ある日のことである。
1年生になったばかりのジニーは、日課である日記をつけていた。日記をつける、と言っても通常のそれではない。
ジニーの日記は昔の在校生が魔法使いが残した、自我のある日記なのだ。
この日記に込められている自我──トム・リドルに毎日の相談をするのが、ジニーの日課だった。
「はあい、トム」
「やあジニー」
インクを垂らすと、直ぐに返事をくれる。正に持ち歩ける友達だ。ジニーは顔が綻んだ。
「ねえトム、実は今日はとっておきのお話があるの」
「へえ、嫌にハードルを上げるじゃないか。期待してもいいのかな?」
トム・リドルは、内心笑みを浮かべた。
トム・リドルはただの善良な日記ではないのだ。その実態は闇の帝王の幼い頃の記憶であり、マグル生まれの殺害とハリー・ポッターへの復讐を目的としている。その道具として、ハリーの親友の妹であり、ハリーに恋をしているジニーを選んだのだ。
ジニーのとっておき……トム・リドルはまた一歩、ハリーと仲良くなれたという報告だと予想していた。
「トム、私Mirrortuberになろうと思うの」
「!?」
──Mirrortuberとは、Mirrortubeという両面鏡動画投稿サイトに自作動画を投稿し、その広告収入を得る人達の事である。
大手Mirrortuberともなると事務所と契約を結び、企業の方から商品レビューを頼まれる事も多い。
当然、イギリスにも有名なMirrortuberは数多く存在している。
他国で「百味ビーンズ全部同時に食べてみた!」や「暴れ柳でハイジのブランコを再現した結果www」などの動画が流行する中、イギリスの主流動画はメイクやファッション、レシピ本のレビューなど、オシャレ系がほとんどである。
つまりイギリスのMirrortuberは、面白い事をするテンションの高い人……ではなく、オシャレの先人者という認識なのだ。
ジニーはそれらの動画を見ているうちに、自分もMirrortuberになりたいと思うようになったのである。
「だから学校も辞めるわ。Mirrortuberには必要ないもの」
「ちょ、ちょっと待った! どうして学校を辞めるんだい!?」
「あら、知らないのトム? 学歴なんか重視する今のダメな会社と違って、Mirrortuberは誰でもなれるのよ。だから学校なんか無駄よ。魔法史学なんて、将来の何の役にもたたないわ」
「いやいやいやいや!」
トム・リドルにとってジニーの将来など知った事ではない。利用するだけしたら、最後には死んでもらう予定ですらある。しかし企みが終わるまでは、大事な駒であった。学校を辞められたら困る。故にトム・リドルは、ジニーを止めにかかった。
「いいかい、ジニー。Mirrortuberの全体数に対して、成功してる人の割合はとても少ないんだ。だからMirrortuberとして失敗した時の事を考えて、学校は卒業しておいた方がいい」
「私は失敗しないわ」
ジニーは少しむっとして言った。
「もうとっておきの動画ネタを用意してあるもの」
「へえ、どんな?」
「貴方よ、トム! 喋る日記なんて、絶対人気なるわ!」
トム・リドルは青ざめた。顔はないが、青ざめた。
闇の帝王、Mirrortuberデビュー。そんな事になれば、不死鳥の騎士団からの低評価嵐は避けられないだろう。
それにあの老獪なダンブルドアの事だ。某掲示板にアンチスレを乱立したり、自演を装ったアンチ行為をする事は想像に難くない。
これはなんとしてでも止めなければ!
「お、お母さんが認めないだろう。だってほら、モリーはとても厳しい人だ」
「確かにそうね。だから私は考えたわ。先ず今年度中に動画を沢山配信して、予め人気になっておくのよ。そしたらママだって、反対しないはずだわ」
「それはいけない! ホラ、えーっと……有名になったら、モリーの耳に届いてしまうかもしれないだろう? 個人情報を流すのは良くない」
「トム」
「なんだい?」
「貴方、ツマラナイ人間になったわね」
「君は昔の僕を知らないだろう……」
ジニーはすっかりヘソを曲げてしまったようだった。
それは良くない。トム・リドルが力を得るには、ジニーからの『信頼』が必要なのだ。
トム・リドルはどこまでも邪悪な人物である。彼は『信頼』を得る為に、ジニーにまた甘い言葉を投げかけた。口はないが、投げかけた。
「ねえトム」
「なんだい」
「どうして個人情報をMirrorに載せちゃいけないの?」
「君はこの間のマクゴナガル教授の講習を、何も聞いていなかったのかい? 安易にMirrorに顔出し動画を載せたりすると、特定されて『死喰い人』に襲撃されたりするんだ」
「私『死喰い人』なんて怖くないわ!」
「いいや、怖がるべきだ。君に何かあったらどうする!」
トムが少し強めに書くと、ジニーは顔を真っ赤にさせた。
「いいかい、君は僕にとって(生贄として)大切な人なんだ。君への害意は僕への害意。
ジニー、僕の為にもここは引いてよ、ね?」
「……う、うん。そこまで言われちゃ、やめないわけにもいかないわね。その、ありがとう……」
「いえ、いえ」
こうして、今日もまた一歩、ジニーはトム・リドルに心を許してしまった!
おのれトム・リドル! なんて卑怯な奴なんだ!
がんばれジニー! 負けるなジニー!