一日の始まりは気持ちのいい挨拶から。こんにちは。ナルトだ。
昨日は本当に厄日だった。
幸運の象徴とは名ばかりの最凶最悪第七班に配属され、手間と暇と金をかけた神頼みセットはただの可燃ゴミと化した。
もしもこの世界に神がいるとするならば、きっとおれはあらゆる異能を無効化する副作用として、幸運をも全て打ち消してしまう不幸な右腕でももっているのだろう。
この右手で触れたら、我が班の堕天使さん、どこかへいってくれないものだろうか。
『てなわけで、明日は朝から実戦演習な〜。ゲロ吐くから朝飯は抜いて来いよ〜。』
これは、昨日の自己紹介の後に、カカシが言っていた言葉だ。
「演習」などという言葉でごまかしてはいたが、この実戦演習こそ例の真の卒業試験だと見て間違いないだろう。
彼がどんな試練を課すつもりなのかは知らないが、いずれにせよこの試験で下忍になるに相応しい人材か、そうでないかが決定される。
勿論、おれは下忍になるなんてまっぴらゴメンだが、あいにく班に上位素材も顔負けの上質なエリートを二名も抱えてしまっているのが現状だ。
あれ、試験いらないんじゃね?
まあそれは置いておこう。ここからはおれの個人的な考えだが、昨日の彼の「吐くから朝飯抜いて来い」という忠告は、試験内容に大きく関わってくると予想される。
今から忍にならんとする生徒に対して、「修行キツいから飯抜け」なんてほざくコーチがいると思うか?答えはノーだ。
「死んでも食え。血肉になる。」とでも言ってくれた方がまだ安心できる。
残念な事に、忍者はブラックかつ体育会系の職業だ。社畜の鑑ことイルカ先生を思い出してもらえれば、理解していただけることだろう。
では、なぜカカシは飯を食うなと言ったのか。
まず、食欲の話をしよう。
育ち盛りのおれたちにとって、三度の飯は命の次に大事だと言える。人間に元来備わっている三大欲求先輩だって、食べることは大事だと、腹の虫を鳴らすことで日々おれたちに伝えてくれている程だ。
もし、仮にだ。朝ごはんを食べずに試練に臨んだとしよう。その結果として、試練が進んで昼になっても昼飯を食べさせてもらえなかった、あるいは食べさせてもらえないことが事前に発覚したとすればどうだろうか。
おれは、正気を保てる自信がない。
なにもおれが、特別我慢の出来ない残念な子だと言っているわけじゃない。サスケや、あのサクラにだって同じことが言えるだろう。
空腹は人間の思考力と身体能力を低下させる恐ろしい状態異常だ。ポケモン不思議のダンジョンをプレイした事がある人なら、あの恐怖に覚えがあるはず。
もしや、彼の狙いは、おれたちを飢えさせて判断力を鈍らせることにあるのではないか。あるいはご飯が食べたいという欲望を利用して、仲間割れに誘う事が目的なのかもしれない。
例えば、テストをクリアした者だけが飯にありつけるとか。あらかじめクリア人数に制限を設けておけば、より効率的に争わせることが可能だろう。
おれたちはほぼ間違いなく、限られた食糧を取り合って喧嘩をする。昼ごはんが食べたいからだ。
そうなってしまえば後は簡単だ。忍びとして最低限必要不可欠なチームワークを欠いているとして、アカデミーに送り返すだけでいい。
あくまで噂だが、今までカカシの試練を突破したものはいないと聞いたことがある。彼の試練の内容がおれの想像通りだったとすれば、その結果にも納得がいく。
この試練、思ったよりハードだ。
さて。ここまで考察してみた上で、一つ皆さんに聞きたいことがある。
おれ、朝飯食っていくべきかな?
