東方Project×ウルトラセブン (小説版)   作:泉シロー(旧柊太)

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今回、5話制作が既定の期日よりも遅れたため、先に事前に描き終えていたこちらの外伝小説を公開いたします。

ただし、本編の重大なネタバレを含んでおりますので、
「動画で観るまで楽しみにしておきたい!」
という方は本編の投稿を待ち、視聴後に、こちらの小説を読むことをおススメいたします。










今回の小説は、最初から最後まで八雲藍の一人称視点で進みます。



side story4「八雲藍の困惑」

赤い顔に黄色の頭頂部。ぎょろりと突き出た目、

 

白く、先端がささくれて分かれている腕。

 

胸から腹にかけて奇妙に光る体の溝。

 

赤くか細い上半身に青い下半身。

 

 

そんな奴が今、我が主の屋敷で

畳の上に正座し、深々とお辞儀をしている。

 

 

「メトロン星から来たものだ、

私は相棒と一緒 にこの幻想郷の人里で生活させてもらっている。

 

貴女達が私たちの提案を受けてくれたことに、とても感謝している。」

 

 

 

すると宇宙人は、

傍らにあった紙袋を前に差し出す。

 

 

「こちらはつまらないモノだが、受け取って欲しい」

 

 

紙袋の中からは、数本の茶筒が覗いていた。

 

 

「これはこれはご丁寧に、ありがとうございます」

 

 

我が主、八雲紫いつもと変わらぬ笑みを浮かべる。

 

 

その紙袋を私はゆっくりと受け取った。

 

一瞥してから中身を改めたところ、

どうやら本当に茶の筒だけが入っているらしい。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

梅雨が明け、日差しが強く照りつけ始めるようになったある日。

 

 

配下の狐がとある手紙を受け取った。

 

 

差出人はなんと宇宙人と名乗るものからであった。

 

 

これまで何体もの宇宙人と交戦してきたが、

向こうから接触してくるのは初めのことだった。

 

 

文面は以下の通りであった。

 

 

 

『拝啓

 

 

蝉の声が一層騒がしくなりました今日この頃、突然のお手紙に驚かれた事と思います。

 

 

初めまして、私、メトロン星という遠い星から参った者でございます。

 

 

先日、こちらの幻想郷に参りまして、緑映える山々に田園と多くの動植物に妖怪といった、多様な生物達に驚かされるばかりでした。

 

 

さて、私共こちらに参り、人里での生活にも大分馴染んで参りました。

 

 

そして、こちら幻想郷の領主とも言える妖怪の方々にご挨拶を済ませていないことに気が付きました。

 

 

そこで、こちらの幻想郷の領主である妖怪の方々と親睦を深めたいと存じます。

 

 

厚かましいお願いでございますが、私共を妖怪の方々のお宅にご招待いただけないでしょうか。

 

 

こちら人里では妖怪の出入りが禁じられているとお聞きしました。

 

 

そのため、私共の拠点としている里に妖怪の方々を招くことが残念ながら出来ないということを知りました。

 

 

この幻想郷でお世話になっている私共が妖怪の方々をおもてなしできないのは痛恨の極みでございます。

 

 

しかし、私共は是非とも妖怪の皆様と親睦を深めたいと存じます。

 

 

何卒よろしくお願いいたします。

 

 

敬具

 

 

お返事は下記の里の私書箱までお願いします。

 

 

○×屋 私書箱 捨七番

 

 

 

 

 

 

宇宙人とは思えない文面であった。文もきちんとした字体で書かれており、その高い知性を思わせる手紙であった。

 

 

この手紙は、里の外れにある稲荷の像の前に供えられていたものだった。私の配下の狐の1匹がそれを発見した。

 

 

発見時、ご丁寧に、手紙と一緒に油揚げが数枚のせてあったらしい。

その油揚げは紛失し、この手紙が私の下に届けられた。

 

 

……もう少し口に入れる前に思うことはないのだろうか。

 

 

私はその手紙を一見し、すぐに主である八雲紫に見せた。

 

 

主は真剣な表情で手紙を見ていた。

 

 

 

その後の調べによると、

他の妖怪諸勢力にもこのような手紙を送ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このことは、大変由々しき事態である。

 

 

 

手紙にはこの宇宙人が里に住んでいると書かれている。

 

 

妖怪をはじめとした人外が人里に住み着くことは幻想郷のルールに明確に反する。

 

 

寺子屋の半人半獣や、座敷童子の連中など昔から里に居着いているものは例外で認められてはいる。

 

