――今からおよそ7年前、俺は瓦礫に埋もれた街の上に立っていた。
あの惨劇から数週間、親の親戚の安否を確認するために急拵えで集めた備品を車に詰め込み、数日かけて、懐かしき第二の故郷に足を運んだ。 決して心穏やかな状態でなかった俺は、変わり果てた故郷に愕然とする。
家もなく、街もない、自然の脅威によってすべてを取り去られてしまった。 記憶も、思い出も、大切なものも全部、あの脅威の前に取り去られてしまった。
もう一度だけ……この目で見ておきたかった。
もう一度だけ……この手で触れておきたかった。
もう一度だけ……向き合って話しておきたかった。
だが、それはもう叶わぬこと。 これからは、多くのものを失った悲しみと共に生きていかなければならないと思うと、とても辛かった……。 絶望でしかない…荒廃してしまった街を眺めながら心を海の底へと沈ませてしまうのだった。
ブルッ
「ん、メール…か……」
ポケットの中で小さな振動に気付き、手を突っ込ませて手のひらサイズのガラケーを取り出した。 見るとチカチカと通知を伝える緑のランプを点滅させて俺にアピールしてくる。
親からの連絡だろうか?
両親や兄弟とも別行動をとっていたから、さすがに俺のことが心配になったのだろう、と推測してみて携帯を開く。
「あれ? なんか違うな……」
パッと映し出された画面に浮かんだのは、両親の名前でも兄弟の名前でもない―――とある動画サイトからの通知メールだ。
長きに渡って重宝させているサイトだったため、新着情報があれば、という気持ちで通知をかけていた。 だが、さすがにこの状況下では開くことを躊躇う。 こんな時に動画を見て幸せな気分になってもいいものだろうか? 不謹慎に思えて身体がグッと固まりだす。
そんな時だ―――
ヒュン、と頬を撫でるようなやさしい風が吹いてくる。 身体に当たる風は春なのに、少し凍えた。 だが、不思議と何かに引かれていくような感覚に陥った。
呼ばれている―――そう感じていた時には、通知にあったリンク転送ボタンに触れていた。 無意識に、ただ本能的に働いたのかは定かではない。 でも、その時の俺は開いてその中身を見たのだ。
「―――ッ!! こ、これは……!」
リンク先のサイトを見ると、そこにはおびただしいほどのメッセージイラストが添えられていた。 知っている芸能人や声優、絵師やシナリオライターなどなど、普段から何かとお世話になっていた人たちのモノがそこに合ったのだ。 そのどれもが、ここにいる人たち、この国にいる人たちに向けて発信されたメッセージなのだと俺は痛感した。
「………ん、これは……?」
画面をスクロールさせていくと、一際目立つ9つものメッセージイラストを見つけた。 パッと見、それらはまったく知らない女の子たちだった。 なのに、何故か俺は惹かれてしまったんだ……。
「えっと……『プロジェクトラブライブ!』……なんなんだろうこれは?」
イラストの説明には大きくその名前が書かれていた。 その中の内の1枚を選んで開いてみた――――
「………ッ?! こ、これは……!!」
ドクン、と胸が大きく揺らいだ。 そのイラストを見た瞬間、胸が締め付けられて、込み上がってくるモノがあった。 そして、書かれたメッセージを読んでいくとアツい気持ちになってくるのだ。
「あっ……なみ、だ……」
俺の身体に不思議なことが起きた。 涙が出たんだ――ずっと出なかった涙が、数年前に自分の家族が亡くなって以降流すことが無かった涙が――急に流れ出て画面を濡らした。
おかしいな、なんで涙が出るんだろう……? 思い出の場所が無くなり、大切な同士が消えてしまったという大きな悲しみがあったというのに、なぜ俺はこのイラストとメッセージで涙を流すのか……? 不思議で堪らなかった。 知らないはずなのに、ずっと身近で見てくれていて、支えてくれようとしている……そう思って、感情が出てしまうのだった。 他のイラストもそうだ。 何故か心が揺れるんだ。 他のメッセージよりも何よりも、強く響いてきたんだ。
わけが分からないや……でも、ひとつだけ確かなことがあった……
「……まだ、諦めちゃだめ、なんだよな……?」
これらを見て、俺に決心させるものがあったのだ。 この目の前に広がる景色を見て、心もまた荒廃していた。 だが、単純かもしれない…笑われたり、バカにされたりするかもしれない……罵られるかもしれないが、これだけは言いたい。
「俺は……“彼女たち”に救われた……」
気持ちを新たにさせて俺は歩きだそうとした。 彼女たちが言ってくれたように、笑顔で、乗り越えていこうと。 俺ができることを、ここでやっていこうって……!
