#4
テスラとの生活が始まって一年が経過した。
現在のテスラは一応ウチの養子になっている、夏に入った頃に屋根裏が暑苦しいと言う抗議を受けたので、両親にテスラの存在を刷り込む気だったんだけど、印象操作するまでも無く口先だけで両親を言いくるめるだけで充分だった。
詐欺師のカモにしかならない両親への悲しみに暫く落ち込みはしたけれど、今は元気です(白目
そして最近になって僕の胃袋にダイレクトアタックを仕掛ける事態が一つ。
今魔法関係者を騒がせているCAD職人の名前なんだけど、彼の作る特化型CADはデザイン・性能・耐久性・整備性、
彼個人の特徴のある構造に目を瞑れば文句の付けようの無い完璧な性能の代物を作り上げる事から密かに人気が上がり始めた人物だ。
マーロンの特徴と言うのはCADは起動式をインストールするカートリッジを銃弾の形に変え、それをリロードする事で魔法の種類に縛られず実質無制限に魔法を行使できる事だ。
一発につき一つと言う括りはあるものの、 系統の組み合わせが限定される特化型の難点を解消したこの新しいカートリッジシステムだけど、コレにも欠点が存在する。
まず、この形を作る為にCADであるにも関わらず弾切れやリロードと言った概念が存在してしまうと言う事、使用された銃弾は消費され空薬莢となってしまう事、そして銃弾とCADは対になって居て他のCADや銃弾では反応しない事、そしてマーロン以外には技術的な意味で製作する事が不可能な事などかなりの曲者だ。
購入者が弾切れにならないように月に一度弾薬が無償で贈られるものの、彼は月初めに一丁だけしか世間へ売り出さない上にフリマサイトに0円スタートと言う『幾らだせる?』と買い手に問いかける儲け度外視のスタイルだ。
マーロンのCADを手に入れた人物曰く、『コレを一度使ってしまったら他の特化型が使えなくなる』と口々に言う為、マーロンへのコンタクトを取ろうとする者が後を絶たない。
しかし彼は連絡先はおろか性別、年齢、人種に至るまで一切が不明、十師族と呼ばれる魔法師の名門って言えば良いのかな? 兎に角その力を持った人達が調べても一切の個人情報が見つからないらしい。
…………正体は僕の背中に凭れながらドーナツ食ってる金髪少女なんだけどね(白目
正体不明? 本名テスラ、性別女性、年齢だいたい二才、人種自立型プラント、材料の出どころすら分からない? 屋根裏部屋に金属の成る木(作テスラ)が生えてるから自給自足だよ、うん万一バレたら即モルモットコースだ(確信
…………僕の家の屋根裏、テスラが作業しやすい様に色々魔改造されたらしい、流石全知全能と言われてるプラントやでぇ(震え声
この一年でマーロンの名は思いの外広まってしまい、かなりの値段でCADが取引される様になり、処理に困った利益をマーロンの名で自然保護団体に全額寄付している、ぶっちゃけ金を引き下ろしたら足が付きそうで使えない金なのでこう言った団体へ寄付するのが一番安全だと思う。
けどその所為でマーロンの名が更に広まり、ますます注目が集まってしまう始末、自作PCに自分を接続して商売してるらしいから絶対にバレないとは言ってたけど、ある程度したら辞めさせた方が良いのかな?