しかし、里で妖怪が人間を襲ったり、悪巧みをしたとなれば、博麗の巫女などに退治されるのがお決まりである。

 

 

妖怪の本分は人間に恐れを抱かせることにある。諸勢力はあの手この手でバレないように人間の里にこっそり忍び込み、虎視眈々と人間への影響力を高めるべく、暗躍している。

 

 

 

そんな中、ぽっと出の宇宙人が里に居座っているなどと堂々と宣言することは、我々妖怪への挑発ともとれる行動である。

 

 

この手紙が妖怪の諸勢力に渡ったということは、大きな火種となりかねない。

 

 

加えて、他の妖怪勢力が宇宙人騒動に介入して欲しくないというこちらの思惑もある。

 

 

宇宙人に対抗するのは、私達と

博麗霊夢、モロボシ・ダンのみで良い。

 

 

他の妖怪に介入され、事態をややこしくすることは避けたいのが本音である。

 

 

紫様はすぐにこの手紙の返事を認め、

手紙の主を招き、その真意を探ることに決めた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「粗茶ですが、どうぞ」

 

 

私は盆の上から宇宙人の前に茶の入った湯飲みを差し出す。

 

 

「これはこれは、どうも」

 

 

宇宙人はハサミのような手で器用に湯呑みを持ち上げ、フーフーと冷ましながら茶を飲む。

 

 

「ふふ、地球の茶は気持ちが落ち着きますなぁ」

 

 

この宇宙人、茶を飲む一連の動作といい、相当地球の生活に慣れているようだ。

 

 

「それで……。貴方には、大事なご用がおありなんじゃありませんか?」

 

 

紫様が普段の軽い調子で本題に切り込む。

 

 

 

 

 

「いや、そんな大層な用事ってわけでもないんだ。

 

 

ちょっと雑談がてら、この幻想郷について話し合いたいと思ってね」

 

 

宇宙人は軽い調子で話を始める。

 

 

 

「この幻想郷は、実に素晴らしい。

 

 

私が思うに外の世界とは違い、

この世界が素晴らしい点が二つある。

 

 

一つは、この美しい環境。

 

 

日本というクニの原風景。

 

 

宇宙広しといえど、

これだけ開発や汚染されていない

森や山を見るのは初めてだ。

 

 

外と完全に隔離されているおかげだろう。

 

 

そして、これを実現しているのが

もう一つの素晴らしい点。

 

 

 

妖怪が人間を支配していることだ。

 

 

 

 

この世界は外と違い、妖怪が支配を握っている。

 

 

人間は自分たちが地球の種族の中で一番の頭脳を持っていることを鼻にかけすぎている。

 

 

せっかくの貴重な森や山を開発し、川や海、大気を汚す。

 

他の種族のことなど気にもしない。

 

 

 

その点、君らは分をわきまえている。

 

 

人間より君たち妖怪のほうが支配者として相応しい」

 

 

 

ゆっくりと背筋を撫でられたような、

気色の悪い感覚だ。

 

 

コイツなんかに褒められても全然嬉しくない。

 

 

人間のことに関しては共感するところがないでもないが。

 

 

そもそも、幻想郷で妖怪が人間を支配しているというのは語弊がある。

 

 

妖怪と言えど、一口に言えるものでもない。

 

 

 

しかし、紫様はそんな宇宙人の幻想郷観について口出しはせず、じっと彼の話に耳を傾けている。

 

 

宇宙人は茶を一口飲み、

喉を潤してから話を続ける。

 

 

 

「ただし、不満もあってね。

 

もっと人間をきちんと管理すべきじゃないかな。

 

 

例えば外の世界の人間は動物園とかいうモノを作って他の動物を飼っている。

 

 

ここの人間も檻の中に入れてきちんと管理したほうがいいんじゃないか?

 

 

こんな杜撰な管理方法では、いずれここの人間も、外の世界のように

 

自分たちの都合のいい場所に作り変えてしまうかもしれない。

 

 

僕たちはそれを防ぐための、ちょっとしたお手伝いをしようとしたまでさ」

 

 

 

 

この宇宙人、相当人間のやっていることが気に食わないらしい。

 

 

しかし、人間を檻の中に閉じ込めるなど、随分乱暴な考えだ。

 

 

やはり、こんな奴をいつまでも里に居座らせる訳にはいかない。

 

 

 

 

我が主は、いつもの笑みを浮かべながら、

少し間を置いてこう続けた。

 

 

「貴方は幻想郷について、大きな勘違いをなさっています。

 