「そう言えば、彼女たちの名前を知らなかったな。 えっと、名前は……みゅ、みゅーず…でいいんだよな? それで、この子の名前は―――
―――ほのか」
―
――
―――
――――
「―――――――」
「――――て――――」
「―――おきて―――――」
「おっきろぉぉぉぉぉ!!!!!」
「うおわあああぁぁぁぁぁ?!?!?!」
「ありゃりゃ……ご、ごめんね……? だ、大丈夫?」
「な、なん、とか……な……」
気持ち良く睡眠をとっていたところを、車のクラクション並にうるさい爆音よって強制的に覚醒させられる。 おかげで、ベッドから転げ落ちて、床と顔面をくっ付ける羽目に……。 ふ、不幸だ……
「う、うわっ?! か、顔がまっかになっちゃってる!! 待ってて! いま冷えたタオルを持ってくるね!」
ドタバタと忙しく動き回る彼女、高坂穂乃果は、ちょっとおてんばなところはあるがとても心やさしい女の子だ。 現に、こうして俺のことを心配してくれるのだ。 まあ、アイツが原因なんだけどさ……
「どうしたんですかぁ~? ……って、わわっ! そ、そのお顔どうしちゃったんですかぁ!?」
「いやぁ……なんというか、成り行きで……」
「た、大変ですぅ~!! は、早くお薬を~! え、えっとぉ~……まずは、消毒からですね!!」
「い、いや、ただ腫れただけだし、切り傷とかないから大丈夫だよ……」
「そ、そうですか……? むぅ……でも、ことりは心配ですぅ……」
俺の姿を見た瞬間、目をぐるぐるさせててんやわんやとなり、今ではシュンと落ち込む様子を見せる彼女、南ことり。 彼女は穂乃果の幼馴染でとてもおっとりとした性格をしている。 それにすごく人想いなところもあって、こうしてケガした俺の姿を見ては、一緒に痛みを分かち合う、ってわけじゃないが心配してくれるんだ。
穂乃果とことりと来たということは、この流れだと………
「騒々しいですよ、いったいなんの騒ぎなのですか? ……って、ええっ?! ど、どうしたというのですか?! あ、あなたのお顔が……!!」
「い、いや、大丈夫大丈夫! 大事にはなってないから平気だよ!」
「い、いけません! あなたはもう少し己の身体を大事にすることを心掛けなければなりませんよ! ですから、今から私がお顔の腫れが引くまで看させていただきます!」
「えっ?! いや、いいって、そこまでしなくても!」
そう、頑固に譲ろうとしない彼女、園田海未はどうしても俺の看病をしたい様子だ。 海未は、ことりと同じく穂乃果たちの幼馴染。 家元の娘であるため、所作や礼儀と言ったことを守っているため、こうした丁寧な口調をしている。 その一方で、3人の中でも筋金入りの心配性もあるから余計に断ろうとしないのだ。
「だ、だめだよ、海未ちゃぁ~ん! ことりが看るって決めてるんだからぁ~!」
「それは尚更心配です! ことりがちゃんとできるように支えなくてはなりません!」
「ど、どうしてそうなるのぉ~……」
「おまたせっ! いま冷えたタオルを持って来たよっ!」
「穂乃果ちゃん?!」
「穂乃果?!」
「えっ!! ことりちゃんに海未ちゃん?! ど、どうしてここにいるの!!?」
「それはこっちが聞きたいことですよ! まさか、穂乃果が……!」
「うわあぁぁぁ!! お、怒らないで海未ちゃぁん! 悪気があったわけじゃないからぁ!!」
「はわわわ……ねぇ、どうしたらいい? ことりはどうしたらいいのぉ???」
「どうしたらって……そんなこと言われてもなぁ……」
海未の説教を受ける穂乃果に、俺の横でどうしたらいいのかとあたふたしていることり。 ちょっと、混沌すぎるこの空間の中で、1人浮いている俺は、早く腫れが引かないかと顔を擦るばかりだった。
―
――
―――
――――
「あー……大変な目にあった……」
自分の部屋からようやく解放された俺は、穂乃果たちを置いてリビングの方に向かっていた。 というか、そもそもどうして穂乃果たちがウチにいるのかが不思議だ。 はてさて、どうしてなのだろうか……?
ん、リビングの方で声が……?
「えっ?! ど、どうしてみんながここに!?」
リビングの扉を開くと、そこにはよく知った6人の姿が目に入ってきたのだ!
「あれ、やっと起きたのね。 もう夕方よ、いつまで寝てるの、このお寝坊さん♪」
フフッ、と引き締めた口元から薄ら笑いをする金髪ポニーテールの彼女、絢瀬絵里は、エプロン姿となって声をかけてくる。 ちょっと悪戯っ子ぽい表情でウィンクをしてくる彼女は、一応、真面目一筋の生徒会長……なのだが、どういう風の吹きまわしか、とても柔らかな雰囲気をしていたのだ。
「およ、起きたん? 穂乃果ちゃんに起こしにいかせたんやけど、なんや、ひと悶着あったようやんなぁ~♪」
クスクスと俺の顔を見つめながら笑う彼女、東條希は、絵里と同様エプロン姿となって台所に立っていた。 長い髪の毛を2つに分けたおさげにした姿で、関西混じりの言葉を話すのが特徴で、真面目な絵里とは対照的に悪戯っ子な性格をしていた。 その一方で、包み込むようなやさしい一面があって、それに甘えてしまう自分がいたりするのだ。
「ようやく起きたの? ダメじゃないの、こんな時間まで! 身体に悪いんだから、仮眠するなら30分くらいにしなさいっていつも言ってるでしょ? ほら、シャキッとしなさいよ!」
いつの間に、ちょこんと俺の目の前に立って説教をする彼女、矢澤にこ。 身長がみんなと比べて低いのだが、これでも最上級生でみんなから慕われるいい先輩なのだ。 そんな彼女もまた、エプロン姿となっているのを見ると、にこも料理をしているのかと理解できる。 それに、こうして俺にひとつひとつダメだしをする様子に母性を感じてしまいそうになるため、ある意味苦手なお人なんだよなぁ……。
