GGOのガンスミスがあまりにも不遇な件について   作:ひなあられ

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銃製作【改】

 帰って飯食って風呂入ったら四時間ゲーム。狂いに狂っている俺の生活リズムなどそんなものだ。

 

 しかし流石の俺でも五日間の強行マゾプレイは堪えた。無理だ。今日は穴掘りはお休みである。

 

 そんな訳で首都グロッケン。クエストの受付やチュートリアル、売店に修理など、ありとあらゆる物が揃っている街。その隅の奥の裏路地の旗竿地の空き地に、俺の工房兼生活スペースが存在する。

 

 あるクエストで偶然手に入れた物。鑑定の名称は簡易住宅となっているが、どう見てもキャンピングカーだ。中身はほぼ全て工房。普段は持って行かない銃製作キットなどがあり、倉庫も兼ねている。

 

 これだけ聞けば使い勝手のいいプレイヤーホームだが、残念な事に此奴は動けない。おそらく車両整備のスキルを取って、車をレンタルして連結すれば動くと思われるが。

 

 立地は最悪。動かせない為にトイレや水回りは完全に死んでおり、あるのはベッド程度。果たしてこれをホームと言えるのだろうか。……とまぁ、そんな訳で格安で入手した代物だ。

 

 施錠機能も無く、使い始める前に耐久値の回復をしなければならないのも付け足しておこう。ぶっちゃけこれ以外はそんなにデメリットの要素が無い。自分ではいい買い物をしたと思っている。

 

「…よっこらせ」

 

 さて、ここで取り出すのは板金加工済みの鉄板。まだスキルの熟練度が200程しか無い為、鉱石を加工する事が不可能なのだ。なのでNPCに渡して加工してもらっている。本来ならモンスタードロップで出る物なのだが。

 

 モンスタードロップだと板金では無くインゴットとしてドロップするが役割は同じ。今現在の状況だと、一切の利用価値が無いのでNPCショップの換金アイテム程度の役割だ。そんな事するくらいなら割高でも買い取りたい。当分は無理だろうけど。

 

 続いて作成図を一応取り出し、隅に置く。しかし今回作る銃の特性上、特に必要も無いだろう。コレが必要なのは光線銃の時だ。流石に電子回路は見ないとわからない。

 

 ……これだけ前フリしておいて何だが、銃というのはそんなに難しい構造を持たない。今回つくるのはナインティーンイレブン…M1911。日本では俗にコルトガバメントと呼ばれる物。

 

 セーフティーが少々特殊だが、その他の機能はとにかく優秀。劣悪な環境でも動作し、その信頼性からあらゆるカスタムが為された銃である。

 

 使い手の感じ方によって意見も変わるだろうが、一応初心者向けの基本的な銃だ。そのコンセプトと基本性能の高さは、この世にある自動拳銃のほぼ全てにおいて応用されていると言ってもいい。コンパクトな連射機構の元祖という事になる。

 

 小難しい説明は嫌いなので端的に言えば、発射の反動で薬莢が排出され、マガジンから新たな弾丸が装填されると言った機関を持つ。

 

 ……少しアバウト過ぎるか。コレだと他の連射機構もおんなじような説明になる。しかし銃とは大概そんな物でしかない。

 

 仕組みと言うか、捉え方としてはエンジンと同じでいいような気がする。エンジンは様々な種類があり、その機構も多種多用だが、可燃物を爆発させてピストンを上下させ、それを回転エネルギーに変換している所は一律している。

 

 一部リボルバーとか言う例外は置いといて、引き金を引くだけで連射出来る銃というのは、大概が銃弾の力を利用して動いているのだ。

 

 だからその例に漏れず、この連射機構も他の銃と大して変わらない。バネやカムや特定の部品が複雑に作用しているものの、時計の仕組みを知っている人なら割と簡単に理解出来るんじゃないだろうか。

 

 板金からフレーム……要するに骨組み。それを専用のキットで製作する。本当ならスキル使用後にボタン一つで完成するものだが、俺はちょっとしたこだわりを持っているので、基本的に手作業による加工だ。

 

 設計はもう既にあるので、板金に下書きを入れる。ケガキするにも専用のキットがある。使う奴いないから激安だった。

 

 そしてこちらも使われる事のないキット……旋盤とかドリルとかを用いてフレームを切り出す。後はバリを取ったり仮組みしたりして微妙な調整。

 

 銃身は別個で作る。銃の心臓部とも言えるこいつは、かなり微妙な調整が必要だからだ。

 

 続いて溶鉱炉に残りの金属を放り込んだり、配合する金属を設定したり、作り出すパーツに合わせて器具を使ったり…。現実でやるなら何日もかかる作業だが、この世界に置いては短縮出来る。金属とか直ぐに冷めるので、温度管理をする必要もない。

 

 フレームに部品を入れて仮組み。動作を確認してバラしてまた確認。更に塗装して仮組み。仕上げをして仮組み。続いて動作を点検し、フレームの歪みや部品のズレなどを見て更に調整。

 

 製作時間約一時間。作動方式、シングルアクション、ティルトバレル式ショートリコイル。装弾数7発と1発。弾丸、.45ACP弾。

 

 手間と暇がかかっている割に、熟練度は然程上がらないし売れもしない。殆ど趣味の品だ。だが性能は折り紙付きである。コレと同じ種類のモンスタードロップと比較すると、圧倒的にこっちの方がいい。

 

 命中率向上に加えて、クリティカル率上昇、耐久値ボーナス、重量半減、ジャム率半減、威力倍増などなど…。このバフは永続的に掛かるものなので、この銃がぶっ壊れない限りこのままだ。見た目を裏切る化け物銃である。

 

 今の所、実用的なのはこの一丁しか無い。他は全てアンティーク系の銃なので、威力云々よりも見た目に拘っていたからだ。

 

 ちょっと作りたくなってみて作ったはいいが、売れるのだろうか。どんなに性能がいいと言ったって、そういうのがわかるのは鑑定持ちの奴だけである。それに銃製作スキルを持ってないと、説明文にはM1911としか表示されない所もミソだ。

 

 …まぁいいか、材料費だけ取って安値で売れば。それでリピーターが出てくれれば万々歳とでも思っておこう。


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