考えてもみて欲しい。これはチャンスだ。
当初の考えでは、エリートが二人もいるこの班がアカデミー行きになる確率は0であったわけだが、どうやら違ったようだ。
もし神頼みが効いたのだとしたら、アカデミーのゴミ箱に突っ込んだ某セットを丁重にお迎えにあがる必要がある。
あとは、いかにうまく奴の手のひらの上で踊れるか。これがキモになってくる。
はたけカカシはまごうこと無き賢者であるため、おれ程度の演技は見抜かれると予測される。ミズキやゴンザレスとは格がちがうのだ。
つまり、不合格になるためにはおれは本当に腹を空かせる必要があるし、チームメイトと全力で戦ってでも昼飯を手に入れる必要がある。
ここで、全力を出してしまえば合格させられないか、という懸念も生じる。
だが、いくらおれが優れているとは言っても、所詮は中忍レベル。それに彼が重きをおいているのは心の強さとチームワークだ。個人技を理由に合格させられることはないと思っていいだろう。
結論が出た。
おれは朝飯を食べない。
所変わって本日の集合場所。昨日と同様に、時間になってもカカシの姿はない。
「わかってはいたけれど、今日もはたけ先生は遅刻のようね。勉強道具を持ってきて正解だったわ。」
「フッ。煩わしい牝猫だな。少しは静かにできんのか?俺様は今、金糸雀の囀りを愉しんでいるのだ。頼むから邪魔はしてくれるなよ。」
「サスケ。よく見ろ。あれは鳩です。」
今日も二人とも絶好調だ。サクラはどうやら医療忍術の勉強をしておきたいらしく、専門書を何冊か持ってきている。
サスケは言わずもがなである。本日はおれたちの目には見えない微細な何かを啄んでいる鳩に、金糸雀などというキラキラニックネームをつけて遊んでいる。楽しそうで何よりだ。
「何を言っている?孤狼の戦士ナルトよ。貴様にも見えるだろう?金色の羽根に包まれた、あの美しき天使の姿が。」
「鳩。ハト科ハト目に属する鳥類の総称。世界には約42属290種類が存在する。体に比べて頭が小さく、胸骨、胸筋が発達してずんぐりとした体型が特徴。断じて美しい天使ではない。」
Wikipediaを参照しろ。コピペさえしなければ、大方有能なサイトである。
そういえば、二人に尋ねておきたいことがある。
試練に臨む上で、彼らが同じ土俵に立っているかを確認しておきたい。
「君達は今朝、ご飯どうしました?昨日カカシ先生が抜いてこいと仰ってましたが。」
「「え、食べてきたけど。」」
は?
「わりーわりー。途中で横断歩道を渡れそうになかったお婆ちゃんが居てなぁ。おぶって家まで送ってたら、この時間だ。」
結局、カカシが現れたのは集合時間の二時間後だった。前から思っていたが、知らないお婆ちゃんをいきなりおぶる奴。一体どんな神経をしているのだろうか。
その間、サクラは勉強、サスケは昼寝。おれは暇だったのでサクラの持ってきたテキストを読んでいた。
将来カンペキなヒモになる為にも、医療忍術は身につけておいて損は無い。一家に一つはある、救急箱を買わなくて済むからだ。
「よーしお前ら。今から早速、実戦演習を始めるぞ。」
おれたちが連れていかれたのは、木の葉の外れの草原。もう少し進めば、おれがミズキをぶっ飛ばした思い出の森に入りそうな場所である。
さて。いよいよ本番だ。仲間割れの準備はいつでも出来ている。
演習を始めると言ったカカシは、何やら掌に鈴を二つ持っている。お婆ちゃんを背負った時にジャラジャラ言わなかったのか気になるところであるが、心に留めておくことにしよう。
「なに、やるのは簡単なことだ。お前らには、この鈴を俺から奪ってもらう。制限時間は正午まで。見事鈴を取れたやつは、晴れて下忍になれるって寸法だ。しかし、見ての通り鈴は二つしかない。つまり、お前らの中から必ず一人は脱落者が出るわけだ。その一人は下忍になれない上に、丸太に縛り付けて、俺が目の前で弁当を食うから。」
聞き間違いだろうか。必ず一人脱落するって聴こえたような気がしたのだが。
「朝餉を食べてくるなと仰っていたのはそれが理由ですか。やはり食べてきて正解だったわ。」
そこじゃないだろ。もはや飯のことなどどうでもいい。一人脱落の件について喋ってくれないだろうか。幻聴かもしれないと気が気じゃない。
「卒業試験以外に審査があるとは予想外だったけれど。それも、一人は必ず脱落者がでるなんて、いい性格してらっしゃるわね。これは負けるわけには行かないわ。」
「フハッ。初めて意見が一致したなぁ!牝猫よ!悪いが貴様には俺様の進化の為の礎になってもらおうか!この、漆黒の堕天使、うちはサスケ様のなァ!!フハハハハハハッ!!」