こうした家庭的な3年生の姿を見ながら、その反対側のソファーがある方でくつろぐ3人を捉える。 3人とも、俺と目があうと、嬉しそうに笑ってみせたり、手を振ったり、俺に向かって突進してくるなどまちまちだった。
「にゃ~! やっと来たんだね! 凛はもう待ちくたびれちゃったよ~」
そう俺に突進してきて小さな頭を身体にすり付ける彼女、星空凛は、元気一杯、天真爛漫な女の子だ。 スポーツが得意なためジッとしていることが苦手で、こうして身体が先に出てしまうという困った一面があったりする。 けど、そんな無邪気な凛にも他の子たちに引けを取らない女の子な一面があり、俺もその姿を見た時は男心を思いっきり揺らしてしまうほどだ。
「り、凛ちゃん……さすがに危ないからね。 だ、大丈夫ですか……? お怪我はありませんか……?」
おどおどしながらも心配そうに俺に声をかけてくれる彼女、小泉花陽は、彼女たちの中でも一番最年少の女の子。 引っ込み思案で、あまり気持ちを表に出さない性格を持つ花陽だが、自分の好きなことに関しては、人一倍多く語ることができるという一面もある。 だが、やはり怯えた姿をいつもしているためか、守ってあげたくなる気持ちになってしまうものだ。
「あら? 顔が少し腫れているわね……ちょっと、こっちにきて私に見せなさい。 あなたのお医者さん、真姫ちゃんが看てあげる♪」
含ませるような笑みで俺を誘ってくる彼女、西木野真姫は、1年生ながらも大人顔負けの色気を持つ女の子だ。 しかも、大病院の令嬢ときて、強気で小悪魔的な性格の美少女ときた。 欲しいものを何でも手にした高根の花ように思えるが、そんな彼女は思いやりにあふれた1人の少女でもある。 そのギャップの激しさに何度も心を奪われそうになるのだった。
だがしかしだ。 どうしてこうもμ's全員が俺の家に集まっているんだ? 今日はそんな特別なことがあったかなぁ……?
そう考え込んでいると、後ろから賑やかな声が聞こえてくる。 振り返ってみると、穂乃果とことりと海未が嬉しそうな顔をして俺のことを見ていたのだった。
「あれ、もしかして今日が何の日なのか忘れちゃったの?」
「ええっ~! ことりたちはずっと覚えていたのに、あなたは忘れちゃたんですかぁ~!?」
「それはいけませんね。 もう少し自覚していただなくては………」
そう言うと、3人は俺を部屋の真ん中に来させると、9人が一斉に集まって俺の前に立った。 みんなそれぞれ嬉しそうに目を喜ばせ、明るい表情をしていたのだ。
「それじゃあ、みんな! せぇの! で言うからね! せぇの――――!」
『―――! お誕生日、おめでとう(ございます)!!!!!!!!!』
「~~~~~ッ!!!」
……あぁ、そうか……俺、今日誕生日だったんだな……。 すっかり忘れちゃってたな……。
みんなから一斉に祝われて、ようやく今日が何の日であるかを理解出来た俺は、なんだか照れくさくって頬を掻いてしまう。 こうして多くの人に祝われるのは久しぶりだったから、むず痒かったりするんだよな。 でも、こうしてくれることに俺は――――
「ありがとう、みんな!!」
―――嬉しくって、口が緩んじゃうんだから!
「それじゃあ、料理もできたことだし、早く食べましょ♪」
「わーい! 絵里ちゃんたちの手作り料理だぁー!!」
「あまりたくさん食べないでくださいよ、穂乃果」
「あはは、穂乃果ちゃんはちゃんと言わないと全部食べそうだもんね」
「花陽も気を付けなさいよ? 今日の主役は彼なんだから」
「ま、真姫ちゃん?! わ、私はそんなに食べないようにしてるからね!」
「かよちんはよく食べるもんね~。 凛も好きなモノならたっくさん食べちゃうけどね!」
「まあまあ、そう言わんでもぎょうさん作ったから、たぁ~んとお食べや♪」
「まったくその通りよ! にこの作った料理で笑顔になれるくらい食べてもらわないと、作った私たちが満足しないんだからね!」
みんな口々に言いつつも、ちゃんと食卓の準備を進めている。 手慣れた手つきで順調に事が運んでいるのを見ると、チームプレイがちゃんとできているんだなぁ、と微笑ましい気持ちになる。 何だか新鮮な感じで、感慨深い気分になるのだ。
「さあ! あなたも早く座って! 穂乃果たちと一緒に食べようよ!」
「―――! あぁ、それじゃあ、思いっきり甘えさせてもらうからな!」
そう言って、席に座ると、9人の顔が一望できた。 何度も見た景色、数えきれないほど見たその表情――なのに、新鮮な気持ちにさせてくれるのだった。 まるで、ずっと始まりが続いているんだということを教えるかのように―――
「それじゃあ、みんな! 挨拶をするぞ! 用意してくれたみんなに感謝して―――」
『いただきます!!!!!!!!!!』
―
――
―――
――――
カチッ、カチッ、カチッ――――
時間が早く進んでいく。 自分で感じるよりも遥かに早く過ぎていくような感じがしてならなかった。 ついさっきまで、みんなで食卓を囲んでご飯を食べ、その後に俺の誕生日会ということでケーキを食べたり遊んだりと騒がしかったのに……そんな特別な1日も残り1時間を切っていた。
はしゃいでいた自分の気持ちが抑えられ、すぐそこにまで迫るモノに心が沈みかけた。
「そろそろ……かな……?」
みんなが静かにしている中、穂乃果が小さく呟く。 その意味がどういうモノなのか分からない、だが、迫りくる寂しさが俺に訴えかけてくるのだった。
