘れられたものが入ってくるわけではないのに。」

 

 

 藍が尋ねると、紫は少し思案した後、悩ましげな表情で答える。

 

 

 

 「もしかしたら、幻と実体の結界の、外の妖怪を招く作用が誤作動しているのかもしれないわ。

 

 でも、はっきりした理由は分からない。

 

 原因も分からないのに結界を組み直すわけにもいかないし、

 参ったわね……。」

 

 

 紫は一つ大きな溜息をつく。

 しかし、すぐに表情を引き締め直す。

 

 

 

 「それで、現在の宇宙人対策はどうなってるの、藍。」

 

 「はい、まず先程、宇宙の帝王などと自称する、宇宙人を発見しましたが、無事全て駆除しました。

 

 しかし……他の宇宙人に関しては、巧妙に隠れているのか、未だに所在が掴めていないものばかりです。

 ただ、宇宙人の仕業ではないかと思われる噂がいくつかあります。

 

  巨大な植物が森を闊歩しているという噂や、霧の湖で感電死する魚が増えている現象、金色のやたら角張った龍を見た、火の玉から巨人が出たという証言等々……。

 

 しかし、妖怪などが引き起こしたものという可能性もあるので、これらが全て宇宙人が引き起こしたものとは一概には言えません。

 引き続き私の式や仲間を使って捜索を行わせています。

 

 更に人里の人間に化けている可能性もあるとのことですので、今までより里の監視を強化させています。」

 

 

 淡々と藍が報告した。

 

 

 「ご苦労様。私の『境界を操る能力』が通用すればもっと楽なのにね。」

 

 「本当に紫様の能力は宇宙人に通用しないのですか?」

 

 

 藍は怪訝な表情で尋ねる。

 

 

 「ええ……、それに私の能力だけに限らないかもしれない。能力全般が通用しない可能性もあると思うわ。」

 

 

 紫が真剣な表情で答える。

 

 

 「ですが、攻撃は通用しています。」

 

 「そうね、宇宙人はどういった存在なのか、私たちにどのような影響をもたらすのか。それを一つ一つ確かめていく必要があるわね。」

 

 

 

 紫は冷静に締めくくると、遠く彼方を見つめる。

 その方角には、遠く人里や、博麗神社が小さく見えた。

 

 

 

 暫くその方角を見つめていた紫だったが、不意に口を開く。

 

 

 

 「……それにしても、このままじゃ、私たちだけで対策していくのは難しそうね。」

 

 「……霊夢ですか。」

 

 

 「ええ、宇宙人に対抗できるとしたら彼女だけ……他は難しいでしょうね。」

 

 

 

 

 紫の彼方を見る表情が険しくなる。

 

 

 「ただ、彼女が負けるようなことがあればーー

 

 

 

 

 

 「藍様!紫様!」

 

 

 すると猫耳を生やした少女が息せき切って駆け寄ってくる。

 

 

 「橙、どうした!」

 

 

 この少女は八雲藍の式神、橙。化け猫の妖怪である。もっとも藍と同じ式神でも、藍に比べると大分知能や力は劣る。

 

 

 

 「何者かが結界を無理矢理破って侵入してきました!」

 

 「何っ! 橙、そいつの姿は見たのか!」

 

 「からだが赤くて、銀色の兜を被っているようなよく分からん奴です!」

 

 

 

 橙は舌足らずな説明で侵入者の風貌と、その状況を懸命に伝える。

 

 

 

 「まさか!宇宙人か!?

 しかも今度はわざわざ結界を破ってきたとは!」

 

 

 「藍、私は先回りして様子を見に行くわ。」

 

 

 紫は険しい表情でスキマの中に消えて行く。

 

 

 「橙!今すぐそいつのところまで案内しろ!」

 

 「はい!」

 

 

 

 

 

 今後の幻想郷を大きく左右する、

 彼と彼女らの出会いが、唐突に始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




 今回も読んでいただきありがとうございます。

 今話は数話先の話のネタや先のフラグをそこそこ盛り込んでいます。
動画版のほうを見ていない方には理解不能な点も多々あると思います。
それでもこういう後々繋がる話を早々に出してしまうのもアリかなと思い、
この段階で公開しました。

 気になる方は動画版を見ていただけると幸いです。

 今後の小説版は動画版の脚本をそのまま載せるのではなく、違う方向性で書いていきたいと思っています。

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