「堕天使って進化する種族なんだ。虫みたいですね。」
いや、あれは正確には変態か。
じゃなくて。
これは夢か?ほっぺたをつねる。痛い。お腹も鳴っている。夢じゃない。
飯を食える人数に制限はあるだろうと思っていたが、まさか合格者に制限があったとは。これなんて奇跡。
演習はあくまで実力テストであるため合否には関係なく、三大欲求である食欲を押さえ込める忍耐力と、譲り合いの精神こそが着眼点だとばかり考えていた。
考えすぎだった。裏を読みすぎたか。
鈴が取れない奴は問答無用でクビ。飯抜きはおまけ程度の代物だったのである。
「わかったら始めんぞ。三分後にスタートな。各々作戦や準備をしておけ。言っておくが、殺す気で来いよ。」
そう言い残すと、彼はミズキの墓場へと消えていった。
「しかしああは言ったものの…上忍相手にまともに戦ったって、鈴が取れるとは思えないわね…ここは三人で協力するのがセオリーだけれど…」
「ああ。必ず一名が堕天すると告げられたこの状況下で、俺様たちに残された道は一つ。己の
「ならば堕天するのはあなたで決まりね、堕天使さん。得意分野でしょう?落ちるの。」
「フッ。これだから闇を知らぬ者は。堕天使が更に堕天したら格好がつかんだろうが!!」
「あらそうでしょうか。一度落ちたのだから、二度でも三度でも同じでしょう?あなたは深淵を目指すといいわ。頑張って。応援してるから。」
始まってしまったか。一人は必ず脱落すると決められた事による弊害。そう。仲間割れである。
しかし奴は一つミスを犯した。
ここに一人、ぶっちゃけ下忍になりたくない人間がいると言う事を忘れているのではないか?
そう。おれである。
「まあまあ皆さん。争っていても始まりません。ここは一つ協力して、鈴を取りに行きましょう。脱落者はおれでいい。皆さんと違って、おれには目標がないですから。」
「だがしかしな、ナルトよ。そういうわけには…」
「ここで争っては彼の思うつぼです。協力しなければ鈴は取れません。そうでしょう?」
「確かにうずまき君の言う通りね…でも彼だけに負担がかかるのは納得が行かないわ。やっと卒業できたのに。」
「そうだな。だが話は鈴の音を聞いてからだ。終焉を迎えた後に、仮面の男を説得してみよう。」
余計なことはしなくていい。おれはアカデミーに帰りたいんだ。
さて、これで方針は誘導できた。お腹は空いているがなんてことは無い。ここさえ我慢すればアカデミーに戻れるのだから安いものである。
「じゃあ作戦はこうしましょう。まずうちは君が…」
俺の名ははたけカカシ。好きなものは色々で、嫌いなものはまぁ、色々だ。将来の夢って言ってもなぁ…。
俺は今、受け持つことになった生徒達に最後の試練を課している。このテストは二つしかない鈴を三人の生徒に狙わせるものであり、一人脱落者が出ると明かすことで、生徒達から協力という選択肢を奪うものだ。
協力しなければ、当然鈴を奪うどころか、触れることすらできない。まとめてアカデミーに逆戻りだ。
協力さえしていれば、その時点で合格になるというのに。
忍にとって最も大事なのは任務であると考えられがちだが、もっと大事なものがある。
そう、チームワークだ。
仲間を大事にできない奴は、忍どころか人間ですらない。
これが、俺の忍道である。
故に、俺は今かなり戸惑っている。
なんと、生徒達が最初から手を組んで勝負を挑んで来たのだ。付け焼刃だが作戦も練ってきたようで、動きに統制が見られた。
一人落ちると言ったのが聞こえなかったのだろうか。何故奪い合わない?何故個人プレーをしない?疑問は溢れるばかりである。
いずれにせよ、試験開始時間から数えて十分。彼らの合格が確定した。
だが、こうは思わないか。
この時点で合格を言い渡すのって、それってどうなんだと。
今から彼らを教えていく立場として、流石にやばいんじゃないか。舐められるんじゃないか。
俺にだって、今まで一人も合格者を出さなかった男としてのプライドがある。大事な大事なプライドだ。
ここで彼らに「ごーかっく!」と笑顔で告げることは可能であるが、男としての矜持がそれを許してはくれないのである。
故に、俺は戦う。
合格を告げるのは、彼らを叩きのめした後で良いだろう。
「鈴は取ることが出来なかったけど、協力出来てた事を評価する。チームワーク大事。」
よし。この路線で行こう。その方が強者感がでて尊敬してもらえそうだ。
そして戦闘に至るわけだが…こいつら普通に強くね?