すると、穂乃果がゆっくりその場に立ち上がると、俺の目の前に立った。 穂乃果は笑っていた……。 笑っているのに、なぜか悲しそうに見えた……
「ねえ、覚えてる? 穂乃果とあなたが出会ったことを…」
突然、そう聞いてきたからとても驚いている。 それと穂乃果の表情と何か関係があるんだろうか? そう思いつつも彼女の問いに答える。
「ああ、もちろんだとも。 俺はあの時、何も無くなってしまったあの場所からキミに出会った。 忘れもしないさ……」
「……うん、そうだね。 穂乃果も覚えてるよ。 あなたが穂乃果のことをジッと見つめてくれていたこと。 穂乃果を見て泣いてくれたことも、ね」
「そうだ……あぁ、そうだとも、俺はあの時、測り知れないほどの絶望に打ちひしがれた。 けど、そんな中にあって、俺はキミたちを見つけた……。 不謹慎なように思えるかもだけど、あの時、俺は本当に穂乃果に、みんなに救われたんだ……! 今でも感謝し尽くせないさ……」
「うん……うん、そうだね……。 正直に言うとね、穂乃果は不安だったんだ。 私たちひとりひとりの力じゃ何もできないって、みんなに手を差し伸べて救うことなんて出来ないんだって。 そんな私たちがせめて出来ることって考えたら、言葉で伝えるしかないんだって思ったの。 みんなひとりぼっちじゃないよ、私たちが見守っているよって言いたかった……」
「大丈夫だよ、穂乃果。 穂乃果の気持ちは十分に伝わったよ。 それに、みんなの言葉もちゃんと伝わってたから、だから俺は今も生きていける、地に足生やして立っていられるんだ。 こんなに嬉しいことはないんだよ……! いまあらためてみんなに伝えたい……ありがとう」
「………! うん……! こちらこそだよ、ほんとに……ありがとね……!」
グスッと鼻を啜る声が聞こえ、誰かが泣いていた。 目の前に立っていた穂乃果も、目元をじんわり熱くさせて今にも大声あげて泣きそうにあった。 でも、泣くもんかと踏ん張っているみたいで少し背伸びして見せていた。 それが穂乃果なりの気遣いなのだと思うと、胸が熱くなる。
「――そう言えば、この7年、いろいろなことがあったよな」
しみったれた空気を変えるため、話題を切り変えだすと、少しキョトンとした表情をしていた。 俺はそれに構うことなく話し続ける。
「ちょうど、俺がみんなのことを知った時、ユニットグループが結成されたなぁ。 まだ、ちゃんとよくわからなかった俺はあるだけのお金でキミたちのCDを買わせてもらったよ。 その時、ぼららら、スノハレ、そしてラブマジ…これが俺の最初に買ったキミたちのCD。 俺がはじめて自分のお金で買った大切なCDだ……」
「ラブマジかぁ…懐かしいねぇ~。 あの曲を始めて聞いた時、ことりはちゃんと歌えるか心配だったよぉ~」
「わ、わたしも……穂乃果ちゃんとことりちゃんの足を引っ張らないようにって、頑張ってました!」
「うんうん、初めてのユニット曲だったからね、穂乃果も気合120%で歌ったもんね!」
「ああ、どれもすばらしい曲だったな。 中でも、sweet&sweet holidayをファイナルライブで聴けるだなんて思っても見なかったさ」
「うん! ことりのだぁ~い好きな曲♪ 歌えてよかったぁ~♪」
Printempsの思い出を振り返ってみると、今と何も変わらずあまあまな雰囲気を貫いていたように思えた。 時には純情を、時には感傷的なのもあったが、一貫して彼女たちのイメージに変化が合ったように思えた。
「せやったら、ウチらリリホワも何も変わっとらんもんなぁ。 純粋な気持ちやったら負けへんで!」
「そうだったな、3人とも本当に純粋だったよなぁ。 特に、海未と凛が恋愛歌を歌うだなんてなぁ……」
「な、なんですか! まるで、私が恋に興味が無いように聞こえるのですが!」
「そうだにゃぁ! 心外だにゃぁ!!」
「そんなら、2人ともちゃんとした恋愛でもしたん?」
「「うっ……ま、まだです……」」
「ふふっ、せやろと思ったわ♪」
「それじゃあ、希はどうなんだ?」
「ウチ? ん~ウチはなぁ……ヒ・ミ・ツ♡」
「うぐっ! そうやってはぐらかすよなぁ……」
口元を指で押さえながら、希は片目でウィンクを送って俺をドキッとさせる。 相変わらず俺に対する扱いが上手で、肝心なところをいつもうやむやにさせられてしまう。 こういうのは直接聞いた方がいいのだが、さすがにメンタル的にはこっちの方がダメージは大きい。 推し相手では、何ともできないのが悲しいことなのだ。
「そう言う意味では、BiBiって結構変わった感があるよなぁ。 そもそも、最初のコンセプトがアレだし……」
「アレってなによ! 何か文句でもあるわけ?!」
「い、いやぁ……だって、ビジュアル系のクールな感じで売り出したと思いきや、初っ端からラブノベルスで挫かれてる感があったし……ねぇ……」
「あれは……その……事故よ! ただの事故!!」
「事故と言うより大事故じゃんか。 しかも、その後で絵里のポンコツ部分が暴露されるし」
「う゛っ……」
「真姫はなんか痛い系の我がままお嬢さんだったし……」
「ちょっ! それどういうことよ?!」
「えっとぉ……『私にキュンキュン恋しちゃってるキミの頭の中を捌いてアゲル♪』」
「ヴェェ?! や、やめてぇっ!!!」
「そして、にこはかわいい」
「そうね、だってみんなのにこちゃんだもんね!……って、あれ? なんでにこだけ普通なの?」
多分、3ユニット中、大きく変化したというと彼女たちだろうと断言できる。 と言うのも、そもそも彼女たちのキャラ自体が大幅に変化しちゃってるのが大きいだろう。 今と昔の姿を並ばせてみたらいったいどんな構図になるのだろうか……? 割と気になってしまうところもある。
