GGOのガンスミスがあまりにも不遇な件について   作:ひなあられ

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霧の招待状

 ホロパネルから『オリジナル』を選択した途端、既存のチュートリアル表示が全て消えてしまった。代わりに視界の端に様々な項目がツールのように並ぶ。

 

 試しに義手製作において初期で作れる3つの義手をそれぞれ比べてみた。製図スキルの影響なのか、その詳細が設計図に至るまで詳しく見れる。

 

 ざっくりと分けるなら『パワー型』『バランス型』『テクニック型』といった所だろう。

 

『パワー型』の主な駆動力は【AA2010PWモーター】光学エネルギーを純粋な駆動力としたモーターを主軸としており、モーター自体が大型な為に細かい制動は苦手としている。

 

『バランス型』は【CA27エアーロール】を主軸としており、電気力を利用した空気力によって駆動する。エアーの配線により多少手狭になるものの、細かい制動も効く上に様々な武装を積む事が可能だ。

 

『テクニック型』は……。【皇国重工55式セロ】という駆動力。中身としては『光学エネルギーを常温において気体に固定し、電磁力を補助として使用する事により光学ガスを駆動箇所にピン止め効果に近い形で集中。それによりナノマシンケプラーの供給エネルギーを極めて安定した暴走状態を保持して精密かつパワフルな稼働を実現する』という物。

 

 ……つまり小指の先ほどのガス発生装置と、義手の内側に張り込んだ特殊な繊維だけで恐ろしく精密な動きを実現するという物だった。馬鹿じゃないのか? なんでこいつだけオーパーツじみているんだ……。

 

 

 残念ながら一から全てを作る程のスキルはまだない。なのでこの3つの内から基礎となる物を選ぶ事にした。

 

 選んだのは『パワー型』。武装を仕込めるというのは確かに魅力的なのだが、そうすると装備する防具が完全に限られてしまう。ただでさえ紙装甲なのにこれ以上装備を限定するのは気が進まなかった。

 

 武装を展開する構造上、常に腕だけが露出する形にせねばならず、それだけの改造を施せるスキルが存在しない為、上半身を露出させるかタンクトップのような服を着る必要がある。着たいか? と聞かれても難色を示すのが普通だろう。

 

 その為、単純に出力の上がるパワー型を選択した。構造も比較的簡単で、初めて作るのであればこれが一番いい。

 

 

 

 さっそくパワー型の設計図を呼び出し、フレームだけを製作する。それを基にしてやっていこうか。製作する部位は右腕。使い慣れた方を使う方が微調整が効きやすいからだ。

 

 使用出来る素材は……作業台の物なら無制限に使えるのか。まさにチュートリアルといった所だ。ならば奮発してカーボン……いや、こちらの合金を使おう。乱雑に扱っても壊れない程度の耐久性が欲しい。

 

 ふむ、この状態でも完成形をホログラムでシュミレート出来るのか……。予想以上に便利だな製図スキル。

 

 となるとフレームと装甲の割合を弄った上で耐久性をテスト出来る訳か。こればかりは数を作るしか無いと考えていたが、それもしなくて良さそうだ。

 

 工具製造スキルに新たな項目が追加された。今の段階では必要ないが、無事にスキルを習得したならば工具も作ろうと思う。

 

 使える工具は……凄いな、どれも銃を作る時にも欲しいくらいの物が揃っている。そうでもないと義体を作るのは難しいのだろう。

 

 硬いはずの素材がガリガリ削れるし、微細な調整もすんなりと出来る。細かい形成も思うがままだ。SFのようにレーザーを照射したりする為、その扱いには多少の慣れが必要なのが難点か。それ以外は十分だ。

 

 未来式工具の影響もあり、予定よりもずっと早く義体の製作が進む。

 

 肩と肘は今のままだと動きが悪すぎるので多少手を加える。モーターの配置とフレームの位置を調整すれば、追加で装甲を詰める程のスペースを確保できた。

 

 次は手首より先の関節の動き。こちらは論外と言えるほど極悪な動きしか出来なかった。なんせ握るか開くかしかできない。辛うじて物が掴めるかどうかといった所か。

 

 ……多少は脆くなるが仕方ない。テクニック型の駆動力を流用して滑らかな動きを実現させる。

 

 その上で空いたスペースにロック機構を搭載し、手を強く握った瞬間にその状態で固定されるようにした。

 

 シュミレーターで動かしてみても実際の手とあまり遜色がない精度があった。その上で握り締めた時に限りそれなりの強度を発揮する。

 

 流石に精度を求めた分、握力は下がるが……。そこまで多くを求めるのはこの時点で難しいだろう。スキルもまだまだ初期状態なのだから。

 

 

 フレーム、動力、配線の処理が終わり、ここでメインとも言える項目に手をつけようと思う。

 

 

 この御老人曰く『戦闘用義体』なるこの腕は、文字通り戦闘に特化した義手である。なので義体の中に武装を組み込む事が出来る。例を上げるならブレード類に銃撃機構、シールドにジャミング電波やハッキングツールまで様々だ。

 

