GGOのガンスミスがあまりにも不遇な件について   作:ひなあられ

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少し手直しバージョンです。大筋は変わりませんのでご心配なく。


荒廃の地にて、銃職人のぼやき【改】

 糸杉康平こと俺は普通の高校生である

 

 そんな俺は、やはり中学と変わりなくゲーム三昧の生活をしている。中学の時と違う所は、ゲームが矢鱈と発達していて、VRナンタラとか言うゲーム機がある事だ。

 

 詳しい機構とかよく知らんが、取り敢えず現実と同じような世界で大多数の人と共にプレイ出来るゲームとか、そんな感じの認識でいい。

 

 序でにこのゲームは銃撃戦を主にしたFPSだ。どいつもこいつも銃を持っていて、換金システムがある為にプロもいるガチめのゲームだ。

 

 で、そんな世界で俺は、ドリル片手に鉱山にいる。

 

 

 ……そう、ドリルだ。銃じゃ無い。こんな事してる奴なんて一人もいない故に、毎日一人寂しく鉱石掘りである。銃ゲーでまさかのガンスミスプレイをしている。

 

 サービス開始から一ヶ月。未だにプレイヤーを殺した事は無く、延々と鉱石を掘り続ける作業を繰り返している。

 

 しょうがないと言えばしょうがない。銃というのは普通避けれるものではない。音がしたと思ったらやられている。なにせ音速超の鉛玉なのだ、当然といえば当然である。

 

 そんな所もしっかりとリアル基準なこのゲームは、基本的に撃たれたら終わり。それなのに俺のステータスはINTとDEXに極振りなのだ。

 

 防具や装飾品で下げれるダメージを下げる事が出来ない。それ故に装備を整える事も出来ず、火力の高い武器も使えない。

 

極め付けはこのゲームのシステムだ。バレットサークルとバレットラインというシステムが、どうしても肌に合わない。銃と身体の動きとシステムがどうしても噛み合わず、ついつい染み付いた身体の癖が出てしまう。要するに全く弾が当たらない。

 

 チュートリアルで教官役から唯一合格点を貰えたのは、武器の分解清掃だ。報酬は武器清掃キットと武器修理スキル。それが元でこんなステ振りになったのだが。今思えば核地雷もいい所だと思う。

 

 スキルとしては、銃製作、銃分解、銃組み立て、銃清掃、罠、採掘、工具製造、工具分解、工具清掃、火薬製造、鑑定、板金。もう銃撃つ気なんてこれっぽちも無いと言うような構成。せめてアクロバットくらい入れたかった。ステータス制限で会得クエが受けられないが。

 

 ちなみに炭鉱夫生活五日目である。元々こういう系のゲームも好きだったから苦にはならないのが救いだ。何処ぞの狩りゲーを思い出すな。

 

 お目当の銃なんて物は無く、どうせなら突き詰めるとこまで突き詰めてやろうという、割とどうしようもない精神でこんな事をしている。五月の大型連休使って朝昼晩掘っているので、そろそろ採掘スキルが500の大台に達しそうだ。一体俺は何をしているのだろう。

 

 一応説明を入れると、採掘スキルはその名の通り、採掘する速度や効率が上がる。高ければ高いほどレアな鉱石が出る。最近は宇宙船の装甲の材料なんて物も出て来た。熟練度が足りないので銃に加工出来ないが。

 

 今必要な鉱石は鉄。工具製造の方で必要なのだ。練度は400。本当に何をしているのだろうか。鑑定の方はとっくにコンプリートだ。この世界ではほぼ使う事の無いスキルなので、完全にお飾りのコンプリートだが。

 

「……硝酸…か。次」

 

 いや、硝酸も火薬製造には有用な素材ではある。しかしどうせならエネルギー結晶体の方がよかった。あっちの方が使い道が多い。

 

 火薬製造とは、文字通り火薬を製造するスキルである。専用のキットを用いて掘り出した鉱石を加工し、火薬に精製する。形はフラスコとかバーナーとかがくっ付いていて、殆ど実験道具のそれだ。

 

 一応作り方としてはかなりリアルに沿ってはいる。抽出とか精製とか蒸留とかしないといけない。大体は黒色火薬としてストックされているのだが。ちなみにエネルギー結晶体の方は光線銃の火薬みたいなもので、割と自由な応用が利く。

 

 有用な使い方としてはプラズマグレネードだろうか。エネミーを誘導するのに役に立つ。火薬の方が音が大きいので、あまり扱う事は無いが。

 

 この火薬製造だが、熟練度500を越えた辺りで弾薬製造のスキルが生えた。使う予定は無いので取ってはいない。

 

 今の所、スキルとして一番役に立ってるのは鑑定で、その次に工具分解。最近俺は何のゲームをしていたかと不安になる時期がある。重症じゃないのか?

 

 余談だが、分解系のスキルは意外と使える。武器や工具を分解してストレージに入れると、容量を十分の一以下に圧縮出来るのだ。…取ってる奴なんて俺くらいだろうな。そもそも武器なんて常に腰に差すものなので、普通に使うかどうかと聞かれたら微妙な線だが。

 

 しかし大量の工具…つまり様々なキットを使う俺にはうってつけのスキルだ。必須とも言って良い。

 

 

「………プルトニウム…」

 

 

 プルトニウム。核爆弾の材料。ただし完全にネタ武器であり、周囲6キロメートル以内にいると、大量のデバフをくっ付けられて死ぬという。

 

 6キロ…普通に経験値対象外なので、キルしても何も貰えない。爆風でドロップ品も軒並み汚染か蒸発してしまうので、完全に嫌がらせにしか使えない。なのにこれ、水爆にアップグレード可能なのだ。…何に使うんだろうか。

 

 

「………鉄……また、金か…」

 

 

 金…一応光線銃には必須の金属なのだが、正直光線銃は肌に合わないので作っていない、もっぱらアンティーク銃の装飾にして、それで終いだ。実は意外と高く売れる。

 

 そう、そうなのだ。勘付いた人もいるだろうが、こんなガンスミスプレイをしてても、換金システムによって黒字を保てる。世の中には割と物好きな奴もいて、特にアンティーク系の銃は高値で売れる。性能はお察しではあるが、だからこそモンスタードロップしないのも特徴。完全にプレイヤーメイドに依存したアンティーク系は、俺の収入の九割を占めている。

 

 このゲーム、ガンスミスは皆無。完全に俺一人だけが作れる一点ものだ。性能はあまり良くないが…。

 

 というか今現在、そのアンティーク系の銃を作ったせいで鉄が足りない。あと一個。あと一個なのに何故出ない。これが揃えば杭打ち機が作れると言うのに…。

 

「…………ボーキサイト…」

 

 物欲センサーとはこうも恐ろしい物なのか。何時もなら掘り出すのに二時間はかかる金属が山程出てくる。なのに本当に必要な物が出ない。呪いか何かじゃないのか?

 

 …今日はもう、辞めてしまおうか。

 

 もうそろそろ12時過ぎるしな。明日学校があるので、あまり無茶はしたくない。

 

 コンソールからテントを選択。一瞬置いて現れたテントの寝袋に潜り込むとログアウトのボタンを押した。これでセーブ完了。視界が放射状に引き伸ばされ、俺は現実世界への門を通った。


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