「そう考えると、いろいろあったんだねぇ。 穂乃果が気付かないうちに、いつの間にか大きくなってたね」
「そうですね、それだけ多くの人に見てもらえているということなんですね。 ありがたいことです」
「たくさん大変なことがあったけど、今こうしてみんなで笑っていられるって考えたら、ことりは嬉しいです!」
「ライブ、楽しかったなぁ~。 ステージに上がった時のワクワクする感じが堪らないにゃぁ~♪」
「うんうん♪ 私も、最初は緊張ばかりしてたけど、花陽も楽しいって気持ちが強くなってたね♪」
「ふふっ♪ みんな同じね。 私も、新しい曲が生まれる度に、みんなどういうふうに歌ってくれるのか楽しみだったわ」
「出来上がった時の喜び、それを披露した後の達成感。 今も忘れることができないわね」
「ひとりひとりで歌うってこともあったけど、やっぱり、この9人で歌った時の方がめっちゃ楽しかったわ♪」
「あら、にこはソロ曲でも満足よ! 結果的に、ファンのみんなが笑顔になれば、にこはそれでいいのよ! ね?」
「そうだな。 みんなの言う通りだ。 少なくとも俺は、みんなの姿を見て、ステージの上で歌って踊ってしているのを見るだけで嬉しい。 だって、みんな大好きなんだから」
『―――ッ!!』
「あれ? どうしたんだ、みんな? 俺、なんか変なこと言ったか?」
「ううん、ただキミがそう言ってくれるのがとっても嬉しかっただけだよ!」
「好きと言われると恥ずかしいですが、嬉しいものです♪」
「うんうん! ことりも大好きって言われちゃうと嬉しくって頬っぺたが蕩けちゃいそうだよ♪」
「凛もキミのことがだぁーいすきにゃあ♪」
「わたしも…あなたのことが大好きですよ♪」
「もう、私より先に言うなんて生意気よ。 でも、今日だけは特別にしてあげる♪」
「あなたに出会えてよかった。 私にとって、それが一番のハラショーよ。 スパスィーバ♪」
「ウチとあなたが出会えたんも運命の悪戯なんやと思うんよ。 ウチも大好きやで♪」
「にこのことをそう思ってくれるだけで嬉しいにこ♪」
みんな照れくさそうに頬を赤らめ、とても喜んでいるように思えて、こっちも嬉しくなる。 こうして俺の大好きな人たちの姿を見ることができる、それだけでどれだけ救われただろうか……? みんなからの抱えきれない思いだけで、俺は頑張れるんだと実感するんだ。
「それにね、あなたにはとっても感謝していることがあるんだよ」
感謝? 何なんだろう、俺は感謝されるようなことをしたかな? そう思っていろいろと悩んでみるものの思い付かない。
「わからない? ふふっ、それはね―――いつも、穂乃果たちの誕生日にお祝いしてくれてありがとう! ってことだよ!」
「えっ……?! そ、そんな、俺は別に……」
「そんなに畏まらないでください。 私たちは本当にありがたいと思っているんですよ?」
「そうだよぉ~、ことりたちのために毎年毎年、愛情たっぷりのお祝いをしてくれて、ことりはハッピーになるんです!」
「そう、なのか……? いやぁ、これはただの俺の自己満足なところがあるし、大切な人の誕生日を忘れたら失礼だろ?」
「フフッ、キミのそういう律儀なところ、私は好きよ。 誕生日は1年の中でもとっても特別な日、それをファンのみんなやキミにお祝いされたら、私は嬉しいわよ♪」
「え、絵里……」
絵里のその言葉に心がスッと抜けていくような気分になる。 俺の何気ないことが結果的にみんなを喜ばせていたのだと思うと、何とも言えない嬉しさに気持ちを緩ませてしまう。
「それでね、今日は今までの恩返しとして、あなたの誕生日をお祝いしに来たの! ずっとずぅーっと穂乃果たちのことを応援してくれたあなたのために、全力でお祝いしたかったの!」
「穂乃果……! みんな……! ありがとう……! 今日の俺は、世界一幸せな男かもしれないな……こんなにたくさんの人に祝われて、しかも、大好きなμ’sのみんなに祝われて、もう感動のあまり涙が出てきちゃいそうだ………」
「泣いてもいいんですよ~。 その時は、ことりがその涙を拭ってあげますよ♪」
「それじゃあ、凛は元気になれるように踊るにゃぁ!」
「そうね、私ならあなたの大好きな歌をここで弾いてあげるわ。 リクエストを聞いてあげる!」
そう言うと、真姫は目の前にキーボードを出すと鍵盤を弾いた。 いつでも演奏できる準備はできているようで、俺にサインを送ってくるのだ。 それならと、俺はある一曲をお願いしようと告げた。
「それじゃあ――――をお願いするよ」
「あら、それでいいの? スノハレなら今ここでみんなで歌って踊ることもできるわよ?」
「いいや、それでいいんだよ。 スノハレは確かにいい曲だ。 俺が1番初めに聴いたμ’sの曲で思い入れの深いものだ。 でも、それはここでとっておきたい。 いつかまた、キミたちがステージに立つ時に、聴かせてもらえるかな?」
『!!』
そう言うと、真姫、いや、みんな揃って驚きの表情を見せた。 正直、無茶なお願いかもしれない。 でも、信じていればきっと叶うと知っているから、俺はそう言ったんだ。 かわりに、ここでしか聞けない、俺のもう一つの大好きな曲を聞きたかった。
「ふふっ、相変わらず面倒な人――でも、そんな時が来ればいいわね」
小さく笑って見せた真姫は、そのまま鍵盤に手を添えて弾き出す。 芸術的な指から紡がれる美しい旋律が部屋中を廻っていた。 あぁ、前奏を聞いただけで涙が出てしまいそうだ……
「さあ、みんなで歌うわよ―――」
真姫の合図に合わせて、みんな一斉に歌い出した――――
“愛してるばんざーい!”