おじさん本気出すしかない。
さて。試練開始から十分程度が経過した。
チーム暗黒騎士団(サスケが勝手に決めた)の三人は見事はたけカカシを補足し、現在戦闘進行中だ。
おれたちが決めた作戦はシンプルなもので、簡単に言うとおれを囮にサスケと春野サクラのダブルエリートが鈴を奪うというもの。
今は裸の美女に変化するおいろけの術でおれが彼の気を引きつつ、二人が体術を駆使して鈴獲得に挑んでいる。
春野サクラはゴキブリを見る目でこっちを見ていた。
「アインッ!ツヴァイッ!!」
…。サスケの掛け声が響く。
マヌケな効果音とは裏腹に、その技術は目を見張るものであった。
地形を巧みに活かして先生の行動範囲を制限しつつ、舞うような連撃を繰り出す様は見事と言わざるを得ない。
「決めてやる!
地面に手をついたサスケが、カポエイラの要領で蹴撃を放つ。その姿は某海賊王のコックさながら。相変わらずのバケモンである。技名はよくわからない。
「やるじゃないの!」
しかし、さすがは名の知れた上忍。
カカシは難なくこれをジャンプして回避する。反射速度おかしい。
だが、これは読めていた。
すかさず、木の上から気配を殺したサクラがチャクラをまとった手刀で頚動脈を狙いにかかる。殺す気で来いと言われたからか、その攻撃に迷いは見られない。
「死になさい!!」
ズバッ!という炸裂音と共に、カカシの首が落ちる。しかしこれは…
「ッ!代わり身の術ッ!!」
そう。汎用忍術にして、原作にてこれ以降余り出番のない可哀想な術である。
「フハッ!どこへ逃げた!!」
「逃げねぇよ。」
瞬間、気を抜いたサスケが、カカシの蹴りによって吹き飛ぶ。大木に激突して姿を現したのは…
「何!ナルトだと!!」
そう。このおれだ。裸の美女が消えていることに気づかなかったか?それとも目をそらそうとしていたのか。とても汚いギミックなので、金輪際使用するつもりはない。
「馬鹿め!!俺様はこっちだ!!」
炎の玉を周囲に纏い、その目を紅く光らせたサスケが、木の裏から姿を現す。
写輪眼、発動。
「なんだと!少しまずい!」
「この技を目にして生き延びた者はいない!!神の目を、血を捧げろ!祭壇に闇を灯せ!さあ、光は鎖された!」
サスケの放った炎玉が、カカシの周囲を円環する。やがてそれは中心へと集約して行き、一つの形となった!