 

そんな環境では、私達にとって意味がないのです。

 

 

あくまで現況が、今の幻想郷にとって最良の状態なのです」

 

 

紫様は淡々と諭すように話をする。

 

 

すると宇宙人は惚けたように首を傾げる。

 

 

「ふうん……。

 

そういうものなのかね」

 

 

 

ここで引き下がるような奴はこんな所にやって来ないだろう。

 

 

問題は何を要求してくるかだ。

 

 

 

宇宙人は変わらぬ調子で尚も続ける。

 

 

 

 

「しかし、私たちは方針を変えるつもりがないんだ。

 

 

そこで、この幻想郷らしい決闘方法で、

私たちのことを認めてもらおうと思っているんだ。」

 

 

 

 

 

 

そこでピタリと空気が張り詰める。

 

 

 

 

 

 

幻想郷らしい決着方法。

 

 

 

 

 

思い当たる節は一つしかない。

 

まさかそんなことも知っているとは……。

 

 

珍しく紫様も少し面食らった様子である。

 

 

 

 

「それは、もしや……弾幕ごっこのことを仰っているのですか?」

 

 

 

 

 

紫様は少し戸惑いつつ当て推量をする。

 

 

「そう、それだ。」

 

 

宇宙人はわざとらしくささくれた腕を差し出す。

 

 

「その弾幕ごっこをこの幻想郷の代表者として、決着をつけようと思う。

 

 

貴女たちにはその勝負の相手をするか、立会人になっていただきたい。」

 

 

 

 

 

急な提案だ。

 

 

これが妖怪相手なら日常茶飯事だ。しかし、今回は得体の知れぬ宇宙人が相手である。

 

 

 

 

 

「どうだろうか?」

 

 

宇宙人の申し出に、

紫様は少しの間手を顎に乗せて逡巡する。

 

 

 

 

 

しばらくして、紫様は顔を上げた。

 

 

「わかりました。

 

 

その勝負、受けさせていただきます。」

 

 

紫様はご決断なされた。

 

 

となると相手はやはり……

 

 

 

 

 

 

「また、勝負の相手は、博麗の巫女、

 

博麗霊夢と戦うのが宜しいでしょう」

 

 

「ほう、そうか。」

 

 

宇宙人はそれが誰なのか見当がついているような反応を返した。

 

 

コイツは博麗の巫女のことも頭に入っているようだ。

 

 

 

「いずれ霊夢は、必ず貴方の所に現れます。

 

その時に勝負の申し入れをすれば、彼女は受けるでしょう。

 

 

ただし、一つだけ条件があります。

 

 

この幻想郷の人里に人間以外の者が住むのは

 

禁忌とされています。

 

 

もし、貴方が負けた場合、人里から出ていくことをお約束下さい。

 

 

そうすれば、

 

私も勝負の立会人になることをお約束いたします。」

 

 

「そうか。分かった。その条件でいいだろう。

 

ありがとう。それでは、お暇させていただこう。

 

お茶も美味しかったよ。」

 

 

 

 

-----

 

 

 

宇宙人は、配下の狐に連れられ帰路についた。

 

 

私は、今度の対談で浮かんだ疑問を素直に紫様にぶつけた。

 

 

 

「紫様、あんな勝負お受けしてよろしいのですか」

 

 

すると紫様は厳しい目付きで答える。

 

 

「相手が弾幕ごっこに乗るとしたら、私たちがその勝負を止めることはできないわ。

 

 

こうして立会人として勝負を見守り、

 

公平な勝負を担保するのが関の山ね。

 

 

弾幕ごっこは"正当な"幻想郷の決闘方法なのだから」

 

 

「しかし……」

 

 

「あら、藍。貴女は霊夢が負けると思ってるの?」

 

 

「万に一つということもあります。

 

 

それに、相手は宇宙人です。何をしてくるか……」

 

 

紫様はいつの間にか取り出した扇子をはためかせる。

 

 

「相手も明確なルール違反はしてこないでしょう。それでは弾幕ごっこをする意味がない。

 

 

それに、ここで負けるようなら、博麗霊夢は『その程度だった』ということでしょうね。」

 

 

 

それを聞いて私ははっと驚いた。

 

 

紫様の言葉の端々にはある種の残忍さが感じられたのだ。

 

 

私は忘れていた。

 

 

このお方は、いざとなればあの博麗霊夢でも容赦はしないのだ、と。

 

 

「もしそうなった時は……。

 

その時はその時ね」

 

 

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