―
――
―――
――――
時間はあっと言う間に過ぎていく――――
楽しい時間であればある程、その時は短く感じる――――
そして、終わりの時が―――――
「―――もう、そろそろだね」
歌い終わった直後、穂乃果はそう呟いた。 ふと、時計を見上げると、長い針があともう少しで12を指そうとしていた。
いやだ……終わってほしくない……。 まだ、みんなと一緒にいたい……! こんな時に限って、思いが込み上がる。 当然と言えばそうかもしれない。 誰しもが感じることだろうと断言できる。 が、あらためてそれを俺が経験すると、とても辛いモノであると痛感してしまうのだ。
できることなら、この時を巻き戻して欲しい………
「ダメよ。 そう考えちゃ……」
「ま、き……!」
迫りくる現実に打ちひしがれそうになっていた俺に、真姫が肩に手を添えた。 そんな彼女の顔を見ると、寂しそうな笑みを浮かばせるのだった。
「時間はどうやっても取り戻せないモノよ。 私の全財産を持ってしても、ね……。 それに、あなたはわかっているはずよ、時をどのように扱うのかを……」
くぐもった声で俺にそう告げる真姫は、寂しそうながらも真っ直ぐな目をしていた。 真姫の言うことはよくわかる……でも、やっぱり辛いモノは辛いんだ。
簡単に過ぎて行ってしまうことの辛さと言うモノを散々に味わってきた俺には痛く感じてしまう。 あの時こうしておけばよかったと、後悔の絶えない日々が続いたこともある。 それでも、前に進まなくちゃいけないんだと、自分に言い聞かせている。 だからこそかもしれない、こんなに辛いのは………
「大丈夫やで―――」
不意に降りてくるような声と共に、身体が軽くなったような気持ちになる。 背中を何かで支えられているかのような感覚だったから、振り向いてみた。 そしたら、にっこり微笑む希が身体を寄せてくれていたのだ。
そして、俺にこう言ってくれたのだ。
「辛い時、悲しい時…みんな誰しもが生きていく中で直面する壁、ひとりじゃ辛いかもしれへん。 でも、あなたにはいつもウチが付いてるで。 スピリチュアルラッキーガールの東條希ちゃんが、あなたの進む道をずっと見守ってあげるからな♪」
「あっ……あぁぁ………」
反則的だ……希に、俺の大好きな希にそう言われてしまったら、泣かずにはいられないじゃないか……! 身体の内から熱い気持ちが込み上がって来て、背中を熱くさせる。 恥ずかしながらも、俺の熱は希に伝わっていることだろうよ……。
知られたくなかったな……希の前では、そんな寂しい格好を見せるわけにはいかないって思ってたのにな。 ホント、情けない話だ……そして、ありがとうな……。
込み上がるモノを、グッとこらえ気持ちを整えると、希と対面する。 美しい唇から薄らと白い歯を覗かせて微笑む彼女を見つつ、俺もつられるように微笑んだ。
「ありがとう、希……」
「ええんよ、あなたが幸せになればウチも幸せなんよ」
「……俺は、本当に素晴らしい人を好きになれてよかった………」
泣かない……もう、泣かなかった。 彼女の前ではずっと笑顔のままでいよう、そう決心したからだ。
カチッ、カチッ、カチャン――――
時間が、きた―――――
「それじゃあ、お別れだね―――」
穂乃果がそう言うと、みんなが一斉に光りはじめた。 キラキラと輝く宝石のように、瞬く星のように、美しい光を放つのだった。
俺はその様子を気持ちを大きく震わせつつ見守ることしかできなかった……
……だめだ、引き留めたら。 もう決心を付けたのだから、これ以上は止めるんだ……!
消えつつある彼女たちを見ながら、何度も自分に言い聞かせた。 なのに! とても悲しくって…寂しくなっちゃうんだ……。 また、俺の届くところから消えてしまうんじゃないかって言う恐怖に……!