「
爆音。その後に、視界を炎の柱が支配した。
環境破壊に大気汚染。サクラへのフレンドリーファイア。
うん。これはひどい。
「クハッ!やったか!?」
サスケさん。それはフラグです。
ジュッ!という音をたてて、炎が消える。タバコの火を始末する時のように、あっさりとあの豪炎は大気に散っていった。
「なん・・・だと?」
彼が驚くのも無理はない。あれだけの大術を受けておきながら、なんとカカシは傷一つ負ってはいなかったのだ。
「馬鹿な…!なんだ、その術は!!」
カカシを覆うように展開されていたのは、水の神殿と呼んでも差し支えない何か。その術の輝きが、サスケの炎を蒼く塗りつぶしたのだ。
「なかなかいい術を使う。流石はエリートだなぁ、サスケ。俺がお前くらいの年の頃よりよっぽと優秀だ。上忍になれるよ、お前。」
カカシが笑う。それはマスク越しにも伝わってくる程の、愉悦の笑みであった。
「水遁・竜宮門。残念ながら、年季が違ぇ。」
はたけカカシ三十路。13歳の子供に対してのガチ戦闘。
その姿は、まるで公園で楽しくデュエルしている子供たちの輪に割って入り、容赦なく叩きのめすガチ勢のようであった。
いや、サスケさんも馬鹿強いんですけどね。
切り札を止められたサスケではあるが、その後も闘いを続行。
しかし、あの術のチャクラ消費が大きかったのか先程までのようなキレがなく、カカシに受け流される一方であった。
普通に逃げ延びてたサクラはサスケとの連係を試みるも、カカシ大先生の雷パンチであえなく退場。彼の大人気なさが臨界点を突破した。
おれはと言えばこのまま負ければアカデミーに帰れるということで特にやる気もなく、サクラの気絶をいいことにおいろけの術を多発。終始カカシの妨害に回った。
が、結局鈴は取れず。
制限時間の正午となり、おれたちの敗北が決定した。ミッションコンプリートである。
「クククッ…
「いやぁ、まだまだ子供に負けるわけには行かないんでなぁ。」
「…グスン。次はないんだから。覚えてなさいよね。」
「サクラさんサクラさん。はい、ハンカチ。」
サクラの目が覚めた後、おれたちは最初の草原に集められた。
カカシ先生による、今回の演習に関する講評のお時間である。
なお、誰も鈴を取れてないということで、飯はお預けだ。もちろん、おれにしかダメージは入っていない。
しかしなんだ、いくらおれはハッピーとはいえど、このテストは難しすぎた。
アカデミー上がり立ての子供が、ガチの大人から鈴を奪えるはずがない。絶対にモンスターペアレントから苦情が来るだろう。
サスケとサクラに関しては、運が悪かったとしか言えない。可愛そうだとは思うが、おれは自分が脱落できればそれでいいので特に抗議しない。
留年、意外と悪いものじゃないぞ。
「では、まずお前らの評価からな。」
カカシ先生が口を開く。サスケは石の上で脚を組み直した。いや。態度。
「フン。話せ。聞こう。」
「お、おう。じゃあまずサスケから。お前、まじでつええわ。中忍の域を超えてる。暗部の奴にも何人かは勝てんじゃね?ただ、術の前の口上は辞めような。」
「当然だ。しかし、口上は悪いがやめられん。あれを口にしないと術はでんからな。」
嘘をつけ。ん?あいつ、そういえば印を結んでいなかったような…
マジか。
「確かに印結んでなかったしなぁ…。どういう原理かは全くわかんないけど、あれで術のトリガーになってんのか。なんだあれ?うちはの特性か?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
今はほぼ滅亡した一族、うちは。その秘密が、またひとつ明らかになった。いや、印を結ばなくていいのずるすぎ。
「いや…何もない。次はサクラだ。お前もサスケとは違うタイプの強さを持ってる。特にチャクラコントロールが良い。チャクラを纏った手刀の精度は木の葉でも上位にランクインできるだろーな。だが、戦闘スタイルが脳筋すぎる。幻術を覚えたらどうだ?きっと役に立つ。」
「ご指摘、感謝します。次はありません。」
良かった。泣き止んでた。ちなみに、おれのハンカチは洗って返して貰おう。
「最後にナルトだが…お前は…うん。真面目にやりなさい。」
「至って真面目でしたが、ここは頷いておきましょう。」
おいろけの術の何が悪い?敵が男だろうと女だろうと一瞬判断を遅らせることの出来るスグレモノだぞ?
先日仲良くなったエビス先生から教えてもらったんだ。
「…で、試験だが。普通に合格な。で、中忍試験も出ろ。鈴とか人数制限とかは、所詮目安だしな。特に一人脱落するってんのに、初めから協力して来たのには目を見張ったわ。お前らのこと、好きになれそーかも。」
ん?今、何と?
お互いの健闘をたたえ合うように、午後の陽射しを浴びながら向かい合う三人。
戦ったからこそ生まれた絆が、そこにはあった。
その横で、一人うずくまる少年がいた。四代目火影の実子にして、三代目火影の弟子。
うずまきナルトの苦難は、まだ始まったばかりである。
ポケモン不思議のダンジョンのトラウマがわかる方は僕と握手。