GGOのガンスミスがあまりにも不遇な件について   作:ひなあられ

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しかし レベル が たりなかった !【改】

 良い顧客に巡り合ってから数日経つ。創作意欲を刺激された俺は、準備を整えて旗竿地から抜け出した。目的地はグロッケンのクエスト受付。件の東地下要塞のクエストを受ける為だ。

 

 かつて巨大な宇宙船であったこの土地は、裏道や裏路地などの入り組んだ地形がそこかしこに点在する。そこには表通りで売れない闇深い品に法外な値段で売られる銃、用途不明で売りに出されたガラクタなどが無造作に置かれて売られている。プレイヤーもNPCも入り混じった特異な空間は、そこが本物のスラムであるかのようなささくれた空気を醸し出していた。

 

 この容姿で白昼堂々と出歩くと色々面倒なので、何か余程のことでもない限りはこういった道を経由するのだ。それに今のところ俺しか知らない隠し通路も使用しての移動なので、プレイヤーに後取られる事はまずない。そんな心配、するだけ無駄かもしれないが。

 

 ガコンとはめられた床板を外して薄暗い部屋の中に出る。扉のロックを解除して外に出れば、そこはもうグロッケンの中心部だ。……隠し通路は道ではない。見られれば不審者確定である。それを差し引いても便利なのが悪い。

 

 クエストの受注は実に簡素。ホログラムに表示されるクエストをタップするだけだ。エリアをタップすればそれに関連するクエストが表示されるので、そこから好きな物を選べばいい。

 

 今回は東の地下要塞。最近開拓されたマップで、周辺の廃れた構造群の中にポータルがあるという話なのだが…。

 

 

「………転移…不可?」

 

 

 『レベルが足りません』の無情な表示。よく考えれば、いやよく考えなくともそれは当たり前の事で。

 

 最近解放された新マップなのだ。当然ながら高レベルプレイヤーが集うことだろう。そんなところにレベルもロクに上げてない地雷野郎が果たして辿り着けるのか?

 

 答えは否だ。そもそも拳銃すらまともに使えない奴が最前線に立つなど、どう考えてもおかしい。

 

 ………しかし、レベル上げか。今の俺のレベルは…確か5だったな。死に戻りながら50回ほど試した結果だ。数の暴力で袋叩きにされながら、殆どダメージの入らない拳銃弾をゼロ距離でブッパして何十匹か倒した。あまりにも非効率過ぎて直ぐに辞めたという経緯がある。

 

 久しぶりにエネミーと戦ってみるか…。この周辺の低レベルな奴ならなんとかなるだろう。あまり神経を削るような戦いは遠慮したいんだがなぁ…。そうも言ってられんか。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 結局また戻ってきてしまった。旗竿地にあるキャンピングカー、中には所狭しと銃が並べられており、作りかけの素材やパーツが山のように積まれている。

 

 その大半が黒々とした古めかしいフォルムをしており、アンティークの名に恥じない重厚な雰囲気を放っていた。だが所詮は見た目だけの銃。始めたばかりのニュービーでも普通に撃てる。なんせ要求されるステータスはオール1なのだから。

 

 ……要するに作れる銃がドロップの下位互換なのだ。これこそが生産職の地雷たる所以であり、今俺が詰んでいる状況の原因なのだが。

 

 レベルを上げるには戦うしか無い。しかし生産職を目指すプレイヤーが上げるステータスはINTとDEXだ。装備できる武器は必然的に小口径の低威力な武器に限られる。

 

 序盤のステージならそれでも通用する。低威力の拳銃かつフルオートが使えないとしても、高いDEXが作用してそれなりの光学銃が使えるからだ。

 

 ……だが序盤には強烈な強敵が待ち構えているのだ。それ故にAGI特化のプレイヤーですらSTRにステ振りする。

 

 序盤において最大の敵。エネミーより遥かに厄介で、対策も立てづらく抜けきるのも容易でない手強い敵。その名も…。

 

 

「……初心者狩り」

 

 

 このゲームは非常にシビアだ。いくらステ上げをしようとも、その差は中々開かない。完全にプレイヤースキルが物を言う世界だ。故に安全で反撃される心配のない狩場がとても重宝される。

 

 そして金銭的な余裕が無く、マナーなど糞食らえと考える一部のプレイヤーが行う傍迷惑な狩り。それこそが初心者狩りなのだ。

 

 初心者はまずエネミーを狩ろうとする。レベルを上げる手段がそれしかないからだ。その為に防具が薄くなりがちで、武器も光学銃に絞られてくる。

 

 そんな経験もなにもかも足りてないプレイヤーを狩るのはさぞかし楽な事だろう。手酷いものになると両脚を撃ってダルマにし、その上で装備を根こそぎかっ剥ぐ者もいる。というか俺はそれをやられた。

 

 それでも最初は楽観視していたのだ。盗られたなら盗られたで新しい物を作ればいいさと。しかし作れる銃が軒並み下位互換である事に気付いた時にはもう遅く、このグロッケンから一歩も出られない程に装備が貧弱化してしまったのだ。

 

 武器は買えない、素材は足りない、作れる装備は貧弱。完全に詰みながらも細々と活動を続け、なんとか黒字にまで漕ぎ着けたのだが…。

 

 今ならそれなりの装備を整える事は可能だろう。金に物を言わせて課金専用の初期装備一式を揃えるだけでいい。…だがそれは、なんだか負けたような気がするのだ。

 

 俺は趣味と浪漫でこのゲームをプレイするつもりだ。元よりそれが成せるゲームを探していたのだし、例え金がかかろうとも気に入った世界観であればやり込むつもりだった。それがこの過酷な生産職を続けられる理由でもある。

 

 ならばそう、誰にも思いつけない浪漫で切り抜けるべきじゃ無いのか?この産廃物に等しい、前々時代のガラクタで。

 

 

「……問題は山積みだな」

 

 

 威力射程精度装填速度、銃の評価の基準となるべきもの全てが低水準の旧式銃。なんとかしてコイツを使える物にしないといけない。だがどうやって?