『大丈夫だよ―――』
彼女たちの声が、一斉に俺に臨んだ。 顔を見上げて、その姿を見ると、いつか夢見たあの日の衣装をした彼女たちが、立っていたのだ。 それぞれの色を持った美しい蕾――花開くその瞬間を、今かと待っているかのような美しい衣装で俺を見ていた。
「私たちは、いつも一緒だよ」
「あなたと離れることなどありえませんから」
「でも、ちょっとだけ見えないところに行っちゃうね」
「凛たちのことを待ってくれている人たちがいるんだ!」
「その人たちに私たちの音楽を伝えたいの」
「花陽たちのことを必要としてくれているから」
「でも、ちゃんとあなたの許へ帰ってくるわ」
「それがいつになるかはわからんけど、きっとや!」
「絶対、もう一度あなたの前でさいっこうのライブを見せてあげるんだから!」
『そう―――僕たちはひとつの光となって、みんなを――あなたを照らしに来るから!』
なんて言えばいいんだ……なんて声をかけたらいいんだ……? 込み上がってくる気持ちは滂沱に流れ出るのに、本当に伝えたいことが言えない。 そんなもどかしさに、身体を激しく揺さぶる。
たくさんだ…もうたくさん言いたいんだ! 感動と感謝の言葉を激しく、滝打つように語り尽くしたい! でも……そうじゃない、今伝えるべき言葉はそうじゃない……! なら、なんて言えばいいのだろう、この気持ちを……!
激しく、悶え、苦悶し、悩み、考え、嘆息しながら、俺はようやくひとつの答えに辿り着いた。 単純に、簡潔に言える俺の、俺から出る最高の贈る言葉を――――
「お前たち―――
―――また、逢おう。 俺は、いつでもお前たちのことを待っているから……だって……だって、俺は……!! μ’sの10人目のメンバーなのだから……!!」
「うん――あなたも、私たちの大切な仲間だもんね! 絶対に忘れないから―――!!」
みんなの声が遠くなっていく……もう、終わりの時が来たのだ――――
そんな時だ―――――
「それじゃあ!! みんないっくよ―――――!!!」
穂乃果が、ありったけの大きな声で叫び出したのだ! そして、それを合図に、9人全員が一斉に輪になったのだ。 そう、あのかたちは―――――
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「6!」
「7!」
「8!」
「9―――!」
にこの声が遠く響くと、輪の一部が開いた。 真姫と希の間だ。 そこに人ひとりが入れるだけのスペースが開かれると、2人が俺に手を差し伸べていたのだ。
俺が、入ってもいいのか……? その間に俺が……?
ただ驚きを隠せずに立っていると、真姫と希が目で伝えてくる。
“きて”
そう聞こえたように思えると、足が動きそのまま2人の間に入った。 ちょうどピッタリ合わさるかのようにハマったのだ。 そこから見えるのは、9人の喜びに満ち溢れた表情――あの時も、きっとこんなふうに笑っていたのだろうと、思いながら、真ん中に集まるみんなの手に俺もこの手を乗せてこう叫んだ――――
「10―――!!」
みんなと同じく、ありったけの想いを乗せて叫ぶと、不思議と不安な気持ちがどこかへ消え失せてしまった。 そして、すごく幸せな気持ちに浸っていたようだ。
今俺は、彼女たちと同じ場所にいる――同じ気持ち、同じ感覚、同じ想いを感じ合っているんだと、今になって実感できるんだ。 みんなといっしょ……つまり、こういうことだったんだな……なんて、心地い場所なんだ………
そして、みんなで隣同士の肩や背中に手を置いて、あの言葉を叫ぶ――――
「ミュ―――――――ズ!!!」
『ミュージック、スタート!!!!!!!!!!』
―
――
―――
――――
ジジジジジジジジジジ―――――
「う、うんっ………」
固まる背中をピンッと伸ばし、眠たそうな身体を起き上がらせる。 眠い、やはり目蓋が重い。 ベッドから離れて洗面台で顔を洗いだす。
「つめてぇっ!」
たるんだ頬も一瞬でハリが戻りそうな冷たさだ。 が、おかげで眼が完全に覚めた。
「あれ、みんなは………いや、あれは夢だったんだ………」
寝ぼけがまだとれていないようだ。 何故か、いるはずもないモノを探すように手を伸ばそうとするが、無意識にやってしまう。 未だに、幻想と現実の狭間を行き来しているみたいだ。
そして、壁に貼られてある1枚のポスターを見てこう言う―――
「おはよう、みんな――――」
μ’s Final LoveLive! あの日に買ったポスターを見て、つい言ってしまうのだ。 それが俺の日課でもある。 好きなんだから仕方ないのさ。
「そういえば、昨日はとてもいい夢を見れたな……μ’sのみんなが俺の家に来て、絵里たち3年生の手作り料理を一緒に食べて、真姫の生演奏で『愛してるばんざーい!』をみんなで歌い、最後に、僕たちはひとつの光の衣装を着たみんなと円陣を組んだなぁ……。 あれはいい……本当に10人目のメンバーになったみたいな、そんな気持ちになれた……夢なら、醒めないでいたかったな………」
この1年、とても不思議なことがあった。 μ’sメンバーの誕生日になると、どうしてかその夜はメンバーひとりひとりと一緒にいる夢を見るんだ。 そのどれもが生々しくって、本当に俺の友人であったり、幼馴染であったり、同級生であったり、そして、恋人だったりしていた。