まぁ暇潰しが理由のCAD作りだ、そろそろテスラも僕と同じ学校に通う様になるし、そのうち辞めるかもだし好きにさせとこう。
マーロンの事はこのくらいにして置いてだ、僕は雑念を振り切る様にしながら床に置いていた自分のCADを握り威力を抑えた
圧縮された空気の弾丸は紙風船など容易く喰いちぎり連続して破裂する、しかし狙いは自分の連射速度の訓練だ、ほぼ同時に撃てない時点でまだまだ遅過ぎる。
僕のCADはテスラが僕専用に作り上げた物なので僕の成長に合わせて改修が繰り返されている、そのおかげで腕の延長と言うレベルで手に馴染むのだけど、このCADの性能に僕が追い付いて居ない。
「CADが一級品でも腕がへっぽこじゃ宝の持ち腐れだね」
「もちぐされ……なにがくさるの?」
「んー? CADだよ」
「……熱あるの? CADはくさらないよ?」
「物理的な意味の腐るじゃないから……」
そうそう、一年前とは違いテスラも人間に対しての悪感情がなくなって来た、特に僕に対しては一切の警戒心が無くなっている、と言うか無くなり過ぎて従順になってる。
今も全体重を僕に預けて完全に無防備だ、完全に僕を無害な人間だと認識してるみたい、完全に善人って訳じゃないからその認識はどうかと思うけれど。
部屋を貰ってるのに相変わらず僕の部屋の屋根裏に居るし、寝る時は僕のベッドだ、夜寝てたらいきなり潜り込んで来てかなりビビった。
反射的にCADを向けちゃったからカウンターに尖翼撃たれて首を落とされそうになったから非常に驚いた、後コンマ数秒避けるのが遅れたら人生サヨナラだった(震え声
そんな事を思い出してたら急にテスラが僕の袖を引いた、振り返って見るとドーナツを食べ切ってしまったらしく、上目遣いで催促して来た。
この子、ドーナツ星人になりつつあるんですけど(白目
けど現在僕にドーナツを購入する金銭的余裕は無い、しょっちゅうこの子がドーナツ食べるから僕のお小遣いがそれに消費されてしまう。
僕の財布の中には全財産の2000円が入っている、ドーナツ一つを120円として買えるのは16個ほど、買えなくは無いけれど買った後が当分ドーナツを食べれない。
やんわり断ろうにも凄く期待を込めた目で僕を見つめて来ているので断り辛く、結局僕はテスラの期待の眼差しに負けてドーナツを買いに行く事になってしまった。
…………面倒事に巻き込まれると知らずに。
▽
「おっちゃん、ドーナツ8個下さいな、揚げたての奴」
「おっ、今日は彼女連れじゃ無いのか?」
「あー、今日はお留守番かな、どうにもあの子連れて来るとお金使い過ぎちゃうから」
「ボウズは嬢ちゃんに甘いからなぁ……」
此処はテスラと良く来るドーナツ屋で、この店のおっちゃんは僕らくらいの子供に色々オマケしてくれるし、味も良いので僕ら二人のお気に入りの店だ。
いつも通りの種類を購入し、今回もオマケが付いて来た揚げたてのドーナツ達に舌鼓を打ちながら真っ直ぐ帰って居ると、黒塗りのワンボックス車が銀行の中へと突っ込んで行った。
ハンドル操作を誤ったのかな? にしてはノーブレーキだったし、動きにブレが無かった、って事は確信犯?
その予想は当たっていたらしく、直ぐに銀行内から銃声が響いて来た。
この時の僕は関わり合いになる気が全く無く、そのまま野次馬を遠巻きに見ながら帰ろうとしていた。だって僕はまだ子供だよ? 確かに魔法糸で調べた感じだと相手は6人程度、彼らの身体つきを調べても魔人スペックのこの身体で負けるとは思わない、でも無傷で勝てる自信は無いし、見知らぬ誰かの為に命を賭ける覚悟なんてある訳が無い。
『そう言う事はヴァッシュ見たいなお人好しに頼んでね〜』くらいの気持ちでいた僕の足を止めさせたのは野次馬の漏らした一言だった。
––––おい見ろよ、あの強盗フランク・マーロンのCAD持ってんぞ。
弾かれた様に振り返った僕の目には確かにテスラが作ったCADが映る、手下五人は通常兵装だけどリーダーの男が握っているのは確かに彼女の作品だ。
人混みに紛れる様に野次馬の中へ入り、様子を見ると現金を銀行員に詰め込ませている最中らしく、二人が人質に銃を、一人が銀行員を脅し、残り二人が外を見張り、リーダーは人質にCADを向けて居る。