 

 ……ひとまず、威力と射程と精度は捨てよう。システム的にどうしようもない要素だからだ。鑑定で表示されるステータスが、どこをどう改造しようとも変動しない。逆に言えばそのシステムを逆手に取った戦い方もあるのだが…そちらは諸々の問題で却下だ。スキルの熟練度と素材と金が足りない。

 

 装填速度…これならどうだ?先込め式の銃を何よりも早く装填する方法…。一発こっきりしか撃てなくても、これさえどうにかすれば光明が見える。

 

 …なんだか真面目に考えているのが馬鹿らしくなるような話だな。そんな方法、魔法でも使って弾薬を転送するくらいしか無いだろう…?

 

 待て…弾薬を…転送?あぁ、ある、あるじゃないか!ノータイムでいち早く弾薬を装填する方法が!なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだ俺は?

 

 

「……弾薬を装填するのが手間なら…そのまま組み立ててしまえばいい」

 

 

 『武器分解』『武器組立』というスキルがある。効果は実に単純、揃えられた部品を分解し組立てるスキルだ。所得に必要なポイントがゼロで特殊なクエストも必要ない。敢えて言うならチュートリアルで落第の印を押される事ぐらいか。

 

 早速適当に積んであった旧式銃を取り出して実験。まずは分解でパーツ毎にバラバラにする。分解できる範囲は指定できるので、最低限度に留めておいた。…銃身は外れず、機構部がある程度バラされる程度に留まっている。

 

 …さて、ここで黒色火薬と鉄球を横に並べ、組立を選択。これでどうにもならなければこの企みも潰えてしまうのだが…。果たしてどうなるか。

 

 

「……よし、成功だ」

 

 

 結果。銃は弾薬を内包した状態で組み上がった。装填の状態も問題ない。受け皿にまでしっかりと火薬が詰めてある。

 

 リロードを『分解』と『組立』で短縮化。組立てる範囲もマニュアルで操作が可能なので、カーソルをストレージの火薬と弾丸に合わせておけば問題ない。

 

 ついでにこのスキル、アクション系の中でも特殊な思考入力による選択が可能なのだ。流石に出来るのは分解と組立ての選択のみだが、それでもノーモーションでリロード出来る点は欠点を上回る。

 

 後はそうだな…弾薬製造で色々と作っておくか。旧式銃の弾薬なら低熟練度でも十分に製造が可能だ。

 

 それと銃身も強化しておこう。これだけでも十二分に頑丈…むしろそれしか取り柄がないくらいには頑丈だが、良質な素材があれば耐久値は更に上がる。むしろこれ以外に上げるステータスが無い。流石は旧式銃といったところか…。

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 諸々の準備を整えてサクッと戦場へ。使い心地は抜群、戦果も上々。何よりキルされても懐が痛まないというのがとても良い。今の俺を倒したところで、使うに使えない旧式銃がドロップするだけだ。

 

 それに何より、バレットサークルが出ないのが本当にありがたい。どんな銃でも強制的に出現する弾着予測アシスト。しかし照準器すらない旧式銃で、一体どうやって弾着をアシスト出来ようか。

 

 元より俺はバレットサークルを必要としてない。あるだけ邪魔だし、むしろプレイの阻害となっていた。それが無い今、それはもう面白いように弾が当たる。

 

 当然ながら癖も強い。引き金を引いてから発射されるタイミングがズレるし、威力が低すぎて射撃だけではエネミーを倒せない。撃つ度に濃厚な煙が視界を覆って敵が見通せなくなるし、何より命中率が悪い。基本腰だめに構えて弾丸を撒き散らす感じだ。

 

 だが面白い発見もあった。様々な物を犠牲としている反面、装備や防具の破壊にアドバンテージがあるようなのだ。それにノックバックもかなり強烈だ。

 

 確かによく考えてみれば、口径だけで他の銃と比べるとそれなりの大口径になる。弾丸の形はほぼ球形であり、敢えて言うならホローポイント弾と同じ効果がある筈だ。ただ実弾銃であることを考慮しても距離減衰が激しい。100メートルを超えると豆鉄砲並みの火力になる。有効射程は長く見積もっても50メートル程度と判明した。

 

 持ってきた武器はフリントロック式2丁とリボルバー2丁、ラッパ銃が1丁とツルハシ。防具は無し、はためくような長い黒コートと中のゴツい服は初期装備を改造したものだ。ちなみに採取用の為、戦闘に直結する改造は一切無い。

 

 そんな拙い装備ではあるが、これでも奇襲に特化すれば割と良いスコアを叩き出す。先ほども初心者の装備を剥ぎ取っていた一団を、復讐も兼ねて血祭りに上げてきたところだ。

 

 武器もドロップできてホクホクである。暫くはこの辺りでレベル上げをしていこうか。


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