 今回はパワー型がコンセプト。仕込み武器もそれはそれでロマンがあるが、初めてでそれは流石に無謀だ。無難に出力が一時的に増加するブースト機構を搭載する。

 

 効果は三十秒間筋力値1.5倍、1分間のリキャストタイム。光学エネルギーの消費値2倍というもの。つまり三十秒間だけ一つの動作ごとに光学エネルギーを2倍消費して1.5倍の出力を得るが、使用後は1分間使用出来なくなる。

 

 これを空いたスペースに積み込んで完成。更にコピーしたパワー型の設計図に上書き保存した。名称は『prototype』。まだまだ改良の余地はありそうだし、一先ずはこれで良いだろう。

 

 

「ほほう、ええ出来じゃ」

 

「……まだ完成と言った覚えは無いが……」

 

「馬鹿言え、ここまでやっといてソレは無いじゃろう? お前さんのステータスならここいらが限度ってところだろうに」

 

「……そんな事まで分かるのか?」

 

「ふん。この道150年は下らんのじゃぞ? そのくらい朝飯前よ。……まぁええわい。そこの道具は全部やろう。ええもん見せて貰った礼じゃ」

 

「良いのか? 見たところ高価な物ばかりのようだが……」

 

「ワシが使うより幾らか価値があるってもんよ。予備ならもう2セットあるんじゃ。遠慮もいらん」

 

「……そういう事ならば、ありがたく頂戴しよう」

 

 

 義手製作に必要な工具一式を受領した。これは本当に有難い。ここまで複雑な工程を踏める工具となると、一体どれだけのレアメタルを要求されるか分かったものではない。工具製造で作れない事は無いが、それでも製作に何日かかるか見当も付かないような代物なのだ。大事に使わせてもらうとしよう。

 

 ……しかし、作ったは良いものの、どうやって装備するんだコレは。装備欄には装備の枠が無いし、ステータス画面にもそのような表示は無い。そもそも生身に直接付けるなら、何らかの手術が必要そうなものだが。

 

 そんな事を考えていると、老人は奥の方へと引っ込み、何やらガサゴソと機材を引っ張り出してきた。……その形は、いわゆる高速切断器と言うやつで、円盤状のカッターが挟み込んだ対象を真っ二つに切断する物。

 

 SFチックにアレンジされてはいるが、スイッチを入れた途端に不気味な回転音を響かせる様はある種の狂気を感じさせる。近くに血痕が飛び散っているとなれば尚更に。

 

 

「ほれ、何をしておる? 装備するんじゃろう?」

 

「なに、とは?」

 

「義手を装備するのに生身の腕なぞ要らんじゃろう。取っ払って端子を接続する手術をするんじゃよ。なに、痛みは無いから安心せい」

 

「……」

 

 

 いや、たしかに正論なのだが。そこはもっと穏便に出来なかったのだろうか。

 

 仕方なく上裸になって右腕を装置の穴に突っ込めば、拘束具が腕全体を固定。麻酔らしき物を充填した針が痛みも無く刺さり、一時的に痛覚諸々が消える。そして高速切断器が作動。肩口から聞いてはいけない類の音を奏でながらスッパリと切断した。

 

 続いてガチャガチャと機械が立ち上がり、肩の上から胸筋の脇を通って脇下までの範囲を膜の様な物が覆う。続いて端子と思しき物が次々と接続されて、腕の消えた肩口の接続部位に束ねられていった。

 

 時間にして5分も掛からずに大手術が終了する。感覚としては部位欠損ダメージを食らった時の痛覚が無い状態に近い。動かせる物が動かせない奇妙な感覚である。

 

 ……改めて思うが、こんな事になっても幻肢痛すら起こさない茅場の技術は本当に凄いな。若干努力の方向性が間違っているんじゃないか? 医療に使えばどれだけの価値がある事やら……。

 

 もっとも、それを悪用するなんて持っての他である。そう言う意味ではまだマシな方なのかもしれない。……まてよ、確か茅場はデスゲームの主催者だった。マシどころか最悪の使われ方をされていたな。どうして科学者や研究者といった連中は余計な羽目を外すのだろうか。

 

 一生枷に縛られて生きていればいいものを……。……少し愚痴っぽくなってしまった。今は義手を装着試験中だったな。

 

 

 作り上げた義手を左手で掴み、ガシャリと接触させる。その途端、視界に新たなアイコンが浮かび上がり、HPバーの下に新たなバーが出現した。

 

 ヘルプによればこれは残りエネルギーを示す物らしい。右下には人型のアイコン。右手の部分がデフォルメされた機械に置き換わっており、簡単な状況の把握が可能となっている。

 

 ダメージを受けて破損した場合はここに表示され、ダメージに応じて稼働率が減少。最小にまで達すると動かなくなってしまうようだ。耐久値も合わせて表示されている為、非常に見やすい。難点は視界のスペースを若干遮られてしまう事か。

 

 

「……ふむ」

 

「気に入ったようで何よりじゃ。その装置もやろう。奥にある物も含めてな」

 

「いや、流石にそこまでして貰わなくても良いのだが」

 