別に助ける必要は無い、僕以外の誰かがきっと上手く解決するさと思い込んで立ち去ろうとしたけれど、何故か足が動かない。
テスラの作ったCADが誰の手に渡りどう使われようと僕やテスラには関係ない、使う人間の問題の筈だと思っていても、何故か犯罪に使われる事が癇に障った。
気が付けば、僕は無意識にホルスターに入れていたCADを引き抜き入り口から銀行内のATMへ向けてそれなりの威力で
圧縮した空気の弾をATMへと直撃させ、筐体を大きく凹ませる事でその場に居た全員の意識をそちらへと向かわせ、その隙に堂々と連中のブチあけた穴から中へと飛び込んだ。
侵入した瞬間はまだ彼らの視線は潰れたATMに向かっている、僕のCADは
彼らの内人質を取っていた二人が人質を射殺しようとトリガーに力を入れたのが見えたので最優先で引き金を狙い撃ち、二人の人差し指ごとトリガーを破壊する。コレで残り三発。
銀行員を脅していた奴と外を見張っていた二人が此方を振り向く、銃口が僕を狙っている事に僅かながら恐怖を感じたが、自分は魔人だからと無理矢理自信を奮い立たせながら先程指を撃ち抜いた一人の背後に回り込み、彼を蹴り飛ばして盾代わりに使う。
同士討ちしてくれたらなぁ、と言う希望から肉盾を使ったんだけど彼らはギリギリでトリガーから指を離して同士討ちを避けた、その隙に三人の持つ銃の銃口へ空気弾を撃ち込み暴発させる。
空薬莢を排出しながら新たに弾薬を装填した僕は人質を逃がす為に敢えてリーダーの男の前へと出た。
「えーっと、さ。この辺で自首してくれない? 手下の皆さんは武器無くしたし」
「はっ、バカ言ってんじゃねぇよ? オレは魔法師だぜ? 彼奴らにゃ雑用くらいにしか期待してねぇよ」
「見ての通り僕もマーロンのCAD使う魔法師だよ? 早撃ちなら負ける気無いし、割と真面目に自首してくれないかな?」
「口の減らねえ奴だな、まあ良い、ならヒーロー気取りのクソガキにこの俺がレクチャーしてやるよ、大人の戦い方って奴をなッ!!」
そう言って彼は僕の潰したATMを鷲掴みにして投げ付けて来た、口の割には自己強化を施しての単純な力押しかと呆れていた僕はそのATMを伏せる事で回避し、リーダーの男の手元へと照準を合わせる。
「おっと、俺を見てねぇで外見ろよ」
リーダーの男がそう言った瞬間、外の野次馬が悲鳴を上げ、思わず僕もそちらを向いた。
トラック、それもコンビニに停車していたらしい2tトラックがこちらに向かって来ている、よく見てみると斜め下方向に加重魔法が掛けられ、後輪が浮いた状態で加速の付いた移動をして来ているのが分かった。
弾丸と言う性質上カートリッジタイプの物よりも素早く別系統の魔法を使用できるマーロン製のCADの利点を上手く使われたか。
「逃げても良いぜ? ヒーロー気取り、但し其処にへたり込んでるガキは死んじまうがな!!」
そう僕だけならどうにでも出来た、しかし僕とトラックの射線上には逃げ遅れた人質の女の子が居た、魔法で足止めをされたと考えた方が良さそうだ。
咄嗟に女の子の前に飛び出た後、片方の車輪を破裂させて横に逸らそうと試みたけど魔法が使用されているのかタイヤをバーストさせるだけに終わり失敗、練習用の空気弾の起動式しか持って無いのでこれでどうにかするしかない。
同時に僕の両足に加重魔法が掛かり動きが鈍った、避けれないと悟った僕はフロントガラスに空気弾を二発放って粉砕し、ハンドルを掠める様に更に二発の空気弾を撃ち込んでタイヤの向きを強引に変えた。
かなりの賭けだったけど、バーストさせた時とは違いキッチリと曲がってくれた、鼻先をバーストしたタイヤが掠めたので心臓がバクバク言ってる。
「なっ!? たった六発であのトラックを処理したってのか!?」
「いいや、まだ一発残ってる、それもスペシャルなのがね」
そう言って僕は彼が魔法を行使するよりも前にそのこめかみ目掛けて空気弾を発砲、その衝撃で脳震盪を起こさせて失神させ、残りの手下も投降させた後、目立ちたく無いので目撃者全員に印象操作を施してその場から逃げた。
あっ、ドーナツ潰れてる、買い直しか……はぁスローライフはいつになるのかなぁ。
ドーナツは犠牲になったのだ、犠牲の犠牲にな(白目