眼が覚めようとする度に、覚めないでくれと何度願ったことか……。 でも、現実はそうもいかない。 夕があり、朝がある。 時は廻り、次へと進む。 そんな一度しかない世の中に生まれたのだ。 理不尽でしかないものだ。
そんな理不尽な世の中で、今日も俺は働きに出る。
スマホを弄って、今日の予定を調べあげる。 どうやら、今日も遅めに帰ることになりそうだ……出来ることなら早めにしたいものだがな……
溜め息交じりに弄り続けていくと、ホーム画面の横をスクロールさせた。
「おっ、穂乃果!」
つい、彼女のイラストを見て反応してしまう。 仕方ないのだ、だってこれは、俺が初めて『ラブライブ!』という存在を知るきっかけになったイラストで、『高坂穂乃果』というキャラを知って好きになった最高の1枚なのだから………
「『心をひとつに…みんなでなら乗り越えられるよ。 一緒にがんばろう!!』か。 いつ見ても、勇気が湧いてくるイラストだ……」
このイラストとメッセージは俺を救ってくれた。 この言葉が無かったら俺は今日ここにいなかっただろう、そう断言できるかもしれない。 絶望でしかなかった俺の目の前に、一筋の光が入ってきたかのような、希望を得たように感じたのだ。
そして今は、彼女たちのファンで、ラブライバーなんて名乗っている。 そんなしがない1人の男さ。
「さてと、行ってきますか―――」
カバンを手に取り、そのまま家を出ていくのだった――――
―
――
―――
――――
「はぁ……残業キッツ……またこんな時間かよ………」
夕食の時間を大幅に遅れた時間に、仕事から解放される俺。 肉体労働なため、心身共に疲労困憊とも言える状態にあったのだ。
「今すぐに、家に帰って布団の上で寝たい……」そう呟いていると、足が止まった。
「おっ、ゲーセンか……そう言えば、しばらくだったな……」
職場からそんなに遠くもない場所に位置する、少し大きめのゲームセンター。 ここでよくクレーンゲームの景品を手に入れては、家に飾るなどしていた。 ただ、最近は多忙すぎて足を運ぶことができずにいた。
「久しぶりに寄っていくか……」
そう思い、店内に入る。
いつもながら騒がしい音と、鼻に付く煙草の匂いがキツイ。 体調を崩してしまいそうだな、とぼやいてしまいそうだった。
そんな時だ――――
「あっ………」
俺はまた、立ち止まる。
眼の前にあったそれに、目を奪われていたのだ。
「after school ACTIVITY! そう言えば、今週からだったもんな!」
何度も飽きずにプレイをしていた筐体。 これにどれだけのお金をつぎ込んだかさえもわからないくらい遊んだゲームだ。 とは言うが、本当は大好きなラブライブのゲームだから、というライバー特有の単純な気持ちでプレイをしていたのだ。
そして、今回のお目当ては………
「真姫の生誕か……今回もかわいい衣装を着ちゃって、ほんと、綺麗だよな」
生誕イベントでは特別なカードが手に入る。 昨年は気が狂ったみたいにやっていたが、今年はまったく手を付けていなかった。 が、今日はなんでか遊びたい気分だった。
「それじゃあ、何度か遊ばせてもらいますか―――」
そう言って、コインを投入する。 今日の晩飯用にとっておいたお金たちだが、構わない。 肉の糧よりも、心の糧の方が俺にとっては重要だからな!
傍から見たらバカな男に見えるかもしれない。 だが、俺にとってはこれまでにないくらいの至福の一時なのだ。 ここにいると、みんなに逢えるから――――
「曲セット、難易度セット、キャラセット、衣装セット、OK! それじゃあ、始めようか――――」
ゲームスタートのボタンを押して、プレイされる楽曲が来るのを待つ。 その前に、あの大事な合い言葉を言わなくちゃだな――――
『ミュ―――ズ!! ミュージック、スタート!!』
俺と彼女たちとの物語は、終わらない――――
いつだって始まる物語があるのだから――――
だから、今日も一緒に行こう――――
まだ見ぬ場所へ――――!!
「今年も、夢の中でみんなと逢えるかな―――?」
“逢えるよ…あなたが望めば……!”
「――ああ、そうだったな。 だったら、俺も望むよ。 みんなと一緒に―――!!」
“μ’sic forever!”
“忘れないで”
“君と僕の”
“足跡――――”
『終わらないよ! あなたが信じる限り! あなたが私たちを望む限り! 私たちは…歌い続けるからね!』
『どんなときもいっしょだよ―――』
~fin~
どうも、うp主です。
今回のお話で、このシリーズを完結とさせていただきます。
ほんと、最後の最後まで妄想爆発させてね、自己満足性MAXで書かせてもらったので、いろいろと言われるところがあるかもですよ、コレ。
でもまあ、これは本当の出来事…といえば本当なのですけどね。
自分の経験談と夢の中での会話とか、そう言ったモノをトレースさせてオンさせた、それがこの作品であるということを思い出してもらえたら…ね?
後はですね、私個人が彼女たちへ贈りたい言葉でもあったり、他のライバーさんにも伝えたいなぁなんて思ってたりすることだったり。まあ、個人の意見なので選択の自由もありますので、そこはホント自由で。
ではでは、今回で生誕話は終了です。
今後は、自分のメインを張っているところで思いっきり書かせてもらいますので、よろしくお願いいたします。
ん、今日は誰の誕生日かだって?
それは……うp主の、ですよ。
では!