「逆に聞くが、ワシに必要だと思うか? ワシは全身これ一つよ。第一世代のくたばり損なった技術なんぞ、そう役に立つものか」

 

「だが私達には無い技術だ。必ず役に立てると約束しよう」

 

「ふん、好きにせい」

 

 

 奥にある人体改造用の機器類は、どうやら直接ホームに送られたようだ。後でキャンピングカーを見にいかないとな……。どう考えても入りそうに無い。

 

 そしてここでクエストが達成された。リザルト画面には少なくない経験値が入り、獲得したアイテムとスキルが並ぶ。『人体改造』『義体製造』『近接武器製造』『上位電子工作』『最上位電子工作』『クラッカー』『ハッカー』などなど……。

 

 上位や最上位の表記を始めて見た気がする。統合スキルなんかは比較的よく取れていたが、単純にその上位の物は取った事が無かったな。何故ここまで細かく分類されているのかは少々謎だが、仕様と言われればそれまでである。

 

 リザルト画面に最後まで目を通した後、お礼を言って帰ろうとした時、老人の頭の上に赤いクエストフラグが立っているのが見えた。……おかしい。フラグに赤なんてあっただろうか。大概は黄色だったと思うのだが。

 

 少し好奇心は刺激されたものの、何にフラグを立てたのかさっぱりわからない。装備を整えて改めて来た時に受けようと考え、リザルト画面を消そうと手を動かす。

 

 誤算だったのはリザルト画面を見ている間にもクエストフラグは進行しており、一定時間の経過でYES/NOの選択が出ると知らなかった事。結果として、突然現れたそのウィンドウにタッチしてしまう。……それもYESの方に。

 

 しまったと思った時にはもう遅く、後ろを向いたままの老人がゆっくりとこちらを振り向いた。未知の……それも厄介ごとの匂いのするフラグに警戒する俺をよそに、老人はじっと俺を見つめてくる。

 

 

「……お主、やはり見所がある。卓越した技量と知力、そして確かな技。ワシはそんなお主に託したい物がある。どうか聞き届けてはくれんか?」

 

「分かった。引き受けよう」

 

「これを知っておるか?」

 

 

 そう言って白衣のポケットから取り出されたのは、ガラクタとしか思えない代物だった。このプラスチックのようなマットグレーの空間に似合わない真鍮色の輝き。明らかに時代錯誤な代物である。

 

 今の銃器火砲にこんな物を使っている物など無い。車などには使われているが、それだってごく一部だ。こんな風に、全体が真鍮でできている機械を俺は見た事がない。あるとすれば機関車くらいだろうか。

 

 

「いや、分からない」

 

「……こいつはな、世界の真実の一端。そのカケラじゃよ。こいつが何かを知る時、お前さんは更なる極地にたてるじゃろう」

 

「更なる……極地」

 

「知る事が枷を解く鍵になる。……今はそれだけ覚えとくとええ」

 

「そうか。わかった、覚えておこう」

 

 

 ──────

 

 

 クエスト『霧幻の街への招待状』をクリアしました

 Now loading……

 

 称号【解き明かす者】を確認

 

 INT値を参照中……条件を達成

 

 クエスト『霧の向こうへ』を受注します

 ……貴方は、辿り着けるでしょうか? 霧の、その向こうへと。

 

 

 ──────

 

 

 

 クエストが進行した。このガラクタが次の道を示すらしい。……どうやら一筋縄ではいかなそうだ。このガラクタ、鑑定結果がほぼ表示されない。

 

 

『古き????』

 あまりにも古すぎて詳細な事は分からない。

 郷愁だけが、コレに残った最後の残り香だった。

 

 

 これでも鑑定スキルはカンスト間近。そこらに転がっている鯨の骨だってもう少しマシな結果を出す。ここまで何も出ないアイテムは初めて見る。

 

 つまりこれはそれだけ高位のアイテムと言うこと。スキル熟練度が足りないのか、また別枠のスキルが必要なのか、それは分からないが。せめて元が何であるかだけ分かれば、それらしい所を見て回る事もできたのだろうが、それも難しい。本当に厄介なクエストを受けてしまったようだ。

 

 

「うむ、これでワシの用件は終わりじゃ。……そういやお前さん、名前は何という?」

 

「……cypressだ」

 

「そうか、覚えておこう。……ワシの名はグラス。新人類計画の元研究長をやっておった。まぁ、今はただの老いぼれじゃよ」

 

「ではグラス研究長と呼んでも?」

 

「グラス技長の方がええわな。昔はそう呼ばれとった」

 

「分かった。……グラス技長、またここに来てもいいだろうか?」

 

「ふん、まぁ何かしらに詰まったらここに来い。知る限りで教えてやろう」

 

「……ありがとう。恩にきる」

 

 

 グラス技長に別れを告げ、何時間ぶりかの外に出る。ふと気になってリアルタイムをステータス画面から見ると、なんと既に登校時間ギリギリだった。

 

 つまりあまりにも熱中し過ぎて貫徹してしまったのだ。その事実に冷や汗を流しながら、ポータルへと足を進めたのだった。


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